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死に戻ったわたくしは、あのひとからお義兄様を奪ってみせます!  作者: 秋月真鳥
二章

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17.お義兄様に報告する

 バルテルミー公爵家の王都のタウンハウスに帰ると、わたくしはお義兄様を待っていた。

 お義兄様と作戦会議をしなければいけない。

 バロー伯爵夫妻にどうやって働きかけるかをお義兄様と話し合って決めなければいけない。


 わたくしには王弟であるお義父様という味方がいるし、義理の伯父である国王陛下も味方である。今回の件について、わたくしはお義父様の力も国王陛下の力も借りたくはなかった。

 権力を振りかざして言いなりにさせるのではなく、バロー伯爵夫妻の口から娘の傷について話してほしかったのだ。


 ブランシュ嬢がわたくしと敵対関係にある以上、バロー伯爵家のお茶会に招かれることはないだろうし、バロー伯爵夫妻もわたくしとお義兄様とお茶会が一緒になるのは避けるだろう。

 どうすればバロー伯爵夫妻と接触が持てるか考えていると、お義兄様が帰ってきた。


 玄関ホールにお義兄様を迎えに行って、わたくしはお義兄様に告げる。


「分かったことがあります。お義兄様と相談したいのですが」

「それでは、着替えたらすぐにティールームに行くよ」


 お義兄様は快く返事をしてくれて、一度部屋に帰って着替えて戻ってきた。

 わたくしはティールームでお義兄様を待っていた。


 まだ春になる前で、部屋は暖炉で温められて、暖炉の火がぱちぱちと燃えている。

 お義兄様はティールームに入ると、暖炉のそばの席をわたくしに譲って、自分は暖炉から遠い席に座った。


 侍女がお茶を入れてくれて、それを飲みながらわたくしはお義兄様に報告する。


「ブランシュ嬢のサロンに招かれているデボラ・ガイエ子爵令嬢が話をしてくれました。ブランシュ嬢はミレーヌ殿下に、わたくしがヴィクトル殿下と不貞をしていると吹き込んだようです」

「ヴィクトル殿下とアデリーが? あり得ない」


 ヴィクトル殿下はお義兄様の従兄弟であり、親友である。学園でもお義兄様とはずっと一緒だったし、わたくしがヴィクトル殿下と会うときにはいつもお義兄様が同席していた。

 二人きりになったことも一度もないのだ。

 不貞などできるわけがなかった。


「クラリス夫人とお義兄様の婚約を解消しようとしていた時期に、わたくしとお義兄様とヴィクトル殿下は協力していました。それが怪しいと目をつけられたようなのです」

「あの時期も、それから後も、アデリーはヴィクトル殿下と二人きりになったことは一度もない。わたしが同席していて不貞などあり得るはずがない」

「お義兄様とヴィクトル殿下の卒業式のパーティーのことを覚えていますか?」


 あれは去年の春のことだった。

 お義兄様とヴィクトル殿下は同じ年で、同じ年度に卒業した。わたくしはお義兄様のパートナーとして卒業式のパーティーに出席していた。


「覚えているよ。あの日、わたしはアデリーと一番最初に踊ったね。その後でヴィクトル殿下がアデリーを誘いに来て、続いてダヴィド殿下がアデリーをダンスに誘った」

「わたくし、ヴィクトル殿下と踊りました。あのときミレーヌ殿下は微笑ましそうにわたくしたちを見ていました。そのときには、ミレーヌ殿下はわたくしとヴィクトル殿下が不貞をしているなどと思っていなかったのです」

「それでは、その後で?」

「はい。ブランシュ嬢がダンスのことも持ち出して、わたくしとヴィクトル殿下の不貞の噂をミレーヌ殿下に吹き込んだようなのです」

「なんということだ。アデリーが潔白であることはわたしが一番よく知っているのに」


 それもそのはずだ。

 お義兄様は学園でも基本的にヴィクトル殿下とご一緒にいたし、わたくしはヴィクトル殿下と会うときには絶対にお義兄様が同席していた。ヴィクトル殿下と二人きりになるようなことは、誓って一度もないのだ。

 お義兄様の目の前でヴィクトル殿下と不貞をできるわけがない。


 呆れ返っているお義兄様に、わたくしは考えていたことを伝えた。


「ミレーヌ殿下に今の状態でなにを言っても聞いてもらえないと思うのです。ブランシュ嬢と引き離さない限りは、ねじ曲がった真実に塗り替えられてしまう」

「そうだろうね。ブランシュ嬢とミレーヌ殿下を引き離すことが先だね」


 お義兄様も冷静になったのか、紅茶を飲んで喉を潤し、わたくしの言葉に賛成してくれる。


「バロー伯爵夫妻とお話ができないでしょうか」

「父上か伯父上を通して場を設けてもらうか」

「いえ、それではバロー伯爵夫妻の本音が聞けないと思います。わたくしとお義兄様で何とかならないものでしょうか」


 権力に屈する形でバロー伯爵夫妻と会うのではなく、身分の差はあるが対等に近い関係で話をしたい。バロー伯爵家がどのようになっているかをわたくしは知りたかった。


「まだわたしは未熟だが、医者の見習いとして、バロー伯爵夫妻にブランシュ嬢の治療のことで話がしたいと申し出てみるか」

「できますか?」

「バロー伯爵夫妻も、ブランシュ嬢がアデリーの万年筆を壊したことについて厳重注意を受けている。アデリーに謝罪をしたいと思っているのではないだろうか」


 わたくしへの謝罪の場を設けると共に、お義兄様が医者の見習いとしてバロー伯爵夫妻にブランシュ嬢の治療を進めるということでバロー伯爵夫妻と会う場を作る。それがお義兄様の計画だった。


「それでお願いします」

「バロー伯爵夫妻に手紙を書こう」


 紅茶を飲んで、お義兄様が椅子から立ち上がる。

 わたくしも椅子から立ち上がったところで、お義兄様がわたくしに手を差し伸べた。


「部屋まで送って行こう」

「ありがとうございます」


 婚約してからはお義兄様はこれまで以上にわたくしに甘く優しくなった気がする。

 お義兄様の大きな手に手を引かれて、わたくしは自分の部屋まで導いてもらう。


「わたしは、アデリーの心の傷も癒したいと思っている」

「わたくしの心の傷、ですか?」

「アデリーは万年筆を壊されて泣いていた。あのとき、アデリーは傷付いたんじゃないかな?」

「わたくし、傷付いていたのかもしれません」


 お義兄様に指摘されて、わたくしは自分が傷付いていたことに気付く。

 お義兄様が指摘したのはそのことだけではなかった。


「オーギュストにされたことも、アデリーの中ではまだ恐怖として残っているのではないかとわたしは思っている。医学科で学ぶうちに、幼いころに被害を受けた場合には、トラウマとなってそれが蘇ることがあると知った」

「お義兄様……」

「アデリー、オーギュストの被害者の女性たちと会うことに不安を感じているのではないかな」


 お義兄様に問いかけられて、わたくしは図星だった。

 オーギュストの被害者の女性たちの話を聞くことで、わたくしがされそうになったことを思い出してしまう。

 あのときわたくしはか弱く小さく幼い体で、成人しているオーギュストに壁に押し付けられて足を触られそうになった。抵抗したらわたくしの爪の方が折れてしまったのだ。

 わたくしはあのときのことを忘れていない。


「オーギュストの被害者の女性たちと会うのは、正直、不安がないわけではありません。でも、お義兄様が一緒にいてくださったらわたくしは大丈夫だと思います」

「話をしている間、わたしもずっとそばにいるから、つらいことを思い出したら頼って欲しい」

「はい。お義兄様、離れずにわたくしのそばにいてください」


 わたくしが五歳だったときも、お義兄様はわたくしの元に駆け付けてくれて、自分より十歳も年上のオーギュストにタックルをしてわたくしから遠ざけてくれた。あのころよりもお義兄様はさらに成長している。

 オーギュストの被害者の女性たちの話を聞いて、あのときのことを思い出しても、わたくしは小さな無力な子どもではない。

 怖いことは何もない。

 お義兄様がいてくれれば大丈夫だとわたくしは安心することができた。


 部屋に戻って学園の宿題をしていると、隣国の語学の問題が出てきた。隣国の文字とこの国の文字はとてもよく似ているのだが、一部だけ違っていて、特定の文字の上に点を打つのだ。

 その文字がミレーヌ殿下が点を打っていた文字と同じで、わたくしはあの恋文を書いたのはミレーヌ殿下に違いないという確信を深めていた。

読んでいただきありがとうございます。

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コミカライズ版もよろしくお願いします。

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