第二十四話 王立魔法学院入学試験(2)
僕が水晶に手を置いたその瞬間――水晶が光った。でも、光が安定しない。
赤、青、金、黒...。色んな色がくるくると変わる。そして突然
パチッ
音がして光が消え、水晶は真っ暗になった。
周りがざわめく。
「……は?」
「壊れた?」
試験官が眉をひそめ、水晶を確認する。でもすぐに元の透明に戻った。すると周りからは笑い声が上がる。
「なんだそれ」
「魔力少なすぎて測れないんじゃね?」
「灰色の目にあの髪型だろ?」
「やっぱ魔力弱いんだよ」
「なんで受験来たんだ?」
僕は静かにその場を離れ、列の後ろに戻る。試験官は少し僕を見たが、何も言わなかった。そして声を上げる。
「次」
試験はそのまま続いた。
僕は自分の手を見る。
あんなに努力したのに、ここにいる他の人たちは僕より圧倒的に魔力が強いのかな?それとも、ヴァルクは孤児だった僕に気を遣っていたのかな。
少し不安になるが気持ちをぐっと抑える。
きっと、大丈夫だ。まだ次がある。周りの受験者たちはまだ僕を見ている。
「数値不明だって」
「恥ずかしくないのか?」
笑い声が続く。
僕は空を少し見上げた。
ヴァルクの言葉を思い出す。
「気にするな」
そう。気にしなくていい。
試験はまだ始まったばかりだ。
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森のような広場に並ぶ的。ここからはだいたい20メートルはあるだろうか。試験官が声をかける。
「これから二つ目の試験を始める。魔法実技試験だ。得意な属性の魔法を使ってあの的にあてろ。」
えーと、それだけ?
そんな簡単なことを試験でやるの?と僕は思った。
だって、ほとんど同じことを僕が10歳の時に全属性で基本中の基本の訓練としてやらされていた。初めは的に当たらず森の方に魔法が飛んで森を焼け野原にしそうになり、見かねたヴァルクが内側から結界を張った懐かしい思い出だ。
最初の受験者が前に出て、手を突き出してボソボソと詠唱をすると風が巻き起こり、的に当たった。
周りは頷き、試験管は試験結果だろうか、何やら紙に書きこんでいる。
そうして受験者は順番に火や水等、自分の好きそうな魔法を使って当てていた。
...でも、威力が弱い。
あ、これはきっと、ただ当てるだけではなく、いかに魔力を制御しながらど真ん中に当てるのをチェックしているのか。
本当は魔力の「量」ではなく「制御」しながら正確にあてる試験なのか。
ヴァルクとの初めの訓練も制御と維持の方法だったから。
僕はそう納得した。
でも実際受験者は皆全力で自分の属性の魔法を極限まで使っているのだった。...リオにとっては、それが弱く見えるだけ。リオは昔のライルやヴァルクの威力を基準に考えていた。森から出なかったので他に比較対象人物を知らなかったのだ。
そして僕の番がやってきた。
得意な属性の魔法か...。
僕はどの属性もこれといって好きもなければ嫌いもない。でも、せっかくならヴァルクに初めて教えてもらった火の魔法にしよう。
……火
心の中で唱えるとどこからともなく火が出現し、炎というには小さすぎる光の球はふよふよと飛んでは的の真ん中だけを焼いた。
よし、ど真ん中。
周りが少しざわめく。
「……ん?」
小声が聞こえる。僕は思う。
あれ、真ん中に当てたけど、意味、違うかった?
ちょっと魔力抑えすぎたのかな?
その視線を感じながら、僕は静かに列に戻る。
リオは周りがなんて言っているかは聞こえなかったが、周りは驚きと疑念の声で溢れかえっていた。
「威力は弱いのに、ど真ん中?」
「いや、たまたまだろう。」
「てか、今詠唱したか?手は使ったか?」
「いや、声が小さすぎて聞き取れなかっただけだ...手もこちら側からは見えづらかっただけだ。」
「ほぅ。」
その中で1人の試験官は目を細めて呟いた。
細身で髭を生やした初老だが、どこからともなく品が溢れている。
彼は紙に何かを書き込みながらさらに小さく呟いた。
「……妙だな」
隣の若い女の試験官が首を傾げる。
「何がです?」
初老の試験官は視線をリオの背中に向けたまま言う。
「今の少年……」
少し間を置く。
「詠唱していない」
若い試験官は笑った。
「いやいや、声が小さかっただけではないですか?私も聞こえなかったですよ。」
しかし初老の試験官は首を振る。
「違う。魔法は、詠唱の“流れ”が魔力にのって魔法に現れる。だが今の炎にはそれがなかった」
若い試験官は怪訝そうな顔をした。
「それじゃまるで――」
初老の試験官は小さく言う。
「……無詠唱」




