表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崩壊した世界でみんなで楽しく生きていく〜サバイバル〜  作者: 伊右衛門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/118

拡大編6

○やはり、変異体の群れは町に向かって来た。

ざっと見た限りほとんどがゴブリンだが、ちらほらトロールや見た事の無い変異体の姿も見える。


「なんかさくやちゃんの凶悪バージョンみたいのがいるわね」

マスターが指差す先には下半身が大蛇で上半身が猿みたいな変異体がいる。

「あっちのは八本足?手なのかな?」

蜘蛛のように大地をはい回る変異体を見て、玲子が首をかしげる。

「四本脚で四本腕なんじゃないか?」

遠くてよく見えないが移動に使ってるのは四本だけみたいだぞ。

納得したのか、玲子がうなずく。


オレたちは今、城壁の上から変異体の群れを見物している。

1000体との報告だが、大地を埋め尽くす変異体の群れってのは壮観だな。


「皆さん、のんきですね」

小さく震えながら近くに居た代表者の一人がつぶやく。

「ほとんどがゴブリンよ。大物を倒せばなんとかなるわ」

マスターの言葉にオレも玲子もうなずく。


さすがにトロールが1000体とか言われたら困るが、群れの八割ぐらいがゴブリンだ。

ゴブリンは普通の人より小さく弱い変異体だ。

こちらには周辺の小さな集落から避難したきた住人も合わせれば3000人近い人数になる。

もちろん全員が戦える訳では無いが戦力的にはほぼ互角になっている。


「あっ、溝に落ちるよ!」

玲子が歓声をあげる。

会議が終わってから住人と一緒に掘った堀に変異体の先頭がずり落ちていく。


堀はそこまでの深さでは無いが底には先端を鋭く尖らした竹槍を埋めている。

堀に落ちた変異体が悲鳴をあげる。

落ちた変異体の手足や胴体を竹槍が貫いているのだろうが悲鳴が聞こえても群れの歩みは止まらない。

それどころかどんどん変異体が落ちて堀が溢れだす。


「200体ぐらいかしら?」

「落ちたのはほとんどゴブリンだね」

さすがにトロールがハマるほどの堀は作れなかった。


「まぁ、掘っただけにしては活躍したわね」

「掘っただけじゃ無くて竹槍も埋めたよ」

マスターの言葉を玲子が訂正する。

竹槍を切り出して埋めたのは玲子のアイデアだ。

「はい、はい。頑張った玲子ちゃんにはご褒美にちゅうしてあげるわ」

マスターに抱き締められそうになった玲子が慌てて飛び退ける。


変異体の群れは損耗率なんて気にしないようだ。

落ちたゴブリンたちを踏み越え、あるいは踏み潰し変異体の群れは町に近づいてくる。



「いい、まずはトロールの足を止めるだけでいいわ」

トロールの集団に襲われると城壁が崩れる恐れがある。

今回の出撃はそのトロールの足止めが目的だ。

倒さなくてもトロールを足止めすれば城壁がある分、こちらが優位に立てる。

反対に城壁を崩されれば町に侵入されこちらの被害はかなり大きなものになるだろう。

「アキレス腱や膝を狙うのよ」

トロールは巨体だが骨格の構造自体は人間と大差無い。

「倒したトロールにはとどめを刺さなくていいわ」

その方が暴れて周囲の被害が増すだろうとの判断だ。


「おまえは藤井くんと一緒に動くんだぞ!」

「玲子ちゃんは突出しない事!」

オレとマスターが玲子に注意する。

「は~い」

分かってるのかな?

玲子は興奮すると見境いが無くなる悪癖がある。

冷静な藤井くんに玲子のサポートをお願いしてるが大丈夫かな?

「いざとなったら殴ってでも止めるんだぞ!」

「は、はい」

緊張した面持ちで藤井くんがうなずく。

その藤井くんを玲子がじとっとした目で睨んでいる。

殴ったら殴り返す気満々のようだ。

ほんとに大丈夫か?


オレたちは城壁の上から門の前に移動する。

いくつかの門があるが、ここは一番群れに近い門だ。


マスターが手にした弓を大きく振る。

その合図の合わせて門がゆっくりと開いていく。

・・・門も手入れしとくんだった。

思った以上に動きが悪い。

これでは接近された状態で門を開閉すると町中に変異体が入り込んでしまうだろう。

「接近されたら城壁から直接出るしか無いわね」

それしか無いな。


薄く開いた門からオレたちは身体を滑らせて外に出る。

今回出撃するのは、田中さんと佐藤くんを除くギルドメンバーと志願してくれた町の狩人さんたちだ。

敵はまだ城壁まで到達していない。


歩幅の差でトロールたち大型の変異体が群れの先頭に立っている。

ゴブリンたちはその後ろから近づいて来ているが、トロールたちとの間には空間が生まれている。

いくらゴブリンが弱い変異体だといっても、周囲を囲まれると危険だ。

この状態の間にトロールたちを倒してしまいたい。


ふむ、どうやら変異体の群れは連携して動いてる訳では無いようだな。

指揮する個体がいないのか、単純に指揮させてもそれを理解する脳みそが無いのか。

今回の群れに大暴走。

なんらかの意図がある訳じゃないのか?

でも、こんな無茶苦茶な群れが形成されたのがやはり気になるなぁ。


「絶対に無理はしない事!撤退指示には必ず従う事!」

前線で指揮を取るマスターがオレたちに最後の注意をする。

「おまえの事だぞ」

玲子の頭を軽くこずく。

「アニキの事だって」

玲子がオレの脇を肘でつつく。

「特にそこの二人は注意しなさい!」

マスターがオレと玲子を鋭い視線で睨む。

ふと気付くと、周囲の人たちが生暖かい目でオレたち二人を見ていた。


「出撃!」

マスターの号令で前進を始める。

トロールの相手をするのはギルドメンバーであるオレたちだ。

志願してくれた狩人さんたちには援護をお願いしている。

・・・後ろ矢とか無いだろうな。

まぁ、マスターが志願してくれた狩人さん全員と握手してたから大丈夫か。

あれは感謝の握手じゃなくて、心を読むのと欲望の為の握手だったからな。


「んじゃ、行くよ」

玲子の言葉で藤井くんたちが身に纏った鎧の紐を緩める。

獣化によって体格が大きく変化するライカンスロープたちの為におっさんが工夫してくれた鎧だ。

よく出来ているんだが、獣化した際に出来る鎧の隙間が気になる。

知恵のある相手ならそこを狙うだろう。

「気をつけろよ」

玲子の鎧の隙間を指差しながら忠告する。

「うん、分かってる」

獣化した玲子が獅子の顔で笑う。


「おらぁ!」

手にした槍でトロールの片足を切り飛ばす。

「ぐがぁぁ」

悲鳴をあげて倒れたトロールが痛みで暴れまわる。

その攻撃範囲から飛び退ける。


これで足を切り飛ばしたトロールは二体目だ。

確認されているトロールは約20体。

玲子たちも連携してトロールの足を上手く攻撃している。

一人が正面に立ち、その隙にもう一人が足を傷付けている。

「やったぁ!」

玲子の歓声が上がる。

すでに玲子は三体目のトロールを倒している。

動きの早い玲子はトロールとの相性がいいみたいだ。

トロールの攻撃を掻い潜って攻撃している。


「落ち着いて射てば大丈夫よ!」

マスターの声は少し焦っている。

狩人さんたちの援護が思ったより機能していないのだ。

巨大なトロールと小柄なゴブリンの体格差で狩人さんたちの遠近感が狂ってしまうようだ。

前方で戦うオレたちに当たらないように曲射で射っているのだが、援護の矢が的外れな方向に飛んでいっている。


城壁にたどり着かれる前にトロールたちを倒してしまいたいのだが、後ろのゴブリンたちがどんどん迫って来ている。

このままだとマズいな。

後方の変異体たちに追い付かれると乱戦になってしまう。

乱戦になると弓での援護は出来なくなる。

かといって、このまま下がって城壁を崩されるのもマズい。


「ええい」

めんどくさい事態になってきた。

新たなトロールの両足を一気に断ち切る。

「ぐぎゃあぁ」

きたない悲鳴をあげて暴れるトロールの頭を掴む。

「そ~れ!」

そのまま、近付いてくる変異体の群れの前方までぶん投げる。

飛ばされたトロールは無事な両腕を振り回して暴れる。

その腕に近付いたゴブリンたちがなぎ倒され潰されていく。


その後も二体のトロールを投げ付ける。

足を失ったトロールは痛みの為、暴れまわり周囲の変異体を倒していく。


暴れるトロールを回避する変異体。

暴れるトロールを敵と認識したのか攻撃を始める変異体。

それによって、少し変異体の群れの動きが鈍る。


「今よ!」

マスターの号令で弓が射られていく。

すでに立っているトロールは5体ほどまで減っている。

遠近感に慣れてきた狩人さんたちの援護が機能しはじめた。

ゴブリンたちが降り注ぐ矢に射られてどんどん倒れていく。


やれやれ、なんとかなりそうだ。

オレは新しいトロールえものを探すが、すでに周囲のトロールは全て倒してしまっている。

周囲を見渡すと玲子がやや突出してトロールの相手をしている。

玲子は思った以上にトロールがチョロいので調子に乗ってしまっているようだ。

相棒兼監視の藤井くんからも離れてトロールと戦っている。

ーあいつ、気をつけろって言ったのに。

後でお説教をしないといけないな。

オレがそう思っていた時だった。


「きゃ」

場違いな程かわいい声と共に玲子の動きが止まる。

正面のトロールに気を取られている隙に背後から四本脚の変異体モンスターが近付いていたのだ。

四本脚の変異体は四本の腕で玲子に背後からしがみつく。

「このっ!」

玲子が暴れるが四本の腕でがっちりしがみつかれているので振りほどけない。

しかも、四本脚で大地に踏ん張られているので移動する事も出来ないようだ。


玲子の正面にいたトロールがその巨大な拳を振り上げる。

その拳を静かに玲子が見上げる。


その時だった。

ゴウッ!

凄まじい風切り音と共に巨大な矢がトロールの頭を貫いた。

「きゃっ!」

高低差があったので玲子には刺さらなかったが完全にトロールの頭が消し飛んでいる。

いや、大地に突き刺さって震えているそれは、矢っていうよりすでに槍レベルだ。


なんだ、これ?

驚いて後ろを振り返ると門の前にトラックの荷台のような物が見える。

その荷台の上に巨大な弩が備え付けられているようだ。

その後ろに人影が見える。

いや、人影じゃないぞ。

あれはオレの女神、優子さんだ!


トラックの隣にはもう一人の女神、香織さんの姿も見える。


●「なんとか間に合いましたね」

香織が隣で大きく息をつく。


話は数日前に遡る。

支部から変異体の群れが迫ってると報告を受けた本部では救援部隊を送る事が即、決定された。

しかし、本部から支部まではかなりの距離がある。

徒歩で救援に向かっていては間に合わないかも知れない。

そこで残った数少ない燃料を使って先鋒部隊が編成される事となった。

車を使えばほぼ一日で支部までたどり着ける。

以前は普通に乗っていたけど、車ってすごいよね。

さとるさんもなんとか燃料を自作出来ないか考えているけど、やっぱり難しいみたい。

私と香織は少し強引な手段を使って先鋒部隊に入り込んだ。

美咲ちゃん、ありがとう。

救援に向かう私たちの為、おじさんたち工房の人が本部防衛用に作ったバリスタを車の荷台に移植してくれた。

私も練習でしか使った事が無かったから、少し不安だったけど、うまく命中してくれた。

玲子ちゃんを襲っていた変な変異体を真人が引き剥がしている。

玲子ちゃんも無事だったみたいだ。

真人がかなり怒っているのが、ここからでも分かるから無傷じゃないかもしれないけど。


「ありがとう、助かったよ」

支部長になった田中さんが私に声をかける。

「いえ、間に合って良かったです」

「さとる君からいざとなったら車で救援に来る事は聞いていたが、身体の方は大丈夫かね?」

田中さんが大きくなってきた私のお腹を気遣ってくれる。

気遣いはとてもうれしいのだが、私と香織はここに来る理由があるのだ。


「いましたよ。性犯罪者が」

香織が暗い笑顔で戦場の真人を見る。


前回、休暇で本部に戻ってきた真人は支部に帰る時おみやげを持っていった。

私たちになにも言わずに・・・


「わたしたちのショーツを奪い返しましょう」

真人はおみやげとして私たちのショーツを一枚残らず持っていったのだ。


今の時代、女性用の下着は超貴重品なのだ。

それを分かっていない真人をきっちり教育しないといけない。

・・・下着の怨み、思い知りなさい!


○「このバカたれ!」

しがみついた変異体の腕をむしり取って、玲子を救出する。

「アニキ、怖かったよ~」

抱き付いてきた玲子の頭にげんこつを落とす。

「まずは優子さんと香織さんに礼を言え!」

ちょっと涙目の玲子が優子さんたちに大きく手を振る。

「姐さん、姉御、ありがとう」

まぁ、無事で良かった。

鎧の隙間から少し引っ掻かれたみたいだが、獣毛のおかげもあって大丈夫みたいだな。

手を振って二人にお礼を言う玲子に合わせて、オレも手を振る。

香織さんだけじゃなく優子さんまで来てくれるとは予想外だった。

優子さん、身体は大丈夫かな?


戦闘中だがうれしくなって二人の姿をじっと見る。

・・・何故だろう?うれしい筈なのに背中がぞくぞくする。

風邪かな?


とりあえず、トロールを殲滅しないと。

オレは残ったトロールを倒していく。

最後の一体になったトロールの片足を切り飛ばす。

バランスを崩してトロールがゆっくりと倒れていく。


ん?

最後に倒したトロールをじっと見る。

これまで倒したトロールは足を切り飛ばすと大暴れしたのに、こいつは悲鳴さえあげない。

なんだ?こいつ?

警戒しながら倒したトロールに近付く。

槍でつつくがうんともすんとも言わない。

衝撃でショック死したのか?

トロールの胸を槍で切り裂く。

「うおっ!」

切り裂いたトロールの胸からなにかが飛び出してきた。


飛び出したなにかはオレの横をものすごい速度で飛び去っていく。

変異以降、オレの動体視力はかなり向上している筈なのにほとんど姿を捉える事が出来ない。

「なんだ?あれ?」


「どしたの?アニキ」

さっきの事を反省してオレのすぐ近くで戦っていた玲子が振り向く。

「おまえ、さっきの見たか?」

オレの問いかけに玲子はきょとんとしている。

玲子は見てないか。


さっき見た姿を脳内で思い描く。

・・・妖精?

翅の生えた小さな人のように見えたが、気のせいか?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ