↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
1年目秋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/69

第25話『空いている席』

第25話『空いている席』


玲奈と放課後の教室で課題を進めた日から、一週間ほどが過ぎた。

ポスターは先日の授業で提出した。

最後まで少し気になるところはあったけれど、今は出せたことにほっとしている。

家へ帰っても、あの紙を広げて文字の位置を考えなくていい。


昼休み、陽華は学生ホールでたまごサンドの包みを開いた。

隣ではミオも昼食を出していて、向かいの遥斗はおにぎりの包みを外している。

一口食べたところで、横から名前を呼ばれた。


「松澤さん」


顔を上げると、玲奈が買い物袋を持って立っていた。

陽華と目が合うと、遥斗の隣の席を指す。


「ここ、一緒にいい?」


陽華は口の中のものを飲み込んで頷いた。


「うん、どうぞ」

「ありがとう」


玲奈が椅子を引く。

遥斗とミオにも挨拶してから座り、袋からパンと飲み物を取り出した。


「ポスター、あれからどうなった?」


飲み物を置きながら聞かれ、陽華は顔を上げた。


「あの時描き直した方で出したよ」

「そっか。あっち、見やすかったもんね」

「家でもう一回並べて、結局そっちにした」

「また迷ったんだ」

「ちょっとだけ」


玲奈が笑う。

陽華も笑ってから聞き返した。


「錦さんは?」

「人の絵、少し小さくした」

「文字が入らなかった?」

「うん。どうやっても無理だったから」


あの日、紙いっぱいに描かれていた後ろ姿を思い出す。

玲奈もあれから何度か描き直したのだろうか。


「でも、何とか出せたね」

「ほんと。出したらちょっと気が抜けた」

「分かる」


陽華は頷いた。

まだほかの課題もあるけれど、ひとまずあの一枚のことを考えなくて済むだけで違う。


「俺、出す前にまた直したくなりました」


遥斗が言った。


「持っていってから?」

「はい。家ではもういいと思ってたんですけど」

「私も見たよ。しまう前に」

「見始めると気になりますよね」

「だから、途中で見るのやめた」


玲奈がそう言ってパンの袋を開ける。

陽華も、それがよかったのかもしれないと思った。

自分のポスターも、返ってきたらまた違うところが気になりそうだった。


「飯村さん、あのカーテンの色はそのまま使ったの?」


玲奈が尋ねると、ミオは飲み物から口を離した。


「少し変えました」

「そうなんだ」

「大きく描いたら、ちょっと違ったので」

「前にそうなるかもって言ってたね」


ミオが頷く。

陽華ももう一度たまごサンドをかじった。

今度は卵の入っているところまでちゃんと届いた。


玲奈が袋から出したパンを見て、陽華は手を止めた。

丸い表面に細かなパン粉がついている。


「それ、カレーパン?」

「うん」

「私もそれと迷ったんだ。辛い?」


玲奈は一口食べてから、少し考えた。


「ちょっとだけ。私は平気」

「そっか」

「辛いの苦手?」

「すごく辛いのは。どれくらいか分からなくて、こっちにした」

「たまごなら辛くないもんね」


陽華は手元のサンドイッチを見た。

これはこれでおいしい。

でも、玲奈のパンの中に見えるカレーも気になった。


「そっちもよかったなあ」

「両方買えばよかったのに」

「もう一個あるから、三つになっちゃう」


陽華が脇の袋を少し開くと、中にはクリームパンが残っていた。

玲奈が覗き込む。


「あ、甘いのも買ってたんだ」

「見てたら食べたくなって」

「それはあとで食べてもいいんじゃない?」

「今も食べたいんだよね」


玲奈が笑った。


「じゃあカレーパンは次だね」

「うん。そうする」


陽華は袋を戻して、残りのサンドイッチを食べた。

少しして遥斗が、空になったおにぎりの包みを畳みながら言う。


「お腹空いてる時に買うと、多くなりません?」

「なる。全部食べられそうな気がする」

「俺も、あと一個くらいって買ってから、やっぱり多かったなって思うことあります」

「榊原さんも?」


玲奈が遥斗を見る。


「ありますよ」

「余ったらどうするの?」

「帰る前に食べたりします。そこまでには、またお腹空くんで」

「じゃあ、ちゃんと食べるんだ」

「せっかく買ったので」


陽華は自分の袋へ目を落とした。

あとで食べる分まで買ったつもりはなかったけれど、クリームパンを帰る前に残しておくのも悪くない。

そう思いながら取り出すと、ミオが横から見た。


「食べるんですね」

「うん」

「あとにするのかと思いました」

「出したら、やっぱり食べたくなった」

「分かります」


あっさり返ってきて、陽華はミオを見た。


「分かってくれるんだ」

「食べたいから買ったんですよね」

「そう。そうなんだよ」


陽華が頷くと、玲奈も笑った。

袋を開けたクリームパンは、思っていたより柔らかかった。

一口かじると端にはまだクリームがなくて、もう少し先まで食べたくなる。


しばらくは、それぞれ食べる方に戻った。

隣のテーブルから笑い声が聞こえ、誰かが引いた椅子が床を擦った。

玲奈が飲み物を飲んでいる間に、遥斗が午後の持ち物をミオへ確かめている。

陽華は二人の話を聞きながら、パンの袋を少し下げた。


「おいしい?」


玲奈に聞かれ、頷く。


「うん。こっちもよかった」

「それならよかったね」


そう言って玲奈も残りのパンを食べた。

陽華はもう一口食べてから飲み物に手を伸ばす。

さっきまで気になっていたカレーのことは、今はいったん忘れていた。


◇


食べ終わって少し話しているうちに、周りの学生が席を立ち始めた。

陽華も時計を見上げる。

まだ話していられると思っていたけれど、教室へ戻る時間だった。


「そろそろ行こっか」

「そうですね」


遥斗が飲み物の蓋を閉める。

四人で食べ終わった袋をまとめ、椅子を戻した。


学生ホールを出たところで、玲奈が足を緩める。


「じゃあ、私こっち」

「うん。またね」

「またね」


遥斗とミオも挨拶して、玲奈はB組の方へ歩いていった。

陽華は二人と一緒に階段へ向かう。


「お腹いっぱいになりました?」

「なったよ」


遥斗に答えてから、陽華は少し笑った。


「三つ買わなくてよかった」

「あとでお腹空くかもしれませんよ」

「そしたら、その時考える」


階段を上がりながら、玲奈が持っていたパンを思い出した。

少しだけ辛いと言っていた。

次に見かけたら、あっちを買ってみよう。

陽華はそう思って、二人と教室へ戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。