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転生した主人公が次元神になる  作者: ヘルカイザー
第2部

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第57話 戦場に走る衝撃



時系列:現在――アルカディア上空。はちがディメンションウォールを突破した瞬間から、いろはとセリシアの戦いへ。


 ドォォォォォォンッ!


 空気が、震えた。


「……っ!?」


 目の前で弾けた光とは、違う。

 もっと大きい。

 少し離れた空で、青白い輝きが一気に膨れ上がっていた。


 遅れて届く轟音に、私は、思わず顔を向けた。

 眩しい光の縁が、視界へ入る。

 その奥から、黒っぽい煙が広がっていく。


 場所が、分かった。


(……ハチちゃん!?)


 あの子と、ヘルカイザーさんが戦っている方角だ。


 私達のいるところからでも、魔力の奔流が感じられた。

 どちらが何をしたのか、まだ分からない。

 だけど、小さな衝突ではないことだけは、見れば分かった。


 白い竜。

 銀紫色の髪。

 小さな姿を、煙の周囲に探そうとする。


 ハチちゃんは、どこ?

 いまの爆発の中心に、いたわけじゃないよね?


 視線が、そちらへ引かれた。

 胸の内側が、きゅっと縮む。

 爆発が大きかったこと以上に、そこにあの子がいると分かっていることが、私の意識を強く引っ張った。


 さっきまで、ここで戦っていたはずなのに。

 考えるより先に、その姿を確かめたくなっていた。


「……いろはさん!」


 目の前から、名前を呼ばれた。


「……っ!」


 私は、慌てて視線を戻した。

 迫ってくる光。

 セリシアの魔力弾が、こちらへ向かっていた。


 そうだった。

 いまは、この子と戦っている最中なんだ。


「……くっ!」


 アークレイを構える。

 意識を、目の前の一発へ集めた。


 キィィンッ!


 展開した障壁へ、魔力弾がぶつかった。

 細かな光が、視界の中で散る。

 手へ伝わった衝撃に、指を締め直した。


 防げた。

 でも、余裕を持って受け止めたわけではなかった。

 遠くへ向けた顔を戻し、攻撃を認めてから対応する。

 その短い間が、ひどく窮屈に感じられた。


 自分が目を離したことを、衝撃とともに思い知らされる。


 つい、さっきも、同じことを言われたばかりだった。

 戦闘中のよそ見は危険だと。

 今度はちゃんと集中すると、私も答えた。


 それなのに、大きな爆発が起きた途端、また、気持ちがそちらへ走ってしまった。


 ハチちゃんを心配する気持ちが、なくなるわけじゃない。

 だけど、それで目の前の攻撃が待ってくれるわけでもなかった。

 セリシアは、ずっと、私を相手に戦っている。


「……セリシア!」


 私は、思わず名前を呼んだ。

 彼女は、デバイスを構えたまま、こちらを見ていた。


 その顔には、先ほどまでと同じ、真剣な表情がある。

 爆音に気を取られて、構えを崩してはいなかった。

 私が障壁で受け止めたことも、ちゃんと見ている。


 それから、ほんの一瞬だけ。

 彼女も、遠くへ目を向けた。


 膨れ上がっていた煙は、まだ、空の一角を覆っている。

 その端が、ゆっくりと薄くなっていた。


「……なるほど」


 セリシアが、小さく呟いた。


「どうやら、はちさんが一撃を与えたようですね」


「……え?」


 私は、息をのんだ。

 ハチちゃんが?

 あの爆発は、あの子の攻撃だったの?


 もう一度、遠くを見た。

 今度は、ただ姿を探すのではなく、彼女が何を見てそう言ったのかを確かめようとした。


 煙の隙間。

 その向こうに、白いものが見える。


 ヘルカイザーさんだった。


 小さな身体。

 黒い翼。

 見覚えのある、その輪郭が――。


「……っ!?」


 大きく、欠けていた。


 私は、言葉を失った。

 ほんの少し汚れたとか、姿勢を崩したとか、そういう状態じゃない。

 身体の片側が、大きく損なわれている。

 片方の翼も、形を保っていなかった。


 薄い煙が、その姿の周囲を流れていく。

 見える部分が増えるほど、攻撃の大きさが分かった。


(……ハチちゃんが、あのヘルカイザーさんに?)


 信じられない気持ちだった。

 だけど、目の前に、その結果がある。

 セリシアは、はちさんが一撃を与えたと、そう言った。


 私は、最初に出会ったときのことを思い出した。


 アルカディアの郊外。

 空中に浮かんでいた、小さな白い姿。

 丁寧に名乗り、ガーディアンの制圧を告げた声。


 私は、その人を止めようとした。

 アークレイへ魔力を集め、砲撃を放った。

 間に合うと思った。

 まともに届けば、動きを止められるはずだと思っていた。


 それなのに、私の砲撃は、消えた。


 何もない空中に、波紋が生まれた。

 水面のように揺れた空間が裂け、その中へ、光が吸い込まれていった。

 あれだけ集めた魔力が、相手へ届くこともなく、跡形もなく消えてしまった。


 その向こうで、ヘルカイザーさんは笑っていた。


 どれほど強い攻撃であっても、届かせられない。

 初めて向き合ったときに感じた、あの怖さを覚えている。

 力を込めるだけでは、どうにもならない相手だった。


 その防御を、ハチちゃんは越えたんだ。


 どんな手順を踏んだのか、私は見ていない。

 こちらでセリシアと向き合っている間に、何を考えて、どうやって攻撃を通したのか。

 いまの私には、分からない。


 でも、ただ、力いっぱい撃っただけではないはずだ。

 ハチちゃんは、相手の動きを見て考える。

 困ったような顔をしていても、どうすればいいかを探そうとする。

 そのことを、私は知っている。


 きっと、今回も、そうやって。


 胸の奥に、ほんのわずか、期待が生まれた。

 これで、止められたのかもしれない。

 あの人が、もう街へ手を出せないなら。

 ハチちゃんが、これ以上、危険な相手と戦わずに済むなら。


 だけど、その期待を言葉にするより早く。


 ――ポンッ♪


「…………え?」


 白い姿が、元に戻った。


 その変化を、私は、見ていた。

 目を離していたわけではない。

 煙に隠れて、分からなくなったわけでもなかった。


 損なわれていた身体。

 形を失っていた翼。

 そのすべてが、一瞬で、そろっていた。


 傷がふさがっていく過程を、ゆっくりと見たわけじゃない。

 気付いたときには、もう、いつもの姿だった。


 まるで、その直前の出来事だけを、なかったことにしたように。


「…………」


 私は、口を開いたまま、何も言えなくなった。


 見間違えた?

 そんなはずはない。

 大きく損なわれた姿を、確かに見た。

 セリシアだって、一撃を与えたと言っていた。


 煙が晴れるにつれて、身体の輪郭が見えるようになった。

 そして、それが元に戻るところまで、私は見ていたんだ。


 遠くで、黒い翼が動く。

 二枚とも、そろっている。

 何事もなかったかのように、白い竜が浮かんでいた。


(……嘘)


 あれだけのダメージを受けて。

 それでも、元に戻るの?


 攻撃が届かなかったのではない。

 届いても、ああなってしまう。


 その違いが、私の中へ、重く落ちてきた。


「……超再生」


 セリシアが、静かに呟いた。


「……え?」


 私は、彼女へ視線を戻した。

 彼女は、遠くにいる白い竜を見ていた。

 いま起きたことへ驚いているようには、見えなかった。


「ヘルカイザーさんの、能力の一つです」


 落ち着いた声だった。

 私が、何を目にしたのか。

 その答えを、短い言葉で示した。


「……あれも、能力なの?」


 自分の声が、かすれて聞こえた。

 セリシアの説明を、聞き間違えたわけじゃない。

 ただ、口にして確かめなければ、その意味を受け止めきれなかった。


 超再生。

 そう言われれば、いまの光景へ名前を付けることはできる。

 でも、名前が分かったからといって、対処する方法まで分かるわけじゃない。


 防御を越えるだけでも、あれほど大変なのに。

 その先に、あんなものがあるなんて。


 私が放った砲撃を飲み込んだ、次元の裂け目。

 ハチちゃんの攻撃を、何度も無力化していた力。

 そして、損なわれた身体を一瞬で戻してしまう、再生能力。


 別々のものとして聞けば、それぞれ強い力だと思うだろう。

 だけど、いまは、それを一人の相手が持っている。

 こちらへ向かってくる、同じ人の力なんだ。


 防御を抜けなければ、攻撃は届かない。

 抜けたとしても、元に戻ってしまう。

 どちらかだけを考えていては、止められないのかもしれなかった。


 私は、アークレイを握る手に力を込めた。

 さっきまで、その重さを意識していなかった。

 いまは、手の中へ確かにある感触が、少しだけ、私を現実へ引き戻した。


 ここは、戦っている場所だ。

 驚いたまま、立ち尽くしていていいところじゃない。


 分かっている。

 だけど、胸の中から、心配が消えなかった。


(……ハチちゃん)


 あの子は、いま。

 そんな相手と、一人で戦っている。


 そばには、セレスティアがいる。

 ステラとも、ユニゾンしている。

 それでも、こちらからすぐに手を貸せる距離ではなかった。

 ヘルカイザーさんへ向き合い、次の手を考えなければならないのは、あの子なんだ。


 さっきの一撃に、どれほど力を使ったんだろう。

 どれだけ相手を見て、どうすれば通るかを考えたんだろう。

 その結果が、目の前で、一瞬にして消えてしまった。


 そのとき、ハチちゃんは、どんな顔をしているの?


 私は、もう一度、あの小さな姿を探したくなった。

 顔までは見えないと分かっているのに、確かめたくなる。

 無事でいることを、目で見て、安心したかった。


 でも、その気持ちのまま、動いてしまってはいけない。

 私の前には、セリシアがいる。

 彼女は、いまの自分の力で、私へ向かってきている。


 助けに行きたい。

 そのためには、ここで戦い続けるしかない。


 すぐにそちらへ向かおうとしても、彼女が通してくれるとは思えなかった。

 私達が戦っている理由は、再会を喜ぶためだけじゃない。

 同じ場所に立っていても、いまは、それぞれの側に、譲れないものがある。


 それを、さっき、確かめ合ったばかりだった。


 セリシアの説明を聞く前なら、私は、もっと違う考え方をしていたかもしれない。

 ヘルカイザーさんが呼び出した相手。

 こちらの足を止めるために、立ちはだかっている存在。

 そういう役割だけで、目の前の彼女を見てしまったかもしれなかった。


 だけど、もう、その顔だけで考えることはできない。

 彼女は、私の名前を呼んだ。

 もう一度、向き合う日を望んでいたと、話してくれた。

 いま構えているデバイスの向こうには、その言葉を口にした人がいる。


 助けたい相手が遠くにいて、戦わなければならない相手が目の前にいる。

 それだけでも難しいのに、その目の前の相手も、再び会えたことを嬉しく思う人だった。

 どの気持ちも、本当だった。

 一つを選んで、ほかを簡単に消してしまうことはできなかった。


 私が強くなったねと言えば、彼女は、きっと、その言葉を受け止めるだろう。

 でも、褒めてもらうだけのために来たわけじゃないことは、もう分かっている。

 自分が何をできるようになったのか。

 それが、私へどこまで届くのか。

 彼女は、この戦いの中で、確かめようとしていた。


 だったら、こちらが見ていなければ、意味がなくなってしまう。

 彼女が積み重ねた日々を知っていると言いながら、その結果へ目を向けないことになる。


 遠くの白い竜の力へ驚いたからといって、セリシアの力が小さくなったわけではない。

 私の障壁へぶつかった一発の衝撃は、手に残っている。

 その感覚を、きちんと覚えていようと思った。

 いま、私の前にいる人の強さを、自分の不安で見失わないために。


 セリシアが、話してくれたことを思い出す。

 消滅したはずの彼女達が、身体を与えられ、もう一度、生きるようになったこと。

 会社で仕事をし、レティシアさんから魔法を学んだこと。

 仲間と連携し、模擬戦を重ね、少しずつ力を付けてきたこと。


 そして、眠っているミリアちゃんを起こさないよう、みんなで声を小さくした、あの夕方。


 私の知らないヘルカイザーさんの姿も、そこにはあった。

 彼女達にとっては、大切な人だったんだ。


 だからといって、アルカディアで起きたことを見過ごすわけにはいかない。

 彼女も、私がそう答えると分かっていた。

 分かったうえで、デバイスを構えた。


 その意味を、いま、もう一度、受け止めなければいけなかった。


「……いろはさん」


 セリシアの声が、響いた。

 穏やかだけど、曖昧さのない声だった。


「今は、私との戦いに集中してください」


「…………っ」


 私は、彼女を見た。


 まっすぐな視線だった。

 私の気持ちを分からずに言っているようには、見えなかった。

 さっき、同じ方向の爆煙を見た。

 その中心に誰がいるのかも、私が誰を心配しているのかも、彼女は分かっている。


 そのうえで、こちらへ向き直っている。


 遠くの出来事に驚く私と、驚かなかった彼女。

 ヘルカイザーさんの能力について、知っていることの差はある。

 だけど、いま、この瞬間に私が向けられているのは、情報の差だけではなかった。


 相手を見て、構え続ける。

 戦っている相手から、意識をそらさない。

 その、ごく当たり前のことを、私は、また促されていた。


 彼女は、待つためだけにここへ来たわけじゃない。

 私がいつまでも遠くを気にしていたら、また、攻撃が届く。

 そして、次も防げるとは限らない。


 それは、私のためだけの問題でもなかった。


 私がここで不用意に攻撃を受ければ、ハチちゃんのところへ向かうことは、もっと難しくなる。

 心配している相手のために何かしたいのに、その気持ちで、自分の動きを鈍らせてしまう。

 そんなことには、したくなかった。


 セリシアの表情は、真剣だった。

 だけど、そこに、私をただ傷つけたいというものは感じられない。

 倒して消してしまえばいい。

 そんなふうに、こちらを見ているわけではなかった。


 もう一度、戦いたかった。

 今度こそ、対等に向き合いたかった。

 その願いを、彼女は、自分の足でここまで運んできた。


 私は、その話を聞いた。

 全力でいくとも、答えた。


 なのに、気持ちの半分を別のところへ置いたまま戦っていたら、彼女の願いへ応えたことにはならない。

 ただ言葉だけ、分かったふりをしたことになってしまう。


(……そうだったね)


 私が見ていない間も、この子は、私を見ている。

 再戦を望んでいた相手として。

 いま、自分の力を向ける相手として。


 その視線を、きちんと受け止めよう。


 私は、一度、息を吐いた。

 肺の中に止まっていた空気が、ようやく動いた気がした。

 爆発を見たときから、呼吸が、浅くなっていたのかもしれない。


 アークレイを握り直す。

 指の位置を確かめ、相手へ先端を向けた。


「……うん」


 小さく、頷いた。


「分かった」


 セリシアから、目をそらさなかった。

 こちらを見ている、その瞳に答える。


 ハチちゃんが心配じゃなくなったわけではない。

 いまも、すぐに向かいたい。

 できることなら、隣に立って、一緒に考えたい。


 だけど、その気持ちを、焦りのまま振り回してはいけないんだ。

 ここで、ちゃんと戦う。

 その先へ進むためにも。


「でも……」


 私は、息を整えた。


「ハチちゃんのところへ、行かないといけないから」


 言葉にすると、その気持ちは、かえってはっきりした。

 隠す必要はない。

 彼女に、自分の考えを分かってもらいたかった。


 あなたのことを、どうでもいいと思っているわけじゃない。

 再会したことも、話してくれた日々も、ちゃんと受け止めている。

 強くなったあなたと、全力で向き合いたい。


 そのうえで、私は、あの子のところへ行く。


 どちらかを、軽く扱いたいわけではなかった。

 目の前の彼女から逃げずに、その先へ進まなければならない。

 いまの私がするべきことは、そこにつながっていた。


「今度こそ、全力でいくよ!」


 セリシアの口元が、わずかに緩んだ。

 安心したようにも、待っていた言葉を聞いたようにも見えた。


「……望むところです」


 静かな声で、返ってくる。


「私も、全力でお相手しましょう」


 彼女が、デバイスを構え直した。

 動きに、ためらいがない。

 私の言葉を、ちゃんと受け取ったうえで、さらにこちらへ向かってこようとしている。


 そうだよね。

 ここで簡単に道を譲ったら、あなたの望んだ再戦ではなくなってしまう。

 私が急いでいると知ったからこそ、いい加減な力の向け方はしない。


 その姿勢が、言葉よりはっきり伝わった。


 私は、足元と、相手との距離を確かめた。

 いま立っているのは、空だ。

 前へ進むだけでなく、上にも、横にも、退く方向にも、選べる場所がある。

 だけど、どこへ動くかを決める前に、相手が何をしようとしているのかを見なければいけない。


 視界の端に、遠くの煙が残っていた。

 それを、追わない。

 見えていることと、意識を取られることは違う。

 いまは、セリシアのデバイスの先と、身体の向きを見る。


 彼女も、私を見ていた。

 こちらが構えた位置。

 魔力を集める気配。

 きっと、同じように確かめている。


 さっきまで聞いていた話の中では、訓練をする彼女を、思い浮かべるしかなかった。

 レティシアさんに教わり、思うようにいかず、それでも、少しずつ覚えていく。

 その積み重ねが、いま、ここで私に向けられている。


 だったら、こちらも、自分の積み重ねてきたもので応えよう。

 心配だから、強く撃てばいいというわけじゃない。

 急ぐからこそ、狙いを曖昧にしない。

 相手が見えていないまま、大きな力だけを向けることはしない。


 全力という言葉を、焦りの言い換えにしたくなかった。


 私は、アークレイへ魔力を集めた。

 馴染んだ感覚が、腕を通して伝わる。

 先端へ宿る光を、彼女へ向けた。


 セリシアの側にも、魔力が集まっている。

 光の向こうに、落ち着いた顔が見えた。


 以前より、確実に強い。

 そのことは、ここまでの応酬でも分かっていた。

 避けたあとの姿勢も、次へ移る動きも、無駄が少なかった。

 一瞬目をそらしただけで、こちらの近くまで攻撃を通してくる。


 油断できる相手じゃない。

 彼女の力を、ただ褒めて眺めている余裕も、なかった。


 私は、彼女の目を見た。

 そして、狙いを定める。


「――いくよ!」


「どうぞ!」


 二つの光が、放たれた。


 相手の魔力が、こちらへ向かってくる。

 私の攻撃も、その先へ走っていく。

 互いの間にあった空間を、光が一気に埋めた。


 ドォォォォンッ!


 空中で、魔力がぶつかり合った。


 眩しい輝きが広がる。

 その向こうにいる相手を、私は、見失わないようにした。

 髪が、爆風に揺れる。

 アークレイを持つ手へ、空気の震えが伝わった。


 さっき、遠くで響いた爆音とは違う。

 これは、いま、私達が向き合って生まれた衝撃だ。

 その光の中へ、相手の姿を探す。

 ここにいることを、自分の目と、手に伝わる感覚で確かめた。


 彼女は、私の向こうを見ていない。

 私は、彼女の向こうへ気持ちを逃がさない。


 それで、心配が消えるわけではなかった。

 けれど、心配だからこそ、目の前を見なければならないと、いまは分かっていた。

 ハチちゃんのところへ向かうために、この一瞬をおろそかにはできない。


 セリシアは、ここにいる。

 あのとき、光になって消えていった姿ではなく、身体を持ち、自分で魔法を扱い、私の一撃へ応える相手として。


 そのことを嬉しく思う気持ちも、変わらず胸にあった。

 だけど、その嬉しさだけで、いまの戦いを終えられるわけではない。

 私達は、また会えた。

 そして、違う立場から、同じ空で向き合っている。


 その両方を受け止めて、私は、アークレイを支えた。


     ◇ ◇ ◇


 少し離れた空では、レイとリュミナも、戦いを続けていた。


 金色と、水色。

 二人の髪が、風の中へ流れる。

 互いの動きを追い、向かい合う位置を変えながら、それぞれの相手から視線を外さない。


 遠くで起きた、大きな爆発。

 その衝撃が伝わったあとも、こちらの戦いは終わっていなかった。

 誰かが別の場所で一撃を与えたからといって、自分の前にいる相手が消えるわけではない。

 向き合った二人の間には、二人だけの間合いがあった。


 リュミナは、以前と同じではなかった。

 レイも、そのことを、すでに動きの中で認めている。

 知っている顔へ向き合いながら、目の前の速さを確かめる。

 昔の記憶に頼りきらず、いまの相手を追っていた。


 向こうでは、いろはとセリシアの魔力がぶつかり、光が弾けている。

 それぞれの戦いが、同じ空の中で続いていた。


 さらに離れた場所には、はちとセレスティアがいた。

 その正面には、小さな白い竜が浮かんでいる。


 ヘルカイザーの身体には、もう傷はない。

 一度は大きく損なわれた姿が、超再生によって、元へ戻っていた。


 だが、はちの左腕から、魔力ディスクが消えることはなかった。

 セレスティアも、そのそばを離れていない。

 防御を越えた一撃が決着へつながらなくても、二人は、まだ、相手の前にいた。


 空は、広い。

 互いのいる方向を知っていても、すぐ隣へ立てるわけではなかった。

 それぞれが、それぞれの相手へ向き合っている。


     ◇ ◇ ◇


 衝突した魔力の光が、少しずつ薄れていく。

 私は、その先のセリシアを見ていた。


 彼女の真剣な視線が、こちらを捉えている。

 私も、アークレイを構えたまま、それに応えた。


 もう、爆発が起きた方へ、顔を向けなかった。

 ハチちゃんのことを忘れたからではない。

 そちらへ行くために、ここでしなければいけないことがあるから。


 それでも、心の中では、名前を呼んでいた。


(……ハチちゃん)


 相手の防御を抜いた一撃を、私は見た。

 あのヘルカイザーさんへ届かせたことは、ちゃんと分かっている。

 再生してしまったからといって、あなたが何もできなかったことにはならない。


 だから、どうか。

 一人で、全部を背負おうとしないで。


 私も、あなたのところへ行く。

 目の前の相手から逃げずに、向き合って、その先へ進むから。


 心配は、まだ、胸にあった。

 超再生という言葉の重さも、消えていない。

 それでも、私は、その気持ちを、いまの構えへ込めた。


 焦って見失うためではなく。

 確かに、次へつなげるために。


 アークレイを握る手に、力を込める。

 視線は、目の前のセリシアへ定めたまま。


(お願い……)


 言葉にはしなかった。

 離れた空へ、すぐに届かせられるものではなかった。

 だから、その願いを胸へ置いて、私は、いま向き合っている相手を見た。


(無理だけは、しないでね……)


――第57話・了――

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