対決編3
○「ご苦労様でした」
青年を貫いたオレの背後からさとるさんが声をかける。
振り向くとさとるさんの身体にもボウガンの矢が数本突き刺さっている。
「さとるさんこそ、大丈夫ですか?」
さとるさんの天然装甲が破られるのは初めてだ。
「至近距離で撃たれると僕の鱗でも止まりませんでした」
ボウガンはやはり凶悪だな。
「終わりましたね」
戦線が崩壊し、指揮官を倒された敵が逃げていく。
「敵の残党はどうします?」
あのまま山賊などになると困る。
皆殺しにした方がいいのだろうか?
「大丈夫です」
さとるさんが指差す方を見ると背後に回り込んだマスターたちが残党に投降を呼び掛けている。
戦う気力を無くし怯えた残党は大人しく武装解除して次々と投降していく。
「生き残りは半数ぐらいですね」
150人程がこの数時間で命を失った計算になる。
その半分ぐらいはオレが殺した。
槍を見てみると穂先が欠け、少し歪んでいる。
オレの全身も返り血で赤黒く染まっている。
「こちらの被害は?」
「戦車の銃眼から矢が数本飛び込んでしまったので少し怪我人が出ましたが死者はいません」
やや離れたところに鎮座する巨大な鉄塊は針ネズミのようになっている。
「誰も死ななかったなら戦車は成功ですね」
味方に死者が出なかったのは喜ばしい事だろう。
もっとも、この血生臭い場所で喜ぶ気にはとてもなれないが・・・
「僕を恨みますか?」
「どうしてです?」
さとるさんは勝つ為に最善を尽くした。
それは当たり前の事だ。
「この結果は予想していました」
さとるさんならそれは不思議ではないな。
この人の考えはオレには予測不可能だ。
「・・・これからも争いは続きます」
血に汚れた顔でさとるさんがつぶやく。
他にも変異した者を化け物扱いする人間はいるだろう。
今回、敵はオレたちを殺す為にやって来た。
略奪をするでも無く、支配するでも無く、ただ単に殺す為だけにやって来たのだ。
化け物退治をする正義の集団として・・・
オレを化け物扱いするのは彼らの自由だ。
だが、変異したからといって、それは殺される理由にはならない。
殺意を持ってこちらを襲うなら、こちらは殺意で応じるだけだ。
今後もオレを退治しようとするならオレは全力で抵抗するだけだ。
「争いが続くなら勝ち続けましょう」
争いの無い世界なんてこれまでも無かった。
「最後に立っているのはオレたちですよ」
オレの言葉にさとるさんがうなずく。
「そうですね。勝ち続けましょう」
「アニキ~、大丈夫だった?」
玲子がこちらに駆け寄って来る。
「おまえこそ大丈夫だったか?」
見たところ怪我はしていないようだが、戦いの興奮で気付いてない可能性もある。
「うわっ!アニキ、矢が刺さってるよ!」
言わなくても分かってるぞ。
「あ~あ、こんなとこにも刺さってる。あっ!こっちにも刺さってる!」
玲子がオレに刺さった矢を数えはじめた。
玲子によると21本の矢がオレに刺さっていた。
改めて言われるとなんか痛くなってきたな。
鎧のおかげで内臓まで達した矢は無いようだが、筋肉にはしっかり刺さってるからなぁ。
「それでは治療に戻りましょうか?」
さとるさんに言われ、基地に戻る事にする。
この場はかすり傷一つ負わなかった玲子に任せよう。
いくら後方支援だったとはいえ、かすり傷一つ無しとは強運だな、こいつ。
「これ、引っこ抜いていいんですかね?」
「抜かなきゃどうにもならんな」
矢を抜かないと鎧も脱げないから、とりあえず矢を引き抜く事になった。
おっさんとアキラがオレの肉体から矢を引き抜いていく。
ペンチを握ったアキラがオレから矢を引き抜き、おっさんがオレの肉体を押さえる。
二人の手前、我慢しているが本当は泣きそうな程痛い!
「大丈夫ですか?」
隣では香織さんが青い顔でハラハラしながらオレの治療(?)を見ている。
「だ、大丈夫」
脂汗をにじませながら、香織さんに笑いかける。
「うっ!」
オレの笑顔を見た香織さんが軽く引く。
ん?どしたの?
「おめぇの笑顔は怖いんだよ」
「なんか怒ってるように見えるよな」
・・・ほっといてくれ!
「おや?ここに居たんですか?」
オレから全ての矢が引き抜かれた頃、さとるさんが工房に現れた。
さとるさんにも矢が刺さっていたのに、その矢は全て抜かれ包帯が巻かれている。
「・・・さとるさん、それ自分でしたの?」
「いえ、祖父にお願いしました」
・・・そういえば大先生が居たな。
「あ~、強引に抜くから傷口が広がってますよ」
さとるさんがオレの傷を見て顔をしかめる。
「鎧は成功ですかね?」
「う~ん、あれだけの矢を食い止めたんだ。一応、成功じゃねぇか?」
「でも、これは特別製ですからね」
「そうだな。これからはもっと薄くて頑丈な鎧を作らねぇとな」
「薄くて軽くて動きやすくて、防御力の高い鎧ですね」
「あぁ、腕が鳴るぜ」
おっさんたちは脱がせたオレの鎧を夢中で調べている。
「・・・おまえら、鎧を調べたくて矢を引っこ抜いたな」
オレは涙のにじんだ瞳で二人をにらむ。
「ん?ワシに治療なんて出来る訳ねぇだろ」
「工房に来るから鎧を見せに来たのかと思った」
二人はこちらをちらりと見て、また鎧を調べ始める。
・・・これ、殴ってもいいよね。
「まぁ、まぁ、ちゃんと治療しますから」
さとるさんが笑いながらオレを止める。
・・・さとるさん、面白がってないよね?
「本当に大丈夫ですか?」
さとるさんに治療してもらったオレを香織さんが気遣う。
オレの味方は香織さんだけだよ。
さとるさんはさとるさんで、
「傷の回復スピードを知りたいので毎日調べさせてくださいね」
とか、マッドに瞳を輝かせて言うし。
武装解除した投降者は翌日、解放して町に帰らせた。
「大丈夫かな?」
復讐に燃えて、また戦いになったりするんじゃ?
「まっ、大丈夫でしょ」
「すっごく怖がってたから、もう来ないと思うよ」
昨日から武装解除を進めていたマスターと玲子がそう言うんなら、ひとまず大丈夫か。
「これでしばらく、ボウガンの部品集めはしなくていいな」
「あっ!これ新型ですよ」
「おっ、見せろ見せろ」
おっさんとアキラが武装解除で手にしたボウガンなどを荷車に次々放り込む。
武器を放置する訳にもいかないから、工房に渡すのが一番だろうな。
戦場に転がっていた死体はすべて大きな穴に埋葬されている。
埋葬用の穴は投降者に昨夜のうちに掘らしたそうだ。
「一応、お別れはさせといたわ」
「うん、武器以外の形見とかは持ち帰ってもらったよ」
オレは傷の治療の為、昨夜は基地で休ませてもらったが、マスターたちは徹夜で働いてくれていた。
「ご苦労さん。ありがとな」
玲子の頭をくしゃくしゃに撫でる。
オレたちに死体を見せないようにがんばってくれたのだろう。
それからは徐々に日常が戻っていった。
現在、工房のおっさんは大きな炉を庭に制作中だ。
なんでも狩人から憧れの刀鍛冶にジョブチェンジするらしい。
うん、刀は漢の浪漫武器だから気持ちは分かる。
ちょっと、楽しみだな。
「しかし、優子さん、遅いなぁ」
すでに帰還予定から1週間は遅れている。
迎えに行きたいのだが、帰りは船で帰る可能性が高いので行き違いになりそうでそれも難しい。
「たぶん、波と風を待っとるんだろうな」
田中さんによるとこの時期は海が少し荒れるので海が落ち着くのを待っている可能性が高いそうだ。
まぁ、農業や船の扱い方を学ぶ為、ニュータイプ部隊やその他のギルドメンバーなど10人以上で行っているので危険はないと思うが、さびしいぞ。
「まぁ、2、3日待って戻らなければ迎えを出しましょう」
さとるさんの言葉でもうしばらく待つ事にする。
「優子さん、早く戻って来てください。わたし、そろそろ限界です」
そっと、香織さんが祈りを捧げる。
翌日、オレは早朝からおっさんに呼ばれ、炉の製作を手伝わされる。
「ちゃんと空気を抜かねぇと爆発するぞ」
おっさんに言われ粘土をこねる。
傷だらけで土いじりなんかして、いいのかなぁ?
「おめえなら大丈夫だ」
まったく根拠の無いおっさんの言葉に保証される。
「想像するんだ。自分がでかい日本刀を構える姿を」
おっさんがオレの肩に手を置いてささやく。
「でかい日本刀?」
「そうだ、でかくて長い日本刀を自分が構えてる姿を想像するんだ」
頭の中で身の丈を越す長大な刀を持つ自分を想像する。
・・・かっこいいじゃないか。
「炉が完成したら鍛えてやってもいいんだぜ」
おっさんの笑顔がまぶしく感じる。
「がんばります!」
オレは気合を込めて粘土をこねる。
「そんなのほんとに出来るんですか?」
「出来る訳ねぇだろ。こっちは修行中の身だぞ」
「本気にしてますよ」
「まぁ、現在鋭意製作中とか言ってごまかすさ」
「なるほど。炉さえ出来てしまえばこっちのもんですからね」
「おいおい、人聞きの悪い事言うなよ」
「じゃあ、作るんですか?」
「気持ちはあるぜ、気持ちはな」
後ろで交わされる小声での会話はオレの耳には入らなかった。
「ん?」
なにかを感じて粘土をこねるのを中断する。
「どうした?」
「いや、なんか感じる」
「なにをだよ?」
なんだろう?
鼻を鳴らして空気中の匂いを確かめる。
ん~?なんだろう?
意識を集中させる。
・・・この匂いは!
「ただいま~!」
オレの耳に美しい調べが飛び込んできた!
オレは粘土を投げ捨て走り出す。
「こら!投げんな!」
おっさんの怒声がするが無視!
たどり着いた基地の入り口に女神が立っていた。
「優子さん!」
久しぶりに見る優子さんは目が眩む程、美しかった。
永く島に居たはずなのにその肌は白く輝いている。
少し髪が伸びただろうか?
「真人、ただいま」
オレは優子さんに突進する。
途中なにかをはじき飛ばしたが無視する。
「真人ちゃん、なにすんのよ!」
「優子さん」
「うん、ただいま」
優子さんがオレに微笑みかける。
それだけでオレは昇天しそうな気持ちになる。
「優子さん」
オレは優子さんを抱き締める為に腕を伸ばす。
しかし、優子さんはその腕をするりとかわす。
「優子さん?」
なんで?
「え~っとね」
優子さんはもじもじ指を合わせている。
「優子さん?」
優子さんがそっとオレに近づく。
「わたし、妊娠してるの」
顔を赤らめて優子さんがオレにささやく。
「・・・妊娠?」
妊娠ってなんだっけ?
「そう、真人、パパになるんだよ」
優子さんの柔らかい手がオレの手を握る。
「パパ?つまり、優子さんが妊娠してるの?」
「そうだって」
優子さんが苦笑している。
・・・パパ
・・・妊娠
・・・子供
そんな言葉がオレの中を駆け巡る。
「うおぉぉぉぉぉ!」
オレは空に向かって大声で吼えた!




