脱走のフィオナ王女
その頃、王都セントシャイア。
本来であれば、父である国王から「外出禁止」を言い渡され、自室で涙を流しながら礼儀作法の書き取りをしているはずのフィオナ王女ですが……。
「……ふふふ。お父様は甘いですわ。わたくしの『鈴様への愛』が、この程度の鍵や見張りで止められるとお思いになって?」
フィオナは、ベッドのシーツを繋ぎ合わせて作ったロープを窓から垂らし、慣れた手つきで(実はこれで3回目)王宮の壁をスルスルと降りていきました。
王女、城下町に降り立つ
質素な平民の服を身に纏い、輝く金髪を大きめのキャスケットに押し込んだフィオナは、賑やかな城下町の雑踏に紛れ込みました。
「さて、まずは情報収集ですわ。鈴様がいらっしゃるアステリア行きの馬車、そして鈴様をさらに美しく飾るための献上品……いえ、お土産を探さなくては!」
彼女の目的は、鈴への「愛の逃避行」……ではなく、自らの足で鈴の元へ向かうための準備でした。
街での奇妙な噂
フィオナが冒険者や商人が集まる広場を通りかかると、何やら男たちがヒソヒソと話し込んでいるのが聞こえてきました。
「おい、聞いたか? アステリアの森の奥で、『桃色の光』を見たって噂だぜ」
「ああ、それだけじゃない。あの有名な冒険者シオンが、ボロボロになって森の外で寝てたらしい。傍らには『聖女への愛の賛歌』って書かれた怪しい文が落ちてたとか……」
「しかも最近、そのあたりの洞窟に近づくと、凄まじくいい香りのする湯気が漂ってくるらしいぜ。入ったやつはみんな、骨抜きになって『帰りたくない……』ってうわ言を漏らすんだとよ」
「……!!」
フィオナの耳がピクンと動きました。
「(桃色の光……いい香り……骨抜き……。……間違いないですわ! 鈴様が、鈴様がまた新たな神域を創造されたに違いありませんわ!!)」
フィオナの瞳に怪しい熱が宿ります。謹慎中という立場も忘れ、彼女は拳を握りしめました。
「お父様に説教されている場合ではありませんわ! 鈴様がわたくしをお呼びになっています……その『桃色の湯気』の中に、わたくしの居場所があるはずですわ!」
フィオナは、懐に隠し持ってきた宝石を路地裏の商人に売り払い、最短でアステリアへ向かうための最速馬の手配に動き出すのでした。
現在の状況(王都サイド)
| 人物 | 状態 | 目的 |
| フィオナ王女 | 【脱走中】| アステリアへの逃亡資金と足の確保。 |
| 国王 | 【会議中】 | 「フィオナは反省しているだろうか」と呑気に考え中。 |
| 王宮の侍女| 【パニック】 | 部屋の中がもぬけの殻なのを発見し、腰を抜かす。 |
「待っていてくださいませ、鈴様! わたくし、すぐにその『桃色の桃源郷』へ馳せ参じますわぁー!!」
王都の平和な夕暮れに、一人の王女の執念が静かに、しかし激しく燃え上がるのでした。




