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崩壊した世界でみんなで楽しく生きていく〜サバイバル〜  作者: 伊右衛門


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交流編7

○オレたちはそれから大集落に向かって大急ぎで移動した。

一番、急いでいたのはオレだけどね。


ギルド長である大先生やさとるさんに内緒でオレはこの旅に同行している。

出来るだけみんなに迷惑がかからないようにしてきたつもりだけど、やはり早めに帰った方がいいのは当たり前だ。


「遅れるとそれだけ美咲ちゃんに怒られるもんね」

「それにそろそろ優子さんが戻ってくる予定だからね」

車の荷台でマスターと京子さんが笑う。


そうなんだよね。

美咲ちゃんはギルドの収支管理、シフト調整などを一手に取り仕切っているギルド影の最高権力者だ。

彼女を怒らせるとかなり怖い事態になってしまう。

それにギルドに内緒でオレが行動している事を優子さんが知ると激怒する予感がするので、なんとか戻ってくる前にこの問題を解決してしまいたい。


そうすれば、こんな事もあったよって笑い話で済むと思う。

「甘いわね~」

「甘い考えだねぇ」

マスターと京子さんがまた笑う。

甘い考えなのは分かっているけど、オレは最後まで希望を捨てないぞ!


「佐藤くん、こっちでいいの?」

オレは隣を走る佐藤くんに確認する。

「は、はい。そっちで大丈夫です」

佐藤くんの息がかなり乱れている。

「獣化した方がいいんじゃない?」

佐藤くんは人間形態で走っている。

「い、いえ、あの姿は燃費が悪いんです」

そうなのか。

「彼、好感が持てますね」

「一生懸命だし、かわいいわね」

マスターと京子さんが車の荷台で勝手な事を言っている。


「真人さん、大丈夫ですか?」

車の助手席の窓から顔をだして香織さんが聞いてくる。

「大丈夫!」

うん、機嫌は治ったみたいだな。


「あんまり無理をするとバテるぞ!」

ハンドルを握っている田中さんも運転席の窓から顔をだす。

「大丈夫!」

走り出すとそんなに抵抗を感じないので、オレはほとんど疲れていない。


「でも、これは楽だねぇ」

「アイデア賞ね」

「なんというか鞭でも欲しいね」

「いいわね、それ!ハイヨー、真人ってやりたいわ」

・・・二人とも振り落とすよ。


そうなのだ。

オレは現在、トラックにワイヤーをくくりつけそれを引っ張って走っているのだ。


これ以上、犠牲者(オレも含めて)を出さない為にもオレたちは急がなくてはいけない。

しかし、オレが全力疾走すると他のメンバーが着いてこれない。

それにオレはその集落に行った事が無い。

ほんの少し、方向音痴の卦があるオレが地図を頼って移動すると迷う可能性がある。

「てか、確実に迷うわね」

「いくらさとるさんが書いてくれた地図でも迷いますね」

え~い、うるさい!

出来るだけ急いで全員で移動する方法はないのだろうか?

そこで思い付いたのが現在の方法だ。

オレがトラックを引っ張って走れば全員でかなりの高速移動が出来る。

2トントラックならそこまで重くないので、運転席で誰かがハンドルを握っていれば転倒する危険もない。

さらにオレが引っ張るので燃料切れの心配もない。

助手席の香織さんが地図を確認してくれているので迷子になる事もない。

完璧だね!

そのまま、オレは全力で走り続けた。


「まさか四日で着くとはな」

田中さんが感心したような呆れたような声を出す。


「大丈夫ですか?」

香織さんがオレの肉体を心配してくれる。

「全然、平気!」

むしろ全力で肉体を動かしたので調子がいいぐらいだ。


「・・・酔ったわ、あたし」

「・・・ワタシも」

最初の頃は荷台ではしゃいでいた二人だが行程が進むにつれ静かになっていった。

荷台で荷物よろしく揺らされまくるのが、思った以上にツラかったみたいだ。


「・・・う~ん、助けてください」

荷台では佐藤くんが呻き声をあげている。

オレの非常識なペースに一日で着いてこれなくなった佐藤くんはそれからずっと荷台で過ごした。

「・・・気を紛らわすおもちゃがあってよかったわ」

「・・・尊い犠牲だね」

佐藤くんになにをしたんだよ。


小高い丘の上に立つオレたちの眼下には大きな集落が広がっている。

かつての感覚で言うなら田舎の町って感じだが、丘の上から見てみると道には人が歩き近くの畑には農作業を行う人が確認できる。

「あれはバリケードかね?」

集落周辺は白い壁のような物で囲まれている。

「はい。ガードレールや動かなくなった車などを利用して作ったんです」

田中さんの質問にようやく復活した佐藤くんが答える。

見たところ集落の主要部分はバリケードで囲まれている。

なるほど。あれなら安全だろう。

もっとも、内部に人喰いの群れがいると思うとバリケードっていうより檻に見えるけどね。


オレたちは集落近くの廃屋に身を潜め、辺りが暗くなるのを待った。


「それでは作戦通りに行動開始だ」

田中さんの言葉に全員がうなずく。

目的は人喰いの仲間と目される人物の拉致だ。

出来れば人喰いが獣人の仕業では無かった事も証明したいが、まずは人喰いたちを退治する事が先決だ。

この集落には現在、ほとんど変異者はいない。

そこで集落の内部に詳しい佐藤くんが先導してその人物をオレ以外で捕まえる。

オレも侵入したいが、万が一目撃されると大騒ぎになるかもしれない。

「ここでは変異した者はヒトでは無いって思われているんです」

佐藤くんが小さくつぶやく。


「それじゃ、いってきますね」

「気をつけて」

廃屋から出ていく香織さんを見送る。

内部に詳しく鼻の利く佐藤くんが一緒だし、マスターや田中さん、京子さんもいる。

大丈夫だと思うんだけど、不安は不安だ。


集落に入れないこの身がうらめしい。

というか変異者を排斥しているこの集落が忌々しい。

人喰いたちをなんとかしないといけないのは分かっているけど、この集落の人たちを好きになるのは難しい。

実際のところ、人喰いを退治したところで問題が解決する訳ではない。


この集落に広まった変異者に対する嫌悪感。

それこそが一番大きな問題だ。

さとるさんたちは時間をかけて解決するしかないって言ってたし、オレ自身そう思う。


玲子の兄であるあの獅子男とその恋人の事を考える。

彼らがもしここでは無く、ギルドに来ていたらどうなっただろう。


もしかすると仲良くなってバカ話をして大笑いしてたかもしれない。


彼らがたどり着いた集落に人喰いたちがいなければ、彼らは今も幸せに暮らしていたかもしれない。


すべてが過去の事だし、やり直す事も出来ない。

それでも考えてしまう。

ほんの少しの偶然が彼らをめちゃくちゃにしてしまった。

彼らが悪い訳では無い。ただの巡り合わせだったのだろう。


獅子男のすべての行動を認める事は出来ないが、それでも彼らがあの世とやらで幸せになってくれている事を願う。


せめて、それぐらいは許されるのではないだろうか・・・


夜明け近くになって香織さんたちが戻ってきた。


マスターが肩に大きな袋を担いでいる。

「うまくいったみたいだね」


廃屋の中に入ったマスターが肩に担いだ袋を乱暴に床に投げ落とす。

「本物のクソ野郎よ、こいつ」

袋越しとはいえ、接触していたマスターにはこいつの心が読めてしまったのだろう。

マスターが袋を蹴りつける。

「集落の者たちに証言させる事は出来るか?」

田中さんが袋を蹴るマスターを見ながら問いかける。

止める気はないみたいだ。

「絶対に無理!」

袋を蹴りながらマスターが断言する。

「こいつ、今でも逃げる気満々よ」

蹴るのに疲れたのだろう。

マスターが椅子に腰かける。


「・・・部屋の中もひどかったね」

京子さんがため息をつく。


香織さんも佐藤くんも顔色が悪い。


オレの視線に気づいた京子さんが説明してくれた。

狩人であるこいつの家には捕らえた獲物を解体するガレージがあった。

そこでは猪や鹿に混じって人間も解体されていた。

さらに食事をするスペースにはこれまで捕らえた人間の頭部が飾られていたそうだ。


「・・・吉村さんの・・・彼氏の首もありました・・・」

佐藤くんが泣きながらつぶやく。


「こいつ!殺した人の首を眺めながら喰ってたのよ!」

マスターが立ち上がり、また、袋を蹴る。


「・・・他の仲間は?」

「8人いるわ」

オレの問いかけにマスターが息を乱しながら答える。

「こいつらは変異しとるのか?」

「ごめんなさい。あたしはさとるちゃんじゃないから分からないわ。でも、精神的にはほとんど人間よ。このクズは」

普通の人間が人間を喰ってたのか・・・


「あと8回、これを繰り返すのか・・・」

田中さんも相当、ショックを受けたようだ。


8人か。


「仲間の居場所は全員、把握してるの?」

「ええ、それは大丈夫」

心を読めるマスターにうそはつけないから大丈夫だろう。

「朝を待ってこいつを集落に連れて行き、集落の人たちにも協力してもらおう」

「・・・真人さん?」

青い顔の香織さんがオレの発言に戸惑う。

作戦では人喰いたちを全員捕らえて始末する事になっているんだが・・・


こいつら、思った以上に質が悪い。


これを繰り返すと香織さんたちの精神的な疲労が心配だ。


「しかし、集落の者たちが手伝ってくれるとは限らんぞ」

「その時は仕方ない。人喰いたちと一緒に生きていってもらおう」


こいつの家にそれほどの証拠が残っていても、まだ目が覚めないなら仕方ない。


「・・・それはギルドの決定に反する事になる」

田中さんが厳しい目でオレをにらむ。

人喰いを退治するのがこの件に対するギルドの決定だ。

確かにそれに反する事になる可能性はある。

「彼らが人喰いの存在を知っても、それを望むのならそれは彼らの自由だ」

オレは田中さんの目をまっすぐに見る。

田中さんもオレの目をまっすぐに見ている。


「ふぅ、意思は固いみたいだな」

田中さんが大きく息をしながら首を振る。

「正直、わしとしても迷っとるんだ。この町の住人になにも知らせずにわしらだけで解決してもそれは解決した事にならんのじゃないかとな」

ギルドが人喰いを始末すればこの集落は安全にはなる。


しかし、問題は解決しないだろう。

今回の件はギルドとしても苦渋の決断だったのだ。

別にこの集落の人たちに好きになってもらいたい訳じゃない。

変異者を嫌うのは彼らの自由だし、彼らが変異者を嫌うならこちらは距離を置けばいい。


しかし、やってもいない事で嫌われるのはどうも気にいらない。


獅子男の恋人は人を喰ってはいない。


理解出来なくても、それだけは知っておいてもらいたい。


「・・・あたしは真人ちゃんに賛成よ」

マスターがそっとオレの背中を撫でる。

くすぐったいからやめて!

「まぁ、いいんじゃないかな?ここはギルドから離れてるしね」

京子さんもオレの背中をそっと撫でる。

いや、だから、くすぐったいって。

マスターと京子さんって仲がいいのか、悪いのか、分かんないよね。

「仲が悪いのよ」

「そのとおりだね」

二人が大きくうなずく。


それを見て田中さんが笑い出してしまう。

「そうだな。町の住民に協力してもらおう。ギルドとしては人喰いをなんとかすれば問題ないだろう」

田中さんが大きくうなずいた。


「・・・真人さん」

「心配させてごめん」

香織さんに頭を下げる。

恋人が勝手に着いてきて、勝手な事をしてしまって香織さんとしては気が気じゃなかっただろう。

「いえ、真人さんが一緒で良かったと思います」

香織さんがオレの背中をそっと撫でる。

それはとても心地よかった。




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