第7話 打ち上げ
「お疲れさまでした!乾杯!」
ライブハウス近くの居酒屋、今日出演したバンドとその関係者が一堂に集まっての打ち上げだ。菊永さんや小野さんたち、村石がゲストリストに載せたメンバーも全員いる。俺の喉にも生ビールが流れ込んだ。
「最高だったよ、加藤君。やっと本気になったね」
隣に座った菊永さんが料理を取り分けながら言った。
「久々に疲れました」
「でも気持ちよかったでしょ?」
「……最高でした」
「うふふ、可愛い」
そこへ居酒屋の引き戸がいきなり開いた。
「あ、すいません今日は貸し切りで……ってサクさんじゃないですか!」
PAエンジニアのサクだった。ちょっと抜けてきたと言いながら、「カートいる?」と聞いてくる。
「いいライブだったよ。久々にいいものを見せてもらった、ありがとう」
「いえ、こちらこそ……。ところで、俺は今日限りですよ?ピンチヒッターですし」
そのセリフに周りの全員が反論し始めた。
「えぇ!正式加入でしょ!」
「カートさんのライブまた見たい!」
村石が加藤の隣に座ってくる。
「加藤さんはウチのヴォーカルになるんです!」
「いや、村石さんがよくても、ルーさんとタケさんが……」
「僕は賛成だよ」
ルーが向かいに座る。
「タケは?」
「あ?まぁ……、いいんじゃね?」
村石とルーが驚きの声を上げる。タケが渋々ながら認めたらしい。
「あれだけ歌えりゃいいだろ。レイが連れてきた時点で確信してた」
「調子良すぎじゃない!?さっきまで素人だ何だって言ってたのに!」
「それは反対ではなく、忠告であってだな!」
そこへ、指に包帯を巻いたジムが途中参加で現れ、言い合いを収めた。
「途中からしか見れなかったけど、最高のライブだったよ。僕もカートの加入には大賛成だ」
「いや、俺はまだ入るとは……」
「天狗になるなよカート。お前は光るもんを持ってるが、まだまだ磨く必要がある」
サクの説教が始まった。まだ加入すると決まったわけではないのに、もうライブの反省会が始まっている。助けを求めて菊永さんの方を見ると、ニヤニヤと笑っていた。この状況を楽しんでいる。
「まぁまぁ、それくらいにして飲みましょうよ、サクさん」
「いや、俺はまだ作業が……、ってそういや、あんたはカートの彼女か?」
サクがいきなり菊永さんに話しかけた。
「え?いや、彼女は仕事の同僚で」
「カートに聞いてねぇよ。あんた、名前は?」
「菊永諒子です」
「ふーん」
サクが加藤に耳打ちしてきた。
「お前、この女は辞めとけ」
「はぁ?」
「このタイプはダメだ。既に関係持ってるならさっさと手を引け。レイの方がいいぞ」
それだけ言ってサクは立ち上がった。
「じゃ、俺は戻るわ」
背中越しにヒラヒラと手を振りながら去っていった。
「何言われたの?」
「いや……」
流石に言えなかった。
「で、結局お二人は付き合ってるんですか?」
村石が蒸し返し始める。
「いやいや、なんでそんな話になるの?」
菊永さんが加藤の腕を抱き寄せる。
「何してんですか、諒子さん」
「え?別に?」
村石が顔を赤らめながら言った。
「もう何なんですか菊永さんは!」
突然、村石がキレた。
「彼女じゃないのに彼女面するのは辞めてください!」
加藤と菊永さんの間に割り込み、村石が加藤に抱き付く。
「ちょっと何よ!別に狙ってないなら私が彼女面しようと、怜子ちゃんには関係ないでしょ!」
「嫌です!」
菊永さんと村石が面と向かって言い合いを始めた。おかげで加藤は女性陣から解放された。
「はぁ……」
明日が休みである事が幾分救いに思える。
「カートぉ~」
一難去ってまた一難。ルーの絡み酒が炸裂してきた。
「今日の3曲目の入り!あのアドリブのシャウトは痺れたよぉ!」
「褒めてもらえるとは……」
「いや、カートはスゲーよ。ホントに最高だった」
タケが真面目な顔で言っている。完全に目が座っているが。
「最初見た時はヤな奴だと勝手に思ってたが、いいシンガーだ」
「いやいや、そんな事ないです」
「あんたになら、レイを任せられる!」
「は?」
「レイを幸せにしてやってください!!」
「いや、ちょっと待って、どういう流れなの?」
「カートぉ!ねぇ!僕の方見てよぉ!」
「待ってルーさん、顔近い」
「あ、カートに言い忘れてた」
「え?何?」
「ルーはバイセクシャルだ」
「……はぁ?」
「惚れてまうやろぉ~!」
タケの言葉に加藤の思考が停止した。その隙をついて、ルーが加藤を押し倒し、唇を奪った。
「ちょっとルー!何やってんの!!」
「きゃあああぁぁぁぁ!加藤君!!」
村石と菊永さんが同時に奇声を上げた。
俺のライブハウスデビューの夜は、やかましいくらいに賑やかだった。




