24.ミレーヌ殿下との友情
週明けから、わたくしはお義兄様とヴィクトル殿下とミレーヌ殿下と一緒に昼食をとることになった。
午前中の授業が終わると、ミレーヌ殿下と一緒に王立アカデミーと学園を繋ぐ長い階段の下に行く。
ブランシュ嬢とミレーヌ殿下の嫌がらせの件は落着したので、ドナにはもう護衛は必要ないと伝えていた。
ドナは残念そうにしていた。
「食堂のランチ食べ放題が……」
「それは続けられるように、お義父様に言っておきます」
「本当ですか? ありがとうございます、公爵令嬢!」
大喜びで頭を下げるドナのつむじを見ながら、わたくしは本当に全てが終わったのだと思っていた。
長い階段を降りて、お義兄様とヴィクトル殿下がわたくしとミレーヌ殿下に合流する。わたくしたちは四人で、サロンに向かった。
サロンの一室で、昼食を食べる。
ミレーヌ殿下もお弁当を作ってもらって持ってきていた。
「ミレーヌ殿下、この国の文字では、ここには点はつかないのですよ」
「そうなのですね。気を付けます」
「ミレーヌ殿下はこの国の言葉を上手に使いこなしていますが、困っていることなどないですか?」
「試験問題が時々読めなくて、それで成績が上がらないのです」
「それでは、わたくしが一緒に教科書を確認しましょう。読めないところは教えます」
ミレーヌ殿下の文字の書き方や、困っていることなどを聞いて、ミレーヌ殿下に協力していると、お義兄様とヴィクトル殿下が微笑ましそうにわたくしとミレーヌ殿下を見ていた。
「婚約者同士も親友というのは悪くないね」
「そうですね。アデリーにも親戚以外で友人ができたようでよかったです」
言われてみれば、わたくしはマノンお姉様は母方の義理の従姉であるし、ダヴィド殿下は父方の義理の従兄である。お義兄様とヴィクトル殿下が学園に在籍していたころは、お二人も同じサロンでお茶をしていたが、全員がなんらかの親戚関係にあった。
親戚関係にない友人ができるのは初めてかもしれない。
「わたくし、アデライド嬢の親友ですか?」
「ミレーヌ殿下がお嫌でなければ」
「嬉しいです。わたくし、この国に来て頼れるのはブランシュ嬢だけでした。ブランシュ嬢はいつもイライラしていて、悪口ばかり口にしていて、わたくし、本当にブランシュ嬢と一緒にいていいのか迷ったこともあります。ブランシュ嬢が休学して、ブランシュ嬢の事情を聞いて、わたくしは頼る相手を間違えていたのだと知りました」
「わたくしは親友として合格ですか?」
「アデライド嬢はわたくしが嫌な態度を取っても、わたくしを見捨てることなく、真摯に接してくれました。わたくし、アデライド嬢と親友になりたいです」
わたくしとミレーヌ殿下が親友で、お義兄様とヴィクトル殿下が親友である。
わたくしとお義兄様が結婚した後も、わたくしとミレーヌ殿下、お義兄様とヴィクトル殿下が親友だったら、お互いに心強いだろう。
ミレーヌ殿下の方が二歳ほど年上だが、わたくしはミレーヌ殿下と親友になれて嬉しいと思っていた。
ミレーヌ殿下はマノンお姉様とダヴィド殿下のサロンにも参加するようになった。
「アデライド嬢のことでお騒がせをして申し訳ありませんでした」
「その件については、アデライドとの間で話し合いで解決したのでしょう?」
「兄上の婚約者のミレーヌ殿下と親しくなりたいと思っていました。よろしくお願いします」
マノンお姉様もダヴィド殿下も、ミレーヌ殿下を歓迎してくれた。
ミレーヌ殿下は最初は遠慮していたようだったが、マノンお姉様がクラリス夫人の詩集を持っていることを知ると、身を乗り出して話をしていた。
「クラリス夫人の最新作の詩集、いかがでしたか?」
「素晴らしかったです。愛するひとへの気持ちを百合の花に例えるところとか!」
「分かります。大輪の百合の花から解き放たれる愛の妖精さん!」
「あの詩を見た瞬間、目の前に百合の花が見えた気がしました」
とても盛り上がって話しているのですが、わたくしには何が何だかさっぱり分かりません。
クラリス夫人はどうしてこんなにも花に気持ちを例えるのでしょう?
妖精さんってなに?
わたくしにはよく分からないんですけど。
そっと目を反らしていると、ダヴィド殿下も難しそうな顔をしている。
「女性の心というのは難しいですね……」
「女性の心ではなくて、詩が独特すぎて……」
ダヴィド殿下はわたくしと同じく、クラリス夫人の詩のよさは分からないようだった。
仲間がいてわたくしはほっとする。
「そういえば、マノン嬢は新年のパーティーでダヴィド殿下と踊っていませんでしたか?」
「わたくしを誘ってくださる殿方がいなかったのです。仕方がなかったのでダヴィド殿下と踊りました」
「仕方がなかった……?」
首を傾げているミレーヌ殿下に、マノンお姉様は「わたくしもマクシミリアンお兄様やヴィクトル殿下のような素敵な方に見初められたい」と呟いている。
「わたしは、その『ヴィクトル殿下』の弟なのですが。仕方がないとは失礼ではないですか」
「ダヴィド殿下は……もう少し大人になってから……」
「マノン嬢とわたしは同じ年ですよ。わたしが子どもなら、マノン嬢も子どもです」
言い合っているダヴィド殿下とマノンお姉様を見て、ミレーヌ殿下はわたくしの方に視線を向けた。わたくしはこくこくと頷いて見せる。
多分、ダヴィド殿下はマノンお姉様のことが好きなのだ。
マノンお姉様はそのことに気付いていない様子だけれど。
「わたくし、応援します」
「わたくしもです。一緒に応援しましょう」
わたくしとミレーヌ殿下は密かに頷き合ったのだった。
冬が終わり、春になると、学年末の試験が行われる。
わたくしは学年末の試験でも首席を取れるように勉強に力を入れていた。
学年末の試験が終わったら、プロムナードというパートナーを誘って参加する催しがある。
わたくしは首席を取って、堂々とお義兄様を誘ってプロムナードで踊りたかった。
昼休みも昼食を食べ終わったらわたくしはお義兄様に教えてもらって、ミレーヌ殿下はヴィクトル殿下に教えてもらって少しの時間でも勉強をする。
「わたくしは、せめて上位十位以内に入りたいです」
「ミレーヌ殿下ならできるよ」
「ヴィクトル殿下、わたくしを鍛えてください!」
ミレーヌ殿下も気合を入れていた。
わたくしも負けられないと気合を入れて勉強をしていた。
バルテルミー公爵家の王都のタウンハウスに戻った後も、自分だけで勉強を続け、お義兄様が帰ってきたらお義兄様に分からなかったところを教えてもらう。
勉強室でお義兄様に教えてもらって数学の問題を解いていると、お義兄様がふとわたくしの顔を覗き込んできた。
「アデリー、わたしはまだ、申し込んでもらっていないのだけれど」
「え?」
「プロムのことだよ」
お義兄様に言われてわたくしは気付く。
お義兄様はわたくしの婚約者なので、当然プロムナードのパートナーとしてわたくしと一緒に出てくださると思っていた。当然すぎて、わたくしはお義兄様にプロムナードのパートナーとして出てくださることをお願いしていなかったのだ。
「婚約者だから出てくださると思っていました。お義兄様、わたくしとプロムに行きましょう」
「喜んで、アデリー」
改めてお義兄様に申し込むと、お義兄様は大輪の花が咲いたかのような華やかな笑顔を浮かべる。
クラリス夫人の詩はあまり理解できないが、恋心を花に例えたくなる気持ちは、お義兄様の笑顔を見ていると少しだけ分かるような気がした。
「数日後に王立アカデミーでもプロムがあるんだ。アデリー、一緒に出てくれる?」
「もちろんです、お義兄様」
学園のプロムナードと、王立アカデミーのプロムナード。どちらにも胸を張って出られるように、わたくしは学年末の試験勉強にますます力を入れた。
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