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残業しか知らなかった社畜が、ピンチヒッターでライブに出たら人生が変わっていた話  作者: Soh.Su-K


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第2話 出向組

 早く寝た分、早く起きた。始発が動く時間だ。眠気は皆無だった。

 仕方なくベッドから起き上がり、洗濯、掃除と手を動かし始める。洗濯機を回しながらシンクを磨き、排水口を洗い、なぜか勢いで風呂掃除まで始めていた。全裸のまま浴室の床を擦りながら、自分がこんなに綺麗好きだったとは、と少し驚く。何かしていないと落ち着かないのだ。

 空がやっと明るくなった頃、ベーコンエッグと食パンの朝食が完成した。社会人になって初めて、ちゃんと朝食を作った。キッチンに立つのがこんなに久しぶりだとは思わなかった。



 早めに出勤すると、課の全員がすでにいた。


「なんだ、みんな同じか」


 課長が笑う。昨日が早すぎて今日は余裕を持って来てしまったらしい。全員同じ思考回路だった。


「こんな事だろうと思ってね」


 また社長だった。どこにでも現れる。


「明日からは時間前に来ても入れないから。今日は特別に手伝う。タイムカード打刻してから書類分けて。ちゃんと時間外で給料出すから」


 誰も止める間もなく、社長は女子社員から書類の半分を分捕って、猛スピードでキーボードを叩き始めた。その速度は、ショパンの「革命」でも弾くかのように流れるようで——


「元々SEだったんですか?」


「開発だよ。慣れてるし嫌いじゃない」


 始業時間になると社長はオフィスを出た。その間に覗き込んだ社長のモニターに、全員が絶句した。早朝の短時間でこなした処理量が、常人の軽く3倍近い。「バケモンだ……」と誰かが呟いた。

 やがて社長が5人を連れて戻ってきた。


「今日から配属するメンバー。加藤君の下で仕事を覚えてね」


 男3人、女2人。全員が社長の会社からの出向だという。俺の仕事は監督とチェックのみで、作業はこの5人に振れと言う。「見てるだけということですか」と聞いたら「端的に言えばね」と返ってきた。なんだか妙な事になった。

 自己紹介の中で、村石怜子という女性が目に止まった。きびきびしていて、覚えが早そうだ。


「加藤さん、チェックお願いします」


 その日の昼過ぎ、村石が早くも仕事を上げてきた。完璧だった。

 5人の覚えは驚くほど速い。事務処理が全員で回るようになり、定時に仕事が終わった。菊永さんと本木さんが、昨日まで死んだ顔だったのが嘘のように生き生きと喋っている。たった一日早く帰れただけで、人はこんなにも変わるのか。

 今日も社長が定時に現れ、「出来る部署だよ」と言って去った。

 それから社長は、ずっと頭痛の種だった営業部を「無能だから再教育してる」と一言で切り捨てた。オフィスに笑い声が上がった。久しぶりに、声を出して笑った気がした。

 帰り道、今日は何を作ろうかと考えていた。冷蔵庫には米しかない。スーパーで材料を買って帰ろう。社会人になってから、帰り道にそんな事を考えたのは初めてだった。朝に作ったベーコンエッグが、ずいぶん遠い昔のことのように思えた。

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