交流編9
○かなり落ち込んでオレはギルドに向かう。
「落ち込んでても車は引くのね」
「なんか人力車が趣味になってません?」
肉体を動かしてる方が気が紛れるんだよね。
「・・・大丈夫ですか?」
ギルドに戻る道中、香織さんがずっとオレを気にかけてくれる。
「あまり気にするな。あそこがどうなるかはあそこの住人次第だ」
田中さんの言葉にうなずく。
確かにそうなんだけど、もうちょっとうまくやれなかったのか?
他の手段はなかったのか?
どうしても考えてしまう。
「人喰いが退治されたのは真人先輩のおかげです」
佐藤くんがオレに頭を下げる。
実際に退治したのは、あのおっさんだよ。
「はぁ、ギルドに戻るのが憂鬱になるとは思わなかったなぁ」
ただでさえオレは個人で勝手に行動している。
「美咲ちゃんにおみやげでも持っていった方がいいわね」
「我らが秘書さまはなにを喜ぶのかな?・・・うろこ?」
いや、京子さん、若い女の子へのプレゼントに鱗はどうだろう?
いや、一番喜びそうだけどね。
特にいい賄賂を見つける事も出来ずにギルドに戻る。
「だ、大丈夫だ。わしも賛成した事は証言するから安心しろ」
報告に向かう間、田中さんがオレの肩を叩く。
・・・田中さん、顔色悪いよ。
「それじゃ、田中さんにお任せしてあたしたちはおとなしくしてるわね」
「そうだね。そうしよう」
マスターと京子さんの発言に田中さんが唸る。
「・・・裏切り者め」
「ちゃんと説明して謝れば美咲ちゃんも許してくれますよ」
香織さんがオレを慰めてくれる。
いや、許してくれるまでが大変そうなんだよねぇ。
「そうですか。大変でしたね」
オレたちの報告を聞いたさとるさんが大きくうなずく。
「人喰いが出た時に獣人や変異者の仕業と思い込み、彼らを排斥した時からあの集落はボタンを掛け違ったような状態だったのだと思います」
その時にきちんと調べておけば、それ以降の悲劇は止められただろう。
「今回の事は起こるべくして起こった事態です。あまり、気にしなくていいと思いますよ」
さとるさんが優しい目でオレを見つめる。
「それでは今回の真人君の行動は不問ですかな?」
田中さんがさとるさんの様子をうかがう。
「いえ、それが秘書殿が大激怒してますので・・・」
さとるさんが長い首を伸ばして声をひそめる。
やっぱりなぁ。
ゴンでは美咲ちゃんを宥める事はまだ無理か。
唯一の慰めは優子さんがまだギルドに戻ってないって事だね。
「それではどんな処分を?まさか追放などでは無いでしょうな」
「いくらなんでもそこまではしないと思います」
「決めるのは秘書殿ですかな?」
「僕やギルド長もなんとかフォローしますから」
「秘書殿が納得する落とし所を見つけないといかんですな」
「ええ、一見重くて実は軽い処分がベストです」
田中さんとさとるさんが顔を近づけてこそこそ相談する。
ご迷惑をおかけします。
「失礼します」
その声で全員、さとるさんまでもがピンと背筋を伸ばした。
「そ、それでは真人くんはしばらく謹慎処分です」
やや裏返った声でさとるさんがわざとらしくオレに処分を告げる。
「そ、それは少々重すぎる処分ではないですかな」
田中さんが入ってきた美咲ちゃんをちらちら見ながら反応を確かめる。
「粗茶ですが」
美咲ちゃんはそんな二人を完全に無視してお茶を並べる。
・・・オレのは?
「あ、あ~、やっぱり美咲ちゃんが入れてくれたお茶はおいしいわねぇ」
「そ、そうだね。秘書殿が入れてくれたお茶は世界一だね」
マスターと京子さんが冷や汗を流しながらお茶を啜る。
ずずぅ~
お茶を啜りながら二人もちらちらと美咲ちゃんの様子を伺っている。
「謹慎ですか」
美咲ちゃんがぽつりと呟く。
その言葉に全員がびくりと反応する。
「ええ、今回の真人くんの行動はギルドの許可を得ていませんので謹慎処分、つまり一時的なギルドメンバーとしての資格剥奪です」
「さとる君、いや、副ギルド長、少々重すぎる処分ではありませんか?もちろん、副ギルド長に反対する訳ではありませんが処分が重すぎます。彼の行動はギルドを汚すものではありませんぞ」
「う~む。・・・美咲ちゃんはどう思います?」
さとるさんがそっと美咲ちゃんの様子を確認する。
「そうですね、永久資格停止」
美咲ちゃんの言葉に全員が息を飲む。
「ん?そうなるとオレって優子さんや香織さんのヒモになるの?」
「・・・それはそれで・・・」
オレが小さくつぶやいた言葉に香織さんが反応する。
「は、逆効果になりますので謹慎でいいと思います」
はぁ~、良かった。
「では、謹慎でいいですね」
「うむ。少々重すぎるように感じますが副ギルド長が言うのであれば仕方ありませんな」
さとるさんと田中さんが目を合わせてほくそ笑む。
しかし、そんな大人の思惑は秘書殿にはお見通しだった。
「それではお部屋を用意しますね」
美咲ちゃんがにっこり微笑む。
「部屋?」
自宅謹慎っていうか、自室謹慎じゃないの?
「部屋ってなんですか?」
さとるさんがおそるおそる美咲ちゃんに確認する。
「自室だと香織さんたちが甘やかすのは目に見えてますから、他の部屋で謹慎してもらいますね」
「ちっ」
甘やかす気満々だったのか、香織さんがそっと舌打ちをする。
それを横目にしながら、
「個室だと同じでしょうから、そうですねぇ」
美咲ちゃんが考える。
「アキラさんと同室でどうでしょう?」
美咲ちゃんは問いかけてるけど、これって決定事項だよねぇ
オレはそのままずるずると美咲ちゃんに手を引かれてアキラの部屋に連れていかれる。
「美咲ちゃん、部屋の用意はいいの?」
さっき、用意するって言ってたよね。
「大丈夫です。すでに用意済みです」
あぁ、そうなの。
「真人さんが謹慎になるって分かってたの?」
オレの隣に着いてくる香織さんが美咲ちゃんに質問する。
「はい」
「なんで?」
オレの処分は美咲ちゃんが来る前に相談して決まった事だ。
「それ以外なら反対しますから」
「そ、そうなんだ」
香織さんが冷や汗を垂らす。
「それ以上軽くても反対しますけど、これ以上重くても反対します」
美咲ちゃんの中ではすでにオレの処分が決まってたのね。
「あまり、心配させないでください」
美咲ちゃんがじっとオレを見る。
「・・・真人お兄ちゃん」
美咲ちゃんが掴んでいたオレの手をぎゅっと握る。
「ごめんなさい」
アキラは足の傷の治療の為、現在は個室で生活している。
「傷の具合はどうなの?」
オレも何度か見舞った事はあるんだけど、あいつ、オレと口利かないからなぁ。
「・・・歩く事は出来ますけど、走ったりするのは難しいみたいです」
「そっか」
今の時代でそれは生きるのがキツいだろう。
美咲ちゃんが部屋をノックする。
「失礼します」
美咲ちゃんが開けたドアから見える室内はこざっぱりして清潔だ。
妙な匂いがするのは治療の為の薬草の匂いだろう。
「しばらくの間、真人さんをよろしくお願いしますね」
「・・・あぁ」
美咲ちゃんの言葉には答えるんだな。
「失礼しま~す」
オレは部屋に入る。
アキラはオレを一瞥したがなにも言わない。
う~ん、暗いなぁ。
「あっ、香織さんは入室出来ませんよ」
「えっ?」
オレに続いて部屋に入ろうとした香織さんを美咲ちゃんが遮る。
「ちなみに不要不急の訪問も禁止です。なにか用がある際はわたしに言ってくださいね」
「えっ!そうなの!?」
「もちろんです」
オレの悲鳴に美咲ちゃんがはっきりうなずく。
どうやら、謹慎よりこちらの処分がメインだったみたいだ。
「えっと、ご飯ぐらいは・・・」
香織さんがうらめしそうな声をだす。
「真人さんの食事はちゃんと届けますよ」
美咲ちゃんが微笑む。
ご飯もここなんだね。
「それでは真人さんしばらくがまんしてくださいね」
「わたしの・・・」
美咲ちゃんが香織さんを連れて部屋を出ていく。
「あ~、よろしくな」
しばらく同居するのでアキラにあいさつするがアキラはこちらも見ようともしない。
まぁ、オレたちの経緯を考えれば当然か・・・
「・・・なぁ、退屈しないか?」
「・・・」
あまりにヒマなのでベッドに寝転んだまま、アキラに話しかけるが、やっぱり無言だ。
「・・・美咲ちゃんに頼んで将棋でも持ってきてもらおうか?」
それぐらいは許してもらえると思うぞ。
「・・・将棋出来るか?」
オレも将棋にはあまり詳しくないけどな。
「・・・オセロとかの方がいいか?」
あれはあれで奥深い魅力があるみたいだぞ。
「・・・ヒマだなぁ」
まだ、数時間しか経ってないのにすでに退屈で飽きてしまう。
「・・・優子さん、いつ帰ってくるのかなぁ」
島に交易に関する交渉に行った優子さんはまだ戻ってきていない。
「・・・そろそろ戻ってくると思うんだけどなぁ」
島はかなり安全な環境なので大丈夫だろうが、早く会いたい。
「・・・明日ぐらいかなぁ」
明日だと謹慎中だから会えないか。
「あっ、オレいつまで謹慎なんだ?」
聞くの忘れてた。
美咲ちゃんの機嫌が治るまでかな?
「・・・なぁ、なにしてんの?」
さっきからアキラはオレに背を向け机でごそごそなにかしている。
「あっ!」
ぼふっ!
ヒマすぎて屁が出た。
「・・・おまえ、いい加減にしろよ!」
アキラの背中がぷるぷる震えている。
「おまえも屁ぐらいするだろ」
男同士なのになにを怒ってるんだ?
「さっきからうるさいんだ」
なら、そう言えばいいのに。
「おまえ、人見知りする方?」
「・・・」
「オレもそうなんだよなぁ」
「・・・」
「人見知りって損だよなぁ」
「・・・」
机でなにかごそごそしてたアキラがこちらを振り返る。
やっと、こっちを向いたか。
アキラはちょっと痩せたようだ。
そっと足を見るが片足が明らかに細い。怪我の影響だろう。
「・・・わざとか」
にやにや笑っているオレの顔を見てアキラが呆れる。
「せっかく同室になったんだから、腹を割って話すのもいいだろ」
「あんた、いい度胸してるよ。なにが人見知りだ」
アキラが苦笑しながら首を振る。
「なにしてたんだ?」
さっきからアキラは机でなにかしていた。
暇潰しになるような事なら、ぜひ教えてほしい。
「・・・あぁ、さくやって人に頼まれたんだ」
アキラが肉体をずらして机の上を見せてくれる。
そこにはなにかの部品が工具といっしょに転がっていた。
「・・・これ、なに?」
オレが見てもなにに使うのかまったく分からない。
「なんでもソーラーパネルの角度を変えるのに必要なんだそうだぞ」
電気復活計画の一環か。
歯車やそのストッパーを組み上げてるみたいだ。
「おまえ、機械に詳しいのか?」
工具を手にするアキラは妙にしっくりしている。
「工業高校だったし、車の整備士だったからな」
アキラはそう言って手にしたドライバーをくるりと回す。
「もっとも、車なんてもう使えないから無駄な技術だけどな」
アキラが自嘲気味に笑う。
「そんな事ないだろ?」
いろいろ応用は出来ると思うぞ。
「車の整備なんてもう無いさ」
「いや、整備にこだわるんじゃなくて道具を作ればいいんじゃないか?」
人の役に立つ道具を作れば喜んでもらえると思うけどな。
「おれには開発したり図面を引いたりは出来ないさ」
アキラは肩をすくめる。
そうかな?図面とかならさとるさんやさくやさんなら引けると思う。
しかし、さとるさんは忙しくて自分で製作する時間は無いだろう。
さくやさんにしても電気復活計画が終わるまでは時間が取れないはずだ。
二人に代わってアキラがそれを作成すれば大助かりの筈だ。
「ちょっと待ってろよ」
とりあえず、さとるさんに相談してみよう。
オレはさとるさんを探しに部屋を出る。
「おい!おまえは謹慎中なんだぞ!」
後ろからなんか声が聞こえたが、今はさとるさんと相談するのが先だ。
「なるほど、それで部屋を出てしまったんですね」
さとるさんが苦笑している。
「さすが、真人ちゃんね」
マスターがオレを見て笑う。
さとるさんに相談する為に会議室に来たオレは美咲ちゃんにものの見事に発見されてしまった。
「分かってますか?今、謹慎中なんですよ?謹慎って意味、分かりますか?」
床に正座したオレの前には額に青筋を浮かべた美咲ちゃんが仁王立ちしている。
「まだ、半日も経ってないんですよ」
「忘れてました」
美咲ちゃんが呆れ返る。
「でも、いい考えだろ?」
それに作ってほしい物もあるんだ。
「作ってもらいたい物ですか?」
さとるさんが興味を示す。
「そう!マスターは見ただろ?あのボウガン!」
あの集落で見たボウガンはかなりの衝撃だったんだよ。
「まぁ、強力そうだったけどそんなに面白かったの?」
マスターはあのボウガンの魅力に気づかなかったみたいだな。
「あのボウガンを持ってたやつを覚えてる?」
「う~ん、ちょっとかわいかったけど、タイプじゃないわね」
いや、それはどうでもいいんだよ。
「どういう事です?」
その場に居なかったさとるさんに説明する。
「・・・普通の人間がそれほど強力なボウガンを持っていたんですか」
マスターと違ってさとるさんはすぐにオレの興味のポイントを理解してくれた。
そうなんだ。あのボウガンの魅力は強力なのに普通の人間が使えるって事だ。
ギルドでもボウガンはあるが、装填するのが大変なので積極的に使う者はいない。
あいつらはオレにかなり接近してボウガンを構えていた。
それは装填するのが楽なので、ある程度の連射が出来るからだろう。
「ボウガンの台座の横に妙な棒があったからそれを使ってるんだと思う」
一番近くでボウガンを突きつけられたオレはあのボウガンをじっくり確認する事が出来た。
帰りの道中で佐藤くんに確認したが、あのボウガンはあのおっさんの配下しか持っていないので詳しい構造は知らなかった。
あれを量産出来ればギルドにとって大きな利益になる。
連射可能な強力なボウガンは拳銃に匹敵するだろう。
「なるほど。詳しく教えてください」
「副ギルド長!」
「これはギルドの将来を左右するかもしれません」
美咲ちゃんをさとるさんは手で制する。
オレは見た事を出来るだけ詳しくさとるさんに説明する。
それを聞いてさとるさんが図面を引く。
「こんな感じですか?」
「そこの弓側にもボルトみたいのがあった」
「ふむ、テコと滑車の原理を応用してるんですね」
オレの言葉でさとるさんが図面を修正する。
「おそらくこんな仕組みなんでしょうがいいアイデアですね」
引いた図面を見てさとるさんが唸る。
「必要なのは車の板バネと頑丈なワイヤーと滑車ですね。台座は補強すれば木でいいでしょう」
ほとんどが車のパーツの流用だろう。
「どれぐらいのスピードで射てるの?」
マスターも途中から図面に興味津々だ。
「そうですね。訓練すれば1分に5回程度は射てるでしょうね」
弓ほどではないがこれまでのボウガンの倍以上の速度だ。
「これをアキラちゃんに量産してもらうのは危なくない?」
これは純粋な武器だ。もし、アキラが使用すると危険になる。
「だから、謹慎中の今がいい機会なんだよ」
オレが同室にいればアキラがなにかしようとしても止められる。
アキラもこれを無事作れば、ギルド内での信用が上がる。
あいつ、物を作るの好きなんだと思うぞ。
オレとのトークより物作りを優先してたからね。
「いや、それは関係ないんじゃ?」
マスターが首を傾げるが無視だ。
足の傷付いたあいつはこれから生きるのが難しいだろう。
ギルド内でさとるさんやさくやさんの考えた物を作ればギルド内で生きていく事が出来る。
それにそうして経験を積めばギルドを離れても集落で受け入れてもらえるだろう。
有益な道具を作れるあいつは利益を生む存在になるだろうからね。
「アキラちゃんの為にもなるわね」
それがあいつの傷の一因であるオレたちの責任だと思う。
「分かりました。これの製作をアキラくんに一任しましょう」
さとるさんが了承してくれる。
良かった。
「・・・楽しそうで、何よりです」
後ろからすっかり存在を忘れていた美咲ちゃんの低い声が響く。
「・・・えっと、じゃあオレは部屋に戻るね」
オレはそっと会議室を出ようとする。
「まぁ、ゆっくりしていってください」
「そ、そうよ。まだ、部品集めとか相談しなくちゃ」
さとるさんとマスターが慌ててオレを引き留める。
「いや、オレは謹慎中だから」
「覚えてたんですね」
もちろんじゃないか。
美咲ちゃんの笑顔がものすごく怖い。
目が笑ってないよ。
「それじゃ・・・」
部屋を出ようとするオレを美咲ちゃんが、がしっと止めた。
美咲ちゃん、力、強くなったねぇ
「真人さん、謹慎延長です」
「えっと、どれぐらいかな?」
短いといいなぁ。そろそろ、優子さんも戻ってくるだろうし・・・
「2か月です」
「そ、それは長くないですか?」
さとるさんがそっと抗議してくれる。
「なにか?」
「いや、なんでもありません」
美咲ちゃんの一睨みでさとるさんの抗議はあっさり終了した。
そういえば大先生はどうしたんだろう?
「じいちゃん、こんなとこにいていいの?」
「ゴン、おまえなら不機嫌な美咲ちゃんのそばにいたいかな?」
「絶対やだ」
「儂もいやじゃよ」
「おかわりいります?」
「おぉ、友美くんは優しいのう」
「ねえちゃん、おれも~」
大先生はゴンと一緒に食堂に避難してたそうだ。
さすが年の功だ。
無駄な事なしない。




