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書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
1年目冬

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83/124

第83話『この方向で』

第83話『この方向で』


放課後、陽華は机の上に何枚もの紙を並べていた。

隣では遥斗も自分のラフを広げ、向かいではミオが写真と色の試しを見比べている。

冬休み前より紙の数は増えていた。

その一方で、締め切りまではもう一か月もない。

陽華は並んだ紙を端から見ていき、息を吐いた。


「そろそろ、どれを描いていくか決めないとだよね」

「ですね」

「まだ直すにしても、元になるものは決めた方がよさそうです」


遥斗が自分の紙を寄せる。

ミオも小さく頷いた。


「全部試してる時間は、もうないです」

「そうなんだよね」


陽華は自分の紙を三枚だけ手前へ出した。

どれにも、待っている人とそこへ近づいていく人が描かれている。

違うのは二人の距離と、周りに入れた街の広さだった。

一枚目は近い。

もう会ったあとのように見える。

二枚目は遠く、たまたま同じ場所にいるだけにも見えた。

陽華は三枚目へ視線を戻す。

少し離れている。

けれど、互いの存在にはもう気づいていそうな距離だった。


「やっぱり、これかな」

「それ、前もよく見てましたよね」

「うん」


陽華は三枚目を少し持ち上げた。


「これが一番、もうすぐ何か起こりそうな感じがする」

「じゃあ、距離はそのくらいで?」

「たぶん」

「まだ動かすかもしれないけど、これを基準にしてみる」


決めたと言うには、まだ少し不安がある。

それでも別の距離を最初から探し直す気はしなかった。

陽華は残りの二枚を横へ避けた。


「遥斗さんは?」

「俺は、これですね」


遥斗が一枚の紙を出す。

道が奥へ伸び、その中心は少し横へずれていた。

何度も描き直してきた位置だった。


「やっぱりそこなんだね」

「みたいです」

「真正面の方がまとまってる気はするんですけど」

「でもそっちじゃない?」

「はい。何回描いても、結局こっちに戻るので」


遥斗は別のラフを重ねて横へ置いた。


「手前はまだ広すぎるし、奥も直したいですけど、見る位置はここでやってみます」

「うん。それが遥斗さんっぽい気がする」

「俺っぽいですか?」

「何回も同じところ見てるから」

「それだけですか」

「それだけ」


遥斗が少し笑った。

陽華も笑い、今度はミオを見る。

ミオは数枚の写真と色の試しを並べたまま、しばらく黙っていた。

やがて一枚を指で押さえる。


「青は、これにします」

「前から残してたやつ?」

「はい」


暗くなりきる前の青が残っている。

ミオは次に、別の写真を指した。


「光は、こっちです」

「やっぱり別々なんだ」

「こっちの青に、この光を入れてみたいです」

「反射は?」


陽華が聞くと、ミオは少し考えた。


「まだ試します」

「そこは残すんだ」

「入れた方がいいか、ない方がいいか、まだ分からないので」


ミオは青と光の二枚だけを手元へ寄せた。

ほかの写真は片づけても、誰かにどれがいいかとは聞かなかった。

陽華はその様子を見てから、自分の三枚へ視線を戻す。

机の上の紙は、さっきより少なくなっていた。


「前にも減らしたのに、また減ったね」

「でも今回は、残すものを探した時とちょっと違いますね」

「どう違うの?」

「こっちを描くって決めるために減らした感じです」

「ああ」


陽華は自分の一枚を見る。

確かに、前は何を残したいのかを探していた。

今は残したものの中から、この先どれを描いていくのかを選んでいる。

まだ完成なんて遠い。

それでも、同じ場所をぐるぐる回っている感じはしなかった。

ふと、玲奈の言葉を思い出す。


(玲奈ちゃんも、今探してるんだよね)


最近は人の周りまで描くことが増えたと言っていた。

何を描くかはまだ決まっていないとも。

陽華はそのことを口には出さず、目の前の紙へ戻った。


「じゃあ、もう一枚描こうかな」

「同じ構図で?」

「うん。今度はこの距離を基準にして、街の方を直してみる」

「俺もやります」

「私も」


陽華は選んだ一枚を机の中央へ置いた。

その横へ新しい紙を出す。

別の候補を探すためではない。

この一枚を、もう少し先へ進めるためだった。

遥斗も選んだ道のラフを手元へ残し、ミオも青と光の写真を並べ直す。

三人はそれぞれ鉛筆を持った。

陽華は白い紙へ目を落とす。


(今度は、これをどう描くかだ)


そして、最初の線を引いた。

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