これで誰にも見られない❓
「ふ、ふにゃぁ……。ギルドの建物が見えてきちゃいましたぁ……。やっぱり、帰りたくなってきましたぁ……っ」
鈴はアステリアの街角で、今にも泣き出しそうな顔で立ち止まりました。そんな彼女を、ヒルダとミィアが左右から優しく(?)促します。
「鈴殿、資格を失えば、今後さらに面倒な手続きが必要になります。ここは一踏ん張りです」
「大丈夫ニャ! あたしたちが周りをガードするから、ササッと手続きを済ませるニャ!」
鈴は懐に隠したセイナ(ぬいぐるみ姿)をぎゅっと抱きしめ、覚悟を決めました。その瞬間、久しぶりに彼女の頭の中に【天の声】が響き渡ります。
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【 告知:レベルが上昇しました 】
Lv.479 → Lv.499
【 新能力を獲得しました 】
能力:『人見知りの極致』効果:MPを消費し、周囲の景色に精神ごと溶け込むことで、物理的・魔法的に存在を完全に消去する。発動中は誰からも認識されず、心の平穏を保つことができる。
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「ひ、ひぎゃあああ!? こ、このタイミングでレベルアップですかぁ!? しかも、私にピッタリすぎる……というか、引きこもりを推奨するようなスキルが……っ!」
「レベルアップ!? さすが鈴殿、歩くだけで強くなるとは……。これならどんな依頼も余裕ですね」
鈴は新スキル『人見知りの極致』をさっそく発動。MPをじわじわと消費しながら、彼女の姿はまるで空気のように景色に溶け込みました。
「ふにゃぁ……! 誰にも見られてない、この安心感……。これなら、王宮のど真ん中でもお昼寝できそうですぅ……」
透明になった鈴は、かつてない自信(?)を胸に、意気揚々とギルドの扉をくぐりました。
ギルドでの悲劇:親衛隊の執念
「(……よし、このまま受付の裏側まで滑り込んで、こっそり書類に判子だけ押してもらうんですぅ……)」
透明化して忍び込む鈴。彼女の姿は、ギルドにいる誰の目にも映りません。……はずでした。
しかし、受付カウンターのすぐ横には、血走った目で周囲を警戒する「あの男」が、不気味な魔導具を手に陣取っていたのです。
「……いる。……絶対にここに現れるはずだ。鈴がこの場にいるなら、空気中の魔力濃度が0.01%上昇するはずなんだ……!」
シオンです。彼は鈴の冒険者資格が切れかけていることを予測し、視覚ではなく「魔力濃度の変化」で鈴を特定しようと待ち伏せ(ストーキング)をしていたのです。
「(ひ、ひぎゃあああ! シオンさんですぅ! 空間そのものをスキャンしてますぅ、怖いですぅぅ!!)」
鈴はパニックになり、シオンから距離を置こうと慌てて後退しました。しかし、運悪くその先には、ギルドの掲示板を確認しようとしていた大男の冒険者が。
「(あ、危ないですぅ!)」
鈴は激突を避けようと、咄嗟に大きく横へ飛び退きました。……が、その着地先には、誰かが床に置き忘れたバケツが!
ガッシャーン!!
「む!? 何もない場所でバケツがひっくり返っただと……!? 物理的な干渉……だが姿は見えない。……間違いない、そこにいるのは鈴だな!!」
「ひ、ひぎゃぁぁぁ! バレてますぅぅ!!」
物理的な音と、シオンの確信に満ちた叫びに動揺した鈴は、思わずスキルを自ら解除してしまいました。ギルドのど真ん中で、尻もちをついて真っ赤な顔をしている鈴の姿が露わになります。
「やはりあんたか! 会いたかった、会いたかったぞ鈴! その『見えない努力』すらも愛おしい! さあ、俺と一緒に新たな魔導の深淵について語り合おうじゃないか!!」
「だ、誰か助けてくださいぃぃ!! 隠れてたのに、余計に目立っちゃいましたぁぁ!!」
ギルド中の冒険者たちの視線が、絶叫する少女と、狂喜乱舞する変態魔導師に集中しました。鈴の「人見知り」にとって、これ以上の地獄はありませんでした。




