拡大編1
○ウエディングドレスを身に纏った二人が大広間に現れる。
「わぁ、すごくきれいです」
美咲ちゃんが感嘆の声をあげる。
「会心の出来だよ」
二人のメイクを担当した京子さんが胸を張る。
二人の姿を見た女性陣から次々と称賛の声があがっている。
二人はその声を照れ臭そうに、しかし、どこか誇らしそうに聞いている。
一方、オレの方は・・・
「き、緊張で吐きそうだ」
余りのプレッシャーに押し潰されそうになる。
「ちょっと、しっかりしなさいよ」
マスターがオレの背中を叩く。
やめてぇ~、吐いちゃう。
「気を強く持ってください」
「大丈夫だ、じっとしてればすぐに終わる」
なんだか手術前のような励ましがさとるさんと田中さんから飛んでくる。
「でけぇ図体して情けねぇなぁ」
「せっかく、リニューアルした鎧がもったいないですね」
オレの情けない姿におっさんとアキラの工房組があきれ返る。
・・・ほっといてくれ
今は、オレがドレスを持ち帰って数日後だ。
オレが二人にウエディングドレスを持ち帰った事はあっという間にギルド中に広まった。
オレとしては、二人はドレスを喜んでくれたし、結婚も無事承諾してくれたので大満足していたのだが、ギルドのお姉さんたちはそれだけでは納得しなかった。
「せっかくですから、ちゃんと結婚式をしましょう!」
それがギルドのお姉さんたちの主張だった。
その気持ちはうれしいし喜ぶべき事なんだけど、一つ問題があった。
オレはウエディングドレスは持って帰ってきたが、自分の服は持ってきていなかったのだ。
そもそも、オレに合うサイズの服自体が珍しいし、ましてオレに合うタキシードなど見つけるのが難しい。
しかし、普段着で結婚式ってのは優子さんや香織さんに失礼だ。
悩んでいたオレに救いの手を差しのべてくれたのがおっさんたちだった。
オレの鎧を大急ぎで修理してくれたのだ。
鎧で結婚式ってのもどうかとは思うが、それが一番豪華な装備であるのは間違いない。
それにおっさんの鎧はデザインが良く、決して不格好ではない。
二人にも相談してみたが、二人は鎧での出席を大喜びで認めてくれた。
「今回は結婚式用スペシャルバージョンだ」
修理した鎧を前におっさんが胸をはる。
さすがにこの短期間で大幅な改造は出来なかったようだが、鎧の各所に飾りが彫り込まれ肩の部分には新しい部品が取り付けられている。
「・・・すげぇ」
実戦を経験した鎧はさすがにピカピカとはならなかったが、矢で出来た穴は埋められ周囲に飾りが彫られている。
「これを見て、さらにたまげろ!」
おっさんが手を振るとアキラが大きな布を持ってきた。
色は表が黒く裏が赤い布だ。
「・・・まさか」
アキラが鎧の肩のパーツに布をセットする。
「おっさん、これかっこいいぞ」
銀色に鈍く輝く鎧にその布はすごく映える。
「これなら結婚式でも大丈夫だろ」
おっさんが満足そうに鎧を見てうなずく。
「あぁ、おっさんありがとうな」
感動したオレはおっさんの肩を叩く。
「いてぇな!」
ちょっと力加減を間違えてしまった。
「う~ん、これに刀があれば完璧だったな」
炉も出来ていない現状で、そこまで望むのは贅沢だがやはり惜しい。
この鎧とマント、そして長大な太刀があれば完璧だっただろう。
「ん?あぁ、そ、そうだな」
おっさんが汗をかきはじめた。
さっきまで自信満々だったおっさんがなぜか挙動不審になっている。
「いや、それは高望みすぎるな」
鎧をここまで素晴らしくしてもらったのだ。
あまり期待してはプレッシャーになってしまうだろう。
「じっくりいい太刀を鍛えてくれ」
オレはおっさんの手をがっちりと握る。
「男同士の約束だもんな」
「あ、あぁ」
おっさんがオレの手を力無く握る。
アキラはなにもない中空を見つめてこちらを見ようとしない。
・・・どしたの?
それが昨日の事だ。
そして、結婚式当日、緊張したオレは大広間に鎧を纏って優子さんと香織さんを待っていた訳だ。
「では、そろそろ始めよう」
優子さんと香織さんの周囲が落ち着いたのを見て、大先生が立ち上がる。
今回の式はギルド長である大先生が取り仕切ってくれる。
大広間はお姉さんたちが精一杯結婚式っぽく飾り付けてくれた。
大先生の声でお姉さんたちが並べられた椅子に着席する。
「真人ちゃん、がんばって」
「落ち着いてください」
「しっかりするんだぞ」
マスターたちもオレを激励して席につく。
「では、結婚の誓いを交わす男はこちらに来なさい」
壇上に上がった大先生がオレを呼ぶ。
「はい」
覚悟を決めよう。
なんでうれしい筈なのにオレはこんなに緊張するんだ?
「にいちゃん、ほら」
ゴンがオレの手を引いて大先生の元まで連れていってくれる。
いつも、泥だらけのゴンも今日はきれいな服を着て大人しくしている。
「ありがとよ」
ゴンの頭を軽く撫でて大先生の傍らに立つ。
「うむ。それでは結婚を誓う二人はここへ来なさい」
「「はい」」
優子さんと香織さんが美咲ちゃんに手を引かれこちらに向かってくる。
白いドレスを纏った二人は本当に美しい。
その姿に見とれてしまう。
その後、大先生やみんなの立ち会いの元、オレたちは永遠の愛を誓い正式に結婚した。
あまりの緊張で記憶がぶっ飛んでしまったが、つつがなく式は終わったようだ。
それでも二人の輝くような笑顔だけは脳裏に焼き付ける事が出来たのでオレは満足だ。
以前ならこの後、新婚旅行に出発するのだろうが、さすがにそれは現状では難しい。
二人は喜んでくれたし、ギルドのみんなも祝福してくれた。
朝までみんなで飲んだり食ったり、歌ったり踊ったりして楽しんだ。
客観的に見てもいい結婚式だったと思う。
いい仲間に恵まれて、オレたちは幸せ者だ。
そして、結婚式からしばらくしてオレはさとるさんに呼び出された。
「まずは、結婚おめでとうございます」
さとるさんが笑顔でオレを迎えてくれる。
「ありがとうございます」
お礼を言いながら室内の様子を確かめる。
大先生にさとるさん、田中さんにマスターがいるのはいいとして、なぜかおっさんや玲子までいる。
・・・なんかいやな予感がするなぁ。
「実は例の集落からギルドに加盟したいとの連絡がありました」
例の集落っていうと玲子たちが暮らしていたあの集落だな。
それで玲子たちが同席してるのか。
「・・・ギルドとしてはそれを受け入れるつもりです」
さとるさんがオレの反応をうかがう。
う~む、あの集落は気に入らないがあのまま放っておくのもマズいだろうな。
「ギルドに加盟したいってのはギルド法とやらを受け入れるって事ですか?」
細かいギルド法は現在さとるさんが作成中だが、基本的には変異者と人間を同じヒトとして扱う事が基本のルールになる筈だ。
それを受け入れるというなら、それはいい兆しだと思う。
「はい、彼らは変異者もヒトとして扱う事を確約しています」
ふ~ん。そうなんだ。
まだ100%信じる事は出来ないが、これは一歩前進と考えていいだろう。
「けっ、こないだの戦闘で多くの狩人を失ったから仕方なくだろうよ」
こないだの戦闘では200名近い被害が出ている。
あの集落の狩人が400名ぐらい居るそうだから約半数を失った事になる。
その数では狩りだけでなく、集落を守る事にも支障が出る筈だ。
おっさんの言う通り、切羽詰まっての決断だろう。
「でも、あのまま放っておくってのもわたしはやだな」
人のいい玲子らしいなぁ。
このまま、放置すればあの集落は衰退していくだろう。
確かにそれを放っておくのは気分が悪い。
「・・・真人くんはどう思います?」
あれほどの人を見捨てるのは気分が悪い事は確かだ。
しかし、あの集落は本当に生まれ変わろうとしているのだろうか?
喉元過ぎれば熱さ忘れるとは言い古された言葉だが、真実を含んだ言葉だと思う。
落ち着くとまた同じような事が起きるのではないだろうか?
「う~ん、集落をじっくり見てみないとオレには分かりません」
信じたいけど信じきれないってのがオレの本音だ。
オレの言葉にさとるさんが大きくうなずく。
「僕も同じ結論です。彼らをすぐに信じる事は出来ません」
そうだろうな。
「そこで、あの集落にギルドの支部を作ろうと考えているんです」
あの集落まで往復で10日近くかかる。
それではなにかあった時に助けられないし、あの集落の真意を探るのも難しい。支部を作るのはいいアイデアだと思う。
オレの考えを伝えるとさとるさんがにっこりと笑った。
・・・なんかいやな笑顔だなぁ。
「それでは行ってくれるんですね」
「・・・は?」
「いえ、新しいギルド支部に」
「・・・へ?」
なんで、オレが?
新しいギルド支部には危険が予想される。
だから、選ばれる支部メンバーは自分の身を守れる事が前提条件になる。
うん、なるほど。
もしかしたら、周囲が敵だらけになるかも知れないからね。
納得の理由だ。
でも、やっぱり、なんでオレが?
「真人くんはあの集落の者たちに恐れられています。真人くんがいれば暴動などを抑止出来るでしょう」
いや、あの集落2000人近い人口だよね。
いくらなんでも無理じゃない?
「まぁ、少なくとも真人君がいればわしらは安心出来るな」
「って事は田中さんも行くんですか?」
さとるさんが説明してくれる。
最初のメンバーは支部長として田中さん、その補佐にマスター。
そして、集落をよく知る玲子たちライカンスロープ。
そして、オレだそうだ。
「あのオレ、新婚なんですけど?」
いきなり単身赴任ってあり?
立ち上がったさとるさんがオレを手招きする。
「なんです?」
オレとさとるさんは壁際に移動する。
「この話を受けてくれれば、例の謹慎は僕の方でなんとかします」
うっ、そういえば、まだ謹慎期間が残ってるな。
「それにずっと行ったきりにはしません。向こうが落ち着いたら一度長めの休暇を取ってもらいます」
う~ん、休暇なぁ。
「でも、一人で休暇を取っても仕方ないしなぁ」
さとるさんの様子をうかがう。
「・・・分かりました。なんとか、二人も同時に休暇を取れるように全力を尽くします」
それなら、新婚旅行にも行けるかもしれないな。
行き先は島がいいかな?安全だし、料理も旨い。
気が付くとさとるさんがオレをじっと見ている。
「はぁ、分かりました」
「ありがとうございます」
さとるさんが笑顔でオレの手を握る。
まぁ、本当は行くつもりだったんだよね。
色々あったあの集落はオレにとっても気になる集落だ。
役に立つんなら協力したい。
さとるさんが出した条件無しで行っても良かったんだけど、せっかくのご厚意だしね。
それから、数日後、準備を整えたオレたちは基地を出発した。
新婚早々、単身赴任みたいな形になってしまって二人には申し訳なく感じる。
優子さんも香織さんもこの件を知った当初はかなり不機嫌だったが、なんとか納得してもらった。
「アニキ、がんばろうね」
隣に並んだ玲子をじっと見る。
「な、なに?」
「おまえ、二人からなに言われたんだ?」
出発前に玲子は優子さんたちに捕まって、基地の裏に連れていかれていた。
「な、なにも言われてないよ」
玲子がオレから目をそらす。
分かりやすいやつだなぁ。
「二人には内緒にするから言ってみろ」
きょろきょろ周囲を確認して玲子がオレにささやく。
「アニキが浮気したら報告しろって」
・・・オレは妻と嫁に信じられていないのかな?
ちょっとへこんだオレを見て玲子が慌てる。
「大丈夫だと思うけど、もしかして、万が一だって」
妻と嫁を持つ身としては仕方ないのかな。
「・・・姐さんたち、ものすごく恐かった」
その時の事を思い出したのか、玲子の顔が青ざめる。
妻と嫁が迷惑をかけてごめんなさい。




