対決編4
○オレの咆哮で基地中の人たちが集まってきた。
「なにごとです?」
「どうした?」
「なにかありましたか?」
さとるさんたちも仕事の手を止めてやって来た。
「あっ!優子さん!」
香織さんが優子さんに飛び付こうとするのを空中でキャッチする。
あぶない、あぶない。
「ま、真人さん?」
オレの腕の中で香織さんが首をかしげる。
「えっとねぇ、わたし、おめでたなの」
顔を赤くして優子さんが香織さんに報告する。
「おめでた?って、妊娠ですか?」
「もう!やだ~!はっきり言われると照れちゃう!」
顔を赤くした優子さんが香織さんをばしばし叩く。
「優子さん、痛い、痛いですって」
オレの腕の中で香織さんが優子さんの攻撃から必死に身をかわす。
「ほう!それはめでたいな」
「二人ともよかったですね。おめでとうございます」
田中さんとさとるさんがきっちり優子さんの攻撃範囲の外からお祝いを述べる。
「やぁ~ん」
優子さんは大照れで身をくねくねよじる。
くねくね動く優子さんの腰は細く引き締まっており、とても妊娠してるように見えない。
でも、あそこにオレと優子さんの子供がいるんだよなぁ。
「・・・あの~、アタシたちも戻ってきたんですけど?」
優子さんの背後にカトリーヌたちが大きな荷物を背負って立っている。
光輝く優子さんの後光で、全然見えなかった。
「あっ、これ島の人からのおみやげ!」
優子さんの妊娠を知った若社長や島の人たちが大量に祝いの品を持たせてくれたそうだ。
島も人口が増えて決して楽じゃないのにありがたいなぁ。
「伝えるの遅くなって、ごめんね」
オレの腕に優子さんがそっと触れる。
妊娠を知った優子さんはオレに早く知らせたくて急いで帰ろうとしたが、若社長やカトリーヌたちが必死に止めたそうだ。
ありがとう、カトリーヌ。
特に若社長は、優子さんの体調が落ち着くまでは絶対に帰る事を認めず、舟も出さなかった。
こんなに遅くなったのも海が完全に落ち着くのを待っていたからだそうだ。
若社長、ナイス判断!
おみやげは島特産の塩に様々な干物。
そして、お米だった。
「島で今年採れたお米だよ」
島でも貴重な米をこんなに・・・
「若社長には今度、お礼に行かないといけないな」
「うん、若社長も真人に会いたがってたよ」
優子さんがおみやげの品を説明している横で香織さんが小声でなにかぶつぶつ呟いている。
「えっ?そうなると優子さんはしばらく真人さんのお相手は無理だから、わたしが一人で・・・」
香織さんの顔が少し青くなる。
「あはは、わたし、壊れちゃうかも?」
香織さんが虚ろな表情で渇いた笑みを浮かべる。
その後、食堂に移動して優子さんたちの帰還祝いになだれ込んだ。
「お米に小麦まで!う~、腕が鳴るわ!」
島からのおみやげを見た友美さんが狂喜乱舞して、どんどん料理を作ってくれる。
「妊娠祝いじゃ、みなで飲もう!」
大先生が秘蔵していたお酒をみんなに振る舞う。
あまりお酒は得意では無いが、優子さんの妊娠祝いと言われたら断る事は出来ない。
ありがたく大先生のお酒をオレもいただく。
ふむ、飲みやすいお酒だな。
アルコール特有の甘ったるさを感じない。
「大先生、おかわり」
「おお、飲みなさい」
普段、酒を飲まないオレがおかわりしたのがうれしいのか、大先生がコップになみなみ注いでくれる。
ごくっごくっ
ふう、お酒を美味しいと感じたのは正直、初めてだな。
もう少し欲しいがみんなの分が無くなっちゃうので我慢しよう。
大先生は笑顔でみんなにお酒を注いでいる。
大先生も優子さんの妊娠を喜んでくれている。
大先生にとって優子さんは孫娘みたいな存在だからなぁ。
「そして我々が知る限り、高変異者同士の初めての妊娠でもあります」
さとるさんがオレに微笑む。
そうだね。変異していても子供が生まれると分かれば今後、結婚する者も増えるだろう。
「・・・ん?」
今、なんか引っ掛かったぞ。
「・・・ああっ!」
大事な事を忘れてた!
「真人ちゃん、どしたの?」
オレの声にマスターがやって来た。
「オレと優子さん、まだ、結婚してない」
そういえば、オレと優子さんは結婚していないのだ。
優子さんと結婚していないので、当然、香織さんとも結婚していない。
オレは衝撃的な事実に呆然とする。
「こんな状況でしたから仕方ありません」
「そうよ。優子ちゃんも気にしてないわよ」
さとるさんとマスターが落ち込むオレを慰めてくれる。
「すでに法律も役所も無いし仕方あるまい」
声を聞いてやって来た田中さんもオレを慰めてくれる。
「・・・決めた!」
やっぱり、こういう事はちゃんとしないと。
「なにを?」
「ちゃんと結婚する」
「しかし、どうやって結婚するんだ?」
それは分からないけど、出来る事はやるべきだろう。
オレは祝いの輪の中心にいる優子さんのとこに行く。
「優子さん、ちょっと出掛けてくるね」
「どこ行くの?」
「ちょっとね」
「??」
きょとんとする優子さんを軽く抱き締める。
少しの間、離れていたので念の為だ。
うん、抱き心地は変わってないな。
「真人?」
事情の分からない優子さんは首をかしげる。
「すぐ戻るから待っててね」
オレは優子さんを離し、外に向かう。
香織さんの抱き心地が変わらないのは今朝、すでに確認済みだ。
部屋に戻り、槍を手にする。
鎧は修理中だから、まぁいっか。
優子さん、香織さん、待っててね。
オレは気合いを入れて廃墟と化した街に向かった
街に行けばオレの目的の物が見つかる筈だ。
●真人が祝いの席から姿を消した。
真人もお祝いの主役の一人なのにしょうがないなぁ。
なにか思い詰めたような変な表情だったけど、大丈夫かな?
「真人、どしたの?」
近くに来たマスターに聞いてみる。
さっきまで真人はマスターやさとるさんたちとなにか話していたので、なにか知ってるかな?
「・・・あんたも香織ちゃんもほんといい男を見つけたわね!」
いきなりマスターが私のほっぺをひっぱる。
「いちゃい、いちゃい」
マスターの手をぺちぺち叩いて、離してもらう。
もう!ほっぺが広がっちゃうじゃない。
頬を押さえる私をマスターが笑って見ている。
「なに?」
そんなに面白い顔だった?
「ううん、いいのよ。あんたはそれで」
今度はマスターが私の頭を撫でてくれる。
「あっ!あんたも香織ちゃんもあんまり食べ過ぎると後悔するわよ」
マスターが料理を盛られたお皿を指差す。
どういう事?
訳が分からなくて香織と見つめ合う。
香織にも分からないみたいで首をかしげている。
「お姉さんからの大事な忠告よ!」
手をひらひら振りながらマスターが去っていく。
「どういう事かなぁ?」
「なにか、真人さんから聞いたんですかね?」
香織にも分からないみたいだ。
「う~ん」
少し悩んで料理を食べるのを諦める。
「食べないんですか?」
「わざわざ、マスターがああして忠告したって事はなにかあるんだと思うの」
「・・・そうですね」
香織も食べるのを止める。
「香織、今までご苦労様でした」
香織の手をぎゅっと握る。
香織は私が島に行ってる間、ずっと真人の相手をしてくれていた。
あの真人の相手は、かなり大変だったはず。
「いえ、なんだかわたしばかりが相手をして、なんだか申し訳ありません」
「ううん、そんな事ないよ」
偶然だったが妊娠初期のこの時期に真人と離れたのは結果的に良かったと思う。
・・・真人、激しいから
「今度は香織の番だからね」
私が妊娠出来たってことは香織も妊娠出来るはずだ。
「はい。・・・でも、わたしはやっぱりお口で味わうのが~」
顔を赤くした香織が身をよじる。
・・・香織、好きだもんね。あれ
「は、初めましてでございます!」
ちょっと大柄で髪の短い女の子が緊張した面持ちで私に少し変わったあいさつをしてきた。
・・・さっきのお話、聞かれたかな?
「はい、初めましてです」
新しいギルドのメンバーさん?
「こちらは玲子さんです。真人さんの部下というか弟子というか、そんな感じの子です」
香織が悩みながら紹介してくれる。
部下?弟子?
「そんな!わたしなんて真人のアニキにはまだ全然!」
アニキ?
玲子ちゃんが顔を真っ赤にして首をぶんぶん振る。
あ~、なんだろう。この感じ。
玲子ちゃん、真人が面白がる反応をしているなぁ。
「真人がいつもご迷惑をおかけしてます」
真人が玲子ちゃんをからかっている光景が脳裏に浮かんでしまう。
私は玲子ちゃんに頭を下げる。
「いえ、とんでもありません」
玲子ちゃんが私より大きく頭を下げる。
このリアクション。
うん、真人がおもちゃにするタイプだ。
「姐さんの事はアニキや香織の姉御から聞いてます。尊敬します!」
姐さん?姉御?
「まぁ、こんな感じの子です」
香織が苦笑する。
「でも、いい子みたいだね」
なんだかかわいいので玲子ちゃんの頭をなでなでする。
香織が玲子ちゃんの事を教えてくれる。
獅子のライカンスロープであの獅子男の妹さんだそうだ。
そうなると私や真人は仇になるんだけど、玲子ちゃんは気にしていないそうだ。
「アニキが兄貴を止めてくれて感謝しています」
やっぱり、玲子ちゃんはいい子だ。
結局、真人が基地に帰ってきたのは夜になってからだった。
迷子になってなくて良かった。
戻ってきた真人はなにか大きな袋を担いでいた。
なんだかサンタさんみたい。
「これ、どうしたの?」
白いおひげの無いマッチョなサンタさんに聞いてみる。
「街で探してきた」
ごそごそ袋をあさって真人が2枚の白い布を取り出す。
いや、布じゃない。
これは・・・
ウエディングドレス!
少し汚れていたけど間違いなくウエディングドレスだ。
「真人さん、これ?」
香織がドレスをそっとさわる。
すると真人がばりばり頭をかく。
照れた時に真人がよくやるしぐさだ。
「あ~、うん。プレゼント」
よほど、照れ臭いのだろう。
真人は私たちを見ないようにしてつぶやく。
私もそっとドレスにふれてみる。
間違いなくウエディングドレスだ。
夢でも幻でもない。
「真人、ありがとう」
○ちょっと涙をにじませながら優子さんがお礼を言う。
遅くなってごめんね。
しかし、本番はここからだ。
気合いを入れて二人を見る。
すらりとした優子さん。
肉感的グラマラスな香織さん。
二人ともオレの大事な人だ。
この二人の為なら、オレはなんでも出来るだろう。
この二人の笑顔を守る為ならオレは何度、傷ついても、この手を血に汚しても後悔しない。
ひざまずいて、そっと二人に手を差しのべる。
「優子さん、香織さん、オレと結婚して下さい!」
緊張で喉がからからに渇く。
「・・・」
「・・・」
二人とも黙ったまま、静かに立っている。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
オレも言葉が出ない。
もしかして、ダメなのか?
今までいろんな事で迷惑をかけてるし、それに二人同時にプロポーズってのも問題かもしれない。
でも、オレは二人とも愛してるし、二人と幸せになりたい。
あぁ、でも、これってオレのわがままだよな。
そんな事が頭の中を駆け巡る。
不安で震えそうになった頃、ようやく二人の口が開いた。
「はい!」
「喜んで!」
二人が顔をくしゃくしゃにしながら、オレに飛び付いてきた。
・・・良かった~。
涙と笑顔でくしゃくしゃになった二人の顔はそれでも美しかった。
★ウエディングドレスをプレゼントされ、真人さんからプロポーズされた。
夢じゃないかと何度もさっきの言葉を反芻する。
思わず真人さんに抱きついた身体が幸せで震えてくる。
わたしなんかがこんなに幸せになっていいんだろうか?
そっと優子さんを見ると優子さんもこちらを見ていた。
優子さんの顔は嬉涙と微笑みでくしゃくしゃになっている。
わたしもそうだろう。
わたしたちはほんとうに幸せだ。
真人さんを強く、強く、抱き締める。




