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書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
1年目冬

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75/124

第75話『一本目』

第75話『一本目』


放課後、玲奈は自分の席に座ったまま、教室に残っている学生たちをぼんやり眺めていた。

片づけを終えて帰る人もいれば、まだ友達と話している人もいる。

玲奈は鞄から小さなクロッキー帳を取り出した。

何となくページをめくっていく。

授業中に描いた人。

休み時間に描いた人。

歩いている人。

椅子に座っている人。

何枚かめくったところで、指が止まった。

何も描かれていない白いページだった。

前にここまで開いて、そのまま閉じたことを思い出す。

あの時は、何か描くならと思ったところで手が止まった。

玲奈は白いページをしばらく見てから顔を上げた。

少し離れた席で、クラスメイトが鞄に荷物をしまっている。

机の上に広げた道具を一つずつ片づけながら、ときどき隣の学生と話していた。

玲奈はその姿を見る。

肩の傾き。

椅子に座ったまま少し横を向いた体。

鞄へ伸びている腕。

玲奈は鉛筆を持った。

白い紙へ先端を置く。

一本、線を引いた。

そこから肩を描き、背中へ線をつなげる。

腕を描く。

手元を描く。

いつものように、人から描き始めた。

クラスメイトが少し姿勢を変える。

玲奈はさっきの形を思い出しながら線を足した。

人物の形が少しずつ紙の上に出てくる。

そこまで描いたところで、玲奈の鉛筆が人物の外へ伸びた。

座っている椅子の背。

その前にある机。

机の向こうに見える窓の枠。

玲奈は一度、手を止めた。


(……また、周りまで描いてる)


合同授業の時は、そういう課題だった。

人物だけではなく、その周りの空間まで描くように言われていた。

今日は違う。

誰にも何を描けとは言われていない。

玲奈は紙を見る。

人物だけなら、もう十分だった。

いつもなら、このあたりで次の人を探していたかもしれない。

それでも、まだ鉛筆を置く気にはならなかった。

玲奈はもう一度クラスメイトを見る。

その人は変わらず同じ椅子に座り、同じ机の前で荷物をしまっている。

玲奈は机の端を描いた。

窓を少しだけ広げる。

椅子の脚も足した。

場所を描きたいわけではない。

窓を描きたいわけでもない。

ただ、その人を見ていると、その人がそこにいることまで少し気になった。

やがてクラスメイトが立ち上がった。


「じゃあね」

「うん、また明日」


短い声が聞こえ、そのまま教室を出ていく。

玲奈は追いかけて描こうとはしなかった。

紙の上には、さっきまでそこにいた姿が残っている。

人物がいて、椅子があって、机があって、その向こうに窓がある。

玲奈はクロッキー帳を少し離して見た。


(……前と違う)


人物が中心なのは変わらない。

人を描くのが好きなのも変わっていない。

なのに、最近はその周りにも線が伸びる。

どうしてなのかは、まだよく分からなかった。

玲奈の頭に、市のコンクールのことが浮かぶ。

陽華たち三人が出ると聞いた時のことも思い出す。

玲奈は自分の描いたページを見る。

これを出したいと思ったわけではない。

自分も出ようと決めたわけでもない。

何を描くのかさえ、まだ決まっていない。

それでも、前にこのページを開いた時とは違う。

あの時は白いまま閉じた。

今は、もう白くない。

玲奈はしばらく描いたページを見ていた。

それから、ゆっくり次のページをめくった。

隣には、また何も描かれていない白い紙がある。

玲奈はクロッキー帳を閉じなかった。

鉛筆を持ったまま、その白いページへ視線を移した。

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