↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻ったわたくしは、あのひとからお義兄様を奪ってみせます!  作者: 秋月真鳥
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/50

14.アルシェ公爵領へ

 翌日はよく晴れた朝だった。

 朝食を食べると、わたくしとお義兄様は馬車に乗り込む。

 晴れてはいるが気温はとても低く、寒くてわたくしはコートの前のボタンをしっかりと留めていた。

 雪の積もった道を、轍の跡の上を踏んで馬車が走っていく。


 しばらく走ると、馬車は王都の列車の駅に到着した。そこで馬車から列車に乗り換える。

 列車は個室席が用意されていて、お義兄様とわたくしで向かい合って座った。個室席は大人三人が座れるベンチが二つ向かい合っているので、広くてゆっくりできたし、馬車よりも暖かかったのでわたくしはほっと息を吐いた。


「クラリス夫人が妊娠中とは知らなかったな」

「セドリック殿と仲睦まじいのでしょうね」

「クラリス夫人が落ち着いてくれてわたしも安心したよ」


 クラリス夫人が妊娠中ということはセドリック殿との結婚生活も順調なのだろう。クラリス夫人の結婚式で毒殺されそうになったことは忘れていないが、その後の処理をセドリック殿がしっかりとしてくれたし、毒殺を企んだ元アルシェ公爵夫人はその後に毒を飲んで亡くなっているので、心配はない。

 クラリス夫人もセドリック殿の教育を受けて、心を入れ替えたようだし、セドリック殿こそ「真実の愛」の相手だと言っていたので、お義兄様と気まずい雰囲気になることもなさそうだ。


 列車は昼前にアルシェ公爵領に着いた。

 アルシェ公爵領にも雪が積もっていて、用意された馬車に乗ると、冷たい空気にわたくしは震えてしまった。

 馬車でアルシェ公爵家のお屋敷に着けば、お義父様が知らせておいてくれたのでセドリック殿が迎えてくれる。

 灰色の髪に水色の目。

 どこかで見たことのある色彩だと思っていると、ミレーヌ殿下と同じ色だと気付く。


「ようこそいらっしゃいました、マクシミリアン様、アデライド嬢。妻が食堂で待っています。昼食はまだでしょう?」

「はい、まだ昼食は食べていません」

「快く迎えていただきありがとうございます」


 お屋敷の中に案内してくれるセドリック殿に、わたくしとお義兄様はついて行く。

 食堂に案内されて、中に入ると、椅子に座っていたクラリス夫人が立ち上がった。

 薄茶色の髪に緑色の目。長く伸ばされた髪は、後ろで纏めてあって、大人っぽく仕上げてある。


「マクシミリアン様、アデライド嬢、よく来てくださいました。アデライド嬢とは昔たくさん文通をしましたよね。あのころのお手紙を取り出して、懐かしく読み返していたのですよ」

「わたくしが文字を覚えたころのことですね。あのころから仲良くしていただいて、とてもありがたく思っています」


 わたくしがクラリス夫人に手紙を送っていたのは、クラリス夫人を断罪する日のために準備を整えていたせいだったけれど、クラリス夫人にとってはそれはいい思い出になっているようだった。

 十二歳で断罪されてから、クラリス夫人は成人するまでの間、セドリック殿に再教育を施された。元アルシェ公爵夫人の元でねじ曲がった教育を受けていたクラリス夫人が更生できたのは、セドリック殿の努力のたまものである。


「ご懐妊されたと聞きました。おめでとうございます。これは、父からのお祝いの品です」

「ありがとうございます」


 お義兄様がお義父様から託されたお祝いの品をクラリス夫人に渡している。クラリス夫人は中身を見て、喜びの声をあげていた。


「安眠できると言われているハーブティーに、むくみが取れると言われているハーブティー、それにハーブティーに合う蜂蜜まで。バルテルミー公爵にお礼を申し上げておいてください」

「本当にありがとうございます」


 クラリス夫人もセドリック殿もお義父様が選んだお祝いの品に喜んでいる様子だった。


 食堂の席に着くと、食事が運ばれてくる。

 わたくしたちはスープとパンと魚のムニエルだったが、クラリス夫人はスープとパンと果物だけだった。


「悪阻が酷いのですか?」

「それほどではないのですが、食べるものは選んでいます」


 わたくしが問いかけると、クラリス夫人は微笑みながら答えていた。少しだけ膨らんだお腹を押さえて、とても幸せそうにしている。

 セドリック殿との子どもを授かったのが本当に幸せなのだろう。


 昼食を終えてから、お茶を飲みながら、わたくしとお義兄様は寛いでいた。

 クラリス夫人が幸せそうに話してくれる。


「わたくしの新作の詩集は評判がいいようで、嬉しく思っているのです。学園ではわたくしの詩を真似た恋文を書くのが流行っていると聞いています。本当ですか?」

「そのようですね。クラリス夫人の詩はマノンお姉様も詩集を持っていました。ミレーヌ殿下もヴィクトル殿下に頼んで詩集を取り寄せてもらっていたようですよ」


 わたくしはよく意味が分かりませんけれど!


 わたくしの気持ちは置いておいて、わたくしがクラリス夫人に言えば、クラリス夫人が「そういえば」と侍女を呼んだ。


 少しして侍女が手紙の入った箱を持ってきた。

 その中のいくつかを取り上げて、クラリス夫人がわたくしとお義兄様に見せてくれる。

 それは、ファンレターだった。


『クラリス・アルシェ夫人

 わたくしは、クラリス夫人の書かれた詩を何度も読みました。クラリス夫人の詩は、真実の愛を語り、素晴らしい表現力で世界を描いていると思います。新作の詩集も手に入れました。これからも咲き誇る薔薇のように、ずっと素晴らしい詩を書き続けてください。

 ミレーヌ・アルカン』


 ミレーヌ殿下!?


 ミレーヌ殿下はクラリス夫人の詩に傾倒していただけではなくて、ファンレターまで送っていた。

 その文字がわたくしがドナに送ったという恋文と似ている気がして、わたくしはその恋文を持ってきてクラリス夫人に見せる。

 クラリス夫人はそれを見て目を丸くしていた。


「これ、わたくしが書いた詩によく似ていますね」

「クラリス夫人の詩が今、王都で有名になっていて、クラリス夫人の詩を真似た恋文を書くのが流行っているのです」


 わたくしが説明すると、クラリス夫人は恋文をじっと見つめて、小さく呟く。


「この『あなたとわたくしの間には、越えられない壁があります』というところはいいのですが、『わたくしには婚約者がいるのです』というところが直接的すぎますね。わたくしだったらこういう風には書きません。『定められた相手がいるのです』とぼかすか、『越えられない壁があるのです』という表現だけで十分なので、省略すると思います。『婚約者』という言葉がなくても十分通じるでしょう。読者の読み取る力を信じないからこんなことになるのです」

「は、はぁ」

「この詩を書いた方は詩というものが分かっていません。詩を書いた気になっているだけです」


 わたくしは何を聞かされているのだろう。

 わたくしにはクラリス夫人とその恋文を書いた人物との違いは分からないし、分かろうとも思わない。

 クラリス夫人にとっては大事なのかもしれないが、わたくしにとっては恋文の表現はそれほど大事ではなかった。


「わたしも見てもいいですか?」

「どうぞ、セドリック様」

「これは……」


 セドリック殿はクラリス夫人から便箋を受け取って、中身を確認して何か思うところがありそうだった。

 セドリック殿が口を開くのを待っていると、セドリック殿は、テーブルの上に便箋を置いて、書かれている文字を指摘した。


「この、文字の上に点を打つのは、隣国の書き方ですね」

「セドリック殿、分かるのですか?」

「わたしは祖母が隣国の出身で、祖母からの手紙はいつも、この文字の上には点が打ってありました」


 セドリック殿はお祖母様が隣国の出身だったのか。

 ミレーヌ殿下と色彩が似ていると思ったが、お祖母様が隣国の出身だったのならば理由が分かる。


「そういう文字の書き方……ミレーヌ殿下のファンレターと同じではありませんか?」


 ミレーヌ殿下のファンレターを広げたクラリス夫人が、恋文の横に並べた。


 ミレーヌ殿下のファンレターの文字と恋文の文字を比べてみると、とてもよく似ているし、特定の文字の上に、セドリック殿が指摘した通り、この国では使わない点が打ってある。


「クラリス夫人、このファンレターを借りてもよろしいでしょうか?」

「はい。お役に立てるのでしたら、ぜひどうぞ」


 お義兄様の頼みに、クラリス夫人は快く応じてくれて、ファンレターを借りることができた。

 これでミレーヌ殿下がこの恋文を書いたのは間違いないと証明できそうだが、問題はブランシュ嬢だ。

 ブランシュ嬢のそばにいる限り、ミレーヌ殿下はわたくしへの嫌がらせをやめないのではないだろうか。


「お義兄様、オーギュストのことをセドリック殿に話してください」

「そうしよう」


 わたくしが促すと、お義兄様はセドリック殿に向き直った。

 セドリック殿もオーギュストの名前を聞いて姿勢を正して背筋を伸ばしている。


「オーギュストの被害者の女性たちに会わせたい人物がいるのです。その人物は幼いころにオーギュストに傷付けられていて、その傷を癒すことができなくて、歪んだ思想を抱いています」

「オーギュストの被害者の女性たちも妙齢になって嫁いでいたり、思春期を迎えていたりします。過去のことを思い出したくない方もいるでしょう」

「わたしも被害者の女性たちに過去のことを思い出させるのは酷だとわかっているのですが、オーギュストの本性を知ってもらうことがその人物の心の傷を自覚させるには必要だと思うのです。自分が傷付いていることに気付かねば、治療を受ける体勢になれません。まずは、わたしはその人物に自分の傷に気付いてほしいのです」


 真摯に告げるお義兄様に、セドリック殿は少し考えてから、頷いた。


「そこまでおっしゃるなら、準備をしておきます。アルシェ公爵家からまだ慰謝料を払い続けている女性たちがいます。その女性たちに声をかけてみましょう」

「ありがとうございます」

「どれくらいの方が応じてくださるか分かりませんよ」

「それは分かっています。応じてくださる方だけでも、話ができたらと思います」


 セドリック殿とお義兄様の話がまとまって、わたくしは安堵していた。

読んでいただきありがとうございます。

感想、ブクマ、評価、リアクション等していただけると、作者の励みになります。

コミカライズ版もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。