調査編9
○「まぁ、なんでこんなに遅くなったかは聞かないであげるわ」
途中まで迎えに来てくれていたマスターが苦笑する。
優子さんと香織さんを無事救出出来たのだが盛り上がってしまいすっかり遅くなってしまった。
「それで二人とも大丈夫なの?」
不安そうな表情でマスターが優子さんと香織さんに語りかける。
「うん、私たちは二人とも大丈夫。足腰が立たないのは真人のせい!」
「なんだか、まだ下半身の感覚がおかしいです」
オレの肩に乗った二人がマスターに笑って手を振る。
二人ともオレの双角に掴まっているので肩の上でも安心だ。
-意外なとこで役に立ったな、これ。
「はぁ~、心配して損したわ。それで例のコウモリ君は?」
やや呆れた表情でマスターが聞く。
「あっ、そうだ!マスター、これ見てよ」
オレは懐から袋を取り出す。
「なぁに、これ?」
袋を受け取ったマスターが中を確かめる。
「・・・ミミズのミイラ?」
袋の中には干からびたミミズのような物が入っている。
「いや、あのコウモリ男の死体から出てきた」
あの後、優子さんも香織さんも限界に達した為、オレはコウモリ男を埋葬した。こんなやつだが、一応ハルカの兄だ。埋めるぐらいはしてやろう。
優子さんと香織さんはオレが作ったお風呂でまったりというかぐったりしている。
「う~、死ぬかと思った」
「わたしはもう限界です。優子さん、後はよろしくお願いします」
「か、香織!しっかりして!」
「あっ、きれいなお花畑が・・・」
「そっちに行っちゃだめ!」
-大丈夫かな?
穴を掘りながら後ろを見てみるとお湯の中に沈みそうになった香織さんを優子さんが必死に引っ張っている。
「香織!目を覚ましなさい!眠っちゃだめ!」
慌てた優子さんが香織さんのほっぺをぴしぴしひっぱたく。
「ゆ、優子さん痛いです!冗談ですから叩かないでください」
「香織~!」
「いや~!沈めないで!」
-うん、大丈夫だな。
楽しげに(?)じゃれあう二人は放っておいて穴掘りを再開する。
-思えばこいつも残念なヤツだったな。
せっかくの飛行能力を使って明るく楽しく生きればよかったのに。
妙な野心を持ったばかりにこのざまだ。
オレはヤツの死体の腕を持って穴に放り込もうとした。
-ん?
ヤツの死体がまだ温かい。
死んでからかなりの時間が経っているのだが?
確認してみるが心臓は止まっているし頭部は完全に潰れている。
-これで生きてる筈は無いな。
しかし、万が一という事もある。
・・・オレは念の為にヤツの死体を調べる事にした。
振り返って二人の様子を確認する。
二人ともはしゃぎ疲れたのか湯船にもたれてぐったりしている。
そんな二人を微笑ましく思いながらヤツの死体をオレの身体で二人の視線から隠す。
持ってきたナイフでヤツの腹部を切り裂く。
ちょっとグロいがこれまで狩った獲物の事を思い出して各臓器を確かめる。
腹腔内は血塗れになっている。オレがぶちこんだ石で腸が破れたのだろう。
-う~ん、動いてる臓器は無いな。
オレはそのまま胸骨を切り開く。
バキッ
乾いた音を立てて肋骨がへし折れる。
胸部を確認するが生きてる気配は無い。
もし死んだふりをしていたとしても腹を切り裂かれて無反応というのは不可能だろう。
-気のせいだったか?
オレは持っていたナイフでヤツの心臓を突っつく。
-んん?
心臓を突っついていたナイフに微かな振動を感じる。
慎重にナイフを動かしヤツの心臓を切り裂く。
-これはなんだ?
ヤツの心臓の内部にはなにか紐のようなモノが蠢いている。
-これが振動の元か?
こんなモノは見た事が無い。
-寄生虫か?
よくは知らないが心臓に寄生するムシだろうか?
-気をつけてください。
唐突に脳内でハルカの声が響く。
-おまえ!いつから接続してるんだ!?
オレにはハルカが接続した感覚が無かったぞ。
ハルカめ、勝手に接続しやがったな。
-・・・ついさっきです。
脳内でハルカが小さく呟く。
-嘘つけ!
-・・・オトナってスゴいんですね。
ポッとハルカの顔が赤く染まったのがナゼか分かった。
-お前なぁ~
なにがプライバシーは守るだ。
完全なプライバシーの侵害じゃないか!
-まぁまぁ、あなたが心配だったんですよ。可愛いでしょ?
ハルカのいたずらっぽい声にがっくりと全身から力が抜ける。
-その件は後で話し合おう。それでこれはなんだ?
-私も見た事はありませんが、おそらく私があなたに埋め込んだモノと同様のモノでしょう。
-・・・こんなに気持ち悪いのをオレに埋め込んだのか?
-私のはもっとこう清楚な感じです!
-清楚な感じってなんだよ!?
清楚な寄生虫って!?
-とにかくそれはまだ生きてます。注意してください。
-どうすればいい?
-引きずり出して頭部を潰せば多分、大丈夫です。
-・・・多分ね。
ハルカの指示に従って心臓から寄生虫を慎重に引きずり出す。
動きはトロいが確かにまだ生きている。
-頭部?これか?
寄生虫の少し膨らんだ部分を指で潰す。
そこを潰した途端、寄生虫がうねうねと暴れて静かになる。
-死んだのか?
-はい。
-素手で触って大丈夫だったのか?これ。
まさかと思うがオレに寄生したりしないよな?
-それは大丈夫です。あなたにはすでに私が寄生してますので!
ハルカのドヤ顔が脳内に浮かぶ。
-そっか。それは安心だ。
・・・安心していいのだろうか?
-それでこれはなんだ?
静かになった寄生虫をぷらぷら振る。
-おそらく、私と同様の進化をした者が埋め込んだのでしょう。
-お前と同様の変異をした者がいるのか?
-変異・・・進化と言ってもらえません?
オレの言葉に遥が少し拗ねる。
これって進化なのか?
-・・・お前と同様の進化をした者がいるのか?
-世界の奥底で私にアクセスしようとする存在があります。
-世界の奥底。以前、言っていた集合意識とか言うやつか。
-はい。
-その世界の奥底って具体的には何なんだ?
-説明するのは難しいんですが全ては繋がっているんです。
-??説明になってないな。
-すいません。感覚的なモノなので言葉にするのが難しいんです。
-まぁ、いい。そいつがお前の兄貴が言ってた組織の新しい神か?
-おそらくは・・・
-なぜ、オレを狙う?
-それは分かりませんがあなたは一部では有名なのです。
-一部?
-はい。私たちのように世界にアクセスしたモノからすればあなたは脅威になります。
-なぜ?
-あなたは私たちの対極に位置する存在です。
-そうなのか?
自分では分からないが?
-あなたは私たちにとって天敵のような存在なんです。
-天敵?
ハルカの説明によるとハルカのような進化をしたモノは精神的、知能的に極めて高度に発達する反面肉体的には弱点が生まれる。
脳が巨大化する為、自由に移動する事が出来ないのだ。
もちろん、肉体的に脆弱という訳では無いので普通なら自衛出来るのだが、オレのように極端に肉体的が進化した存在が相手だと危ないらしい。
-そうするとアキラも有名なのか?
アキラもオレと同様の変異をしている筈だ。
-いえ、彼はあなたとは違う存在です。
-そうなのか?
同族と思っていたんだが違うらしい。
-あなたと同様の進化をした存在は極めて少数です。
-オレ一人では無いんだな。
一人っきりなのはなんかさびしいぞ。
-はい。あなたの近くではあなたがゴンと呼ぶ存在が同族です。
-ゴンが!
-幼かった彼が生き延びたのもそれが理由だと思われます。
-そっかぁ。でも、そうするとゴンも狙われてるのか?
-いえ、彼はまだ幼く弱い存在の為、感知されていません。私もあなたから情報を得て知っただけです。
ひとまず安心していいようだ。
-ハルカ。お前のような存在は何人ぐらいいるんだ?
-私と同程度に進化した存在は4体います。
-全員がオレを狙っているのか?
それだと今後の行動を考えないといけないな。
もちろん、優子さんや香織さんと危険だから別れるなんて選択はオレには無いのでその4体、ハルカを除いて3体を倒さなくてはいけない。
-分かりません。可能性としてはあなたと敵対するより友好関係を結ぶ事を選ぶと思いますが未確定です。
-世界の奥底とやらでそいつらの事を調べられるか?
-・・・難しいですがやってみます。
-頼む。
敵対するにしても友好関係を結ぶにしても相手の情報が必要だ。
もし相手が敵対しようとするのなら早めに潰しに行こう。
その方がゴンも安全だしな。
ハルカと脳内で会話しながらコウモリ男を埋める。
-悪かったな。お前の兄貴の事。
優子さんと香織さんに手を出した時点で許すつもりは無かったがハルカの兄貴には違いない。
-反省も後悔もしていないが一応詫びておく。
-いえ、彼が自分で選択して行動した結果です。むしろ止められずにすいませんでした。
冷たいようだがコウモリ男は充分に大人といっていい年齢だった。
自分で判断し行動した以上その結果は自分で受け止めるしか無いのだ。
それがどんな結果であろうと・・・
オレもあちこちで盗賊を倒したりして恨みを買っているだろう。
優子さんと香織さんの安全にはこれまで以上に気をつけよう。
「真人~!一緒に入ろ!」
「真人さ~ん!助けてくださ~い!」
振り返るとさっきのお仕置きだろうか優子さんが香織さんにのしかかっている。
「優子さん、ちょっと重いですよ」
「香織、なにか言った?」
「いえ、なにも言ってません」
慌てて香織さんが視線を逸らす。
この二人に手出しする者は断じて許さない。
たとえ相手が神であっても・・・
「ねえ、真人、これなに?」
湯船に戻ったオレの双角を優子さんがつつく。
「あっ、わたしも気になってました」
香織さんも興味深そうに双角を触る。
「話すと長いんだけど・・・」
オレは東京であった事を二人に説明した。
「ふ~ん、そのハルカちゃんのプレゼント(?)なんだ」
「まぁ、そんな感じかな?」
優子さんは双角の付け根を指でなぞってる。
ちょっとくすぐったい。
「痛くは無いんですか?」
香織さんが不安そうに双角を見る。
「あぁ、痛みは全く無いよ」
オレの言葉に香織さんも安心したようだ。
「怖がらせたかな?」
はっきり言って双角が生えたオレはかなり凶悪な顔だ。
「ううん、かっこいいよ!」
「驚きましたけど似合ってます!」
二人が両側から抱き付いてくる。
「ありがとう」
良かった。二人が怖がらないかだけが心配だったんだ。
しかし、二人ともそんなに強く抱き締めると・・・
「あっ、も、もう無理だからね!」
「わ、わたしもこれ以上は壊れます!」
慌てて二人がオレから離れる。
「ふっふっふっ」
オレは笑顔で二人に迫る。
「ま、真人、その笑顔は怖いよ」
「だ、だめです!真人さん落ち着いてください!」
湯船の中で離れていく二人をじりじり追い詰める。
「これ以上はのぼせちゃうしあがろっか?香織」
「そうですね。ちょっと入りすぎましたね」
然り気無く二人が湯船を出る。
「待った!」
オレは湯船から出ていく二人をがっちり捕まえる。
「みんなも心配してるよ!」
「そうです!早く戻らないと!」
二人がオレを押し止める。
「ね、真人」
「帰ってゆっくり休んでからという事で」
優子さんと香織さんがにっこり笑う。
「な~にも聞こえない!」
それを無視してオレは二人を引き寄せる。
そのままオレは二人を抱き締めた。
「きゃぁ~!」
「いやぁ~!」
二人の悲鳴が荒野に響き渡った。
-やっぱり。オトナってスゴい・・・
オレの脳内に誰かの呟きが聞こえたような気がした。
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