調査編7
○翌日、オレたちは街に戻り結社と仮の同盟を結んだ。
とりあえず、この同盟で結社の勢力範囲内でのギルドメンバーの活動が許された。
代わりにギルドは結社の依頼を優先的に受ける事になる。
まぁ、一応依頼料は払ってくれるそうなのでギルドに損は無いだろう。
むしろ、問題はオレの額から生えた二本の角だ。
一応、口止めはしといたが、ハルカに取り込まれて出てきたら謎の角が生えていたのだ。これを関連付けないやつはいないだろう。
-どう考えても急進派を挑発してるとしか思えないよなぁ~
ふらりとやって来た謎の男が自分達の信望する存在にあっさり認められたのだ。
認められたくても認められなかった者たちからすれば面白い訳が無い。
特にあのコウモリ男とかは・・・
オレたちは一度ギルド本部に戻り結社との正式な同盟を検討する事になる。
結社は結社でギルド法の受け入れが可能かを検討する事になる。
ここからはお互いの意見をぶつけ合い妥協点を探る作業になる。
そこまで高度な作業になるとオレたちの手に余る。
おそらく今度はさとるさんを伴ってこの街に来る事になるだろう。
・・・無事、オレたちが本部に戻れればだが。
「んじゃ、行きますか」
「・・・お願いします」
オレの声に答えたのは鋭い目をした女性だ。
彼女は今回、ギルド本部に戻るオレたちに同行する事になった結社側の人間だ。
身長は180センチ強と女性にしては長身だが肉体は細く引き締まっている。
名前は祥子というそうだ。
結社の人間でギルドをその目で見た事のある人間は少ない。
それで今回、本部に戻るオレたちに彼女が同行する事になったのだ。
祥子さんは結社の若手の中ではずば抜けて優秀な人物らしい。
「本当にいいのか?結構危ない旅になると思うが?」
オレが聞くと祥子さんは自分の腰に差した剣を触ってオレを睨んだ。
「自分の身ぐらいなら自分で守れます」
オレの目を見ながらきっぱりと言い放つ。
祥子さんの身のこなしや足捌きを見ればかなりデキる人間なのは理解出来る。
自分の身は自分で守ると言ってる事だし、まぁいいか。
「それではよろしく頼むよ」
見送りに来てくれていた議長に軽く手を振ってオレたちは帰還の途についた。
オレたち一行はひとまず案内役を勤めてくれた男の村に向かう事にした。
-まさか、結社と同盟を組むとは思わなかったな。
案内人の村に着いたオレたちはこれまでの経緯を説明した。
ギルドと結社が仮とはいえ同盟を組んだ事に彼は驚いたようだが、今後、ギルドが結社に協力する事で村が安全になるのならと彼は同盟を前向きに捉えてくれた。
その日は村に泊めてもらい、翌日早くに出発する。
「結社に加盟させておきながら充分に守る事も出来ないなんて」
祥子さんが悔しそうに呟く。
「結社ではこれ以上範囲を拡げず、今は内部を固める方針が出ているのですが・・・」
本部の方針を無視して無理な勧誘をしてるやつがいるみたいだ。おそらく、コウモリ男やその同調者だろうけど。
現在の結社のやり方では加盟する村が増える度に人手が必要になってしまう。
戦える人間は貴重だし、簡単に育てる事も難しい。
「今、結社でも重要なポイントに砦を建設する計画を練っているんですが・・・」
かつての警察署のような感じだな。
だが、それにも問題がある。
かつての平和な世界と違い、今は凶悪な盗賊もいるし変異体もいる。
なにより通信システムと高速での移動手段が失われている。
通報も出来ないし通報されても駆け付ける事が出来ない。
「ある程度、治安が回復しなくては実現は難しいですね」
むしろ、ギルドのように自由に各集落を回れる存在の方が有効かもしれないな。
オレたちはそれからも旅を続ける。
最初は緊張していた祥子さんも旅を続ける内に少しずつ打ち解けていった。
さすがに祥子さんは結社でも優秀な人物なだけあって何でもそつなくこなす。
料理も見張りも戦闘も・・・
「毎日のように盗賊や変異体に会うんですね!」
「いや、オレに言われても・・・それに毎日は言い過ぎだな」
「昨日は会ってないわよ」
オレたちは現在、盗賊の襲撃を受けている。
「何人だ?」
隣にいる玲子に聞いてみる。
「ん~、たくさんって程じゃ無いけど少なくも無いかな?」
え~い、子供のような数え方をしやがって。
「20人程度だと思います」
慌てて藤井くんが玲子のフォローをする。
いつも苦労を掛けるね。
「まぁ、平均的ね」
「うん、普通だな」
盗賊たちが矢を射かけてくる。
しかし、竹を利用した簡単な弓なので威力が無く簡単に打ち払う事が出来る。
飛んでくる矢も簡単な金属の破片をくくりつけただけの粗悪な矢だ。
矢羽も無いのでまっすぐに飛ばない。
オレたちが簡単に矢を打ち払うので埒が明かないと思ったのか盗賊たちが突っ込んでくる。
突っ込んできた盗賊たちをあっさり返り討ちにする。
二、三人が逃げていったがマスターが後ろから射抜く。
「どうしてこんなに盗賊や変異体が多いんでしょう?」
倒した盗賊たちの死体を掘った穴に放り込んでいると祥子さんが聞いてきた。
盗賊を倒すのはいいんだが死体を埋めるのが面倒なんだよなぁ。
「この辺りはギルドと結社の勢力範囲の真ん中ぐらいだからね」
結社はもちろんギルドも遠すぎてこの辺りにはなかなか来れない。
結果、ギルドや結社に追われた盗賊がこの周辺に集まってしまったようだ。
しかも、この周辺は100人程度の集落が点在しているので盗賊にとっては生きやすい環境になっている。
100人ぐらいの集落が20人の盗賊に襲われたらほとんど抵抗出来ないだろう。
「一度、結社とギルドが協力してこの地域の治安を回復した方がいいのかもしれませんね」
う~ん、ここまで来るのにギルドからでも結社からでも10日近く掛かるからなぁ。
それにギルドや結社が来たら盗賊はまた違う地域に逃げるんじゃないだろうか?
でも、結社の戦闘力を見るには都合がいいか・・・
「一度、本部で提案してみるよ」
「自分も戻ったら提案してみます」
オレと祥子さんはにっこりと笑い合う。
-あっちも同じ考えのようだな。
今のご時世、強かさは美点だ。
それから、一週間ほど旅を続けオレたちはようやくギルド本部に戻ってきた。
「たっだいま!!!」
さあ、妻と嫁に会おう!
○「ご苦労様でした」
ギルド本部に戻ったオレたちはさとるさんに今回の旅の報告をしている。
本当は報告なんてマスターたちに任せ妻と嫁とイチャイチャしたかったのだが、残念ながら二人とも外出中だったのだ。
「しかし、ハルカさんですか。そのような変異者が存在するとは驚きですね」
それにしても優子さん妊娠中なのに外出なんてしていいのだろうか?いや、妊婦さんには適度な運動が必要らしいし、大先生やさとるさんの許可を貰ってるし香織さんも一緒だから大丈夫だと思うけど心配だなぁ。
「それにそのハルカさんと真人くんが共生(?)してるのにも驚きました。真人くん、ハルカさんと話せますか?」
二人が今、どこに行ってるかというとなんとショッピングに行っているそうだ。
ショッピングだよ!ショッピング!
貨幣制度が崩壊したのでショッピングなんて死滅したと思ったのに見事に復活したらしい。
それというのもギルド本部が島や他の地域との交易拠点として機能し始めたからだ。
島から送られる莫大な量の塩や食料。それを求める周辺の人々。
それらが集まってギルド本部周辺はオレたちが旅立った時よりさらに発展していた。
交易に来る人も多いので正確な人口は分からないが定住している人だけでも5000人を越えたらしい。
もちろんこれまで使っていた家屋や畑だけでは全然足りない。
現在、家を建て畑を広げているのだが人口増加のスピードにまったく追い付かない。
それで周辺集落の人たちが余った食料などを持ってくる。
周辺集落の人はここで食料などを売り必要な物を買って帰る。
拡大を望む集落などは集まってくる人たちを対象に住人募集までしているそうだ。
どうもギルドが発行している為替が発展に拍車をかけているらしい。
失われた貨幣の代わりをギルド発行の為替が担っているのだ。
ギルド発行の為替は信頼性が高くこの周辺地域ではかなり広く流通している。
品物を求め人が集まり、集まった人を目当てに人が集まる。
おかげでお店も充分にやっていけるそうだ。
それで産休中の優子さんと休暇中の香織さんは仲良くショッピングに出掛けたのだ。
女性のショッピング好きはもはや本能だな。
最近は食料品や武器(なんとギルド直営店だ)だけではなく贅沢品や嗜好品も売っているそうだ。
う~ん、人間って逞しいなぁ。
「あの真人くん聞いてますか?」
「真人ちゃん」
隣にいたマスターに脇腹をつつかれる。
「ん?」
思考を中断して顔を上げるとさとるさんが苦笑していた。
「ハルカさんとお話は出来ますか?」
-ああ、ハルカね。
さとるさんがハルカと直接対話する事は不可能だが、オレを介してなら話す事が出来る。
オレは少し集中してハルカにアクセスする。
ハルカがオレにアクセスするのは簡単らしいがオレからハルカにアクセスするには少しコツが必要だ。
額に生えたハルカからのプレゼントである双角に意識を集める。
オレの額に生えた双角は右側がやや大きく20センチ程度、左側は15センチ程度だ。
両方とも上を向いて生えておりそれなりの硬度を有する。ちなみに色は象牙のようにやや黄味がかった白色だ。
ハルカの体組織の一部を植え込んだらしいが色からすると表面はオレの頭蓋骨が変形したのかもしれないな。
あとでさとるさんに調べてもらおう。
-ハルカ、今、いいか?
少し集中して脳内でハルカに語り掛ける。
脳内の一部が暖かくなりハルカと接続した感覚が生まれる。
-なにかご用ですか?
ほどなくしてハルカから返事がきた。
それからオレが通訳をしてさとるさんとハルカの対話が行われた。
さとるさんがいくつかの質問をしてそれにハルカが答える。
ハルカは一貫して結社とギルドが争う事の危険性を説いていた。
もちろんそれはハルカの未来予測なのだが、今後強大になっていくだろう両組織が争うのは決してお互いの利益にならないのは確かだろう。
「僕としては結社の皆さんと協力するのには賛成ですが、結社の皆さんの意思統一は可能なのかが不安です」
さとるさんは結社の穏健派と急進派の対立を問題視していた。
ハルカの予想によれば急進派が結社の主流になる事は不可能なので問題は無いとの事だがさとるさんは納得しなかった。
「彼らがテロリストのように成らないかが不安なのです」
さとるさんの言う通り彼ら急進派が主流にならなくても誰かを傷付ける事は可能なのだ。
内部の敵は外部の敵よりも対応が難しい。
外部の敵はただ倒せばいいが内部の敵は倒し方を誤ると新たな敵を作る事に繋がる。
彼らを倒すには彼らを内部で孤立させ倒されても仕方ないと思わせる状況を作り出さなくてはいけない。
それが結社に出来るのだろうか?
例えば結社急進派がギルドとの同盟に反対するのは簡単だ。
ギルドの誰か、出来れば重要人物を傷付ければいい。
それだけでこの同盟は不可能になる。
さとるさんの言葉を聞いたオレの胸中に小さな暗雲が生まれた。
そしてその暗雲は時間と共に大きく成長を続けた。
夜になってもオレの二人の愛妻が戻ってこないのだ。
確かにギルド本部周辺はギルドの努力によって安全が保たれている。
しかし、それは夜になっても安全であるという意味では無い。
夜は外出を控え防御の整った安全な家屋の中で過ごす事が徹底されているからこその安全だ。
間違っても夜間に女性が二人で野外で過ごして安全という意味では無い。
二人は外出する時は必ず武器を持って行く。
あの二人が武装していればそこらの悪漢や変異体などは相手にならない。
優子さんはギルドトップクラスの弓の名手だし香織さんは槍も剣も得意だ。もっとも妊娠中の優子さんはいつも使っている弓は腹に当たるとの事で小型の弓を新調したそうだ。
わざわざ妊娠中にも関わらず弓を新調した事からも二人が決して油断していない事が分かる。
そんな二人を拐う事が可能なのは誰だろう?
もっとも可能性が高いのはあのコウモリ男だ。
「本部にいるギルドメンバー全員で二人を探します!」
事態を知った美咲ちゃんが本部にいたギルドメンバーを召集して二人を探し始めた。
二人がよく行っていた店を中心に聞き込みに行く。
もちろん玲子たちも二人を探す。
しかし、ここで人口が爆発的に増えた弊害が出た。
匂いが混ざってしまい二人を特定出来ないのだ。
しかも二人はきれい好きなので毎日お風呂に入っている。それが匂いを薄めてしまっている。
う~ん、今後二人にはお風呂に入る回数を制限してもらおう。
オレは二人が発見されたらすぐに駆け付けられるように本部で待機だ。
「アニキ、結構落ち着いてるね」
「玲子ちゃん、人間、怒りが限界を越えると却って冷静になるのよ」
「・・・なるほど」
マスターの言う通りオレのハラワタは煮え繰り返っているのに頭は妙に冷静だ。
二人を拐ったのがコウモリ男だろうと通りがかりの異常者だろうと必ず殺す。
そして二人を必ず救い出す。
-ハルカ。あのコウモリ男は約100キロを担いで飛ぶ事は出来るか?
妊娠中の優子さんと武装した香織さんなら100キロぐらいある筈だ。
-不可能です。精々20キロが限界でしょう。
20キロなら一人でも担いで移動するのは不可能だ。
コウモリ男が犯人だった場合、空を飛んで逃げられる事が不安だったがこれでその心配は無い。
優子さんと香織さんを連れて陸路で移動するのは目立つ。
あの二人は本部で長らく活躍しているので周辺の集落では有名だ。
絶対に逃がさない。地の果てだろうが地獄の底だろうが必ず見つけてやる。
深夜近くになって近くの集落の住人が本部にやって来た。
なんでも気が付くと家の扉に手紙が差し込まれていたそうだ。
彼はその手紙を読んで危険も省みずに大急ぎで本部までやって来てくれたのだ。
手紙を開くと二種類の髪の毛が縛られて入っていた。
ひとつは真っ直ぐな髪。もうひとつは少し波打った髪。
その髪の匂いを嗅ぐ。
間違いない。二人の匂いだ。
手紙には簡単な地図が入っていた。
手紙にはオレ一人で地図の地点まで来るように書かれている。
オレは手紙を一読してさとるさんに渡す。
「これは・・・」
地図に書かれた地点は見通しが良く伏兵を用意するのが難しい地点だ。
-ハルカ、この字に見覚えはあるか?
-・・・兄の字です。
これで犯人が確定したな。
オレは静かに立ち上がる。
「危険です!二人を人質にされている以上真人くんは抵抗出来ません!」
「アニキ!」
「真人ちゃん!」
危険なのは分かっているが止まるつもりは無い。
「真人ちゃん、落ち着いて!」
「アニキ、わたしも一緒に行くよ!」
マスターと玲子がオレにすがり付く。
「玲子、ここは見晴らしがいい。お前でも潜むのは無理だ」
コウモリ男の目的は不明だがオレ以外の姿が見えれば二人が危険になる。
「それでもみんなで考えればなにかいい考えが浮かぶわ」
確かにみんなの協力があれば上手く二人を救出出来るかもしれない。
「マスター、今も二人は捕まってるんだ。オレにはそれが我慢出来ない」
手紙には時間指定は無いが一刻も早く二人を助け出したい。
オレはすがり付く二人をそっと引き離す。
「真人くん、気を付けてください」
オレが止まらない事を理解したさとるさんが静かに扉を開けてくれる。
「必ず二人を助け出すよ」
オレは暗い森に足を踏み出した。




