拡大編7
○とりあえず、全てのトロールを倒したオレたちは城壁まで撤退する。
ーさっきのアレ、なんだったんだろうな?
体内に巣食いトロールを餌としていたのか?
・・・いや、巣食われていたトロールの動きは普通だった。
餌として体内から喰われていたのなら、動きにも影響が出るだろう。
なら、寄生してトロールを操っていたのか?
こちらの方が可能性としては高いような感じがする。
ひょっとして他の変異体にも寄生しているのだろうか?
寄生した宿主トロールが死亡すると即逃亡したから、死体を調べてもあの変なのを発見するのは難しいかもしれない。
だが、逃亡する際に体内から飛び出してくるようなので爆ぜたような傷のある死体があれば寄生されている可能性があるな。
今回、巨大な変異体の群れが形成されたのはあの変なのが関係しているんだろうか?
「先に戻っててくれ」
「ちょっと、真人ちゃん!?」
どうしてもさっきのが気になるのでマスターたちを先に町に戻して、再度戦場に戻る。
寄ってくるゴブリンたち変異体を槍で薙ぎ払いながら、先程倒したトロールの死体まで戻る。
ーうん、やっぱり内部から爆ぜたような傷がある。
他にも同じような死体はないか?
死んだゴブリンやトロールを調べてみる。
同じような死体は無いが足を失い暴れているトロールの胸元辺りで妙な動きを見た。
中でなにかが蠢いている。
ーあそこだ。
そのトロールに近付く。
先程はとどめを刺した瞬間に飛び出してきたから、殺してしまうと逃げられてしまうだろう。
しかし、暴れまわるトロールを担ぐのも難しい。
ーう~ん、どうしよう?
「アニキ、なにしてるの?」
町に戻した筈の玲子がオレの後ろにいる。
どうやら、こっそり着いてきたようだ。
全然、気付かなかったぞ。
さすが、獅子のライカンスロープ。忍び寄るのが上手い。
指示を聞かなかったのは問題だが、今は協力してもらった方が都合がいいな。
「あのトロールの胸元が動いてるのが見えるか?」
槍でトロールの胸元を指す。
「・・・むにゅむにゅしてて気持ち悪いね」
うん、確かに気持ち悪いな。
宿主が死にかけているので逃げようとしているのだろうか?
「あそこになにか妙なのがいるんだ。捕まえて調べたいから手伝え」
「うん。手伝うからお説教は無しね!」
むっ、仕方ない。あの妖精もどきの方が気になる。
玲子と相談してオレがとどめを刺して、飛び出してくるであろう妖精(仮定)を玲子が捕まえる事になった。
「やるぞ」
槍をトロールに突き付ける。
「うん!」
玲子が姿勢を低くして構える。
深く切り裂くとさっきのように一気に飛び出してきて逃げられるかもしれない。
槍でトロールの胸元を薄く切り裂く。
トロールの胸の肉が内部から押されるように動く。
いや、押されるようにでは無く、実際に中から押されているのだろう。
「出てくるぞ」
「うん!・・・でも、こいつ毒とか無いよね?」
・・・それは考えてなかったな。
「・・・」
「・・・網とか無いの?」
そんなもんは無い。
オレと玲子は顔を見合わせる。
結局、出てきたところを倒す事になった。
「ハエ叩きでもあった方が良かったな」
素早く小さな的に槍では当たらないかもしれない。
「殺虫剤も効くかな?」
う~ん、それはどうだろう?虫サイズでも虫じゃないからなぁ。あ~、でもあれも大量に吸い込むと危険だから効くのかな?
バリッ
トロールの肉が裂けていく。
そこから血まみれの小さな頭が出てくる。
まるでサナギから脱皮するかのようだ。
・・・成虫が体内に潜り込むのかと思っていたが、もしかして卵を産み付け体内で成長するのか?
「玲子、殺せ!」
そう玲子に指示しながらオレも槍を振り下ろす。
卵を産み付けるタイプだとマズい!
気をつけても産み付けられたら終わりだ!
オレと玲子の槍が出てきた小さな妖精もどきを貫く。
ドシュ!
大急ぎで町に戻ったオレたちは玲子の槍の先にぶら下がった妖精もどきを観察する。
「これ、なんだろう?」
なんとか倒す事が出来たが、なんだ、これ?
小さな人型ではあるがもちろん人間では無い。
背中には4枚の虫のような翅が生えているし、目はハチやトンボのような複眼になっている。
腕は2本だが片方はオレの槍で引きちぎれてしまった。
腕の先には手があるが指は三本しか無いようだ。
足は人間に似ているが、膝から下には太い毛がびっしり生えていて美しくない。
「こいつメスなのか?」
胸部が小さく膨らんでいる。
「でも、なんかついてるよ」
玲子が顔を赤くしながら妖精もどきの股間を指差す。
う~ん、これは男性器か?なにかの突起状の器官があるがそうは見えない。
これって卵管か?ただの毒針なのかなぁ?
いや、毒針でも危険なんだけど卵管の方がやだなぁ。
これを伸ばして変異体の体内に卵を産み付けるのだろうか?
う~ん、昆虫にはそこまで詳しくないので判断がつかない。
「大至急、さとるさんに送ろう」
さとるさんなら詳しく調べてくれるだろう。
ギルド支部に戻って妖精もどきを発泡スチロールに入れて保存する。
まだ寒い季節だが急がないと腐ってしまうな。
「不気味な生き物ねぇ」
妖精もどきを見たマスターが自分の肩を抱き締める。
大きな変異体ならいくらでも対処する自信はあるが、ここまで小さな変異体だとかえって対処が難しい。
槍で突くにも矢で狙うにも小さすぎるのだ。
まだ、町は変異体の群れに襲われている最中だが、佐藤くんに本部まで走ってもらう事にする。
「今回の変異体の襲撃にも関係あるかもしれんからな」
田中さんの判断だ。
変異体の群れは大物であるトロールを全て倒しているので、城壁で食い止める事が出来る。
こいつが今回の変異体の群れになにか関係しているのだろうか?
飢えれば共喰いするゴブリンはそこまで大きな群れを作らない筈だ。
それなのに今回は非常識とも言える群れを形成している。
それにゴブリンとトロールは一種の天敵なのに同じ群れに存在している。
これも異常な出来事だ。
こいつが体内で寄生しているからこんな行動を取っているのかも知れない。
しかも、この妖精もどきはかなり高速で飛行する事が出来るみたいだしなぁ。
こんなのが大発生して卵を産み付けまくる姿を思わず想像してしまう。
う~ん、背筋がぞくそくしてくる。
不吉な予感を覚えながら本部に向かう佐藤くんを見送る。
もしかしたら、こちらの方が重大な問題なのかもしれない。




