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書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
1年目冬

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70/124

第70話『どこから見るか』

第70話『どこから見るか』


放課後、遥斗は机の上に六枚のラフを並べていた。

どれも描いているのは同じ道だった。

正面から見たもの。

少し右へ寄ったもの。

手前を広く取ったもの。

建物の重なり方を変えたもの。

その横には、休日に撮った写真を開いたスマートフォンが置いてある。

写真を一枚開いてはラフを見る。

別の写真へ送って、またラフを見る。

一番まとまって見えるものはある。

道が奥まで抜けていて、建物も重なりすぎていない。

作品にするなら、これが描きやすそうだった。

遥斗はそのラフを手前へ置いた。

けれど少しすると、別の一枚へ目が戻る。

正面より少し横へずれた位置から描いたものだった。

道の入り方も、建物の見え方も、手前へ置いたものほど整ってはいない。

遥斗は二枚を見比べる。

コンクールへ出ると決めた以上、結果を気にしていないわけではなかった。

使える機会は使いたいと思って参加を決めた。

専門学校へ通える二年間が、自分にとってただの二年間ではないことも分かっている。

だからこそ、作品としてまとまっている方を選んだ方がいいのかもしれない。

そう思いながら、遥斗の視線はまた横に置いたラフへ戻った。


「遥斗さん、それよく見てますね」


顔を上げると、陽華が自分の机の横に立っていた。


「どれですか?」

「それ」

「これ?」

「うん。さっきから何回も戻ってる」


遥斗は指されたラフを見る。

言われるまで気づいていなかった。


「そうですか?」

「たぶん。こっち見て、写真見て、またそれ見てる」

「よく見てますね」

「自分のラフに詰まったから、ちょっと休憩してた」

「俺を観察してたんですか?」

「そんな大げさなものじゃないよ」


陽華が笑う。

遥斗は二枚のラフをもう一度並べた。


「こっちの方がまとまってると思うんですけどね」

「手前の?」

「はい」

「じゃあ、なんでそっち見てるんだろうね」

「それが分からないです」


少し離れた席からミオが顔を上げた。


「何の話ですか?」

「遥斗さんが、自分でもよく分からないラフをずっと見てる話」

「言い方」

「違う?」

「だいたい合ってますけど」


ミオが立ち上がり、二人のところへ来る。

並んだラフを見てから、遥斗が何度も見ていた方へ目を落とした。


「こっち、道が少し斜めです」

「撮った位置が違うので」

「こっちの方が好きなんですか?」

「それも分からないんですよね」


遥斗は写真を開いた。

同じ場所を少しずつ位置を変えて撮ったものが並んでいる。

あの日も、反対側へ渡ったり数歩ずつ動いたりしながら何枚も撮った。

場所そのものより、立つ位置で景色が変わることの方が気になっていた。


「でも、これを見る回数が多いなら」


陽華が横のラフを指す。


「何かあるんじゃない?」

「何かって?」

「それは遥斗さんが考えて」


遥斗は少し笑った。


「そこは教えてくれないんですね」

「私にも分かんないもん」


遥斗はまた二枚を見る。

整っている方。

何度も見てしまう方。

どちらを描くかは、まだ決められない。

それでも自分が何度も同じ一枚へ戻っていたことは、少し気になった。


「……この位置から見た感じが、気になるみたいです」

「道じゃなくて?」

「道は同じですからね」

「じゃあやっぱり、どこから見るかなんだ」

「たぶん」


口にしてみると、前より少しだけ分かった気がした。

遥斗はそのラフを手前へ移した。

決めたわけではない。

ただ、もう少し見ておきたかった。


◇


学校を出た三人は駅へ向かって歩いていた。

陽華とミオが少し前を歩き、遥斗はその横を歩く。

途中で横断歩道を渡り、三人でしばらく進む。

遥斗は何となく足を止めた。

今歩いてきた道を振り返る。

同じ道なのに、さっきまで見ていた景色とは違った。

進んでいる時には横にあった建物が、今は奥へ重なっている。

道の先も、反対から見れば違う場所へ続いているように見えた。

遥斗はスマートフォンを取り出す。

一枚だけ撮る。

少し先まで行っていた陽華が振り返った。


「遥斗さん、どうしたの?」

「ちょっと写真撮ってました」

「また道?」

「はい」

「今日も?」

「同じ道なんですけどね」


陽華が戻ってきて画面を覗く。


「さっき歩いてきたところ?」

「そうです」

「反対からだと結構違うね」

「ですよね」


ミオも画面を見る。


「こっちの方が奥が狭く見えます」

「俺もそれ気になりました」


遥斗は今撮った写真を見る。

描きたい道を新しく見つけたわけではない。

学校に置いてきた六枚のラフの中から、どれかを決めたわけでもない。

ただ、同じ場所でも自分がどこに立つかで見えるものは変わる。

今はその違いをもう少し見ていたかった。


「行きましょうか」

「うん」

「はい」


遥斗はスマートフォンをしまい、二人と並んでまた歩き始めた。

少し進んだところで、一度だけ後ろを振り返る。

さっき写真を撮った道が、今度は少し遠くなっていた。

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