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転生した主人公が次元神になる  作者: ヘルカイザー
第2部

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第66話 降り注ぐ滅びの雨


――アルカディア上空――


(……何だ、あれは!?)


はちは、目の前で起きた光景を見つめていた。


ヘルカイザーが、連結式魔導ライフルを次元の狭間へ撃ち込んだ。


しかも、最大出力で。


……何をするつもりなんだ?


(……まさか、次元の狭間そのものを……?)


いや。


違う。


そう考えた、その瞬間だった。


――ぽちゃん。


「……ん?」


はちから少し離れた空中に、小さな波紋が広がった。


……また、次元の裂け目?


だが。


それだけではなかった。


――ぽちゃん。


――ぽちゃん。


――ぽちゃん。


次々と、水面のような波紋が生まれ始めたのだ。


一つ。


二つ。


三つ。


十。


百。


……いや。


(……ちょっと待て)


はちは、思わず周囲を見渡した。


空中。


地上付近。


遠くに広がる都市の上空。


……あらゆる場所に。


無数の波紋が広がり始めていた。


はちは、最初の一つへ向けていた視線を動かした。


その間にも、視界の端で別の円が広がる。


見間違いではない。


同じ場所で波紋が重なっているのでもなかった。


それぞれが離れた位置に生まれ、別々の中心から広がっている。


一つだけなら、次に何が来るのかを見ていられた。


出口が一つなら、少なくとも、そちらへ意識を向けられる。


だが、これは違う。


右を見れば、左で増える。


近くの歪みを確かめる間に、遠くにも新しい光が揺らめく。


はちは、街の方へ顔を向けた。


建物の輪郭は、まだ見えていた。


いつものようにそこにある街。


自分が歩き、人と話し、帰る場所のある景色だった。


その上にも、同じ波紋が生まれている。


近くにいる誰かだけを狙った攻撃ではない。


そのことが、頭の中へ冷たく入り込んだ。


(……何で、あそこにまで)


はちは、思わず息を吸った。


ヘルカイザーは、こちらへ銃口を向けていなかった。


だから、自分に向けられた攻撃を防ぐ準備だけでは足りない。


さっきまでの戦いで考えていた距離が、いまは意味を失いかけていた。


相手との間合い。


セレスティアの位置。


いろはやセリシアがいる場所。


それだけを見ていても、間に合わない。


視線をどこへ置けばいいのか、はちには、すでに分からなくなっていた。


「…………っ!?」


何だよ、これ……。


「……ステラ!」


『……うん!』


ステラも、異常を感じ取っていたらしい。


『はち、これ……!』


(……はい)


はちは、目を細めた。


……分かる。


これは、次元神の能力だ。


しかも……。


(……規模がおかしい!!)


ヘルカイザーが開いた巨大な裂け目。


そこへ撃ち込まれた連結式魔導ライフルの砲撃。


その魔力反応が……。


今、世界のあちこちに現れ始めた裂け目の向こう側から感じられる。


(……まさか!?)


その瞬間。


一つの次元の裂け目が、大きく開いた。


そして――。


――ドォォォンッ!!


「――っ!?」


そこから、巨大な魔力砲撃が飛び出した!!


……なっ!?


「……嘘だろ!?」


はちは、思わず声を上げた。


だが。


驚いている暇などなかった。


次の瞬間。


――ドォンッ!!


――ドドォンッ!!


――ドォォォンッ!!


次々と、裂け目から魔力砲撃が放たれ始めたのだ。


しかも。


一発や二発ではない。


十。


百。


……それどころじゃない!


(……おいおいおいおい!!)


はちは、空を見上げた。


そこには――。


無数の次元の裂け目が、広がっていた。


そして。


そのすべてから、連結式魔導ライフルの砲撃が降り注ごうとしていた。


……まるで。


空そのものが、無数の砲口に変わってしまったかのように。


「……っ!!」


はちは、息を呑んだ。


……何なんだよ、これ!?


ヘルカイザーが撃ったのは、一度だけ。


一つの巨大な次元の裂け目へ向けて。


だが、その砲撃が次元の狭間を経由して、無数の裂け目から現れている。


……つまり。


(……あいつ)


(……世界中に、砲撃を降らせるつもりか!?)


……まずい。


これは、本当にまずい!!


目の前に広がるアルカディア。


遠くに見える都市。


その周囲に暮らす人々。


……全部。


全部、巻き込まれてしまう!!


「……っ!!」


はちは、咄嗟に左腕を構えた。


SIA本体は、左手首に固定されている。


左腕の外側には、青白い魔力ディスクが展開されたままだ。


セレスティアも、すぐ近くで待機していた。


だが。


今は、攻撃している場合じゃない!!


「……ステラ!!」


『……うん!!』


「次元神の能力を使います!!」


『分かった!!』


はちは、目の前の空間へ意識を集中させた。


……やるしかない!!


「ディメンションゲート!!」


――ぽちゃん!!


何もない空間に、水面のような波紋が広がった。


そして。


ぐにゃり……。


その中心が大きく歪む。


――ピシッ!!


次元の裂け目が開いた。


「……よし!!」


はちは、降り注ぐ砲撃の一つへ狙いを定めた。


そして。


その進行方向に、次元の裂け目を展開する。


ゴォォォォォッ!!


巨大な光の奔流が、その中へ飛び込んでいった。


シュンッ!!


砲撃が、次元の狭間へ吸い込まれる。


「……っ!」


……成功!!


やっぱり、同じ次元神の能力なら、砲撃を別の空間へ逃がすことができる!!


はちは、消えた光の跡を見つめかけ、すぐに視線を移した。


確かめ続ける時間はない。


いまの一発が街や大地へ届かなかったことだけ分かれば、それで十分だった。


まだ来る。


黒い裂け目の奥に、次の光が見えている。


その進む方向を見て、空間を開く場所を決める。


遅ければ、砲撃が先へ抜ける。


向きを誤れば、裂け目の横を通ってしまう。


開けばそれで済むというわけではなかった。


光の幅。


飛んでくる角度。


その先にあるもの。


一つずつ確かめているつもりでも、考える間に、光は距離を詰めていた。


(……次だ、俺)


はちは自分へ言い聞かせた。


一つは防げた。


それなら、次も同じようにできる。


いまは、その手応えに頼るしかない。


左腕の魔力ディスクは維持したままだった。


近くにいるセレスティアの白い姿が、視界の端へ入る。


だが、攻撃を指示する余裕はなかった。


目の前の一発を止める。


そのあと、次を見る。


ヘルカイザーへ向けるはずだった意識が、降ってくる光の先へと次々に引っ張られていく。


はちは、唇を結んだ。


まだ、防げる。


少なくとも、いま見えているものは。


そう考えながら、次の裂け目を開いた。


……だったら。


「次!!」


はちは、すぐに別の場所へ意識を向けた。


――ぽちゃん!!


二つ目の裂け目。


続いて。


――ぽちゃん!!


三つ目。


――ぽちゃん!!


四つ目!!


次々と、次元の裂け目を展開していく。


降り注ぐ連結式魔導ライフルの砲撃。


それを、片っ端から次元の狭間へ逃がしていく。


ゴォォォンッ!!


シュンッ!!


ゴォォォンッ!!


シュンッ!!


……よし!!


(……いける!!)


最初は、そう思った。


だが――。


「…………っ!?」


新たな波紋が、空中に現れた。


一つ。


二つ。


……十。


さらに。


二十。


五十。


百。


……そして。


その数は、減るどころか増え続けていた。


(……おい)


ちょっと。


待ってくださいよ……。


「……何ですか、この数!?」


はちは、思わず叫んだ。


だが、当然ながら返事などない。


次々と現れる次元の裂け目。


その向こうから、無数の光が降り注いでくる。


……まずい。


はちは、慌てて新しい裂け目を展開した。


――ぽちゃん!!


シュンッ!!


砲撃を一つ、吸い込む。


すぐに別の方向。


――ぽちゃん!!


シュンッ!!


二つ目。


さらに三つ目。


四つ目。


……だが。


「……っ!!」


間に合わない!!


「……ステラ!!」


『……はち!!』


ステラの声にも、焦りが滲んでいた。


『次の砲撃が来る!!』


ステラの声が、はちの意識を別の方向へ向けた。


そこには、もう光があった。


次元の境界が開くところから見ていれば、まだ間に合う。


そう思っていたのに、いまは、放たれた砲撃を見つけてから追い掛けるようになっていた。


見落とした。


その短い事実に、はちの喉が詰まる。


一つを確実に防ごうとすれば、ほかを見る時間が減る。


急いで次へ移れば、いま開いたゲートへ最後まで光が入ったか、確かめられない。


視界の中で、守るべき場所が増えていく。


ここ。


その隣。


もっと遠く。


どれも、あとでいいとは思えなかった。


(……待ってくれよ)


そう願っても、光は止まらない。


敵がこちらの準備を待つはずはない。


分かっている。


けれど、いまの光景には、駆け引きすらなかった。


こちらが防いだのを見て、別の場所を狙っているのか。


ただ、力が無秩序に広がっているのか。


そんなことを考える余裕も、もうなかった。


はちは、次のゲートを開いた。


光が吸い込まれる。


そのすぐ外側を、別の光が走る。


同じ青空の中で、間に合ったものと、追い付けないものが同時に見えていた。


はちは歯を食いしばった。


一度に全部を見ようとしても、見切れない。


それでも、見えてしまった砲撃から目をそらすことはできなかった。


(……分かってます!!)


はちは、さらに意識を集中させた。


「ディメンションゲート!!」


――ぽちゃん!!


――ぽちゃん!!


――ぽちゃん!!


次々と裂け目を開く。


……だが。


ドォォォンッ!!


「……っ!?」


はちが開いた裂け目のすぐ横を、別の砲撃が通り抜けた。


……危なっ!?


はちは、咄嗟にそちらへ意識を向ける。


しかし。


その瞬間。


また別の場所に、新たな裂け目が現れた。


――ぽちゃん。


……っ!!


(……追いつかない!!)


一つを防げば、二つ現れる。


二つを防げば、その間に別の場所から砲撃が放たれる。


一つ一つの威力も、決して小さくない。


何しろ。


すべて、あの連結式魔導ライフルの最大出力の砲撃から生じた攻撃なのだから。


それが……。


雨のように。


無数に降り注いでいる。


「……くそっ!!」


はちは、必死に空間を展開し続けた。


……どうする!?


どうすればいい!?


(……数が、多すぎる!!)


はちは、さらに裂け目を開こうとした。


しかし。


その瞬間。


『……はち!!』


ステラが、悲鳴に近い声を上げた。


『もう、処理が……!!』


「……っ!!」


……分かってる!!


分かってますよ!!


だけど!!


ここで止めたら……。


アルカディアが!!


この世界が!!


……破壊されてしまう!!


はちは、必死に次元神の能力を使い続けた。


◇ ◇ ◇


――天城いろは視点――


「…………っ!?」


私は、空を見上げたまま動けなくなっていた。


……何、これ。


空が。


空が、裂けている。


数え切れないほどの次元の裂け目。


その中から、巨大な光の奔流が降り注いでくる。


まるで、滅びの雨だった。


「……そんな……」


私は、かすれた声を漏らした。


「……ヘルカイザーさん……」


その姿へ視線を向ける。


小さな白いドラゴン。


黒紫色の魔力に包まれ、空中に浮かんでいる。


その瞳に、いつもの穏やかさはない。


……これが。


暴走した、ヘルカイザーさん……。


「……っ!」


私は、思わずアークレイを握り締めた。


そして。


少し離れた場所へ視線を向けた。


そこには――。


「ディメンションゲート!!」


はちちゃんがいた。


次々と空間を展開し、降り注ぐ砲撃を防いでいる。


一つ。


また一つ。


無数の光を、次元の狭間へ逃がしている。


……だけど。


「……はちちゃん……」


私は、息を呑んだ。


(……追いついてない……!)


はちちゃんは、必死だった。


今まで見たことがないほど、必死に次元の裂け目を展開している。


それでも。


空に現れる裂け目の数は、まったく減っていない。


むしろ……。


増えている。


「……そんな……!」


私は、思わず叫んだ。


「はちちゃん!!」


だが、はちちゃんは振り向かなかった。


それどころではないのだ。


次々と現れる砲撃を処理するために、全神経を集中させている。


……どうしよう。


何か。


何か、できることは……!


私は、アークレイを構えた。


だけど。


空を見上げた瞬間、再び息を呑んだ。


……あまりにも多い。


どれを狙えばいいのか。


どこから防げばいいのか。


それすら、分からなかった。


「…………っ」


私は、唇を噛み締めた。


……私が。


私が、もっと早く気付いていれば。


ヘルカイザーさんの忠告を、ちゃんと聞いていれば……。


こんなことには……。


「……いろはさん!!」


突然、セリシアの声が響いた。


私は、慌てて顔を向けた。


セリシアは、険しい表情でこちらを見つめていた。


「今は、後悔している場合ではありません!!」


「…………っ!」


……セリシア。


「この世界が、危険なのですよ!!」


「…………」


私は、ハッとした。


セリシアは、こちらを見ていた。


険しい顔だった。


でも、さっき私を責めたときとは、違っていた。


いま何をするべきか。


その問いを、目の前へ突き付けられた気がした。


私は、はちちゃんへ視線を戻した。


こちらを振り向かない。


呼び掛けへ返事をする余裕もない。


その間にも、次々と光を逃がしている。


私が呆然としていた時間にも、あの子は動き続けていた。


胸の中が、強く痛んだ。


謝りたい。


さっきのことを、何か言わなければいけない。


だけど、そのためにはちちゃんを振り向かせていいはずがなかった。


いま向き合っているのは、私の後悔ではない。


この空から降り注ぐ、無数の砲撃だ。


私は、アークレイを握り直した。


指先へ力を込める。


ちゃんと持っている。


まだ、ここにいる。


何もできないと決めてしまえば、それで終わってしまう。


何をすれば役に立てるのかは、まだ分からない。


でも、うつむいたままでは、次の光さえ見えなくなる。


セリシアの声が、耳の奥に残っていた。


この世界が、危険なのですよ。


そうだ。


ここには、私たちだけがいるわけではない。


あの街にも、その向こうにも、誰かがいる。


見えていない場所にも、暮らしは続いている。


私は、もう一度顔を上げた。


……そうだ。


今は。


今は、そんなことを考えている場合じゃない。


私は、アークレイを強く握り締めた。


「……うん!!」


そして。


もう一度、空を見上げた。


……何とかしないと。


このままじゃ。


本当に、アルカディアが……。


◇ ◇ ◇


――アルカディア上空――


「……くっ!!」


はちは、必死に次元の裂け目を展開し続けていた。


――ぽちゃん!!


シュンッ!!


一つ。


――ぽちゃん!!


シュンッ!!


二つ。


……次!!


――ぽちゃん!!


……っ!!


間に合わない!!


ドォォォンッ!!


遠くで、凄まじい爆発が起きた。


「――っ!?」


はちは、思わずそちらへ視線を向けた。


……くそっ!!


(……一発、逃した!!)


はちが展開した裂け目へ入りきらなかった砲撃が、遠くの大地へ到達してしまったのだ。


爆煙が、大きく舞い上がっている。


はちは、一瞬だけ、その向こうを見ようとした。


どこへ落ちた。


何があった場所だ。


誰かがいたのか。


問いが、まとめて頭の中へ押し寄せる。


だが、答えを確かめる前に、視界の上側がまた明るくなった。


次が来る。


はちは、強引に目を戻した。


あの場所へ向かうことも、ここから詳しく確かめることも、いまはできない。


その間にも砲撃は降っている。


一発を逃した。


それが、ただ数を一つ間違えたということではないのだと、爆煙が告げていた。


ゲームの画面ではない。


失敗した分だけ減る数字でもない。


あの光は、大地へ届く。


そこにあるものへ、実際に触れてしまう。


(……くそっ)


はちは、息を詰めた。


次は防ぐ。


そう決めても、次の一発だけを見ていればいいわけではない。


すでに別の方向にも光があった。


さらに遠くで、新しい歪みが開いている。


見える範囲だけでも、これだけある。


それより向こうは。


考えかけたところで、はちは次のゲートを展開した。


いま、その先まで考え切ろうとしたら、目の前の一発を失う。


分かっていても、爆煙の姿が頭から離れなかった。


自分が間に合わせられなかった場所が、そこにある。


はちは、その重さを振り払えないまま、もう一度空へ意識を向けた。


……まずい!!


これ以上、通すわけにはいかない!!


はちは、再び空へ意識を向けた。


――ぽちゃん!!


――ぽちゃん!!


次々と裂け目を開く。


だが。


「……っ!!」


新しい裂け目を開くたびに、別の場所から攻撃が飛び出してくる。


……おかしい。


いや。


おかしくない。


むしろ、これが当然なのかもしれない。


だって。


(……相手は、完成した次元神なんだ)


はちは、つい先ほど聞かされた話を思い出した。


『はちさんが使っている次元神は、未完成ですねぇ♪』


……そう。


ヘルカイザーは、そう言っていた。


はちが完成させた次元神。


そして。


神界の科学者たちが、流出した研究データを解析して生み出した第二世代の人工次元神。


その二つは、同じではない。


(……くそっ)


今なら。


その意味が、嫌というほど分かる。


……規模が違う。


扱える力が違う。


次元に干渉できる範囲も。


一度に展開できる数も。


……何もかも。


(……次元神の力が、ここまで違うのかよ!?)


はちは、歯を食いしばった。


こちらも、次元神の能力を使っている。


だが、あちらが展開している裂け目の数は、文字どおり桁違いだった。


しかも。


ヘルカイザーは、今。


暴走している。


こちらを狙って攻撃するだけの、普通の戦闘ではない。


いろはさん達が暮らす、この世界そのものを破壊しようとしている。


そのために、最大出力の連結式魔導ライフルを次元の狭間へ撃ち込んだのだ。


……そして。


今も、その砲撃が無数の裂け目から降り注いでいる。


(……こんなの)


(……どうやって防げって言うんだよ!!)


はちは、さらに意識を集中させた。


「ディメンションゲート!!」


――ぽちゃん!!


シュンッ!!


「もう一つ!!」


――ぽちゃん!!


シュンッ!!


「……っ!!」


……駄目だ。


間に合わない。


……いや。


正確には。


(……処理が、追いつかない!!)


一つ一つの裂け目を展開することはできる。


飛んでくる砲撃を、次元の狭間へ逃がすこともできる。


そこまでは、問題ない。


だが。


相手が一度に展開している数が、あまりにも多すぎるのだ。


こちらが十の攻撃を処理している間に、さらに何十もの攻撃が現れる。


こちらが新たな裂け目を開く頃には、別の砲撃が既に地上へ向かっている。


……これでは。


どれだけ頑張っても……。


『……はち!!』


ステラの声が、頭の中へ響いた。


『このままじゃ……!!』


(……分かってます!!)


はちは、心の中で叫んだ。


(……分かってますよ!!)


……でも。


どうすればいい!?


はちは、空を見上げた。


そこには。


数え切れないほどの次元の裂け目が広がっていた。


そして、その一つ一つから、連結式魔導ライフルの光が降り注いでいる。


……まるで。


世界そのものが、巨大な砲撃の標的になってしまったかのように。


「……くそっ!!」


はちは、左腕のSIAを構え直した。


魔力ディスクは、今も展開されたまま。


セレスティアも、近くで待機している。


だが。


今、必要なのは攻撃力ではない。


この無数の砲撃を、すべて受け止めること。


……それなのに。


(……未完成の次元神では……)


はちは、唇を噛み締めた。


……処理が追いつかない。


はちは、視界の中にある裂け目を、もう数えていなかった。


数えることができないのだ。


ひとつ開く。


それを防ぐ。


その間に、別の場所で複数の光が走る。


何発防いだのかも、すでに曖昧だった。


だが、防げなかったものがあることだけは、忘れられない。


能力を使えていないわけではない。


ゲートは開いている。


光を飲み込むところも、何度も見ている。


それなのに、守り切れない。


その食い違いが、はちの胸を締め付けていた。


次元神の力があれば届くと思っていた。


同じ力なら、何とかできるのではないかと。


だが、同じように空間へ干渉できることと、同じだけの範囲を同時に扱えることは違った。


できることがある。


それでも、足りない。


その事実を、空のあらゆる場所から突き付けられていた。


ステラの声は、すぐそばにある。


一緒に異変を追い、次に来る光を伝えてくれる。


彼女が何もしていないわけでも、自分が力を使っていないわけでもない。


それでも、向こうの数が上回る。


(……まだ、何か)


はちは、必死に考えようとした。


だが、考えをまとめる前に、また次の砲撃が見える。


意識をそちらへ向ける。


ゲートを開く。


その繰り返しから、抜け出せなかった。


完成した次元神と、未完成の次元神。


その差が。


今。


目の前に、はっきりと現れていた。


「……っ!!」


新たな次元の裂け目が、空に生まれた。


――ぽちゃん。


また一つ。


――ぽちゃん。


さらに、もう一つ。


……そして。


そのすべてが、ゆっくりと開き始める。


「…………」


はちは、息を呑んだ。


……駄目だ。


あれだけの数を、一度に処理するなんて……。


(……無理だ!!)


だが。


止まるわけにはいかなかった。


目の前には、アルカディア。


この世界で暮らしている人たちがいる。


いろはさんも。


レイさんも。


……みんながいる。


それを。


このまま、破壊させるわけにはいかない!!


「……ステラ!!」


『……うん!!』


はちは、もう一度意識を集中させた。


「……まだです!!」


――ぽちゃん!!


次元の裂け目が、新たに開く。


「まだ……!!」


――ぽちゃん!!


さらに、もう一つ!!


だが。


その直後。


はちが展開した裂け目の向こう側で、また新しい砲撃が現れた。


「…………っ!!」


……おいおい。


冗談でしょう……?


防いでも。


防いでも。


終わらない。


(……これが)


はちは、歯を食いしばった。


(……完成した次元神の力……!!)


……まったく。


とんでもないものを作りやがって。


はちは、黒紫色の魔力に包まれたヘルカイザーへ視線を向けた。


あいつは、もう笑っていない。


ただ、感情の読めない瞳で、空を見つめている。


そして。


無数の次元の裂け目から、世界を破壊する光が降り注ぎ続けていた。


「…………っ」


はちは、改めて理解した。


……これは。


単純な力比べではない。


完成した次元神が放つ攻撃の規模そのものが、未完成の次元神であるはちたちの処理能力を、遥かに上回っているのだ。


はちは、開きかけた次の裂け目を見た。


まだ、ここにもある。


その奥に光が見える。


止めたいという気持ちだけでは、数は減らない。


必死に手を伸ばしても、すべてに届くとは限らない。


分かってしまった。


けれど、分かったからといって、何もしなくてよくなるわけでもなかった。


ひとつ防げば、その光は大地へ落ちずに済む。


全部は守れなくても、いま見えている一発を見逃す理由にはならない。


はちは、もう一度息を吸った。


目の奥に、光が焼き付いている。


瞬きをしたあとにも、砲撃の残像が残った。


ステラの声へ意識を向ける。


それから、次の光を見る。


何かを変えなければ、間に合わない。


その答えが見つからないままでも、いまの動きを止めることだけはできなかった。


左腕の魔力ディスクが、青白く光っていた。


近くには、セレスティアがいる。


それを確かめ、はちは再び前を向いた。


自分へ向かう一撃を防ぐ戦いなら、ここまで視線を広げる必要はなかっただろう。


だが、いま守ろうとしているのは、自分の身体だけではない。


目で追い切れないほど広い空と、その下で続いている暮らし。


その広さが、はちの力だけでは埋められない差となって、目の前に横たわっていた。


たとえ一つ一つの攻撃を防ぐことができても。


そのすべてを防ぎ切ることは、できない。


……このままでは。


「……くそっ!!」


はちは、再び次元の裂け目を展開した。


だが。


その視線の先では――。


まだ処理できていない無数の砲撃が、アルカディアへ向かって降り注いでいた。


――第66話・了――

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