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書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
1年目夏

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15/91

第15話『おやつはいくらまで?』

第15話『おやつはいくらまで?』


夏休みに入って最初の週末、陽華は駅前の時計を見上げた。

待ち合わせの時間までは、あと五分ほどだった。

学校へ行くわけでもないのに、いつもの二人を待っているのが少しだけ変な感じがする。


「松澤さん」


声の方を見ると、遥斗が歩いてきた。


「早いね」

「松澤さんもじゃないですか」

「私は今来たとこ」

「俺も今来たところです」

「それ一番信用できないやつじゃん」

「何でですか」


二人で話していると、少し遅れてミオもやってきた。


「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます」


三人で学校以外の場所に待ち合わせるのは初めてだった。

けれど顔を合わせて話し始めれば、いつもとあまり変わらない。


「じゃあ行こっか」

「はい」

「まず何から見ます?」


遥斗がスマートフォンを取り出す。


「何それ」

「必要そうなものメモしてきました」

「ほんとに?」

「忘れたら面倒なんで」

「榊原さんらしい」

「タオル、飲み物、日焼け止め、帽子、あと濡れた時用の袋」

「泳がないよね?」

「波が来たら濡れるかもしれないじゃないですか」

「飯村さんも同じこと言いそう」

「言います」


ミオがすぐに頷いた。


「ほら」

「何がほらなんですか」


三人はそのまま店へ入った。


◇


最初に向かったのは夏物の売り場だった。

帽子やタオル、日焼け止めが並んでいる。

陽華が帽子を一つ手に取る。


「飯村さん、帽子は?」

「家にあります」

「ちゃんと持ってるんだ」

「暑いって言ったじゃないですか」

「そこは準備済みなんだ」

「当然です」


ミオは真面目な顔で答えてから日焼け止めの棚へ移った。

並んだ商品を一つずつ手に取って見ている。


「飯村さん、日焼け止めそんなに見る?」

「種類いっぱいあるので」

「どれでも同じじゃない?」

「違います」

「即答」

「強さとか、水に強いとか、肌に合うとかあるじゃないですか」

「ちゃんとしてるなあ」


遥斗が横から一本手に取る。


「これでいいんじゃないです?」

「それ顔にも使えます?」

「……書いてないですね」

「ちゃんと見てください」

「怒られた」


陽華は笑いながら二人を見る。

その横には冷感タオルや携帯用の小さな扇風機も並んでいた。


「これどう?」

「いいですね」


ミオが小さな扇風機を手に取る。


「買うの?」

「ちょっと迷います」

「海行く前より本気じゃん」

「暑いので」

「今日何回目?」

「必要なだけ言います」


ミオはしばらく値札と箱を見比べてから、結局棚へ戻した。


「買わないんだ」

「家に似たのありました」

「結構揃ってるね」

「夏なので」

「海関係なく暑さ対策してる人なんだ」

「暑いの嫌いなので」


その言い方がおかしくて、陽華はまた笑った。


◇


タオルと日焼け止めを見たあと、三人は飲み物や食べ物の売り場へ移った。

遥斗が買い物かごの中を確認する。


「飲み物は当日でいいですよね」

「重いしね」

「多めに買いましょう」

「飯村さん本当に暑さ警戒してるね」

「熱中症になったら海どころじゃないです」

「それは正しい」


陽華は棚を眺めながら歩く。

ペットボトルの飲み物の隣に菓子売り場が見えた。


「あ」


ミオが陽華を見る。


「どうしました?」

「おやつ」

「要ります?」

「いるでしょ」

「何でですか」

「海だから」

「理由になってないです」

「海行って、おやつ食べないの?」

「別にどっちでもいいです」

「じゃあ買おう」


陽華が菓子売り場へ向かうと、遥斗も普通についてきた。


「おやつはいくらまでにします?」

「三百円」

「三百円ですか」

「遠足っぽいし」

「海ですよ」

「似たようなもんじゃん」

「全然違います」


遥斗が棚を眺めながら口を開く。


「バナナはおやつに入ります?」

「榊原さんまで何言ってるんですか」

「定番じゃないですか」

「何の定番ですか」

「遠足の」

「いつの話ですか」


ミオが二人を見る。


「そもそも三百円って安くないですか」

「そこ?」

「今なら全然買えないですよ」

「確かに」

「じゃあ五百円?」

「何で予算増やすんですか」

「物価」

「そこだけ急に現実的ですね」


遥斗が笑う。


「じゃあ各自好きなの買えばいいんじゃないです?」

「それ言ったら終わりじゃん」

「一番普通ですよ」

「榊原さん、夢がない」

「おやつの予算に夢いるんですか」


ミオは二人のやり取りを聞きながら棚を見ていた。


「飯村さん何買う?」

「私は別にいいです」

「ほんとに?」

「はい」


そう言いながら、ミオの視線が一か所で止まる。

小さな箱に入ったラムネ菓子だった。

陽華もそちらを見る。


「それ気になる?」

「別に」

「見てたじゃん」

「見ただけです」

「じゃあ戻ろうか」

「……ちょっと待ってください」


ミオが箱を一つ取った。


「買うんじゃん」

「見たら食べたくなりました」

「さっき要らないって言ってたのに」

「要らないのと食べたくないのは違います」

「難しいなあ」

「普通です」


ミオはそのまま自分のかごへ入れた。

遥斗は個包装された菓子を一つ選ぶ。


「それ?」

「三人で食べやすいかなと思って」

「榊原さんそういうとこあるよね」

「どういうところです?」

「何かみんなで食べる前提で選ぶ」

「一人で全部食べる量じゃないですから」


陽華も自分の好きなチョコ菓子を手に取った。


「これでおやつ終了」

「三百円超えてません?」

「数えなくていいの」

「自分で言ったのに」

「ルールは変わるものだから」

「遠足なら怒られますよ」

「学校じゃないから大丈夫」


三人ともかごの中を見る。

海とは直接関係のないものが少しずつ増えていた。


(ほんとに遠足みたい)


そう思うと、陽華は少し楽しくなった。


◇


買い物を終えて店を出る頃には、外の光が少し傾いていた。

三人それぞれの手に小さな袋がある。


「結構買ったね」

「松澤さん、お菓子が一番多くないですか」

「そんなことないよ」

「ありますよ」

「飯村さんのラムネも入ってるじゃん」

「一個です」

「海でちゃんと食べてね」

「何で見張られるんですか」


遥斗がスマートフォンを見る。


「あと当日、飲み物と昼どうするかですね」

「向こうで何か食べてもいいんじゃない?」

「店あるか調べときます」

「やっぱり榊原さんに任せると安心だね」

「全部俺に任せる気じゃないですよね」

「場所も榊原さんが調べるって言ってたし」

「言いましたけど」

「頼りにしてます」

「言い方だけはいいですね」


ミオが小さく笑った。


「晴れるといいですね」


陽華は空を見上げる。

雲は少なく、まだ明るい。


「そうだね」

「でも晴れたら暑いですよ」

「またそれ?」

「大事なので」

「じゃあ曇りがいい?」

「海見るなら晴れてた方がいいです」

「どっちなの」

「暑くなくて晴れてるのがいいです」

「難しい注文だなあ」


三人で笑う。

陽華は手に持った袋を見る。

タオルに日焼け止め、それからお菓子。

ただ話していただけだった海の予定が、少しずつ本当に近づいている。


「何か楽しみになってきた」

「海ですか?」

「うん」

「松澤さん最初から楽しそうでしたけど」

「そう?」


陽華はミオを見る。


「飯村さんは?」

「何がですか」

「海」

「……まだ分かりません」

「まだ?」

「行ってからです」


ミオはそう言って前を向いた。

けれどその手には、今日買ったものが入った袋がある。

陽華は少しだけ笑った。

海へ行く日は、もうすぐだった。

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