同盟編5
○妖しい格好の男がこちらに向かって手を伸ばす。
「はあっ!」
気合いとともに伸ばした男の掌から輝く光が飛んでくる。
-クソッ!
咄嗟に腕を交差させ身を庇う。
光が当たった箇所から全身に凄まじい衝撃が走る。内蔵にまで衝撃を感じ思わず膝を着く。しかしなんとか意識を繋ぎ止める。見てみると光が当たった箇所が黒く焦げている。
-驚いたが死ぬ程じゃ無いな。
頭を振りながら立ち上がるがちょっとフラフラする。
「なっ!?」
男は立ち上がったオレを驚愕の表情で見る。
「き、貴様、化け物か!?」
失礼な奴だな。一応、ちゃんと効いたぞ。
「これでおしまいか?」
男を睨みながら言うと口からちょっと煙が出た。
-うん、口の中が焦げ臭いな。
口の中の違和感を無視して男に近付いていく。
「ひぃぃ」
先程まで自信たっぷりだった男は腰を抜かし地面にへたりこんでいる。
「なにか言い残す事はあるか?」
男に問い掛けゆっくりと鉈剣を振り上げる。
「ひっ」
男の顔は真っ青になり言葉も出ないようだ。
「じゃあな!」
言い残す事も無いようなので一気に鉈剣を降り下ろす。
男の身体は頭から真っ二つになった。
「このバカッ!」
優子さんがオレの頭を叩く。
「もう!心配ばかりさせて!」
優子さんは涙ぐみながらオレの手当てをしてくれている。
光が当たった所は焦げているがそれ以外外傷は無い。しかし、内蔵にダメージを受けたようでさっきから口から煙が出る。
ふう~
面白いので口を丸めて煙を吐き出してみる。
-おっ、きれいに丸くなった。
「じっとして!」
遊んでいると優子さんに押さえ込まれた。
「痛みは無いの?」
泣きそうな顔の優子さんに聞かれる。
「全然」
さっきまで痛かったのだがすでに痛みは無い。おそらくすでに超回復が始まっているのだろう。むしろオレの腹に乗った優子さんのお尻の感触が心地よい。出産を経験してから優子さんはますます美しくなった。授乳期も終わったのでさすがに胸は小さくなったが肢体のまろやかさは増している。
「やんっ」
手が寂しいので優子さんの太ももを撫でる。どうやら太ももはセーフらしく手を払いのけられない。調子に乗って触ったり撫でたり揉んだりしてみる。
-気持ちいいなぁ。
「真人、口開けて!」
言葉と同時に優子さんが口に手を突っ込んでくる。
「んがっ」
優子さんはオレの口を強引に拡げ口の中をまさぐっている。
「んがっんがっ」
-痛いんですけど!
口の中を縦横無尽にまさぐっていた優子さんの手がようやく離れる。
-さっきのよりダメージがあったかもしれない。
顎を撫でながら優子さんの手を見るとなにか黒い皮を持っている。
「もう再生が始まってるみたい」
どうやらオレの口の中の皮らしい。
「もう!あんまり心配させないで」
安心して力が抜けたのか、優子さんがオレに覆い被さる。オレは優子さんを抱き締めその頭を撫でる。
「大丈夫だよ。肉体が半分も残れば再生は出来る」
オレがそう言った瞬間、優子さんの眉がピクリと動く。
優子さんは軽く頭を振ってオレの手から逃れゆっくりと起き上がる。そうしてオレの瞳をじっと覗き込む。
「今度そんなバカな事言ったら私がその肉体をバラバラに引き裂くわよ」
冷たい瞳でそう言うと優子さんはオレの肉体の上から降りた。
「ゆ、優子さんどちらへ?」
恐る恐る優子さんに問い掛ける。
「お薬取ってくるの!」
優子さんは荒々しく足音を立てて歩き去った。
-心配してた人にあんな事言えば怒るに決まってるじゃないですか。
頭の中にハルカの呆れたような声が響く。
-呆れたようなじゃなく本当に呆れているんです!
脳内でハルカに怒鳴られる。
オレたちは今、九州に来ている。
ギルドと結社が正式に同盟を組んで三年の月日が流れた。その間には様々な事があった。ギルドと結社の同盟を嫌う者たちによる大規模なテロ計画。ハルカを狙った暗殺計画。ギルドの分裂を狙った破壊工作。どれも事前に察知して叩き潰す事が出来たがどれかが成功していたらやばかっただろう。
それら一連の計画の背後には九州で発生した組織、連合の影が見え隠れしていた。これまでは九州という遠隔地と関門トンネルを押さえられていた事からなかなか反撃出来なかったが先日ギルドと結社の連合軍が関門トンネルを奪取した事で反撃が開始された。
出来れば国家間の対立にギルドは介入したく無かったのだが連合の狙いのひとつがギルドである以上そうも言っていられない。
-彼らもバカですよねぇ。りくちゃんを狙うなんて・・・
少し機嫌の直ったハルカが脳内で語りかける。
りくとはオレと優子さんの間に生まれた女の子だ。
連合は事もあろうにオレたちの娘を狙ってきたのだ。これまでの事は立場の違いなどから何とか許す事も出来るが愛娘を狙われては許す事は出来ない。
りくを拐おうとした者が連合の人間であった事からオレは根本を潰す事にした。
「真人さ~ん、大丈夫ですかぁ?」
優子さんに連れられて香織さんが走ってくる。
「大丈夫だ!」
寝転がっていたオレは身体を起こし香織さんに手を振る。
先程まで焦げていた腕は既に新しい表皮に覆われ再生している。
「はぁ、心配させないでください」
走り寄ってきた香織さんがオレに抱き付く。
「香織、甘やかしちゃだめだよ。どうせ、またバカやるんだから!」
優子さんはまだ怒っているようだ。怖い顔でオレを睨んでいる。
どうも優子さんは出産してから迫力が増したような気がするな。
外見的には以前より若々しいぐらいでとても一児の母には見えないのだが。
「反省してるよ」
優子さんに手を伸ばし抱き寄せる。
「信用しないもん」
抱き寄せられた優子さんはオレの顔を見ようとしない。
「マスターは?」
「さっき落とした砦を確認しています」
オレに抱き付いたまま香織さんが答える。
オレに優子さんに香織さん、それにマスターや玲子など今回の作戦にはギルドの主戦力がほぼ全員参加している。昨年、二代目のギルド長に就任したさとるさんの本気度が伺える布陣だ。オレたちは九州に上陸して既に複数の砦を落としている。先程の呪術師はさっき落とした砦、最後の生き残りだ。出来れば生け捕りにしたかったのだがああも抵抗されては仕方ない。それに呪術師は厄介な人種だ。なんの触媒や発動体も必要とせずに術を遣う。
しかし、不思議な物だな。関東には大きく変異した者も変異体も少ないが新生物が多い。関西は変異者も変異体も新生物も多いが呪術師は極めて少ない。一方、九州では変異者は多いが変異体や新生物は少ない。しかし、他の地域に比べ呪術師が極端に多いようだ。関東では稀、関西では極稀な呪術師なのだが九州では良く出会う。まぁ、大抵連合の人間なので倒すしか無いんだが・・・
「玲子はなにしてる?」
「玲子ちゃんは補給部隊を迎えに行きました」
今回、前線に立つのは基本的に戦い慣れたギルドのメンバーが多い。その代わり結社は今回の遠征の食料などの多くを負担してくれている。結社の領域には有用な新生物が多いのでギルドもかなり助かっている。彼らの協力無しでは九州まで遠征する事は不可能だっただろう。
「そっか。祥子さんたちを迎えに行ったのか」
ちなみに補給部隊は祥子さんが率いている。真面目な彼女なら安心だ。
-ふむ、それならしばらくこっちに来る心配は無いな。
-あっ!私はこれで失礼しますね。
なにかを察したハルカが慌ててオレとのアクセスを切る。
「もう!おバカ!」
優子さんがオレの頭を叩く。
「ごめんなさい」
思わず手加減を忘れたオレは香織さんを思いきり攻めてしまった。
結果、香織さんは失神して今も意識が回復しない。
「やり過ぎ!」
優子さんがぷりぷり怒りながら香織さんに服を着せていく。
「香織さん、大丈夫だよね?」
時おり痙攣してるけど?
「あっ、それは大丈夫。香織も真人に完璧に馴染んでるもん」
ほっ
「でも、これはやり過ぎ!ここは敵地なんだからね!」
「はい。反省してます」
「こんなとこ襲撃でもされたらどうするの!」
「ごもっともです」
完全にオレが悪いので平身低頭詫びる。
結局、意識は回復したが歩けない香織さんを背負って陥落させた砦まで戻る。
しばらくはあそこで補給を受け進軍ルートを確認する予定の筈だ。
「えらく遅かったわね」
砦ではマスターが待っていてくれた。
「え~っと、あの生き残りの呪術師がちょっと手強くてね」
マスターがオレの顔をじっと見つめる。
「はあぁ、まぁ無事ならいいわ。香織ちゃんはちょっと無事じゃないみたいだけどね」
大きなため息をついたマスターが香織さんに向かって笑いかける。
「後、砦はどれぐらい?」
優子さんと香織さんを先に休ませマスターたちと話し合う。
「予定では後二つ砦を落とせば連合の本拠地よ」
連合は九州各地に砦を築き人々をかかなり高圧的に支配している。
「後、二つか」
これまでと同程度の砦なら落とす事は可能だろう。
「それ以上、補給路が延びるとこちらもキツくなるな」
補給部隊の責任者である祥子さんが眉をしかめる。
「まぁ、住民が協力的なのが救いね」
高圧的な支配を続ける連合は地元民から嫌われている場合が多くギルドや結社に対して住民はかなり好意的だ。
「奴等が本拠地を捨てて逃げる可能性は無いんだからなんとかなるだろう」
遠征しているオレたちにとっては連合が本拠地をより奥地に移動させられるのがなによりキツい。
しかし、それは不可能だ。
「連合の本拠地にはハルカの同類がいるからな」




