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崩壊した世界でみんなで楽しく生きていく〜サバイバル〜  作者: 伊右衛門


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同盟編4

○オレは現在ギルド本部から少し離れた村に来ている。

何でも数日前から数人の住人が帰ってこないそうだ。

それを心配した村長がギルドに住人の捜索依頼を出した。


「それで彼らは何日帰ってないんです?」

依頼内容は本部で美咲ちゃんから説明されているが最新の情報が欲しい。

「今日で五日目になります」

・・・五日間か。

村長の話では行方不明の住人は簡単な武装ぐらいはしていたらしいが五日間は危険だな。

「彼らはなぜ村を離れたんです?」

ギルド本部周辺はそれなりに安全だがそれでも一般の住民が村を離れるのは珍しい。

「その・・・ペットボトルを探していたらしいです」

「あ~、なるほど」

一緒に来ている玲子が納得したように頷く。 


ペットボトル探しはギルドが近隣集落にお願いしている仕事だ。

結社との正式な同盟締結以降、塩の交易量が爆発的に増えた。その際問題になったのは塩を入れる容器だ。最初は素焼きの陶器などで輸送していたのだが陶器ではちょっとした衝撃で割れてしまうし密閉出来ないので湿気を吸ってしまう。それに陶器自体も重く長距離輸送には不向きだった。

そこで塩の容器として注目されたのがペットボトルだ。軽く衝撃に強く密閉出来る。

輸送には最適なのだがペットボトルを製造する技術は失われもはや復活する事は無いだろう。かつては世界中に溢れゴミとして問題になっていたのだが今では貴重な品だ。

そこでギルドでは近隣の集落にペットボトルの回収をお願いした。完品(本体と蓋が同一の物)なら重量の半分の塩を支払う。不完品(本体と蓋が別の物)なら重量の5分の1の塩。パーツ(本体だけや蓋だけ)でも重量の10分の1の塩が支払われる。なんでも農閑期の副業としてはかなり好評らしい。大人が一日探せばそれなりのペットボトルが見つかるし未盗掘の倉庫などを発見すれば大量のペットボトルが見つかる。幸運に恵まれ大量の塩を手にした人もいるそうだ。


「どうも誰も入っていない倉庫を見つけたらしく・・・」

「場所は分かりますか?」

「いえ、分かりません」

-そりゃそうか。せっかく見つけた倉庫を言い廻る訳無いな。

「妊娠した若夫婦がいるので何とか助け出して下さい」

村長が頭を下げる。


優子さんが順調に妊娠している事や集落の人が無事出産した事で現在ギルド周辺ではベビーラッシュが訪れようとしている。

-まぁ、娯楽の少ないご時世だしな。

あれは健康な肉体とやや不健全な精神があれば誰でも楽しめるお手軽な娯楽とも言える。しかも楽しいだけでは無く頑張れば幸せにもなれる最高の娯楽だ。

-なんとか無事でいてくれればいいが・・・


村長と別れオレたちは今後の方針を確認する。

「村を中心に円を描くように探していくしかないな」

そうすれば足跡などの痕跡を見つけられるだろう。

「ねぇ、アニキまだ無事だと思う?」

五日間・・・正直、状況はかなり厳しい。

この村周辺にもまだまだゴブリンは巣食っているしそれ以外の変異体も存在する。

なんの訓練も受けていない素人が生き延びるのはかなり難しい。


「まだ望みはある」

だが逆に言えばまだ五日しか経っていないのだ。堅固な建物などに閉じこもっていれば生きている可能性はある。

「おまえの鼻が頼りだ。がんばってくれ」

玲子の頭を乱暴に撫でる。

「うん!」

玲子がぐしゃぐしゃの頭のまま気合いを入れる。


先頭を歩く玲子の後ろをオレが歩く。


今回の依頼はオレと玲子の二人でこなさなくてはいけない。本来四人一組フォーマンセルでの活動がギルドの基本なのだが結社との正式な同盟以降ギルドは空前の人手不足だ。各地での支部設立の準備。島との交易の拡大。ゴブリンなどの変異体の駆除。あちこちに出現する新生物の調査。各地への塩の輸送などなど。活動範囲が増えた分やらなくてはいけない事が一気に増えた。新人を募集して訓練をしているのだが仕事に人員がまったく追い付いていない状態が続いている。


結社本部から帰ってからさとるさんはほとんど執務室から出てくる事は無い。たまに本部内で見かけるがその姿はどんどんやつれていっている。マスターはギルド本部に帰る途中で支部に戻り田中さんと新しい支部設立の為に働いているし香織さんも昨日から別の依頼で働いている。藤井くんや佐藤くんはギルド本部と支部、結社間を何度も往復して新しい支部設立の準備をしている。妊娠中の優子さんもギルド長であり医師である大先生の手伝いをしている。さくやさんや京子さんは島や各集落に出掛け電力の復旧を行っている。

誰もが複数の仕事を抱え全力で働いている状態だ。その為戦闘力が高く能力の相性がいいオレと玲子に限り二人一組ツーマンセルでの活動が認めらている。


「アニキ!」

先頭を歩いていた玲子がオレを呼ぶ。ぬかるんだ地面に小さな足跡がいくつもついている。サイズは20センチ前後で靴は履いておらず素足の足跡だ。


「・・・ゴブリンだな」

ぐちゃぐちゃになっているので判別しにくいがかなり大きな群れのようだ。


詳しい理由は不明なのだがゴブリンには積極的に人間を狙う習性がある。肉食獣が食料として狙う獲物は自身の体重より小さい獲物である事が一般的だ。トロールなどが人間を狙うのは理解出来る。大型の肉食獣である彼らにとって鈍く弱くそれなりに肉付きのいい人間は手頃な獲物だろう。しかし、ゴブリンにはそうでは無い。自身より大きく強い人間は狙うにはリスクが高い獲物の筈だ。それなのにゴブリンは人間を狙いたがる。それにこれまでの例から彼らは襲った人間を必ずしも食べる訳では無い。ただ人間を襲いただ人間を殺すだけの事も多い。まるで人間を怨んででもいるかのように・・・

ゴブリンは低いとはいえ知能があるので武装した人間や集団になった人間は狙わないのだが自分たちの群れより少数なら確実に狙われる。

「まずいな」

-あまり良くない未来が想像出来てしまう。


オレと玲子はそのままゴブリンの足跡を追った。


山中では日が落ちるのが早い。あっという間に周囲が暗くなる。しかし、オレと玲子はそのまま捜索を続行した。ライカンスロープの玲子は感覚が鋭いしオレもかなり夜目が効く。星明かりだけだがなんとか追跡出来るだろう。


不意に早足で歩いていた玲子が立ち止まる。そのままじっと立ち止まり耳を澄ましている。何かを発見したようだ。玲子がゆっくりと振り返りオレの目を見る。

そこからはお互いに無言で静かに歩を進める。一時間ほど歩いただろうか。オレの耳にも物音が聞こえてきた。


「ギャッギャッ」

「グア、グア」


ゴブリンどもの鳴き声だ。

玲子と頷き合い声のする方へ向かう。


森の小さな広場でゴブリンどもが騒いでいる。奴等は広場の中心に立つ太い木に向かって石や枝を投げて喜んでいるようだ。

-遊んでいるのか?

オレはじっと目を凝らす。


-違う!

木に人間たちが縛り付けられている!


「行くぞ!玲子!」

「アニキ!」

オレと玲子は立ち上がり広場に向かって全速力で走り出す。

玲子は走りながら獣化していく。


「ガアァ!」

獣化した玲子が奴等の注意を引く為に咆哮をあげる。それを聞いたゴブリンどもが慌てて武器を拾い上げる。襲った人間から奪ったのだろう。

ゴブリンが振り上げる槍を無視してそのまま突っ込む。

「槍は突くんだよ!」

オレは手にした鉈剣を横に振るう。鉈剣はゴブリンの側頭部に当たり頭部を両断する。湿った音を立ててゴブリンの小さな脳みそが頭蓋骨から飛び散る。右から振るった鉈剣の重量を利用してそのまま体を移動させる。移動した先にいたゴブリンに向かい鉈剣を振り上げる。勢いのついた鉈剣に当たったゴブリンは胴体を切り裂かれながら吹き飛んでいく。


「玲子!先に住人たちを助けろ!」

玲子の前にいたゴブリンを鉈剣の背でぶん殴る。分厚い鉈剣で殴られたゴブリンの頭部がへこむ。

「了解!」

玲子がゴブリンたちの間を素早くすり抜け木に向かう。

ゴブリンどもを蹴散らし捕らわれていた住人たちと玲子を背に庇う。

オレたちの突入に慌てていたゴブリンたちが武器を手にオレたちを囲み始める。

「ギャッ!ギャッ!」

「グワッ!グワッ!」

不愉快な声で威嚇しているようだ。普通なら臆病なゴブリンは襲われれば逃げ出す筈だ。それなのにこいつらは逃げ出さない。


「ちっ、こいつら人を襲い慣れてやがる」

これまでも森に迷い込んだ人間を襲ってきたのだろう。

群れの総数は50頭前後。ゴブリンとしてはほぼ最大規模の群れだ。

「まっ、その方が都合がいいんだけどな!」

逃げるゴブリンを追うのは手間がかかる。囲んでくれるのならかえって好都合だ。

「おまえら皆殺しにしてやるよ」


鉈剣を振るいながらゴブリンの群れに突っ込む。分厚く重い鉈剣は乱戦向きの武器だ。刃に当たらなくてもその重量で相手を充分に殺す事が出来る。

鉈剣でゴブリンを切り裂き叩き潰す。鉈剣を振り戻すのが面倒な時はそのまま拳でゴブリンを殴り殺し足で踏み潰す。

「一匹も逃がさねえぞ!」

住人たちの近くには玲子がいるので危険は無い。オレは住人たちを玲子に任せゴブリンの群れを蹂躙する。


静かな森の広場はゴブリンどもの肉片と臓物で溢れている。さすがに半数ほどを倒すとゴブリンたちは逃げようとしたが足の遅いゴブリンがオレから逃げられる訳が無い。オレは逃げるゴブリンを追い回し殺していった。そしてオレは宣言通りゴブリンを全滅させた。


「アニキ~」

獣化を解いた玲子が泣きそうな顔でオレを見る。いや、泣きそうな顔では無い。その瞳には涙が滲んでいる。

獣化を解いた玲子の膝には一人の男性が乗せられている。

「おいっ!」

「あなたっ!」

玲子の膝に乗った男性に解放された住人がすがり付く。すがり付く住人もぼろぼろになっているが玲子の膝に乗せられた男性は一際酷い有り様だ。おそらくゴブリンどもの群れの正面に位置していたのだろう。投げつけられた石で顔面が腫れ上がっている。

「クソどもめ!」

男性の顔を見て悟る。ゴブリンどもは男性の顔を的に石を投げて遊んでいたのだ。


「あなたっ!あなたっ!」

ぼろぼろの女性が男性を揺さぶる。男性の妻だろう。


「少し見せてくれ」

ぼろぼろの女性をそっと退ける。


「彼は!彼は助かりますか!」

女性にすがり付かれながら男性の頭部を触る。


-ちっ。

触った箇所が柔らかい。頭蓋骨が砕けている。全力で投げられた石は充分な殺傷力を持っている。それをこの男性は浴び続けたのだ。50頭のゴブリンが投げる石を・・・


-おいっ!ハルカ!聞こえるか!

脳内でハルカを呼び出す。


-聞こえています。

ハルカの場違いな程静かな声が脳内に響く。


-彼は助かるか?


-・・・


-答えろ!ハルカ!


-残念ですが・・・


-クソッ!なんとかならないのか!?


-すでに脳にまでダメージがあります。現在の医療技術では、いえ、かつての水準でも助ける事は不可能です。


ハルカが静かに答える。


振り向いたオレの表情を見て全てを悟ったのだろう。すがり付いていた女性が泣き崩れる。

「いやぁぁぁぁあああっ!」

女性の絶叫が森に響いた。


「・・・ううぅ・・おま・・・え・・・」

玲子の膝に乗った男性が腫れ上がった口を微かに動かす。


「あなたっ!あなたっ!」

女性が男性を抱き締める。


「・・・こ・・・ど・・・もは・・・?」

男性の手が弱々しく伸ばされる。

「だ、大丈夫!大丈夫よ!あなたっ!」

男性の手を掴んで女性が自分のお腹を触らせる。

まだ膨らんでもいないがそこに彼らのかけがえの無い命が宿っているのだろう。


「・・・お・・・おき・・く・・なっ・・・た・・なぁ」

男性の手は女性のお腹では無く宙をさ迷っている。

「あなた?」

男性の瞳は既に女性を写していないようだ。


-意識が混濁しているのです。彼はもう・・・

ハルカがオレにそっと教えてくれる。


がっ!

オレは咄嗟に女性の手を掴み彼の手を握らせる。

女性の手が男性の手をしっかりと握ったのを見てオレは男性の耳元で囁く。


「大丈夫だ。立派な子が無事に生まれた」


「アニキ?」

余計な事を言わないように玲子を視線で制する。


「そ・・う・・・・か・・・ぁ・・・・ど・・・っ・・ち・・だ・・?」


「・・・あなたにそっくりの男の子よ!」

女性が泣きながら叫ぶ。


「・・・お・・・とこ・・・か・・・」

「ええっ、元気な男の子よ!」

女性が男性の胸に顔をうずめる。


「・・・つ・・・ぎは・・・お・・ん・・・・・な・・・・・・の・・・・こ・・・・・が・・・・・・・」


その続きは男性の口から語られる事は無かった。


「あっ・・・あっ・・・あぁぁぁぁあああ!」

女性が男性を強く抱き締めて号泣する。


オレはその二人を静かに眺めた。


腫れ上がっていたが男性の顔は笑っているようにオレには見えた。



オレと玲子は助け出した住人たちを村まで送って行った。

男性の遺体はあの広場から少し離れた丘に埋葬してきた。



「ありがとうございました」

泣き腫らした目で女性はオレたちに礼を言った。その手には男性の遺髪が握られている。

「あの人との約束通り元気な男の子を産んでみせます」

女性は自分のお腹をそっと撫でている。

「なにかあればいつでもギルドに来てね」

自分も涙ぐんだ目で玲子が女性を抱き締める。

「はい」


数は減ったとはいえゴブリンなどに襲われ死んでいく人たちは確実に存在する。今回の件もそういった不幸な事例のひとつなのだがかなり堪えた。


暗い気分のまま本部にたどり着く。


へこみまくった玲子を自室に戻らせ一人で本部での報告を終え執務室を出ると優子さんと香織さんが待っていた。


「お疲れさまでした」

「ご苦労様でした」

二人がオレを抱き締める。

耳のいい優子さんには執務室で行った報告が全て聞こえたのだろう。瞳が潤んでいる。

香織さんも優子さんから事情を聞いたのか形のいい鼻が赤くなっている。


そんな二人を両腕で強く抱き締める。

「ただいま」







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