第87話 三つの光杖と初めての空
――神界到着後・八日目/改修開始――
ゼウスへの完成報告を終えた翌朝。
神界の研究棟には、再び青白い光が満ちていた。
中央の作業台に置かれているのは、漆黒の砲撃デバイス――ダークアークレイ。
その周囲には、三つの設計領域が浮かんでいる。
一つは、天城いろはが使うことを想定した高出力砲撃型。
一つは、レイ・シルビアの高速戦闘へ対応する機動型。
最後の一つは、かえでが戦況を管理しながら使う制御型。
そして、少し離れた場所には、はちの左手首から展開されたSIAの設計領域があった。
「まずは、ダークアークレイの内部を再確認します」
はちが左腕を上げる。
SIAの外側へ青白い魔力ディスクが現れ、作業台の周囲をゆっくり回り始めた。
『分解用術式を展開します』
シアの声と同時に、ダークアークレイの外装が光へ変わる。
黒い部品が、一本ずつ空中へ浮かんだ。
砲身。
魔力収束器。
内部フレーム。
出力制御核。
砲撃へ方向を与える演算領域。
壊したわけではない。
すべての部品を、正確な座標へ保ったまま展開したのだ。
「……随分、攻撃へ偏った構造ですね」
アテナが、浮かんでいる部品を見ながら告げた。
「作った時の自分は、威力を優先していましたからねぇ」
「いろはさん達と戦うために、ですか?」
フィナが、少し言いにくそうに尋ねる。
「はい」
はちは、誤魔化さなかった。
いろは達を信用できなくなっていた頃。
自分の身を守り、近づく者を遠ざけるために作った黒い杖。
出力は高い。
だが、他者との連携や、長時間の安定運用はほとんど考えていない。
使用者も、はち一人だけを想定している。
「だから、今回は根本から作り直します」
ダークアークレイという名前も、ここで役目を終える。
いろは達と敵対していた時に生まれた、黒い砲撃デバイス。
その技術を原型にしながら、今度は仲間へ光を届けるための杖を作る。
「ここから作る三機は、ライトアークレイシリーズです」
「ライトアークレイ……」
ステラが、新しい名前を静かに繰り返した。
「闇を撃つ杖ではなく、光を運ぶ杖です」
はちは、出力制御核を設計領域の中央へ移した。
「攻撃用の魔力だけではなく、プラスエネルギーも通せる複合経路を追加します。それから、使用者の魔力波形を登録する認証機構。SIAとの遠隔接続。座標固定。異常時の強制停止」
「全部、この小さな核へ入れるのですか?」
「今の大きさでは入りませんね」
「では、大きくするのですか?」
「いいえ。内部へ次元収納を作ります」
「……また次元収納なのですね」
フィナが、何とも言えない顔になる。
「便利ですから♪」
はちは、楽しそうに答えた。
外側の大きさを変えず、内部だけを拡張する。
プラスエネルギー貯蔵庫を作った経験が、今度はデバイスの改修へ活かされる。
ただし、今回は大量のエネルギーを保存するためではない。
複数の制御機構を、安全に配置するための内部空間である。
「シア。制御核の内部へ、補助領域を作ってください」
『承知しました』
青白い光が、黒い制御核を包む。
外見は変わらない。
だが、内部に小さな次元空間が生まれた。
そこへ、五つの制御機構が順番に配置されていく。
通常魔力の通路。
プラスエネルギー専用の通路。
使用者認証。
SIAとの通信領域。
緊急停止機構。
『基本制御核、構築完了』
「まずは一つですね」
「残り二つも、同じものを作るのですか?」
「基本は同じです。でも、最後の出力部分を変えます」
はちは、三つの設計領域へ基本制御核を複製した。
一つ目には、大量のプラスエネルギーを一撃へ収束させる砲撃機構。
二つ目には、高速移動中でも供給経路を保つ追従機構。
三つ目には、他の二機の座標を補助し、防御術式も展開できる広域制御機構。
同じライトアークレイ系列でも、役目は大きく異なる。
「開発中の呼び方がないと、不便ですね」
アテナの言葉に、はちが手を止めた。
「では、仮の名前を付けましょうか」
高出力砲撃型へ、第一試作機。
高速機動型へ、第二試作機。
広域制御型へ、第三試作機。
「……それだけですか?」
フィナが目を瞬かせた。
「正式な名前は、実際に使う人が決めた方がいいでしょう?」
「なるほど……」
「自分が勝手に名前を付けたら、いろはさん達が困るかもしれませんからね」
「ハチ、ステラの名前は付けてくれた」
静かに見ていたステラが、少しだけ不満そうに告げた。
「ステラは、自分に名前を頼んだじゃないですか」
「……うん」
「それに、ステラという名前は、とても大切ですよ」
「……なら、いい」
ステラの表情が僅かに柔らかくなる。
フィナは、そのやり取りを見ながら微笑んだ。
アテナだけは、三つの設計領域から目を逸らさない。
「はちさん。いろはさん達がここにいない状態で、使用者認証まで完成できますか?」
「認証機構そのものは作れます。でも、本人の魔力波形は登録できません」
「最終調整は、アルカディアへ戻ってからですね」
「はい。ここでは未登録の状態まで仕上げます」
本人の許可なく、生体情報や魔力波形を登録するつもりはない。
はちは過去の戦闘記録から、三人の戦い方を参考にする。
だが、完成したデバイスを本当に使うかどうかは、いろは達が決めることだった。
「それでは、次へ進みます」
はちは三つの試作機へ手を伸ばした。
◇ ◇ ◇
改修開始から二日目。
三つの黒いデバイスが、作業台の上へ並んでいた。
第一試作機は、元のダークアークレイに近い長杖型。
漆黒の外装に、金色の細い線が走っている。
砲身は一つ。
内部には複数の収束領域があるが、射出口は最後まで一つのままだ。
第二試作機は、長杖から二本の短い武装へ姿を変えられる。
高速移動中には左右の手で扱い、エネルギーを送り込む時だけ一つの制御系として同期する。
形が二本になっても、供給座標は一つの目標へ集まる。
第三試作機は、短い杖と複数の浮遊端末で構成されている。
攻撃力は他の二機より低い。
代わりに、広い範囲へ防御膜を展開し、第一試作機と第二試作機の座標を補助できる。
「形にはなりましたね」
はちが三つを見渡した。
「ですが、まだ中身は空です」
「今日は、SIAとの接続ですか?」
「はい。その前に、SIAの二層化を行います」
はちは左腕を作業台へ乗せた。
腕時計型のSIAが、青白い光を放つ。
外装を外すことはしない。
内部のプログラム領域だけを、神界の設備へ接続する。
『現行の魔力ディスク制御を保護しました』
「お願いします、シア」
『補助層の追加を開始します』
はちの左腕の外側へ、いつもの魔力ディスクが現れた。
円形の光が回転し、その内側へ一回り小さな輪が作られる。
外側は、これまでカードを使ってきた主操作層。
内側は、ライトアークレイ系列との接続、プラスエネルギー供給、飛行術式を維持する補助層。
二つの輪は同じ中心を持ちながら、別々の速度で回っている。
「綺麗ですね……」
フィナが、青白い二重の光を見つめた。
「見た目は成功しています。問題は、同時に動かせるかです」
はちは右手中指の指輪型カードケースへ触れた。
最初に取り出したのは、セレスティアのカード。
主操作層へセットする。
『カード情報、正常に読み込みました』
次に、補助層へ仮の制御データを登録した試験カードを入れる。
内側の輪が、淡い金色を帯びた。
セレスティアのカード情報は消えていない。
補助層の制御も止まらない。
『二層同時稼働、正常です』
「これなら、カードを使いながら供給できます」
「セレスティアを呼ぶのですか?」
「今は情報を読み込んだだけです。研究棟の中で呼んだら、狭いですからね」
はちはカードを外し、右手中指のケースへ戻した。
次に行うのは、三つの試作機との通信試験。
第一試作機。
第二試作機。
第三試作機。
補助層へ、三つの小さな表示が現れた。
まだ使用者は登録されていない。
代わりに、研究棟の模擬魔力を流して動作を確認する。
「第一試作機、接続」
長杖の金色線が光る。
「第二試作機、接続」
二本の短杖へ青白い光が走る。
「第三試作機、接続」
浮遊端末が、作業台の周囲へ展開された。
三つの表示が、すべて正常を示す。
「同時供給を開始します」
プラスエネルギー貯蔵庫の模擬装置から、僅かな金色の光が流れた。
SIAを通り、三つの試作機へ向かう。
最初の数秒は、問題がなかった。
だが――。
『警告。供給波形に干渉が発生』
「停止!」
はちが叫ぶ。
金色の光が消え、三つの試作機が沈黙した。
第二試作機の表面から、細い煙が上がっている。
「わふっ……」
「壊れたのですか?」
「いえ、緊急停止が間に合いました」
はちは第二試作機を確認した。
内部の安全膜が一枚消えている。
供給された三つの波形が、SIAの出口で互いに干渉したのだ。
「一つずつなら安定していたのに……」
「同じ貯蔵庫から、同時に力を送ったことが原因でしょうか?」
アテナが記録へ目を向ける。
「その可能性が高いです」
三つのデバイスは、必要とする出力も速度も違う。
第一試作機は、一度に大きな力を求める。
第二試作機は、少量の力を高速で繰り返し求める。
第三試作機は、安定した力を長く必要とする。
異なる要求を同時に通したことで、供給経路の中に乱れが生じた。
「このままでは、実戦で使えませんね」
はちは、停止記録を最初から確認した。
「今日は、ここを直します」
予定どおりに進まなかったことを悔やむより、原因が実戦前に見つかったことを喜ぶべきだった。
四人は、再び設計領域を開いた。
◇ ◇ ◇
改修開始から三日目。
供給干渉を防ぐため、はちは三つの経路を同時には開かない方法を選んだ。
人の感覚では同時に見えるほど短い間隔で、供給先を高速で切り替える。
第一試作機へ送る。
閉じる。
第二試作機へ送る。
閉じる。
第三試作機へ送る。
閉じる。
この処理を一秒間に数千回行う。
異なる波形が、同じ経路の中で重ならない。
各試作機には小さな一時保存領域を置き、供給が途切れる僅かな時間を補う。
「もう一度、始めます」
三つの試作機が起動した。
SIAの補助層に、三本の光が現れる。
見た目には、すべて同時に繋がっている。
だが、内部では供給先が高速で移り続けていた。
『干渉、ありません』
「出力を上げます」
十パーセント。
二十パーセント。
五十パーセント。
第一試作機の砲身に、金色の光が集まる。
第二試作機の二本の短杖が、研究棟の中を高速で移動する模擬信号へ追従する。
第三試作機の浮遊端末が、二機の周囲へ防御膜を展開した。
『三機同時制御、安定しています』
はちは、すぐには喜ばなかった。
「十分間、維持します」
短い成功だけでは、実戦へ持ち込めない。
十秒。
一分。
五分。
十分。
供給経路は乱れない。
試作機の負荷も、安全範囲に収まっている。
『継続試験、成功です』
「やりました!」
フィナが翼を広げた。
「まだ、飛行カードが残っていますよ」
「あっ……そうでした」
はちが微笑む。
次の作業台には、透明に近い一枚のカードが置かれていた。
中央には、青白い翼を思わせる紋様が描かれている。
「名前は、どうする?」
ステラが尋ねた。
「そうですねぇ……」
はちはカードを持ち上げた。
飛ぶためのカード。
戦場の上空から、仲間達を支えるための翼。
「エアリアル・ウィング」
カードへ、その名が記録された。
「これでいきましょう」
「……いい名前」
ステラが頷く。
「では、試してみます」
「ここで、ですか?」
アテナが周囲を見る。
研究棟の天井は高い。
だが、初めて飛ぶ者が試す場所としては、設備が多すぎる。
「外の試験場へ移動しましょう」
「……はい」
はちは少し残念そうにカードを下ろした。
◇ ◇ ◇
神界の飛行試験場。
白い雲の海を見下ろす、広い円形の足場。
周囲には衝突を防ぐ防護術式があり、失速しても地上まで落ちることはない。
はちは足場の中央に立った。
右手中指の指輪型カードケースから、エアリアル・ウィングを取り出す。
左手首のSIAを起動。
青白い魔力ディスクが、左腕の外側へ展開された。
外側の主操作層は空いたまま。
内側の補助層だけが、静かに回転している。
「カードセット」
エアリアル・ウィングを補助層へ置く。
青白い光がカードを包んだ。
『飛行術式、読み込み完了』
はちの背後へ、二枚の光翼が現れた。
鳥の翼とは違う。
幾つもの細い魔力線が重なり、透明な翼の輪郭を作っている。
翼の内側には、虹色の小さな粒子が漂っていた。
「おお……」
はちが、自分の背後を振り返ろうとする。
「ハチ、前」
「わふっ!」
ステラに言われ、慌てて正面へ戻る。
「まずは、一メートルだけ上がってください」
アテナが、試験記録を開きながら告げた。
「はい」
はちは、翼へ魔力を流した。
身体が、ゆっくりと浮かぶ。
足が地面から離れた。
三十センチ。
五十センチ。
一メートル。
「飛びました!」
フィナが嬉しそうに声を上げる。
「自分、飛んでますよ!」
はちも目を輝かせた。
「そのまま静止してください」
「はい!」
光翼の出力を一定に保つ。
最初の数秒は安定していた。
しかし、はちが少し右へ顔を向けた瞬間、身体まで右へ傾いた。
「わっ、わふっ!?」
慌てて戻そうとした結果、今度は左へ傾く。
光翼が強く羽ばたき、はちの身体がその場で一回転した。
「わふぅぅぅっ!?」
「はちさん!」
フィナが飛び出した。
だが、ステラの方が早い。
回転しながら落ちてきたはちの服を掴み、そのまま足場へ下ろした。
「……ハチ、大丈夫?」
「め、目が回ります……」
はちは足場へ座り込み、両手で頭を押さえた。
フィナが心配そうに駆け寄る。
「初めてなら、当然です」
アテナは落ち着いた声で言った。
「身体の向きと、飛行方向の制御が近すぎますね」
「顔を動かしただけで曲がりました……」
「視線ではなく、明確な意思を読み取るよう調整しましょう」
『姿勢制御へ補正機能を追加します』
シアが、先ほどの飛行記録を解析する。
身体が傾いても、進行方向をすぐには変えない。
使用者が移動を意識した時だけ、その方向へ推進力を出す。
急な回転を感知した場合、自動で反対側の翼を動かして姿勢を戻す。
「もう一度、やります」
はちは立ち上がった。
「少し休んでからでもよいのですよ?」
「今ので問題が見つかりましたから、直ったか確認したいです」
「……本当に研究者ですね」
アテナが、僅かに息を吐いた。
二回目。
はちの身体が浮かぶ。
一メートルで静止。
今度は顔を動かしても、身体はその場に留まった。
「前へ進みます」
意識を前へ向ける。
光翼が、柔らかく輝いた。
はちの身体が、ゆっくりと前進する。
右へ。
左へ。
上へ。
下へ。
最初は慎重に。
慣れてくると、少しずつ速度を上げていく。
「わふっ♪」
雲の上を、灰黒色の長い髪がなびいた。
はちは円形の試験場を一周し、元の位置へ戻ってくる。
着地の直前、少し速度が落ちすぎた。
最後の数十センチを、ぽすんと尻餅をつくように降りる。
「着地は、練習が必要ですね……」
「でも、飛べた」
ステラが、はちの前へ手を差し出した。
「はい♪」
はちはその手を借りて立ち上がる。
初めて、自分の力で空を飛んだ。
次元門で場所を移すのとは違う。
風の流れを感じ、空の中で自分の進む方向を選ぶ。
戦いのための技術として作ったはずなのに、その感覚は純粋に楽しかった。
「次は、飛びながらカードを使います」
「今日は、ここまでです」
アテナが即座に告げた。
「まだ飛べますよ?」
「初日に二度も尻餅をついた人が言う言葉ではありません」
「一度目はステラが下ろしてくれたので、一回です」
「回数の問題ではありません」
「わふっ……」
フィナが、二人のやり取りを聞きながら小さく笑った。
◇ ◇ ◇
改修開始から四日目。
はちは飛行術式を維持しながら、主操作層へカードをセットする試験を行った。
最初は、防御カード。
空中を移動しながら障壁を展開する。
次に、アリアのカード情報を読み込む。
召喚そのものは行わず、魔力ディスクが二つの処理を保てるか確認する。
最後に、三つの試作機との接続を加えた。
飛行。
カード使用。
プラスエネルギー供給。
次元座標制御。
四つの処理が、SIAの中で同時に動く。
『全機能、安定しています』
シアの声が、試験場へ響いた。
「緊急停止試験へ移ります」
アテナが、第一試作機へ意図的な異常信号を送る。
SIAの補助層に、赤い警告が現れた。
「第一試作機への供給を停止!」
三本の光のうち、一つだけが消える。
第二試作機と第三試作機への供給は続いている。
飛行術式も、主操作層のカードも止まらない。
『個別停止、成功』
「次。全供給停止」
今度は三本すべての光が消えた。
貯蔵庫への逆流はない。
試作機側にも、危険なエネルギーは残っていない。
「復旧します」
安全確認を終えた機体から、一つずつ接続が戻る。
『復旧処理、正常です』
アテナが記録へ結果を残した。
「残るのは、最大出力試験ですね」
「はい。明日行います」
はちは空中からゆっくり降りた。
今度は尻餅をつかない。
両足が、静かに地面へ触れた。
「……上手になった」
ステラが告げる。
「ふふん♪ 自分も成長しましたよ」
「昨日から、一日しか経っていませんけどね」
フィナが笑う。
「一日あれば十分です♪」
はちは少し胸を張った。
◇ ◇ ◇
改修開始から五日目。
三つの試作機が、神界の広域試験場へ並べられた。
正面には、次元防壁を再現した巨大な標的がある。
第一試作機は固定台へ設置。
第二試作機は高速移動用の模擬術式へ接続。
第三試作機の浮遊端末は、二機を囲むように配置された。
はちは、試験場の後方へ立つ。
ステラとユニゾン。
片方の瞳が金色へ変わり、周囲に虹色を含む次元の揺らぎが現れた。
右手中指から、エアリアル・ウィングのカードを取り出す。
SIAを起動。
左腕の外側へ展開された青白い魔力ディスク。その内側の補助層へカードをセットした。
「エアリアル・ウィング、起動」
背後へ青白い光翼が広がる。
はちの身体が、試験場の上空へ浮かんだ。
外側の主操作層へ、防御カードをセットする。
自分の周囲に障壁を展開したまま、三つの試作機へ接続する。
『全試作機、接続完了』
「プラスエネルギー貯蔵庫、開放」
金色の光が、はちとステラの内側からSIAへ流れる。
高速で切り替わる三つの供給経路を通り、それぞれの試作機へ届いた。
第一試作機の砲身が、強い金色へ染まる。
第二試作機が、模擬術式の中を高速で飛ぶ。
第三試作機の端末が、試験場全体へ座標固定領域を展開した。
「目標、次元防壁中央」
『座標を登録しました』
「第一試作機、出力最大」
金色の光が収束する。
砲身は最後まで一つ。
光も、一つの射出口へ集まっていく。
「第二試作機、経路を確保」
二本の短杖が、次元防壁の周囲へ異なる角度から光を放った。
攻撃ではない。
防壁の揺らぎを測り、第一試作機の光が通る僅かな隙間を探している。
「第三試作機、座標固定」
浮遊端末から光の線が伸びる。
防壁の中央へ、一つの座標が固定された。
『発射準備、完了』
はちは、三つの状態を同時に確認した。
供給、正常。
座標、固定。
使用者保護、模擬状態で正常。
SIAへの負荷、安全範囲内。
「第一試作機、発射!」
金色の砲撃が放たれた。
巨大な光が、神界の空を走る。
次元防壁へ触れる直前、砲撃の外側を覆っていた魔力だけが消えた。
内部のプラスエネルギーが、第二試作機の見つけた隙間へ入る。
第三試作機が固定した座標へ向かい、防壁の奥へ届いた。
標的の中心にある模擬貯蔵庫が、金色へ染まる。
『プラスエネルギー、目標内部へ到達』
『次元防壁による転送、ありません』
『全試作機、損傷ありません』
『SIA制御領域、安定しています』
シアの報告が続く。
はちは、すぐに供給を停止した。
試験場へ残っていた金色の光が、ゆっくり消えていく。
「……成功です」
アテナが、記録を確認して告げた。
フィナが嬉しそうに両手を上げる。
はちも空中で大きく息を吐いた。
『ハチ、着地までが試験』
ユニゾンしているステラの声が、内側から聞こえる。
「分かっていますよ」
はちは、ゆっくり高度を下げた。
光翼の出力を弱める。
両足が地面へ触れた。
今度はふらつかない。
「着地も成功です♪」
ユニゾンを解除する。
金色の光が離れ、ステラが隣へ降り立った。
「これで、完成ですか?」
フィナが尋ねる。
「基礎システムは完成です」
はちは、三つの試作機を見る。
「後はアルカディアへ戻って、いろはさん、レイさん、かえでさん本人に説明します」
「使うかどうかを決めるのは、三人なのですね」
「はい。使ってくれるなら、魔力波形を登録して、一人ずつ最終調整します」
強い武器を作ったからといって、相手へ押しつけてよいわけではない。
何のために作ったのか。
どんな危険があるのか。
はちが後方で何をするのか。
すべて説明し、本人達の意思を確かめる必要がある。
「はちさん」
アテナが、完成記録を閉じた。
「五日間、お疲れ様でした」
「アテナさん達も、お疲れ様でした」
「今度は、ちゃんと休む?」
ステラが尋ねる。
「今日は休みますよ」
「夢の中でも?」
「……努力します」
「そこは、はっきり休むと言ってください」
アテナの声が、少しだけ厳しくなる。
「わふっ……」
フィナの笑い声が、広い試験場へ響いた。
プラスエネルギー貯蔵庫。
三つのライトアークレイ試作機。
SIAへ組み込まれた専用制御領域。
そして、はちへ初めて自分の翼を与えたカード――エアリアル・ウィング。
ヘルカイザーの暴走へ挑むために必要な形が、少しずつ揃っていく。
次に進む場所は、アルカディア。
いろは達の待つ世界へ戻り、この力を託すために。
――第87話・終――




