交流編8
○近付くオレとマスターの姿を見て集落がざわつきだした。
正確にはオレの姿かもしれないな。
「・・・真人ちゃん、近付いて大丈夫?」
マスターがオレの背後から心配そうに問いかける。
「たぶん、大丈夫じゃない?」
集落の城壁の上には弓を構えている人の姿が見えるが、この距離で射られてもかわす自信がある。
それにこの距離ではオレの分厚い筋肉層を貫くのは難しいだろう。
オレの背後にいればマスターに矢が当たる心配はない。
「いえ、そうじゃなくてどんどん騒ぎが大きくなってるわよ」
ん?あぁ、そういえばどんどん人が増えてるな。
「賑やかな町だね」
「・・・そうね」
オレとマスターはそのまま集落に近づいていく。
「そこで止まれ!ここになんの用だ!」
おおよそ城壁まで20メートルぐらいのところで野太い声がオレたちに話しかけてきた。
やれやれ、ようやくか。
「あのね、あれは話しかけてるんじゃないのよ」
そう?
城壁を見ると大柄なおっさんがデカイハンマーを持って立っている。
さっきの声はあのおっさんみたいだな。
スキンヘッドに髭を貯えたなかなか強面のおっさんだ。
「あの人かな?」
「たぶんそうじゃない?」
あのおっさんが佐藤くんに聞いた狩りグループのボスの一人だろう。
「話があって来た!」
オレは大きな声でおっさんに話しかける。
「化け物と話す気はない!」
う~ん、はっきり言うおっさんだな。
「ここで起きてる事の話だ!」
おっさんがオレをにらみつける。
「・・・なにを知ってる?」
「ここで言っていいのか?」
オレの言葉を聞いておっさんの顔が歪む。
「そこで待ってろ!」
そう言って、おっさんが城壁代わりのトラックの上から降りていった。
その後、オレたちのところまでやってきたおっさんたちに状況を説明する。
「・・・人喰いが今もいるってのか?」
「そうだ」
おっさんの言葉にオレはうなずく。
おっさんはデカイハンマーを持ち、ついてきた二人は大きなボウガンを持っている。
あのボウガン手作りみたいだけど、相当威力がありそうだ。
オレがボウガンを見ている事に気づいたおっさんがニヤリと笑う。
「トラックの板バネを利用したボウガンだ。おまえでも射抜けるぞ」
その言葉で二人がオレの胸部に狙いをつける。
なるほど、車のバネを利用したのか。
どうやって作ったのか気になったけど、これで疑問は解決した。
「こっちも狙ってる事、忘れるんじゃないわよ」
マスターが静かに弓を構える。
「これは特製の毒矢よ。かすっただけで確実に死ぬわ」
ボウガンの二人がオレを狙い、マスターがおっさんを狙う。
そのままおっさんとオレがにらみ合う。
「・・・証拠は?あるのか?」
オレは捕らえている人喰いの事を話す。
「無断でこの町に入ったのか!」
おっさんがハンマーを強く握りしめ怒鳴る。
「一応、オレは入ってないが他のメンバーは入ったな」
でも、それは問題じゃないだろう?
ここの城壁は見事な物だが、侵入しようと思えば侵入する事は可能だ。
この城壁はあくまでゴブリンなど変異体避けに過ぎない。
そんな事おっさんも分かっているだろう。
このおっさん、そんなにオレが気に入らないのか?
う~ん、佐藤くん話が違うぞ?
オレたちがこの集落の人たちに人喰いの件を話すことを決めた時に佐藤くんは狩りグループを取り仕切るこのおっさんは信用できると言ってたんだけどなぁ。
この集落では荒事担当といえばこのおっさんらしいので、狙い通り接触は出来たんだが・・・
「おっさん、まさか双子じゃないよね?」
「あん?」
オレの言葉におっさんは目を白黒させている。
やっぱり双子じゃないか・・・ちょっと期待したんだけど
「佐藤くんとか藤井くんって知ってる?」
「ん?玲子にいつも殴られてたやつらか?」
・・・玲子、なにやってんだよ。
「玲子たちは元気か?」
「ああ、玲子一人が元気すぎて困ってる」
玲子にはもうちょっと知恵をつけてもらいたいし、藤井くんたちにはもうちょっと元気よくなってほしい。
足して割ったらちょうどいいんだろうけど、なかなかそうはいかないのが世の中だ。
「あいつには一応、目をかけてたんだがな」
おっさんがため息をつきながらスキンヘッドをつるりと撫でる。
「・・・その人喰いってのは何人いる?」
おっさんの言葉にお付きの二人が動揺する。
「化け物を信じるんですか?」
「でたらめに決まってます!」
おっさんが二人の事をぎょろりとにらむ。
「玲子はバカだが愚かって訳じゃねえ。あの玲子が信じてるんなら一応調べるぐらいはやってやる」
おぉ、玲子一応信用されてるぞ!バカって思われてるけどな。
「いや、玲子はバカですよ?」
「あいつに考えるのは無理です」
・・・玲子、信頼はされてないぞ。
「だからだ。あのバカの野生の勘ってのは信用できる」
その言葉を聞いて二人が考え込む。
「それに玲子がこんな面倒くさい事考えられるか?」
その言葉が決定打になったようだ。
「・・・では、おれが行ってきます」
「おれは残ります」
二人の内、一人が集落に走っていく。
・・玲子、可哀そうなやつ。
「よく玲子に信じてもらえたな」
「ぶん殴ったらおとなしくなった」
オレの言葉におっさんが爆笑した。
「がははっ、玲子を従わせるにはそれしかねえ。バカだからな」
なんか、あんまり玲子をバカバカと言われるとムカつくな。
いや、間違いなくバカなんだけどね。
「あいつの兄貴にはすまん事をしたとは思ってる」
笑っていたおっさんが真剣な顔でぽつりと呟いた。
「この町を守る為には疑わしきは罰さなきゃならん」
「いくらなんでも獣人ってだけで殺すのはやり過ぎだろう!それも女を!」
オレの言葉を聞いたおっさんは黙りこんだが、ボウガンを持った若者が
「あれは恐怖にかられた住民がパニックになって勝手に暴走したんだ!おれたちは殺ってない!」
そう言って、オレを睨む。
「それでも、なんとか守れたんじゃないのか!?」
あそこですべての歯車が狂ったのだ。
今度はオレと若者がにらみ合う。
「落ち着け」
「落ち着きなさい」
マスターとおっさんがオレたちをそっと離す。
「また、住民がパニックにならないようにおれたちが変異したやつらが町に入らないようにしてるんだぞ!」
ん?それって変異者を保護する為にか?
「おっさんは変異者は嫌いじゃないのか?」
「大嫌いだ!」
あっそ。
「だが、殺さなきゃならん程じゃないな」
おっさんがまたつるりと頭を撫でて、言った。
おっさんの過去にもなにかあったんだろうか?
そんな事をしているとさっき走り去った若者が戻ってきた。
「・・・本当に死体がありました」
若者は青い顔でそう報告した。
「こいつらが死体を置いたんじゃないのか?」
もう一人の若者が疑いの眼差しでオレたちを見る。
「・・・いや、死体は10体近くあった」
その言葉におっさんと若者が厳しい顔で黙りこむ。
「・・・どうやらこの町に人喰いがいるのは、本当らしいな」
「どうせ変異したやつらの仕業だろうが」
若者が唾を吐く。
「変異した者はこの町には、ほとんどおらん」
おっさんの言葉は事実だ。
玲子たちが去った事でこの集落にはもうライカンスロープすら居なくなっている。
「じゃあ、人が人を喰ってるって言うんですか!?」
若者がおっさんに詰め寄る。
「変異してるかどうかは関係ない」
変異して人を喰うやつもいるかもしれない。
しかし、変異してなくても人を喰うやつは確実にいるのだ。
「・・・大きな変異をすると頭までおかしくなる事があるぞ」
確かにそういった事があるのも事実だ。
「だが、オレはおかしくなってない。以前、ここに来たドラゴンみたいな人もな」
・・・たぶんね。
若者たちは青い顔で考え込んでいる。
おっさんはじっと目を瞑っている。
「まずはその人喰いの仲間をどうにかしなきゃならんな」
おっさんが瞑っていた目を開いた。
「・・・他の人喰いの目星もついてるのか?」
おっさんの質問にマスターが答える。
「分かってるのは8人よ」
マスターがその8人の事をおっさんに伝える。
「・・・まさか、あいつまで」
その中には若者たちの知り合いもいた。
「間違いないのか?」
おっさんが厳しい目でマスターを見る。
「たぶん、そいつらの家も同じような感じになってる筈よ。かなり悪趣味なやつらだから」
マスターの言葉を聞いたおっさんが大きく息を吐く。
「よし!やるぞ!」
覚悟が決まったのだろう。
おっさんが若者たちに指示を出す。
「待ってください。パニックになりますよ」
変異者嫌いの若者がおっさんを止めようとする。
「それでもやるんだ!このままにしておけばさらに被害が増えるぞ!」
おっさんの言葉に若者も覚悟したのだろう。
大きくうなずいた。
「わざわざ、知らせに来てくれた事には感謝するがこれはこの町の問題だ」
これ以上介入するなって事か。
「・・・分かった。オレたちは本物の人喰いが退治されればそれでいい」
本物の部分をおっさんに強調する。
以前、殺された獣人たちはただ罪を擦り付けられただけの被害者だ。
一瞬、おっさんの顔が怒りで赤く染まる。
「・・・そちらにいる者も返してもらおう」
「分かった。待っててくれ」
あいつも一応この集落の住人だ。仕方ないだろう。
マスターがうなずき、やつを廃屋まで迎えに戻る。
変異者嫌いの若者がおっさんの指示を手配する為に集落に戻っていく。
「・・・大丈夫なのか?」
「・・・分からん。もしかすると駄目になるかもしれん」
変異者では無く普通のヒトが人喰いだったのだ。
集落中に疑心暗鬼が広がるだろう。
変異者のように外見で判別できない分、質が悪い。
オレもおっさんも黙りこんだ。
しばらくして袋を担いだマスターが戻ってきた。
「・・・こいつで間違いないか?」
おっさんが袋からやつの顔を出して確認する。
「・・・はい。あの家に住んでいた狩人です」
若者が顔を確認する。
「・・・そうか」
おっさんが若者の肩を優しく叩く。
そして、次の瞬間、
「うおおおおおっ!」
おっさんが怒号をあげて、やつの頭にハンマーを振り降ろした。
ぐしゃっ
湿った音と共にやつの頭がハンマーで叩き潰れた。
血と頭蓋骨の破片、そして脳獎で汚れた顔を拭いながら、おっさんがオレたちに背を向け集落に向かい歩きだした。
その後を青ざめた顔で若者が着いていく。
「感謝はするが・・・」
振り返らないまま、おっさんが言葉をつむぐ。
「やはり変異者は気に食わん!」
そう言っておっさんが離れていく。
集落に戻っていくおっさんの背中をじっと見る。
「・・・帰りましょ」
「・・・ああ」
オレとマスターは香織さんたちが待つ廃屋に向かう。
あのおっさんなら人喰いたちを間違いなく退治するだろう。
とりあえず、これで人喰いは滅びる。
しかし、この集落も滅びるかもしれない。
だから、さとるさんはこっそり始末する事にしたのかもしれない。
それをオレはめちゃくちゃにした・・・
「・・・真人ちゃんのせいじゃないわ。ここはいずれそうなったのよ」
マスターが歩くオレの背中をそっと撫でる。
その手の暖かさにオレは哭きそうになっていた・・・




