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TS転生 猫とスローライフ!?  作者: 妄幽


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28/29

28話~プリン講習会~

翌朝。


 私はふかふかのベッドで目を覚ました。王城のベッドはすごい。体が沈む。前世で使っていた安物の布団とは比べ物にならない。これに慣れたら普通の宿のベッドに戻れなくなりそうで怖いなぁ。


 「ご主人〜朝だよ〜」

 「んぅ……シロちゃん、あと5分……」

 「お肉食べに行く〜」

 「起きます」


 私はすぐに起き上がった。シロちゃんが人の姿で私の横に座っている。白い髪は少し寝癖がついていて、目はまだ眠そうだ。うん。朝からかわいい。神様、シロちゃんをありがとう。勝手に性別変えたことは許してないけど。


 ユラちゃんとシュリちゃんはもう起きていた。二人とも王城の用意してくれた服に着替えている。すごく似合っている。危ない。朝から語彙力が消滅するところだった。


 「お姉ちゃん。今日はプリンを教えるんだよね」

 「そうなんだよねぇ……」


 昨日の食後、流れで王城の菓子職人にプリンを教えることになった。いや、断るタイミングはあったはずだ。あったはずなんだけど、リリアーナ様の期待に満ちた目と、王様の「頼めるか?」という圧に負けた。権力と可愛さの合わせ技はずるい。


 「妾も行くのじゃ!」

 「アンちゃんはつまみ食いしないならね」

 「……しないのじゃ」

 「今の間は何?」

 「気のせいなのじゃ」


 絶対するやつだ。


 朝食を食べた後、私たちはセレナさんに案内されて王城の厨房へ向かった。廊下を進むたびにメイドさんや兵士さんが頭を下げてくれる。なんか落ち着かない。私はただの元社畜だよ。そんな丁寧にされると逆に申し訳なくなる。


 「ユウ様。本日はよろしくお願いいたします」

 「こ、こちらこそよろしくお願いします」


 厨房に入ると、そこには十人以上の料理人が待っていた。白い服を着た料理人たちが一斉にこちらを見る。すごい圧だ。しかも目が真剣だ。これは遊びじゃない。本気でプリンを学ぶ気だ。


 「私は王城料理長のバルガスと申します。陛下より、ユウ様から新しい菓子の作り方を学ぶよう命じられております」

 「ユウです。えっと、そんな大したものじゃないですけど、頑張ります」


 料理長はがっしりした体格の男の人だった。顔は厳ついけど、料理人らしく手はとても綺麗だ。多分すごい人なんだろう。そんな人に前世知識のプリンを教える。うん。プレッシャーがすごい。


 「まず材料は卵と牛乳と砂糖です。あとカラメル用に砂糖と少し水を使います」

 「卵と牛乳……それだけで、あのようになめらかな菓子に?」

 「なります。多分」

 「多分……」


 料理長の眉がぴくりと動いた。ごめんて。私は料理人じゃないんだよ。前世でネットを見ながら何となく作ってただけなんだよ。分量も感覚なんだよ。


 「ユウ様。分量はどの程度でしょうか」

 「えっと、卵がこれくらいで、牛乳がこのくらいで、砂糖は甘いくらいです」

 「甘いくらい……」


 料理人たちがざわつく。やめて。そんな目で見ないで。私は感覚派なんだ。いや、感覚派というより適当派だ。


 「お姉ちゃん。ちゃんと教えないと」

 「はい……」


 ユラちゃんに注意された。お姉ちゃんの威厳がどんどん消えていく。


 私は一度深呼吸して、なるべく丁寧に説明することにした。卵を割って混ぜる。砂糖を入れる。温めた牛乳を少しずつ入れる。濾す。器に入れる。蒸す。冷やす。カラメルは焦がしすぎると苦いから注意。うん。言葉にすると簡単だ。


 「では、やってみます」


 料理長が卵を割る。動きが綺麗だ。私より上手い。そりゃそうだ。プロだもんね。料理人たちは真剣な顔でメモを取っている。王城にメモ文化があるのかは知らないけど、板に何か書いている。すごい熱意だ。


 『ご主人〜。これ食べていい〜?』

 「シロちゃん、それ生卵だからだめ」

 「妾はこの白い粉を舐めてみたいのじゃ」

 「アンちゃん、それ砂糖だから少しだけね」

 「少しだけなのじゃ」


 少しだけと言いながら、アンちゃんは手を伸ばした。私はその手を掴む。危ない。厨房で自由にさせると食材が消える。


 「お姉様。妾は味見係なのじゃ」

 「味見係は完成してからね」

 「むぅ……」


 アンちゃんは不満そうに頬を膨らませた。かわいいけどだめなものはだめだ。


 最初の問題はカラメルだった。料理長は砂糖を鍋に入れ、火にかける。じわじわと溶けて茶色くなっていく。良い感じだ。良い感じだったのだが、横から若い料理人が口を出した。


 「料理長、もっと火を強めましょう。時間短縮になります」

 「そうだな」


 あ。


 「待っ――」


 私が止める前に火が強くなった。次の瞬間、甘い香りが一気に焦げた匂いへ変わる。鍋の中のカラメルは黒くなっていった。


 「黒いですね」

 「黒いね」

 『お肉焼けた匂い〜?』

 「シロちゃん違うよ」


 料理長は黒くなったカラメルを見て固まっていた。若い料理人も青ざめている。王城の厨房で焦がすとか、普通なら結構まずいのかもしれない。


 「す、申し訳ありません」

 「大丈夫です。カラメルは焦げやすいので、最初はよくあることです」

 「ユウ様も焦がされたことが?」

 「あります。真っ黒になりました」


 前世の記憶がよみがえる。鍋を焦がして洗うのが大変だったなぁ。あの時は一人暮らしで、焦げた匂いの中で虚無になっていた。今思うと悲しい生活だね。


 「焦げたものは苦すぎるので作り直しましょう」

 「承知しました」


 二回目は火を弱め、ゆっくり作った。今度は綺麗な琥珀色になった。料理人たちが「おぉ」と声を漏らす。いや、そんな大げさなものじゃないよ。砂糖を焦がしただけだよ。


 次はプリン液を器に入れて蒸す工程だ。ここでまた問題が起きた。


 「強火で一気に蒸せばよろしいですか?」

 「だめです。弱めでゆっくりです。強いとすが入ります」

 「す?」

 「なんか穴だらけになります」

 「穴だらけ……」


 料理人たちは真剣に頷く。私は説明しながら、自分が先生みたいになっていることに少し笑いそうになった。前世では仕事でミスして怒られてばかりだった私が、王城の料理人にプリンを教えている。人生何があるか分からないね。一回死んでるけど。


 蒸している間、厨房には甘い匂いが広がった。リリアーナ様も途中で様子を見に来た。もちろんセレナさん付きだ。


 「ユウ様! プリンはできましたの?」

 「今蒸してます」

 「待ち遠しいですわ……」

 「姫様。厨房で走らないでください」

 「走っていませんわ。少し急いだだけです」

 「それを走ると言います」


 セレナさんのツッコミが鋭い。リリアーナ様はシロちゃんを見つけると、すぐに表情を明るくした。猫好きの反応速度がすごい。


 「白き王様もプリンを待っていらっしゃるのですか?」

 『シロはお肉も待ってる〜』

 「すぐに用意させますわ!」

 「シロちゃん。王女様を使わないの」

 『は〜い』


 危ない。シロちゃんが王女様をお肉係にしてしまうところだった。いや、もう半分なってるかもしれない。


 しばらくしてプリンが蒸し上がった。まだ熱いので冷やさないといけない。王城には氷の魔道具があるらしく、冷やすのは早かった。便利だなぁ。私も家に欲しい。お風呂も作ってるし、次は冷蔵庫かな。


 完成したプリンを皿に出す。ぷるんと揺れた。成功だ。料理人たちが息を飲む。リリアーナ様は目を輝かせている。アンちゃんはよだれを垂らしそうになっている。


 「では、味見をお願いします」

 「まずは毒見を」

 「あ、そうでした」


 王族相手だと毎回毒見が入る。大変だね。毒見役の人が一口食べる。そして目を見開いた。


 「……問題ありません」

 「今ちょっと嬉しそうでしたね?」

 「問題ありません」


 真顔に戻った。プロだ。


 リリアーナ様、料理長、料理人たちにもプリンが配られた。もちろんユラちゃん達にも渡す。シロちゃんには少しだけだ。猫ちゃんに甘いものを食べさせすぎるのは良くない気がする。シロちゃんが普通の猫かどうかは怪しいけど。


 「美味しいですわ!」

 「これは……なるほど。卵の固まり方を利用しているのか」

 「なめらかさが重要ですね」

 「カラメルの苦味が甘さを引き立てています」


 料理人たちが一斉に分析を始めた。すごい。プロっぽい。私はただ美味しいなぁとしか思っていない。これが料理人と素人の差か。


 「ユウ様。この菓子は王城の正式な献立に加えたい」

 「え、私に許可を取るんですか?」

 「当然です。教えを受けたものを勝手に扱うわけにはまいりません」


 料理長は真面目な顔で言った。異世界の料理人、思ったより律儀だ。私は少し考えた。プリンは私だけのものじゃないし、前世の知識だ。独占する気もない。けど、広めすぎると面倒なことになりそうな気もする。


 「王城で出す分には大丈夫です。ただ、外で商売する時は一度相談してください」

 「承知しました」


 よし。これでいきなりプリン屋をやらされることはないはず。多分。


 「ユウ様! 素晴らしいですわ! これで毎日プリンが食べられますわ!」

 「毎日は太りますよ」

 「……毎日は控えますわ」


 リリアーナ様が少ししょんぼりした。かわいい。けど健康は大事だよ。甘いものばかり食べると虫歯とか怖いしね。この世界に歯医者あるのかな。無かったら地獄だよ。


 てってれ~実績を解除しました『甘味革命』(王城に新しい甘味を伝える)。スキルを開放します。


 ……来た。


 久しぶりの実績解除だ。しかも名前が不穏だ。甘味革命って何。革命しちゃだめでしょ。王城で革命とか字面が危ない。


 スキル『温度調整』を獲得。


 効果

  触れている物の温度を任意に調整できる。ただし生物には使用不可。


 「え、便利」


 思わず声に出た。これ、冷蔵庫いらないじゃん。料理にも使えるし、お風呂のお湯加減も調整できる。熱すぎるスープも冷ませる。夏に飲み物冷やせる。神スキルだ。


 「ユウ様?」

 「あ、すみません。ちょっと便利なことができるようになりました」

 「便利なこと……?」


 料理長が首を傾げる。私は試しに熱いお茶の入ったカップに触れ、飲みやすい温度をイメージした。湯気が少し落ち着く。飲んでみると丁度いい。


 「おぉ」

 「温度を変えました」

 「ユウ様。ぜひ厨房に……」

 「働きません」


 危ない。王城の厨房に就職させられるところだった。私は働きたくない。前世で十分働いた。今世は猫ちゃんとまったり生きるんだ。


 「ご主人〜。お肉冷たい〜」

 「あ、温めるね」


 私はシロちゃんのお皿にある肉を温めた。シロちゃんは嬉しそうに食べる。アンちゃんは自分のプリンを冷たくしてほしいと言ってきた。ユラちゃんとシュリちゃんも冷たいお茶に喜んでいる。うん。このスキルめっちゃ生活向きだ。最高じゃないか。


 こうしてプリン講習会は無事に終わった。最初はどうなることかと思ったけど、料理人たちは優秀だし、プリンも成功したし、新しいスキルまで手に入った。結果だけ見れば大勝利だね。


 ただ、厨房を出る時に料理人たちが「次は焼き菓子を」「冷たい菓子も」「あの温度の力を使えば新しい料理が」と話しているのが聞こえた。嫌な予感しかしない。


 部屋に戻ると、私はソファーに倒れ込んだ。シロちゃんが私のお腹に乗り、アンちゃんが隣でプリンを食べ、ユラちゃんとシュリちゃんは王城の庭に行きたいと相談している。リリアーナ様はまた後で遊びに来るらしい。レオン様も訓練に誘いに来る気がする。


 「王城生活、忙しすぎない?」

 『楽しいよ〜』

 「妾はプリンがあれば満足なのじゃ」

 「お姉ちゃん。午後は少し休む?」

 「休みたい。すごく休みたい」


 そう言った瞬間、扉がノックされた。


 嫌な予感がする。


 「ユウ様。陛下がお呼びです」


 セレナさんの声だった。


 ……休ませて?

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