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崩壊した世界でみんなで楽しく生きていく〜サバイバル〜  作者: 伊右衛門


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対決編1

○さとるさんや大先生に手当てされるおっさんは意識を失いぐったりしている。

長時間、水に浸かってした為、おっさんのスキンヘッドまで紫色だ。


あの集落で見た時はかなり大きな男に見えたけど、今のおっさんは力を失い小さく感じる。

全身が傷付き、特に左手の怪我がひどい。

なにか刃物、斧や刀のような物で襲われとっさに防御したのだろう。

左手は薬指と小指が完全に失われている。

それだけでは守りきれなかったのか、別に襲われたのか、おっさんのスキンヘッドにも傷がある。

おっさんは手当てを受けながら、時おり、あいつとかあの野郎とか呻いている。


「さとるさん、おっさんは?」

おおよその手当てが終わったようなので聞いてみる。

「自分でも止血していたようですし、なんとか助かるでしょう」

頑丈なおっさんだな。

「玲子くんたちがすぐに川から引き上げてくれて幸いでした。あのままでは低体温症になっていたでしょう」

冷たい川に飛び込んでくれた藤井くんに感謝だな。

あと発見した玲子にも一応感謝しておこう。

川でさぼってた事は不問でいいかな。

おっさんの意識が戻るまでそっとしておく。


「なにかあればすぐに呼んでください」

「はいっ!」

とりあえず佐藤くんにおっさんの様子を見てもらう事にして、オレたちは部屋を出る。

佐藤くんなら一応顔馴染みだし、目覚めた時におっさんも安心だろう。


「さて、なにがあったんでしょうか?」

会議室でさとるさんが考え込む。

「単純に考えれば知り合い、あの野郎とかに襲われたんでしょうけど」

問題はなぜおっさんが襲われたのかだ。


「あのおっさんは町を仕切ってたボスの一人なんだよな?」

「うん、一番大きい狩人のグループを率いてたから一番偉そうだったよ」

玲子の説明によるとあのおっさんは町で最大の権力者って事になる。

それが襲われたのか。

う~ん、なにかあったのは確実だな。


「あの方に明確な敵対者や反抗者はいましたか?」

「・・・敵対者?反抗者?」

さとるさんの質問に玲子が首を傾げる。

「あのおっさんを嫌ってるやつはいたのかって事だ」

さとるさんの質問を玲子に分かるように翻訳して伝える。

さとるさん、あんまり難しい言葉を使うとこいつイメージ出来ないんだよ。別に頭が悪いんじゃないだけど、考えるのがめんどくさいだろうな、こいつは。


「すぐ怒鳴るおっさんだからわたしは嫌いだよ」

いや、おまえはいいんだ。

「他に嫌ってる人はいたか?」

「う~ん。どうかな?獲物はみんなに気前良く分けてたし、そんなに嫌われてないと思うよ」

「他の狩猟してるグループからは嫌われてなかったのか?」

玲子は首を振る。

あのおっさんは狩猟グループの大元締めみたいな立場だったので、他のグループにも頼られていたようだ。


「じゃあ、なんでおっさんが襲われるんだ?」

やっぱり、人喰いに反撃されたのか?

でも、そうすると川に流されていたのが分からない。

誤って川に落ちたにしても町に戻るだろう。

襲ったのはあの野郎なんだろうけど、玲子はその人物に心当たりはないみたいだ。


「農作業をしているグループなどから嫌われていませんでしたか?」

さとるさんの質問にも玲子はきっぱりと首を振る。

畑を荒らす猪や鹿、農作業をする人を襲うゴブリンを退治していたおっさんは感謝されこそすれ嫌われてはいなかったそうだ。


「意識が戻るのを待つしかないようですね」

さとるさんの言葉でオレたちは解散する。

オレは一応アキラにあいさつして今日は自分の部屋で休む事にした。

深夜でもおっさんの意識が回復したら事情を知りたい。


「大変でしたね」

部屋では香織さんが起きて待っていてくれた。

「・・・オレが原因を作ったんだろうな」

あの集落で最近起きた変化といえば人喰いの事だ。

おっさんが人喰いに負けるとは思わないので、なにか起きたのだろう。


「真人さんが悪い訳じゃありません」

香織さんがぎゅっとオレに抱きつく。

「もし、真人さんが悪くてもわたしは許しますし優子さんも許してくれます」

う~ん、甘やかされてるなぁ。


オレに抱きつく香織さんからはいい匂いがしている。




○翌朝、おっさんの意識が回復した。

頑丈なおっさんだなぁ。


「しばらく、意識は回復しないと思ったんですけどね」

さとるさんも驚いている。


「おっさん、なにがあったんだよ?」

ベッドで食事しているおっさんに聞いてみる。

「うめぇな、これ」

おっさんは届けられたスープに夢中だ。

身体の弱っているおっさんの為に友美さんが特別に作ってくれたからね。

「おっさん!」

喜んでくれてうれしいけど、今は事情が知りたい。

オレの大きな声におっさんは顔をしかめる。

「うるせぇクソガキだな、今、食ってんだ。後にしろよ」

その言葉に思わず拳を握りしめる。

ぶん殴ってやろうかな。


「真人先輩、落ち着いてください。この人はだれにでもこうなんです」

看病している佐藤くんがオレにしがみつく。

「今は身体を回復させるのが先決です。食事が終わるのを待ちましょう」

さとるさんがそっとオレを押し止める。

「そっちの竜みたいなあんちゃんはなかなか話が分かるな。見習えよ、クソガキ」

なるほど、意識が回復したのに玲子が見舞いに来たがらない筈だな。

温厚なオレでもムカつく。


おっさんの食事が終わるのをじりじりとしながら待つ。

おっさんはそれが分かってるだろうに、ゆっくりと食事を堪能する。

「おまえら、いい物食ってるじゃねぇか」

材料というより友美さんの腕だろう。

パティシエだった友美さんは料理も上手い。

今ではギルドの食堂で調理主任として腕を振るっている。


「おい、おかわり持ってこい」

おっさんが佐藤くんをあごで使い、おかわりも持ってくるように命じる。

「あまり食べ過ぎると消化しきれず、逆効果ですよ」

さとるさんがおっさんをやんわりと嗜める。

「ふん、そうか。なら、これでがまんしてやるか」

おっさんは口を乱暴に拭う。


「それじゃ、お皿を返してきます」

佐藤くんが食堂に皿を持っていく。


これで部屋にはおっさんとさとるさん、オレだけになった。

「佐藤くんには聞かせにくいお話ですか?」

さとるさんの言葉におっさんがちょっと驚く。

「・・・分かってたのか?」

「いくらなんでも大ケガして起きたばかりでおかわりまでするかよ」

オレの言葉におっさんがかなり驚いている。

「ほう、クソガキはクソガキなりに頭を使ってるんだな」

「どういう意味だよ」

「見た目通り、オツム空っぽのうどの大木だと思ってな」

おっさんはオレを見上げてにやにや笑っている。

やっぱり、ぶん殴っていいかな?

「まぁ、まぁ」

さとるさんが苦笑しながらオレの腕を押さえる。

このおっさんなら、一回ぐらい殴っても大丈夫だと思うなぁ。

おっさんはオレを面白そうに見ている。


「なにがありましたか?」

さとるさんの問いかけにおっさんも表情を改める。

「まずは助けてもらいありがとう」

おっさんは真剣な顔できっちりと禿頭を下げる。

「いえ、こちらの余計なお世話が原因でしょう。ご迷惑をお掛けしました」

さとるさんの言葉におっさんは大きく首を振る。

「いや、そちらの青年が教えてくれなければ被害は拡大していた。感謝します」

せ、青年ってオレの事だよな?


「おっさん、なんか悪いもんでも食ったのか?」

オレの言葉におっさんがしぶく笑う。

「さっきの旨い食事しかしてないな」

二重人格みたいで気持ち悪いぞ。


「あの態度はポーズですか?」

「これでも以前はとある工場を切り盛りしておりました。まぁ、あちらが素なんですがね」

おっさんが元社長か。

工場はともかく、おっさんが社長ってなんかすごい違和感あるな。


オレたちが去ってからおっさんたちは人喰いたちを退治したそうだ。

「おまえさんたちが教えてくれたからだ。ありがとうよ」

「なんか気持ち悪いな」

オレの言葉におっさんが苦笑する。

「この年なら恩人に礼ぐらいは言えるもんだ」

それはそうなんだろうけど、おっさんのお礼は不気味だなぁ。


人喰いたちを退治したまでは良かったが、その後が問題になった。

「町の住人の中に変異した者を殺害していた者がかなりおったのです」

おっさんは顔を歪める。

「でも、それは分かってた事だろ?」

おっさんはその事を知っていた筈だ。

「あぁ、おそらくとは思っていた」

おっさんが暗い顔でうなずく。


あの集落では誤解だったが獣人による人喰い事件以降、変異者への暗殺が横行した。

おっさんはそれには反対の立場だったので、変異者をこっそり逃がしたりしていたそうだ。

「なにも言わなかったが玲子たちもそうなんだろう?」

「あぁ、ライカンスロープ。自分の意思で変異する獣人だ」

「玲子以外、ろくに動けないのにやけに獲物が多いと思ったよ」

おっさんはオレの言葉に納得したようにうなずく。

「わし以外の町を取り仕切っている者たち全員が化け物を殺しとるとは思わなかった」

そこまで暗殺が蔓延しているとはおっさんも考えていなかったそうだ。


おっさんたちが本当の人喰いたちを退治した後、今後の町の方針を巡り対立が起きた。

おっさんはこれからは変異した者も受け入れていこうと主張した。

しかし、他の代表者たちは変異者を殺している事もあってそれに強硬に反対したそうだ。

「この町は純粋な人間だけでやっていくべきだってな」

おっさんは吐き捨てるように言い放つ。

()()な人間ねぇ。

今も生きてる段階で少しぐらいは変異してる筈だから本末転倒な意見だ。

その後も何度か話し合ったそうだが話は平行線だった。

そして、何度目かの話し合いの席でおっさんは襲われたのだ。

「まさか、自分のとこの若いのに襲われるとは思ってなくてな」

おっさんは苦い顔で大きく首を振る。


「オレの知ってるやつか?」

「ほれ、あの化け物嫌いの若いのだ」

ボウガンをオレに向けたあの二人のどちらかだろう。

「わしはなんとか町から逃れる事が出来たが、他のやつらは・・・」

おっさんの護衛として一緒に話し合いに参加していた者やおっさんに従っていた者も襲われた。

おそらく、生きていないだろう。


その後、追われたおっさんは川に飛び込み流されてきたのだ。

「おっさん、よく生きてたな」

あの怪我で川に飛び込むなど自殺行為だと思うが。

「半ばヤケクソだ。あそこでやつらに殺されるより川で溺れ死んだ方がマシだからな」

しかし、本人が思う以上に頑丈だったおっさんはなんとかここまで流れ着いた。

「話し合いの様子はどうでしたか?」

さとるさんの質問におっさんが答えにくそうだったが、

「・・・最後の方は化け物を駆逐して人間の国を取り戻そうとか言って盛り上がっとったよ」

それでも答えてくれた。


あまり話し込むとおっさんの体調に悪い。

まぁ、おっさんなら大丈夫そうだけどね。

オレたちはおっさんに礼を言って部屋を出た。


「考えられる中で最悪のシナリオを選んでしまいましたね」

会議室に戻ったさとるさんが沈痛な顔でつぶやく。

「なぜ、そんな馬鹿馬鹿しい事を考えるのでしょうな」

田中さんが首を傾げる。

「おそらく罪悪感や自己正当化が暴走しているのでしょう」

「つまり、自分たちが殺したのは人間では無い。だから、自分たちは人殺しではない。ゆえに自分たちは正しいのだ。そういう事ですかな?」

「おそらくは・・・」

う~ん、これってオレの責任だよなぁ。

「真人くんの責任ではありませんよ。これは彼ら自身の選択の結果です」

さとるさんが優しくオレに語りかける。

「でも、オレがきっかけです」

「そうじゃないな。彼らはこれまで何度も間違い、何度もやり直す機会があった。それを無駄にしたのは彼らだ」

田中さんの言う通り彼らには方向転換する機会があっただろう。

獣人事件の時、今回の人喰い事件の時。

玲子たちが町を出ると決めた時も機会だったのかも知れない。


それまで黙って話を聞いていた大先生が立ち上がった。

「真人くんは確かにきっかけじゃった。しかし、それは彼らが正道に戻る機会じゃった。それを彼らは無にしたのじゃ」

大先生は会議室に集まっているギルドのメンバーを見渡す。

ギルドでは会議の時、会議室の扉は開け放たれている。

メンバーが誰でも発言できるようにしているのだ。

メンバーに秘密にするような事も無いしね。

「儂らは変異した者も変異しておらん者も等しく扱う。変異は関係ないのじゃ。それはその者の言動や心の有り様こそが大事じゃからじゃ」

大先生の言葉にみんながうなずく。

「しかし、彼らは心が変異したのじゃ。姿形では無く心が化け物になったのじゃ」

変異しただけでその人を化け物と扱う彼らの心は酷く歪んでいるだろう。


「ギルドはそのような真の化け物と戦う」

大先生は厳しい声ではっきりと宣言した。

「それは彼らが攻めて来てもですか?」

「そうじゃ。それが出来ねばギルドは存在の意味が無い」

さとるさんの質問に大先生はきっぱりと言い放つ。

「賛成です」

「そうですな」

香織さんや田中さんが大先生の言葉にうなずく。

他のメンバーも大きくうなずいている。


「真の化け物は彼らだけではありませんよ。それでもですか?」

「くどい!それでもじゃ!」

さとるさんの質問に大先生は少しご機嫌斜めになったようだ。

しかし、大先生の言質を取ったさとるさんは微笑んでいる。

・・・あれは、なんか企んでるぞ。


「それではギルドは変異者を差別する事を禁じるルール、ギルド法を制定します。また、それらギルド法に同意し、順守する集落しかギルドでは援助しない事にしましょう」

ギルド法?

「なんじゃい、それは?」

大先生も知らなかったみたいだ。

「まぁ、ギルドの基本理念を纏めた物ですね」

ギルドの基本理念?

「変異者を差別しない。変異した者としていない者を同等に扱うなど、まぁ、極々基本的なルールですよ」

さとるさんは大先生だけではなくオレたちにも説明してくれる。

ギルドに協力してくれる人たちをギルドが守る。

今までとそんなに変わらないし、それならいいかな?


オレはそう思ったし、みんなもそう思ったみたいだが、隣でマスターだけが頭を抱えている。

どしたの?

「さとるちゃん、悪どいわぁ」

マスターが小さくつぶやく。

どういう事なんだろう?

「いい。さとるちゃんはあれでギルドに協力的な集落とそうじゃない集落をはっきりと分けるつもりなのよ」

ん?それがなにか問題なの?

「今は問題無いけど、いずれ大きな問題になるわよ~」

マスターが小声でオレに説明してくれる。

法を作りそれを守らせるのは国家の始まりになる。

つまり、さとるさんはギルドを一種の国として認めさせようとしている。

「ようするに親ギルド国と非ギルド国を作っちゃうのよ」

それがなんの問題になるんだろう?

これまでとあんまり変わらないような?

「いい。これまで曖昧だったのをはっきりさせると争いが起きるの」

親ギルド国と非ギルド国で?


少し想像してみる。

集落が大きくなって都市国家に成長する。

でも、その都市国家は親ギルド派と非ギルド派に別れている。

そうすると親ギルド派の都市と非ギルド派の都市では対立が生まれるだろう。

変異者を認める認めないで差異があるからね。

変異者が代表になってる都市と変異者を認めない都市では交渉するもの難しい。

そうなればいずれ都市間で戦争なんて事も起きるだろうな。

いうならば、おっさんの件はその縮小版か。


「・・・ヤバいじゃん」

「でしょ。まぁ、そうならないように努力はするんでしょうけど」

でも、それで回避できるんなら戦争なんて起きないんじゃない?

「おそらく、ギルドを拡大強化するんだろうな」

そばで聞いていた田中さんが小声で参加する。

「田中さんはいいんですか?」

田中さんはしばらく考えていたが大きくうなずく。

「いずれ変異絡みで問題は起きる。それなら早く態度を明らかにして勢力を拡大するのは悪くない考えだな」

「まぁ、圧倒的に勢力に差があれば争いにならないわね」

なるほど。それもそうだな。


大先生もオレたちと同じような事を考えていたのだろう。

さとるさんをじっと見ている。

「・・・やりすぎてはいかんぞ」

「はい。大丈夫です」

大先生の言葉にさとるさんがうなずく。

ほんとに大丈夫かな?

大先生も同じ気持ちだったのか、

「美咲ちゃんや、しばらく、さとる専属の秘書をしてくれるかな?」

お目付け役をつける事にしたようだ。

「・・・はい。監視しておきます」

厳しい監視を付けられたさとるさんは苦笑している。

「美咲ちゃんが見ていてくれれば僕もやりすぎたり出来ませんね」


今後の具体的な計画、とりあえず、おっさんの町の住人が攻めてきた時の事を話し合うのに会議室では少し手狭なので大広間に移動する事にした。


「美咲ちゃん、さとるさんの計画知ってたの?」

オレなんか説明されてやっと分かったのに。

「いえ、具体的には分かりません」

「でも、監視って言ってたよね?」

美咲ちゃんがこっそり教えてくれる。

「さとるさん、変な事を考えてる時は尻尾の先がくるくる回るんです」

美咲ちゃんの指先がくるくる宙に円を描く。


「へぇ~」

「ほう、良いことを聞いたな」

その言葉を聞いてマスターと田中さんがさとるさんの尻尾の先に注目する。

「あっ、くるくるしてるわ」

「そうか?あれはくねくねって感じじゃないかな?」

なかなか判定が難しいようだ。


「なんです?」

自分が注目されているのに気付いたさとるさんが振り替える。

「「「いえ、なんでもありません」」」


大広間で彼らが攻めて来た場合の対策を話し合う。

「ボウガンの量産は可能ですか?」

「部品をある程度揃えて集めれば可能だと思います」

「では、そちらを最優先にお願いします」

さとるさんの言葉にアキラがうなずく。

「訓練も必要ですな」

「個々のボウガンには使った部品によって、クセがでると思います」

「組上がったボウガンから順次、訓練に回しましょう」

「じゃあ、ボウガンは個人専用にした方がいいわね。その方が早く慣れるから」

マスターの言葉にさとるさんや田中さんがうなずく。


「食事はどうしましょう?」

調理主任の友美さんも発言する。

「そうですね。普通の食事だけでは無く、保存食も必要になるでしょう。出来ますか?」

「何人か助手を増やしていただければ可能です」

「どうですか?」

さとるさんが傍らに控える美咲ちゃんに聞く。

「4人ぐらいなら回せると思います」

「充分です。ありがとうございます」

みんなで話し合って、それぞれの活動を決めていく。


つんつん

後ろで座っていた玲子がオレをつつく。

「ん?どうした?」

「どんどん、決まっていってスゴいね」

玲子はこういった話し合いに慣れていないようだ。

「そうか?いつもこんな感じだぞ」

ギルドでは幹部だろうと一般のメンバーでも自由に発言できる。

その方がてっとり早いからね。

「おまえもなにかやりたい事があれば言った方がいいぞ」

「えっ!わたしも?」

「あぁ、発言は自由だぞ」

あんまりおバカな発言は困るけどね。

オレの言葉に玲子はなにか考え始めた。

それをちょっと微笑ましい気持ちで見ながらオレも気になっていた事を発言する。


「さとるさん、基地周辺の防御はどうします?」

相手はボウガンで武装している可能性が高い。

今のままでは少し不安だ。

「基地周辺に塹壕を作りましょ」

「では、効率的な塹壕のポイントを教えて下さい」

「えぇ。でも、掘るのは力仕事だから大変よ」

「真人くん、お願いできますか?」

さとるさんの言葉にうなずく。

力仕事はオレがやるべきだろう。


「はっ、はい!」

玲子が大きな声で手をあげる。

みんなの視線が玲子に集まる。

「どうしましたか?」

さとるさんが優しい声で玲子に語りかける。


「あの、偵察とかはしなくていいんですか?」

みんなの注目が集まったのが恥ずかしいのか、玲子はいつもよりかなり小さな声でそれでもがんばって発言する。

「ふむ、偵察ですか」

「いい考えだけど、ちょっと危ないわね」

「ですが必要ですな」

玲子の発言を真剣に検討する。

「玲子たちなら出来ますよ」

玲子たちはあの集落で暮らしていたので見ればあの集落の人間かどうか分かるだろう。

しかも、ライカンスロープな彼らは感覚が鋭い。

「そうですね。お願いできますか?」

「はいっ!ガンバります」

さとるさんの言葉に玲子は元気一杯に答える。

「具体的な方法は後で話し合いましょ」

「はい」

玲子は答えて座る。


つんつん

また、玲子がオレをつつく。

「どうした?」

「こんなの初めてだ」

「なにが?」

「手を挙げて会議みたいので発言したのも、それを考えてもらったのも」

玲子は感動しているようだ。

「それがギルドのやり方だ」

玲子は真剣な顔でうなずく。

「アニキ、わたしガンバるよ」

「あぁ、頼りにしてる」

玲子一人だとちょっと不安だけど、それは言わない方がいいな。

そうして、どんどん対策が決まっていく。

「それではみな頑張ろう。儂らの誇りと自由を守るんじゃ」

大先生の言葉で全員が立ち上がる。


それから、オレたちは精力的に動いた。

彼らが変異者を認めないのならギルドを攻撃してくる可能性は高い。

オレはせっせと塹壕を掘り、アキラはボウガンをどんどん組み上げる。


途中に嬉しい事に電気も一部復活した。

「どうですか~?」

基地内に久しぶりに電灯が灯る。

「やっぱり、明るいわね」

「うむ。これでやり易くなるな」

久しぶりの電気の灯りにみんな驚いた。

こんなに明るかったんだなぁ。

「さくやくん、よくやってくれた。ありがとう」

「いいえ~、京子さんやアキラさんが手伝ってくれたからですよ~」

大先生の感謝にさくやさんは大照れだ。

尻尾がうねうねしている。


女性陣にとっては部屋でお風呂に入れるのが大好評だった。

ガスは使えないがアキラが作った電熱棒とやらでお湯を沸かす事が出来るのだ。

なんでも海外で似たような物を見た事があるアキラが電気が復活した時の為に作っていたそうだ。

どうりで妙なパーツが部屋にあると思った。

「アキラくん、大発明だな」

京子さんがアキラの背中を思いっきり叩く。

「気を付けて作ったけど感電しないようにだけは注意してくれ」

「分かってる、分かってる」

何度も京子さんがアキラの背中を叩く。

あんまり叩くと壊れるぞ。


「定時報告です!」

偵察に出ている玲子たちから報告が入った。

偵察隊の一人が基地に報告に戻り、報告を終えると物資を持って偵察隊に戻る。

多少、偵察隊が移動していても鼻の利く彼らなら問題無く合流出来る。

しかも、獣化していればかなりのスピードで走る事が出来る。

「なにか変化はありましたか?」

今回、報告に戻ったのは猪男オークの安藤くんだ。

「町はやはり武装化しているようです。周辺から車などを運び入れています」

車はボウガンやそれ以外の武器の部品に使っているのだろう。

「どれぐらいの車が運びこまれたか分かりますか?」

さとるさんの質問に安藤くんがてきぱきと答える。

「日に1~2台ですが、トラックやバスばかりです」

「ちっ、ボウガンの作り方なんざ教えるんじゃなかったぜ」

回復したおっさんが悔しそうに舌打ちしながら唸る。

「車の部品全てが使える訳じゃねぇが、このままだとちとやべぇな」

「えぇ、おれたちの製作ペースを越えてますね」

回復したおっさんは現在、アキラと共にボウガン製作チームに加わってくれている。

「性能はこっちの方がいいんだがな」

おっさんは組上がったばかりのボウガンを撫でる。

さとるさんの設計図はボウガンを作った、言わば元祖であるおっさんを感嘆させる物だった。

「ご苦労様でした。食事をして休んでください」

「はい。ありがとうございます」

さとるさんの労いを受け安藤くんが食堂に向かう。

「ふん、玲子の後ろに隠れてるだけの小僧かと思ってたが、なかなか逞しくなったじゃねぇか」

おっさんが食堂に向かう安藤くんの背中を見て呟く。


「なんか考えねえとな」

相手が大量のボウガンで武装しているのはかなりの脅威だ。

「新型ボウガンでも作りますか?」

「いや、それはあんまり意味がねぇな」

今のボウガンでも強力なのでこれ以上強化してもあまり意味が無いそうだ。

「鎧を作るか・・・」

腕組みしたおっさんが呟く。

「鎧って鎧か?」

あの騎士とかが着てるやつだよな。

「おまえ、塹壕掘りはいいのか?」

「もう終わったよ」

オレの塹壕掘りはすでに完成している。

「そりゃ、ひっぺがしたガードレールで掘るんだもん。早い筈よ」

マスターがオレを見て呆れ返る。

いや、あれ丁度いいんだよね。

「さすが化け物だな」

「ほっといてくれ」

おっさんのこの化け物は誉め言葉なのだろう。

「それより、鎧ってどういう事だよ?」

なんで鎧なんだ?

「つまり、攻撃力を上げるんじゃなく防御力を上げるんですか?」

アキラの言葉におっさんがうなずく。

「別に鎧じゃなくてもいいんだ、要はむこうのボウガンを無力化出来ればいい」

「でも、ボウガンの矢を防ぐのは大変よ」

訓練ですでにボウガンを使ってるマスターはその威力をよく知ってる。

「むこうはあっちが言う人間ばかりだ。こっちには化け物がいる。それを利用するんだ」

ん?オレの事?

「おまえならかなり重い物でも大丈夫だろう」

「まぁね」

力には自信があるぞ。

「例えば、鎧を着たギルドの姉ちゃんたちをおまえがガードレールを何枚か重ねた楯で守ったらどうだ?」

ふむ、持ち手さえあれば持てるな。

「幸いこっちは電気が復活してるんだ。道具を揃えれば溶接ぐらいできるぞ」

それなら鎧も製作可能なのかな?

「やってみましょう」

アキラはおっさんの計画に乗り気なようだ。

「ボウガンも作りながらだからキツいぞ」

「覚悟してます」

おっさんとアキラが笑い合う。

なんか子弟関係になったみたいだな。

ギルド専属の武器工房か。

「よっしゃ。おまえも手伝え」

「オレ、溶接とか出来ないよ」

なにを手伝うんだ?

「道具探しだ。おまえならでかい機械でも持ってこれるだろ」

あぁ、なるほど。


「お願いできますか?」

「もとはわしらの不始末です。喜んで協力させてもらいます」

おっさん、さとるさんにはなんか敬語なんだよな。

それはともかくおっさん主導で武器工房が本格的に稼働しはじめた。


それから、10日ほどして、

「緊急報告です!」

ギルドに佐藤くんが飛び込んで来た。

「彼らが町を出ました。目的地はおそらくここです!」

ついに彼らが動き出したのだ。







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