第79話『今度は俺から』
第79話『今度は俺から』
冬休みに入って数日後、陽華たちは休みに入る前から約束していた通り、三人で集まっていた。
机の上には、それぞれがコンクールへ向けて進めている紙やラフが広がっている。
陽華は少し大きく描いた一枚と、その横に置いた新しい紙を見比べた。
待っている人と、そこへ近づいていく人。
前より少し離した二人の間に、今度は街の空間をどこまで入れるか考えている。
向かいでは遥斗が、道の手前と奥を何度も見比べながら線を引いていた。
ミオの前には、青の違う写真と暖かな光の写真が並んでいる。
三人で集まっていても、しばらくは鉛筆の音だけが続いた。
陽華は人物の位置を少し動かし、離れて紙を見る。
もう一度近づいて、今度は街の線を少し足した。
「そこ、前より離したんですね」
遥斗に言われ、陽華は紙を見た。
「うん」
「近いと、もう会った後みたいに見える気がして」
「なるほど」
「でも離しすぎると、今度は関係ない人みたいになるんだよね」
「難しいですね」
「遥斗さんもまだ直してる?」
「直してます」
「手前を減らしたら今度は奥が弱く見えてきて」
「増やしたら増やしたで、また何か出てくるね」
ミオが写真から顔を上げる。
「でも前より、直すところは分かります」
「それはあるかも」
陽華は頷き、もう一度鉛筆を持った。
何を描くか分からなかった時とは違う。
今は描きたいものがあって、その見せ方を何度も試している。
それぞれの紙の上で、少しずつ違う迷い方をしながら時間が過ぎていった。
◇
ひと区切りついたところで、三人は手を止めた。
陽華が肩を回していると、ミオがこちらを見る。
「陽華さん、クリスマスどうでした?」
「普通だよ」
「家でご飯食べて、ケーキ食べて」
「ケーキあったんですね」
「あったよ。ミオちゃんも食べた?」
「食べました」
陽華は次に遥斗を見る。
「遥斗さんは?」
「俺ですか」
「うん。ゆっくりできました?」
「……まあ、はい」
返事を聞いたミオが、ほんの一瞬だけ遥斗を見る。
遥斗は気づいているのかいないのか、そのまま飲み物へ手を伸ばした。
陽華は二人の様子を気にすることなく、椅子へ座り直す。
「クリスマス終わったら、一気に年末って感じするね」
「もう今年も終わりますね」
「早かったです」
ミオが言う。
陽華もこの一年を少しだけ思い返しかけて、机の上の紙へ目を戻した。
春にはまだ、この二人と冬休みに集まって絵を描いているなんて想像していなかった。
けれど今は、それが特別なことにも感じなくなっている。
陽華が鉛筆を手に取ろうとした時、遥斗が口を開いた。
「……あの、正月なんですけど」
陽華とミオが顔を上げる。
「はい?」
「どうしました?」
遥斗は一度二人を見てから、少しだけ間を置いた。
「三人で、初詣行きませんか?」
陽華は一瞬だけ目を丸くして、すぐに笑った。
「いいですね。行きましょう」
「私も行きたいです」
ミオもすぐに答える。
遥斗の表情が少しだけ緩んだ。
「よかった」
「そんなに緊張してたんですか?」
陽華が聞くと、遥斗は少し困ったように笑う。
「いや、予定あるかもしれないと思って」
「それなら聞けばいいのに」
「今、聞きました」
「そうだけど」
ミオが小さく笑った。
「いつにします?」
「予定見てから決めません?」
「そうですね」
「じゃあ、あとで三人で決めようか」
行く日も、時間も、まだ決まっていない。
それでも正月に三人でまた会うことだけは決まった。
◇
休憩を終え、三人はもう一度それぞれの紙へ向かった。
陽華は待っている人と近づいていく人の間へ、薄く街の線を足していく。
向かいでは遥斗も道の奥へ鉛筆を走らせ、ミオも選んだ青を見ながら紙へ向かっている。
今日も会って、同じ場所で絵を描いた。
次に会う予定まで、もう一つ増えた。
陽華は少しだけ口元を緩め、そのまま次の線を引いた。




