覚醒編8
○現在、オレたちは本部に向かって移動している。
個人的には妻と嫁に早く会いたいので急いでもいいのだが、本部から連れてきた大亀の移動速度に合わせなくてはいけないので仕方無い。
大亀は巨体なので歩みは遅くても一歩一歩が大きいので移動速度自体はそれほど遅く無いのが救いだ。
これで本当の亀のように歩みが遅かったら大亀を担いで移動していたかもしれない。
まぁ、結社とやらがあると目される元大都市圏の調査は焦ってやるのは危険だ。
相手全体が敵対的なのか、一部なのか、まだ分からないからね。
「さとるさん、夜は冷えますからちゃんと暖かくしてくださいねぇ」
たき火の側に座るさとるさんをさくやさんが甲斐甲斐しくお世話している。
どうやら前回の事件からより一層仲良くなったようだ。
さくやさんの柔らかな感じがさとるさんに良く似合っている。
そんな二人を微笑ましい気持ちで見ていると玲子と京子さんが言い合いを始めた。
「じゃあ、アニキたちが二人を助けたのは間違いだったって言うの?」
「そうじゃない。助けてくれた事に関してはもちろん感謝している。だが、敵対する理由になってしまったようで申し訳無いんだよ」
玲子が京子さんを軽く睨んでいる。
さくやさんと京子さんはあの蝙蝠男に拐われて監禁されていたが乱暴された訳では無い。
それなのにオレがあいつを攻撃し、結果として結社とやらと敵対した事を京子さんは思い悩んでいるみたいだ。
「そんなの気にする事無いよ」
やつを攻撃したのはオレの意思によるもので基本的に京子さんとは無関係だ。
「でも、原因となった身としてはやはり気になるんだよ」
そう言って京子さんが肩を落とす。
二人が拐われたのは相手のけったいな能力による物なので気にする必要は無いと思うんだが、さくやさんの護衛としての役割も担っていた京子さんはかなり落ち込んでしまっている。
さくやさんと京子さんを拐ったあいつはその事を招待と言っていた。
二人が乱暴されていなかった事から考えるとあいつとしては本当に招待したつもりだったのかもしれない。
しかし、人を招待するにしては変わったやり方だ。
電話もメールも使えなくなった世界だがこんなやり方で人を招待するような奴と仲良くなれる可能性は皆無だろう。
しかも、本人にその自覚が無かったのが致命的だ。
「あいつ、絶対どっかぶっ壊れてるぞ」
変異した影響なのか、変異する前からなのかは不明だが友達にはなれないタイプである事は間違いない。
問題は結社とやらはああいうタイプばかりなのか、あいつは結社の中でももて余された存在なのかだ。
あいつが単独で調査に来ていた事からもて余された存在のような気もするし、信頼されているから単独での調査を行っていた可能性もある。
あいつの自信過剰な態度からすると組織内でもかなりの地位にいるような感じがするからさして期待はしてないんだけどね。
「真面目な異常者って感じよね」
オレたちの話を聞いていたマスターが言った言葉があいつの印象を表している。
「結局、敵対する事になってたんだから京子さんは気にする必要は無いよ」
オレたちの説明を聞いた京子さんはじっと考え込んでいる。
大亀の歩みに合わせて移動したオレたちは本部にようやくたどり着いた。
「へぇ」
小高い所から見る本部の風景は以前とかなり変わっていた。
以前は本部とその周辺に集落が点在しているような感じだったのに、現在では本部周辺に家屋や畑が広がっている。
そして、その外周を囲むように堀が作られている。
「あの家は自分たちで建てたんですか?」
木材の多用された平屋の家屋が立ち並んでいる。
「ええ、建築に詳しい方の協力で建てる事が出来ました」
それ以外にも工房の協力や電気の復活も大きな理由だろう。
う~ん、本当に都市国家が出来そうだな。
新しく出来た町並みを見ながら本部へと進む。
「真人!」
オレたちの声が聞こえたのだろう、優子さんが出迎えてくれた。
久しぶりに見る優子さんはかなりお腹が大きくなっている。
「は、走らないで!」
こちらに駆け寄って来ようとする優子さんを慌てて止める。
あんなに大きなお腹で走られると心臓に悪い。
「ただいま」
「おかえりなさい」
優子さんをそっと抱き締める。
ん~、久しぶりの優子さんの匂いだ。
「お腹は大丈夫?」
「うん!すっごく順調!最近はお腹を蹴るんだよ」
輝くような笑顔で優子さんが話す。
「触っても大丈夫」
「うん!」
優子さんの許可を貰って怖々と手を優子さんのお腹に当てる。
「うわっ、動いてる」
手に優子さんの体内からの振動を感じる。
「パパに会えてこの子も嬉しいんだよ」
優子さんがオレの手に柔らかな手をそっと添える。
オレの優子さんを蹴るなんて本来なら処刑ものだが、お前にだけは許してあげよう。
そう思って優子さんのお腹を撫でるとこちらの気持ちが伝わったのか振動が少し強くなる。
「大喜びしてるよ」
優子さんはこの子に完全にメロメロになっているようだ。
顔がかなりだらしなく緩んでいる。
「真人ちゃん、人の事は言えないから」
後ろからマスターに背中を叩かれる。
「いや、オレは厳しい父親になるつもりだよ」
「絶対に無理!」
背後からさとるさんたち全員の声が鳴り響いた。
○久しぶりの帰宅だが、残念ながら香織さんは現在仕事で外出中だそうだ。
今回の帰宅は急に決まった事なので仕方無い。
幸い、本日中に戻る予定だそうなので楽しみに待っておくとしよう。
香織さんが戻るまでの間、オレは自室で優子さんと過ごす事にした。
色々やらなくてはいけない事もあるが今日ぐらいはゆっくりしても罰は当たらないだろう。
久しぶりに会えたので優子さんがはしゃいでいる。
もちろん、オレもはしゃいでいる。
優子さんはオレの膝の上に座りお茶を飲んでいる。
「えへへ」
優子さんは時おり確認するようにオレの顔を眺め微笑む。
膝の上に座った優子さんが本部の現状を色々説明してくれる。
現在、本部には空前の結婚ブームが訪れているそうだ。
どうもオレたちの結婚式が本部のお姉さんたちの結婚願望に火を着けたようだ。
それに以前、集落で妊娠が分かった女性が無事出産した事の影響も大きい。
愛する者と結婚して子供を授かる事が出来る事が証明されたのでみんな安心して婚活を開始したみたいだ。
愛する者を見つけ無事結婚した者は本部周辺に家を建て新生活を始めているそうだ。
・・・オレたちは?
娯楽扱いされながら宿舎生活を続けたオレたちの立場は?
まぁ、それがあったからみんな宿舎を出て新生活を始めたみたいだけどね。
楽しげに話す優子さんを見ながらそっとお腹に手を当てる。
妊娠してるから当たり前なのだがこの中に本当にオレたち二人の子供がいるんだよな。
胎動を感じるので在るのは間違いないのだが信じられない。
妊娠しているのに優子さんの腕や脚は相変わらず細いし肩なども薄いままだ。
しかし、胸や腰回りには以前よりボリュームが増している。
それが相まって今の優子さんは神々しいまでの輝きを放っている。
お腹を撫でていた手を静かに上に移動させる。
大きくなった胸をゆっくりと確認する。
う~ん、胸からおっぱいって感じにジョブチェンジしてるな、これ。
以前より大きくなっているのに張りは全く失われていない。
むしろ以前より弾力が増しているような感じすらある。
ひょっとしてこれは母乳とやらの影響なのだろうか?
「エッチなお父さんでしゅね~」
お腹の子供に言いつけるのはやめて欲しいな。
そこはかと無い罪悪感を感じるから。
「やんっ、それは赤ちゃんのなのぉ」
顔を赤くした優子さんが軽く抵抗する。
いや、そんな事は無い!
赤ちゃんはいずれ乳離れしなくてはいけないが、オレはこのおっぱいから乳離れする気は無い。
オレは断じて優子さんからから乳離れしないぞ!
そう力説すると優子さんも納得してくれた。
「もう、しょうがないお父さんね」
優子さんはオレをぎゅっと抱きしめてくれた。
「なんだか見られてるみたいな感じがするの」
そう言って優子さんは自分のお腹を擦る。
少し騒がしくなるかもだけどいい子でいておくれ。
パパはママが大好きなんだ。
「あっ、大人しくなったみたい」
どうやらオレたちの愛し子は空気の読めるいい子のようだ。
そんな健気で可愛い妻をベッドにそっと横たえる。
夜はまだまだこれからだ。
・・・まだ真っ昼間なんだけどね。




