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第十九話 剣の手本(2)

森の奥から低い唸り声が聞こえる。

グルルル……

茂みが大きく揺れた。次の瞬間、黒い影が飛び出す。


「うわっ!」


僕は思わず一歩下がった。現れたのは大きな狼のような魔物だった。体は普通の狼より二回り大きい。黒い毛並みに紫の光る目は鋭い牙をむき出しにしている。


「ま、魔物……」


僕の声は少し震えていた。ヴァルクは一歩前に出る。静かに剣を抜いた。その動きはゆっくりなのに、迷いがない。魔物が地面を蹴った。


ドンッ


一瞬で距離を詰めてくる。


「危ない!」


僕が叫んだ瞬間、ヴァルクの体が動いた。

シュッ

銀色の軌跡が空を走る。

ザンッ

魔物の体が横に吹き飛んだ。

ドサッ

地面に転がり、魔物は動かない。


「……」

僕は目を見開いた。速すぎる。

何が起きたのか分からない。

ヴァルクは剣を軽く振るり、血を払う。

そして静かに言った。


「よく見ろ」


「え?」


その時、森の奥の茂みがまた揺れた。


ガサガサッ


三匹の魔物が姿を現し、紫の目がこちらを睨んでいる。僕は剣を握る。でもヴァルクが手を軽く上げた。


「動くな」


「え?」


「今日は戦うな。見て覚えろ」


魔物が吠える。そして一斉に飛びかかった。

ドンッ

その瞬間、ヴァルクが動いた。

一歩。

踏み込むみ剣が走る。

ザシュッ

一匹の魔物の首が斬られ、体が崩れ落ちる。


でもヴァルクは止まらない。次の一匹。

体をひねる。剣が斜めに走る。

ザンッ

魔物の体が地面に叩きつけられる。

最後の一匹。

後ろから飛びかかるがヴァルクは振り向かず、半歩だけ動く。剣が後ろへ流れる。

シュッ

魔物が地面に転がり、森が静かになった。僕はただ立ち尽くしていた。


「……すごい」


思わず声が漏れる。ヴァルクは剣を鞘に戻した。そして僕を見る。


「何を見た」


「え?」


僕は慌てる。


「えっと……すごく速かったです」


ヴァルクは首を振る。


「違う」


地面に枝を拾う。そして地面に線を描く。


「剣は速さじゃない」


一本の線。


「軌道だ」


僕は首を傾げる。


「きどう?」


ヴァルクは続ける。

「斬る場所、角度、距離。」


三本の線を描く。


「それが合えば」


短く言う。  


「力はいらない」


僕は魔物の体を見る。確かに、全部同じ場所が斬られている。ヴァルクは剣を抜く。


「構えろ」


僕は慌てて剣を持つ。ヴァルクは言った。


「まず振るな」


「え?」


「剣は振るものじゃない」


ヴァルクはゆっくり動くき剣を前に出す。


「押す」


木に剣を当てる。

スッ

刃が木に入る。


「引く」


スッ

木が綺麗に切れる。僕は目を丸くする。


「え……」


ヴァルクは言う。


「力じゃない。流れだ」


僕はその言葉を聞いてふと、炎を思い出した。流れ。魔法も、剣も、同じなのかもしれない。ヴァルクは僕を見る。


「やれ」


僕は木の前に立ち、剣を構えて深く息を吸う。

そして――

ゆっくり押す。

スッ

少しだけ刃が入る。


「おお……」


でも途中で止まる。ヴァルクは言う。


「焦るな」


「はい」


僕はもう一度構える。森の風が吹く。

その中で僕は剣をゆっくり動かした。

そうやって僕の初めての実践は見学で終わった。


でも、こうして僕は少しずつ鍛えられていったのだった。

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