第二十二話 王都までの道のり
王都へ行くには森を抜ける必要があった。
長い長い道のり。
かつて、ヴァルクの背中を必死においかけて歩いた道。その時はどこを歩いているかもわからなかったが、今同じ道を歩いてみるととても感慨深い。
まぁ、かろうじで草が踏まれた獣道なんだけど。
僕は長い道のりでさえもワクワクが止まらなかった。
...でも、初めは歩いていこうと決心したけれどやっぱり道のりが長すぎる。
ヴァルクの家は相当森の奥なのだ。
...風
心の中で呟く。
するとどこからともなく風が吹き、リオの身体がフワリと宙に浮く。
「ちょっと、近道」
リオはまるで空に道があるように歩き出したかと思うと、鳥が空を飛ぶようなスピードでビュンっと森を一気に飛んだ。
森を抜けた瞬間、空気が変わった。
そして空からは、かつて僕のいた孤児院が見えた。
ボロさはそんなに変わっていないが、ドラゴンがなぎ倒した塀やその他の部分は何事もなかったかのように修復されていたようだった。
懐かしい、僕の育った孤児院。
あの優しい瞳をした女の人はまだあそこにいるのだろうか...
時々昔を思い出してはチクリと胸が痛んだ。
そうして空を飛んでいるうちに、さらに街に近づいてきたので飛ぶのをやめた。
空を飛んでいる人が誰もいなかったのであんまり目立つと恥ずかしいからだ。
しばらく歩いていくと、人影が増えた。
そしてさっきまでの湿った土の匂いが消え、代わりに流れ込んできたのは――
焼いた肉の匂い。
甘い果実の香り。
鉄と油の混ざった、少し重たい空気。
「……」
リオは、思わず足を止めた。
匂いが、多い。
森にはなかった感覚。前を見る。
道は広くなり、石畳に変わっている。
ところどころ欠けているが、しっかりと整備されているのがわかる。
その上を――
ガラガラと荷馬車が通る。
革靴の足音が響く。
子どもが走り回る。
音が、重なっている。
「いらっしゃい!」
「焼きたてだよー!」
「そこの兄ちゃん、寄ってけ!」
声が四方から飛んでくる。
リオは目をパチパチしながらあたりを見回した。
……近い
人との距離が近い。
森では考えられない。通りの両脇には、露店がぎっしり並んでいた。
木箱の上に並べられた果物。
鉄製の鍋や包丁。
光を放つ小さな石――魔導具。
中には、空中に浮かんでいるランタンもある。
「最新式だよ!魔力少なくても長持ち!」
店主が声を張り上げる。
リオは立ち止まり、それを見る。
浮いてる……
じっと観察する。魔力の流れ。構造。
……簡単だ
何気なく手を軽く動かす。
ふわっ
隣にあった別のランタンが、ほんの少しだけ浮く。
「お、おい!?」
店主が慌てる。リオは手を止める。
「……壊れてない?」
「壊れてねぇけど……今の、お前やったのか?」
「あ、はい。お店のものを勝手にすみません。」
店主は何か言いかけて、やめた。
「……まぁいい、触るなよ!」
あれくらい普通じゃないのか
リオは頷いて、その場を離れる。
そもそもヴァルクの家では僕かヴァルクが作った特製の道具しかなかった。
ヴァルクの家には不思議なものがたくさんあったし、僕も興味深々で色んなものを作った。
例えば、僕が11歳の頃に作った特性揚げ物フライヤー。
ジャガイモを入れて雷の魔力を注ぎ込むと勝手にジャガイモが揚がる道具。
ヴァルクは何も言わなかったが、相当気に入っているようだった。
まぁ、魔道具と違って雷魔法が必要なんだけどね。
そんなことを考えながら少し進む。今度は、肉を焼いている屋台。
ジュウウウ……
油が弾ける音。煙が立ち上る。
「兄ちゃん!食ってくか?」
大きな串に刺さった肉。リオは見つめる。
…火で焼くのか
弱く安定した炎。
「……どうやってるの?」
「ん?普通に火だよ」
リオはじっと見る。店主は火力を調整しながら、均一に焼いている。どうやらこれもまた、魔道具の一種らしい。
制御がうまい。
ヴァルクの家の暖炉の火、風呂を沸かす火、料理をする火。それらの火は魔法陣が組み込まれ、雷の魔力を注ぐと火がおこる不思議な仕組みになっていた。
僕が小さい時はそんなことは出来なかったから
とても原始的で、藁や小枝を用いて火おこしから始まった。
まぁ、原始的な火おこしをしていたのは安定して魔法を使えなかった僕のせいなんだけど...
もしかして、この魔道具あったら料理も小さい時からもう少し上手だったんじゃないかな?
リオは無意識に、指先に小さな火を灯す。
ふわり、と。揺れない炎。
「……」
屋台の男が固まる。
「お前……今、詠唱」
リオは火を消す。
「……だめ?」
「いや……」
言葉が出ない。リオはそのまま歩き出す。
通りを抜けると、少し広い場所に出た。
中央には噴水。
水が絶えず流れており、子どもたちがはしゃいでいる。
その横で一人の老人が、壊れた魔導具をいじっていた。
「うーむ……動かん……」
リオは足を止める。
魔力が詰まってる
リオは近づくき軽く指をさす。
「……それ、ここ」
老人が首を傾げる。
「ここ?」
言われた通りに触る。
カチッ
次の瞬間。
ブォン
魔導具が起動する。
「おおっ!?」
老人が目を見開く。リオは首を傾げる。
なんで気づかないんだろう
「君……何者だ?」
「え?普通の人だよ?」
それだけ言って、歩き出す。人の流れに紛れる。
だが、すれ違う人たちが、ちらちらと振り返る。
「今の子……」
「魔法、使ってたよな……?」
リオは気づかない。
ただ前を見る。
やがて、建物の隙間から、白い塔が見えた。
王立魔法学院。
その姿は、街のどこからでも見えるほど大きかった。
リオは立ち止まる。
……あれが
胸の奥が、少しだけざわつく。
森では感じなかった感覚。
「……行こう」
誰に言うでもなく、呟く。
そのまま、歩き出す。
背後では、まだ街の喧騒が続いている。
だがリオの中では、静かだった。
新しい世界。
新しい出会い。
まだ知らないものばかり。
わくわくするなぁ。




