覚醒編7
○さすがに空を飛ぶ者を相手にする事は出来ない。
室内戦になると考えていたので弓などを持ち込んでいなかった事が悔やまれる。
オレとマスターは打つ手を持たずにただ相手が空を逃げるのを見送るしかなかった。
逃げていった相手の事は、諦めてベッドのシーツを捲る。
「おお」
思わず声が洩れる。
捲ったシーツの中でさくやさんと京子さんがぐったりと横たわっている。
見た限りだが特に大きな外傷は無いようだ。
思わず声が洩れたのは二人の現在の姿に対してだ。
拘束する為なのだろうが二人はきっちりロープで縛られている。
服の上からなのだが、その縛り方はかなり趣味性に溢れている。
さくやさんの方は胸の上下を縛られているので胸が大きく強調されている。
一方、京子さんの方は蜘蛛の巣のように全身にロープが走っているのでスリムな肉体とスタイルの良さが際立っている。
なんというか、二人の魅力を理解して強調している感じがする。
う~む、縛り方に芸術性を感じるな。
こんな出会いで無かったらぜひ縛り方を教えて欲しいぐらいだ。
「アホな事、考えないの!」
二人の姿を鑑賞しているとマスターに後頭部を殴られた。
二人の拘束を解きながら様子を窺う。
ぐったりとしている二人をそっと揺さぶってみる。
「んあぁ。真人くん」
京子さんが目を覚ました。
「あれぇ、おはようございます~」
その声でさくやさんも目を覚ましてくれた。
良かった。
二人とも大丈夫のようだ。
少し話したが、あの妙な能力の後遺症も無いようだ。
詳しくはさとるさんの診断を待たねばいけないだろうが、とりあえず良かった。
「なるほど、不思議な能力ですね」
オレたちからの報告を聞いたさとるさんが考え込む。
今は冷静だが、二人を無事連れ帰った時のさとるさんはちょっとした見物だった。
竜顔は無表情だったが尻尾は喜びで爆発しそうに揺れ動いていた。
その時の事を思い出すとちょっと面白い。
マスターと田中さん、二人と視線を合わせて微笑んでしまう。
戻った二人をさとるさんが診察をし、念の為にマスターにも心を観てもらった。
どうやらあの能力は洗脳などでは無く、一種の暗示能力らしい。
「ちゃんと相手が敵なのも分かってるわ。二人の事も覚えてる。でも、相手を攻撃しようとは思い付かなくなるのよ」
自分でも暗示にかかったマスターは相手の能力をそう評した。催眠術みたいなものなのだろうか?
敵対心を薄めるか、無くしてしまうらしい。
さくやさんと京子さんの二人も町中を歩いている時に声を掛けられ、屋敷に招待されたそうだ。二人も相手がこの町の代表である事は知っている。
「最初はやんわりと断ろうとしたんだがね」
「そうなんですぅ。断っていたのになんだかお家に行くぐらいなら、いいかなぁって」
そして、二人は屋敷で酒を薦められるがままに飲み昏倒したそうだ。
いささか不用心だが、それも敵対心をコントロールされていれば仕方無いだろう。
どうも、自分の能力を充分に理解して行動しているようだ。
「ギルドの本部移転の話しもあいつが誘導しておったらしい、かなり巧妙なやりくちでわしらが説明するまで誘導されとった事に誰も気付いておらなんだ」
田中さんが不愉快な表情で唸る。
さくやさんたちを救出後、田中さんはこの町の代表者たちに怒鳴り込んだのだ。
結果、あの男が協議を誘導していた事が判明した。
田中さんの言う通りやり方は巧妙で自分からはギルドの移転などの発言はしていない。
だが、他の代表者たちにギルドの有用性などを吹き込んで移転を自分達が思い付いたように見せかけていたらしい。
最初は田中さんの説明を信じなかった代表者たちも住民たちから夜明けの空を飛ぶ巨大な蝙蝠の報告が相次ぎ、信用せざるを得なくなった。
現代では電気が使用されていない為、住民の生活リズムはお日さまに強く影響されている。
夜明けと共に起き出し活動する為、明け方の空を飛ぶ大蝙蝠の姿は多数の住民に目撃されていた。
住民たちがそれを目撃していてくれて助かった。
なんせさくやさんと京子さんは招待され自分から付いていってしまっている。
二人を拘束したのだって、そういうプレイだと強弁されてしまえば責めるのは難しい。
下手をすれば屋敷に乗り込んだこちらが犯罪者扱いされるところだった。
「それも狙いだったんでしょ」
オレの心を読んだマスターがつぶやく。
なるほど。
二人を過度に傷付けなかったのも警報装置が無かったのもその為か。
「あたしたちを加害者にして自分を被害者にしておけば安全だわ」
ここは人間至上主義だった町だ。
オレたちを犯罪者扱い出来れば、住民がオレたちを始末してくれる。
いや、始末されそうになったオレたちを自分で庇うつもりだったのかもしれない。
普通なら危険な行為だが、敵対心をコントロール出来ればそれも可能だろう。
う~ん、敵対心をコントロールする能力って思った以上に厄介だな。
あの能力って何なんだろう?
超能力ってやつなのだろうか?
それともあれも一種の魔法と言うべきなのだろうか?
「それに空を飛べればギルド本部との往復も数時間で済むでしょう」
「空から偵察される事など誰も予想しておりませんので偵察も可能だったでしょうな」
さとるさんと田中さんがうなずき合う。
「真人くんが己れを失わなくて助かりました。もしかしたら、今回の件はギルドにとって最大の危機だったのかもしれません」
立ち上がったさとるさんがオレの肩を叩く。
う~ん、考え無しに突っ込んでしまったが結構大変な局面だったな。
「その結社とやらが気になりますな」
田中さんの言う事は尤もだ。
知恵を使う相手が一番厄介だ。
あの蝙蝠野郎みたいのがごろごろしているような組織だとギルドでも苦労するだろう。
「どこに本拠地があるのかしら?」
「なにか言ってなかったか?」
あの蝙蝠野郎も警戒して本拠地の場所はさすがに言わなかった。
ん〜、そこまで大規模なら周辺に元々、それなりの人が住んでいないと難しいと思う。
さとるさんと田中さんを中心とした話し合いの結果、かつての大都市を調査していく事になった。
結社とやらがどこに存在しているかは不明だが、かつての大都市近辺に存在する可能性は高いと思う。
この調査はかなりの長距離移動を覚悟しなければいけない。
しかも、現在は様々な新生物が発生している最中だ。
当然、調査はギルドでも腕利きのメンバーが担当しなくてはいけない。
そうなるとオレとマスターが選ばれるのは当然だろう。
他に玲子と藤井くんにも付いてきてもらう事になった。
これまで以上に長距離移動に適した武器や鎧が必要だ。
オレたちは本部に戻るさとるさんたちに同行する事にした。
おっさんの工房ならなんとかしてくれるだろう。
戦力が低下する支部には本部から増援を送ってもらう事にする。
「もうすぐお子さんが生まれるのにすみません」
さとるさんがオレに頭を下げる。
まぁ、準備にもそれなりの時間が必要だから、もしかするとその間に生まれてくれるかもしれない。
それに出産に関してオレに出来る事は限られている。
それなら生まれてくる我が子の為に少しでも平和な環境を用意してやりたい。
その子が健やかに幸せを信じて生きていけるように・・・




