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書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
1年目冬

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86/124

第86話『形にしていく』

第86話『形にしていく』


一月も後半に入り、コンクールの締め切りが少しずつ近づいていた。

学校では相変わらず授業があり、陽華たちも課題をこなしながら、それぞれの絵を進めている。

放課後に三人で残れる日ばかりではなかった。

遥斗がアルバイトへ向かう日もあれば、ミオが授業の課題を優先する日もある。

陽華も、帰ってからほとんど紙を開けなかった日があった。

それでも何日か前に比べれば、机へ持ってくる紙の様子は変わってきていた。

その日の放課後、陽華は一枚の紙を机に広げた。

待っている人と、そこへ近づいていく人。

二人の距離は、以前選んだラフを基準にしたままだった。

今はその周りにある街を描き足している。

建物の輪郭を入れると、二人だけを描いていた時には気づかなかった空間が見えてくる。

けれど線を増やしすぎると、今度は人の方が目に入りにくくなる気がした。

陽華は鉛筆を止め、少し離れて紙を見る。


(ここは、もう少し控えめでもいいかな)


人の位置は動かさず、背景の線を一本だけ薄くした。

前は何枚も並べて、どの距離がいいのか迷っていた。

今はその一枚の中で、どこを描きたいか考えている。

隣から紙の動く音がして、陽華は顔を上げた。

遥斗が一枚のラフを横に置き、描きかけの道を見比べている。


「遥斗さん、そっちはどう?」

「手前のところは、前より落ち着いた気がします」

「見せてもらってもいい?」

「どうぞ」


陽華は遥斗の紙を覗いた。

少しずれた位置から奥へ伸びる道は、前に見た時よりも手前の広がりが抑えられていた。

その分、道の奥へ目が行く。


「あ、前より奥が見える」

「そう見えます?」

「うん。こっちから入っていけそう」

「よかった。手前ばっかり気になってたんですけど、今は奥をもう少し描きたいんですよね」

「結局、気になるところは出てくるんだね」

「まあ、なくならないですね」


遥斗は笑って、紙を自分の前へ戻した。

見る位置は変えないまま、その先に見せたいものを探している。

陽華も自分の一枚へ視線を戻した。

向かいではミオが、小さな紙に青と暖かな色を何度か置いていた。

ミオはスマートフォンの画面を切り替え、前から選んでいた二枚の写真を交互に見ている。


「ミオちゃん、今日は色を試してるんだね」

「はい。青はこのくらいにしたいんですけど、光が思ったより強く見えて」

「明るい方が目立つんだ」

「そうなんです。もう少し抑えたらどうなるか見てます」


ミオは別の小さな紙にも色を置き、二つを横に並べた。

どちらがいいかと尋ねることはなく、自分で少し距離を取って眺めている。

陽華もつい見比べたが、ミオが何か言うまでは口を挟まなかった。

しばらくしてミオが小さく頷く。


「こっちなら、青も残ります」

「ほんとだ。さっきと見え方が違うね」

「でも、まだ決めきらないです。反射も試したいので」

「うん、いいと思う」


ミオは選んだ試しを近くへ残し、また自分の紙へ向かった。

三人で同じ場所にいても、手を動かしているところはまるで違う。

陽華は建物の線を足し、遥斗は道の奥を見直し、ミオは青と光の間を探している。

やがて陽華が消しゴムを置いたところで、遥斗が時計を見た。


「一月、もう後半なんですよね」

「うん。なんか急に早くなった気がする」

「十二月からずっと言ってません?」

「言ってるかも」


陽華が笑うと、ミオも顔を上げた。


「でも、今度は本当に今月の終わりです」

「そうだよね」

「残りの日で、できるところは進めないとですね」


陽華は紙の端に残る白い部分を見た。

まだ手を入れていない場所もあるし、描いたところにも気になる線がある。

今日ここまでやろうと思っていたところも、全部は終わらなかった。

それでも、また別の案を最初から描こうとは思わない。


(ちゃんと、ここから続けられる)


陽華は鉛筆を持ち直し、人物の足元から続く街の線を少しだけ描き足した。

隣では遥斗も紙へ顔を戻し、ミオも試した色を見ながら手を動かしている。

放課後の教室には、まだ何人かの学生が残っていた。

誰かが片づけを始める音を聞いて、陽華もそろそろ帰る時間だと思った。

描きかけの紙を一度眺めてから、折れないようにしまう。

完成までは、まだやることがある。

けれど次にこの紙を広げた時、どこから描き始めるかは分かっていた。

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