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書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
1年目冬

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73/124

第73話『もう十二月』

第73話『もう十二月』


十二月に入ると、朝の空気は十一月よりはっきり冷たくなった。

駅へ向かう人の上着も厚くなり、來玲藍駅の周りには冬らしい飾りが少しずつ増えている。

陽華は改札へ向かいながら、駅前の銀時計を見上げた。


(もう十二月なんだ)


ついこの前まで十一月になったばかりだったような気がする。

けれど学校へ着けば、そんなことを考えている暇もなくいつもの授業が始まった。


◇


午前の授業が終わりに近づき、教室のあちこちで片づけを始める音がする。

陽華も課題を見直していると、少し離れたところから小さなため息が聞こえた。

吉永咲真が自分の紙を持ち上げ、首を傾げている。


「やっぱ俺、こういうの苦手だなあ」


近くにいた遥斗が顔を上げた。


「吉永、この前も似たようなこと言ってませんでした?」

「言いましたっけ」

「言ってましたよ」

「だって上手い人いっぱいいるじゃないですか」

「それと吉永の絵は別でしょう」

「榊原さん、たまに真面目なこと言いますね」

「たまにって何ですか」


咲真は笑いながら紙を机へ戻した。

そのまま片づけるのかと思ったけれど、鉛筆を持ち直して気になっていたところへもう一度線を入れる。

少し消して、描き直す。

また離して見てから、もう一本線を足す。

陽華は自分の道具を片づけながら、その様子を少しだけ見ていた。


(自分なんてってよく言うけど、やめるわけじゃないんだ)


上手くないと言いながら、最後まで手を動かしている。

合同授業の時もそうだった。

咲真がようやく鉛筆を置いたところで、昼休みを知らせる声が教室の中に広がった。


◇


学生ホールへ向かう途中まで、咲真も一緒だった。

途中で同じクラスの学生から声をかけられ、咲真はそちらへ手を上げる。


「じゃあ、俺あっち行きます」

「うん、またあとで」

「午後も授業ありますからね」

「遥斗さん、それ別れの挨拶みたいになってるよ」

「そんなつもりじゃないです」


咲真が笑いながら離れていく。

陽華たちはいつもの三人で学生ホールへ入り、空いている席を探した。

周りでは年末の予定や冬休みの話をしている学生が増えていた。


「冬休み、どこか行く?」


近くの席から聞こえた言葉に、陽華は箸を止める。


「そういえば、もう冬休みの話する時期なんだね」

「十二月ですからね」


遥斗が答える。


「冬休み、もうそんなに遠くないです」


ミオも言いながら飲み物へ手を伸ばした。

陽華は少し考える。


「休みが終わったら一月か」

「そうなりますね」

「……早いなあ」


そこで三人の間に、少しだけ間が空いた。

同じことを思い出したらしい。


「締め切り、一月末ですよね」

「うん」

「最初に聞いた時は結構先だと思ってました」


ミオの言葉に、陽華も頷く。


「私も」

「俺もです」


遥斗が笑う。


「まだラフ描いてますけど」

「私も人ばっかり増えてる」

「私は青ばっかり増えてます」

「三人とも増えてるだけじゃん」


陽華が笑うと、遥斗も少し笑った。

けれど最初の頃とは違う。

何を描くか分からないまま紙だけ増えているわけではない。

陽華は人がそこで何をしているのかを見るようになった。

遥斗は同じ道でも立つ位置を変えている。

ミオは自分が欲しい青と光を選んでいる。

まだ決まってはいない。

それでも、少しずつ近づいている。


「そろそろラフの次も考えないとね」

「ですね」

「はい」


それだけ話すと、三人はまたいつもの昼食へ戻った。


◇


放課後、遥斗はアルバイトがあると言って先に帰った。

ミオも今日は残らず、陽華とは校門のところで別れた。

陽華は一人で駅へ向かう。

空はすでに暗くなり始めていて、店先の明かりが目立っていた。

買い物袋を持って歩く人がいる。

マフラーを巻き直している人がいる。

店の前に立ち、飾りを見上げている人がいる。

陽華は足を止めることなく、その横を通り過ぎた。

作品を探して歩いているわけではない。

それでも、以前なら気にしなかった人の姿が自然と目に入る。

駅前まで来ると、銀時計の周りにも灯りが増えていた。

陽華は少しだけ立ち止まる。

一月末。

その言葉を初めて聞いた時は、まだずっと先にある日付だった。

今は十二月。

もう少しすれば冬休みが来る。

冬休みが終われば年が変わっている。


(そろそろ、次に進まないとな)


焦っているわけではない。

明日すぐ何かを決めようとも思わない。

ただ、机の上にラフを増やし続けるだけではなく、その先へ進む時が少しずつ近づいている。

陽華は駅前の灯りから目を離し、改札へ向かって歩き出した。

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