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崩壊した世界でみんなで楽しく生きていく〜サバイバル〜  作者: 伊右衛門


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同盟編6

○「あれが最後の砦か」

小高い丘の上に周囲を石壁に囲まれた木造の建物が見える。

「あの砦を落とせば連合の本拠地までは大体一日で着くみたいよ」

隣に立つマスターが砦を見上げる。


オレたち遠征軍は連合の最後の砦まで進軍する事に成功した。


「さすがに最後の砦だけあって守りは堅いな」

これまでの砦では城壁の一部は木製だったり土壁だったが最後の砦は全てが石で作られている。

ここからでは石の厚さは分からないが事前に掴んだ情報によると最も薄い箇所でも1メートルはあるらしい。

「あの堀が地味に厄介よね」

城壁の周囲には人の背丈ほどの堀が掘られている。内部に水が引き込まれていない空堀だが石造りの城壁と合わさるとかなり手強いだろう。

「時間があれば包囲してれば勝手に落ちるんでしょうけどねぇ」

マスターが首を振りながらため息をつく。

小高い丘の上という立地条件と空堀を見る限りあの砦は水が不足しやすい環境にあると思われる。それならば周囲を囲み水や食料の補給を絶てばいずれ砦は落ちる。しかし、こちらにもそれほどの余裕は無い。オレたちは遠征してここまで来ている。現在は結社の協力で食料などに不足は無いがそれほど余裕がある訳では無いのだ。今回の遠征においてギルドと結社は一般人への暴行や略奪を厳しく禁じている。食料などが不足したからといって周辺の町や村を襲って調達する事は出来ない。補給が続かなくなればオレたちは大人しく撤退するしかない。


「いつも通り攻め落とすしかないだろうな」

城壁と堀は手強いだろうが逆に言えばそれを突破すれば砦を落とす事は決して難しい訳では無いだろう。戦国時代などにあった大規模な城であれば城壁を突破しても苦労するだろうが現在築かれている砦はそこまでの規模では無い。内部に突入する事が出来れば砦は落とせる。


「また、真人ちゃんたちにがんばってもらわないといけないわね」

「その為の突撃部隊だ」

オレは遠征軍で突撃部隊を率いている。総数200名ほどの小規模な部隊だが肉体的に優れたメンバーを揃えている。オレたち突撃部隊が血路を開きマスター率いる主力部隊が砦内部を制圧する。後方にいる優子さんたち遊撃部隊がそれをサポートする。単純だがそれが遠征軍の基本戦術だ。

「砦内部にはどれぐらいいる?」

「連合の正規兵が約1000人、それに奴隷兵が約2000人ぐらいね」

「さすがに多いな」

ざっと3000名か。これまでの砦の約二倍の戦力だ。もっとも奴隷兵は装備が貧弱で戦闘意欲に欠けるので正規兵を倒せばそれ以上戦闘は行わないだろう。


連合が支配する地域では奴隷が一般化している。ギルドや結社が影響力を持つ地域でも奴隷は存在するがその多くは犯罪を犯した者だ。刑務所などの収容施設が無い現在、犯罪を犯した者はその犯罪の度合いによって一定期間奴隷として強制労働などを行うのが一般的になっている。しかし、連合の支配地では一般の住民の多くが奴隷として一部の者に支配されている。彼らには基本的人権が無く私財の所有権が無く移住する自由も無い。当然、奴隷の多くは連合の支配地から逃亡しようとしたのだが関門トンネルという要所を押さえられては逃げる事も難しい。一部の住民は自分たちで舟を造り逃亡を図ったのだが航海の技術も経験も無い者が海図も羅針盤も持たずに海を渡るのは不可能に近い。海に逃亡した者の多くは海の藻屑となった。極一部の者が運に恵まれ陸地に辿り着いたり瀬戸内を支配する若社長たち島の人々に救われた。そういった逃亡者たちから連合の実態が徐々に明らかになった。


今回、ギルドと結社が合同で遠征を行ったのは連合がこちらにちまちま陰謀を仕掛けてきたのがひとつの原因だがそれだけではこれほど大規模の遠征軍は派遣されなかっただろう。腕の立つ者を数名潜入させ連合の首魁を始末した方が手っ取り早い。 事実愛娘であるりくを狙われたオレや優子さん、香織さんはそのつもりだった。実際に優子さんや香織さんを同行させるかどうかは別だがオレが連合内に侵入して首魁を倒す事は決して不可能では無い。ギルドと結社が遠征軍まで組織して連合そのものを攻撃する理由は別にある。


「アニキ~!船長が来たよ!」

手を振ってこちらに向かってくる玲子の後ろから長髪の男性が歩いてくる。細身だがしなやかに鍛えられた肉体を持つ日に焼けた男だ。顔には数ヵ所の古傷があり中々迫力がある。


「お久しぶりです」

オレたちに合流した男性はその外見からは想像も出来ないような柔和な声であいさつをする。

「お久しぶりです。若社長・・・」

そう!この海賊のような男性があの若社長なのだ。島を平和に統治して塩などの生産を請け負ってくれていたあの若社長だ。

「若社長はご勘弁ください。部下の手前もありますので」

オレの言葉に若社長、いや、船長はシブく笑う。笑うと顔の古傷がひきつって怖いな。

「すいません、どうも昔の癖で」

「いえいえ、ご無事でなによりです」

船長がオレに手を差し出す。握ったその手は分厚く武器を握り馴れた手になっている。

現在の船長は瀬戸内一帯に本拠地を置く水軍の大頭領だ。生存者のいた島々を纏め上げ各地で塩の増産を行いそれらをギルドや結社の支配地に海から運んでいる。その過程では海賊化した人たちと戦ったり船長の目を盗んで密輸を行う者を取り締まったり色々苦労があったそうだ。しかし、それら全てに勝利した船長は瀬戸内だけで無く太平洋岸の多くの地を支配する一大勢力を築いた。それほどの勢力を築いたのだからギルドを無視して独自に交易を行ってもおかしく無いのだが船長は頑なに塩だけはギルドにのみ卸してくれている。

「塩の効率的な製法を教えてくれたのはギルドですから当たり前です」

「ありがとうございます」

塩はギルドの経済力の基盤の一つだ。船長の協力を失えばギルドの運営はかなり難しくなる。

「いえいえ、ギルドとは協力しておいた方がお得だと判断したからです」

船長が茶目っ気たっぷりにウインクするがより一層凶悪な人相になった。

「ギルドの協力で新しい船も出来ましたしね」

交易量が増えるに従ってこれまでの船ではなにかと不自由が出てきた。さらに交易が増えるに従い海賊なども増加してきた。そこで船長はギルドに新しい船を建造する協力を申し出たのだ。カヌーなどなら船長たちの方が詳しいのだが現在の技術で建造出来る大型船となるとそうはいかない。生命線といっても過言ではない塩の取引に直結する問題だけにギルドの動きは早かった。さとるさんはギルドや結社の支配地にある木材や有用な新生物を調べ現在の技術でも建造可能な船の設計図を自らの手で書き上げた。

「本当に助かりました」

その船があったおかげで船長は勢力を伸ばす事が出来たそうだ。


船長は大型船を手に入れ海での絶対的な優位を確保した。ギルドは船長に協力する事でより密接な関係を築く事が出来た。結社は交易量が増え塩や海産物を安定的に手にする事が出来るようになった。

これですめば良かったのだがそうはいかなかった。


連合の存在だ。


連合は大量の奴隷を使役する国だ。奴隷が増えれば増える程一部の支配者層は豊かになる。しかし、現在の社会情勢では人口がそれほど爆発的に増える事は無い。そこで連合は他地域で奴隷狩りを行い始めたのだ。九州各地で生き残った人々を集め奴隷としそれでも足りなくて他の地域でまで奴隷狩りを行った。関門トンネルを出て奴隷狩りを行ったがすぐに周辺の集落は武装して対抗した。ギルドも依頼を受け武器の供給や戦闘訓練を行ったりした。結果、連合は手強い近場を狙うのを止め独自に船を建造し各地に出没するようになってしまったのだ。連合の存在を知らない村や武装していない村を狙い襲撃し住民を奴隷として自分達の支配地に連れ去ってしまう。そうなると連合から遠い地域でも安心出来ない。むしろ適度に遠い地域の方が狙われやすい。連合の奴隷狩りは結社の支配地にまで出没するようになった。船長たちも奴隷船とでも呼ぶべき連合の船が海にいると交易の邪魔だ。それに適度に人口がいて武装していない島は連合に狙われやすい。そこで結社と船長が共同で連合討伐への協力をギルドに依頼したのだ。ギルドとしても色々ちょっかいを出されて連合には頭を悩ませていた。三者は協力して連合を討伐する事にした。


「ギルドの方々ばかり矢面に立たせて申し訳ありません。どうも陸上での戦闘は不馴れなもので」

遠征軍が野営地としているテントで船長が頭を下げる。

「気にしないで。海上封鎖と補給を手助けしてくれてるだけでも大助かりだわ」

日に焼けてすっかり逞しくなった船長にマスターがすりよる。

「そ、そう言って頂けるとありがたいですね」

船長が少し体を反らしながら答える。

「止めなさいって」

船長にすりよるマスターの首根っこを掴んで船長を救出する。

「ありがとうございます」

船長がほっとして笑みを浮かべる。

「それで物資の搬入にはどれぐらい掛かりそうですか?」

じたばた暴れるマスターを無視して話を進める。

「すでに沖合いに停泊した大型輸送船から小舟を使い荷を降ろし始めていますので全て完了するのに二日も見ていただければいいでしょう」

「そこからここまで運ぶのには三日あれば充分だ」

船長の言葉を祥子さんが引き継ぐ。

「すると全てが完了するのが約五日後か」

食料はまだ充分にあるが鏃や槍などがこれまでの戦闘で不足してきている。連合の本拠地まで攻める事を考えるとここで無理はしたくない。

「本格的な攻撃は補給が整った六日後ね」

オレの手から逃れたマスターが全員を見回す。

「・・・そうだな」

さっきまでじたばた暴れてた人の言葉に素直に頷くのは変な気分だがそれがいいだろう。

六日もあれば砦を警戒しながらでも休養は取れるし温泉にも行ける。


「海上封鎖はお任せください」

船長が立ち上がる。


「必ず物資は無事に届ける」

連合も物資を狙ってくる可能性があるので祥子さんは物資搬入まで眠る暇も無いだろう。


「それじゃ攻撃は六日後に決定ね」

マスターの言葉に全員が頷く。



最後の砦を落とせば連合の本拠地までは一日。

そのまま一気に連合の本拠地まで落としたいところだ。


「半月もあれば終わるな」

ぽつりと呟いたオレの言葉に全員が頷く。






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