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書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
2年目春

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110/125

第110話『新しい昼休み』

第110話『新しい昼休み』


制作室を出ると、廊下には午前の授業を終えた学生たちが集まっていた。

陽華は鞄の肩紐を直しながら、少し前を歩く玲奈たちに追いついた。


「お腹すいたあ。午前中ずっと描いてると、結構疲れるね」

「玲奈ちゃん、最後まで何か描いてたもんね」

「そうなの。もう一枚試したかったんだけど、時間が足りなくて」

「次の授業でも続けられますよね」

「うん。だから今日はここまで」


玲奈はスケッチブックの入った鞄を軽く叩いた。

遥斗も隣で頷く。


「僕もまだ決まってないですし、次までに少し考えておきたいですね」

「私も。三枚描いたけど、どれがいいのか分からなくなっちゃった」

「陽華さん、最初の二枚と最後の一枚で結構違いましたよね」

「そうなんだよね。描いてるうちに変わっちゃって」


そんな話をしていると、廊下の向こうから玲奈を呼ぶ声がした。


「あ、玲奈!」


振り向くと、二人の女子学生がこちらへ歩いてきていた。

玲奈もすぐに気づいて手を上げる。


「お疲れ! そっちも午前終わった?」

「うん。今からお昼。玲奈は?」

「私たちも。これから学生ホールに行くところ」

「そっか。二年になってから、まだあんまり会わないね」

「教室変わっちゃったもんね」


三人は笑いながら、午前の授業のことを少し話していた。

陽華はその様子を見ながら、隣のミオと顔を見合わせる。


「私たち、先に行ってたほうがいいかな」

「どうでしょう。玲奈さん、すぐ戻ってきそうですけど」


ちょうどその時、玲奈が振り返った。


「ごめん、ちょっと待ってて。すぐ行くから」

「うん、大丈夫だよ」


玲奈はまた二人の方を向いた。

楽しそうに話している姿を見ていると、去年は別の教室で過ごしていたのだということを改めて感じる。

しばらくして話が終わり、玲奈が小走りで戻ってきた。


「お待たせ!」

「久しぶりだった?」

「うん。春休み中も連絡はしてたけど、学校で会うのは久しぶりだったから」

「そっか」

「二人とも今からお昼だって。またあとで会うかもしれないね」


玲奈はそう言って笑った。

四人は階段を下り、学生ホールへ向かった。


◇


昼休みの学生ホールは、すでにたくさんの学生で賑わっていた。

食事を買いに並ぶ人もいれば、テーブルで弁当を広げている人もいる。

陽華たちは奥の方に空いている席を見つけた。


「ここ、空いてるね」

「四人座れそうです」

「じゃあ、ここにしようか」


鞄を置いてから、それぞれ昼食を用意する。

陽華は持ってきたパンを取り出し、ミオは買ってきたおにぎりを机に並べた。

玲奈がその手元を覗き込む。


「ミオちゃん、二個とも違う味?」

「はい。どちらにしようか迷ったので」

「それで両方買ったの?」

「お昼ですから、二個くらい食べますよ」

「いや、そこじゃなくて」


玲奈が笑うと、ミオは不思議そうに首を傾げた。


「玲奈さんは何にしたんですか?」

「私はサンドイッチ。あと、飲み物」

「それだけですか?」

「あとで足りなかったら何か買おうかなって」

「それなら最初から買っておけばいいのに」

「ミオちゃんに言われた!」


陽華も思わず笑ってしまった。

遥斗は二人のやり取りを聞きながら、弁当の蓋を開けている。


「遥斗さんはお弁当なんだね」

「はい。今日は家で用意してきました」

「いいなあ。私、朝ちょっと迷ってパンにしちゃった」

「パンもいいじゃないですか」

「うん。好きなんだけどね」


陽華は袋を開け、パンを一口食べた。

午前中ずっと鉛筆を動かしていたせいか、いつもよりお腹がすいていた。


「そういえば、午後ってデザイン応用だよね」


玲奈が飲み物を置きながら言う。


「そうだね。月曜日の午後はそれだったと思う」

「何やるんだろう。やっぱりポスターとか?」

「ありそうですね」


遥斗が答える。


「一年の時もやりましたけど、今度はもう少し難しくなるんでしょうか」

「私、文字の配置を考えるのが苦手だったなあ」

「陽華さん、そんなこと言ってましたね」

「うん。絵の場所は決められるのに、文字を入れると急に分からなくなっちゃって」

「分かる! 私も絵を大きくしたくなるんだよね」


玲奈が大きく頷いた。

ミオはおにぎりを持ったまま、少し考えている。


「私は色を決めるほうが先になりそうです」

「ミオちゃんらしいね」

「でも、文字が読めなくなったら困りますよね」

「そうなんだよねえ。好きな色を使えばいいってわけじゃないし」


陽華は去年取り組んだポスターのことを思い出した。

絵として気に入っていた部分も、文字との組み合わせを考えると変えなければならなかった。

あの時は難しいと思ったけれど、今なら違う置き方も試してみたくなる。


「今度はどんな課題が出るんだろうね」

「午後になれば分かりますよ」

「それはそうなんだけど」


遥斗の返事に玲奈が笑った。


その時、近くを通りかかった男子学生が足を止めた。


「あ、榊原さん」


声をかけてきたのは吉永咲真だった。

隣には別の学生がいて、二人とも昼食を持っている。


「吉永、お疲れさまです」

「お疲れさまです。皆さんも」

「吉永さん、お疲れさま」

「お疲れさまです」

「どうも」


咲真は軽く頭を下げたあと、遥斗の方を見た。


「もう二年なんですね。時間割見てたら、何か急に忙しくなった気がして」

「分かります。制作の時間、増えましたよね」

「そうなんですよ。嬉しいんですけど、ついていけるかなあって」

「まだ始まったばかりじゃないですか」

「それはそうなんですけどね」


咲真は困ったように笑った。

その様子が去年とあまり変わらなくて、陽華も少し笑う。


「吉永さん、また最初から心配してる」

「いやあ、松澤さん。俺、心配するくらいでちょうどいいんですよ」

「そんなことないと思うけど」

「そうですかねえ」


隣にいた学生が、空いているテーブルを見つけて咲真に声をかけた。


「あ、あっち空いたよ」

「ほんと? じゃあ、行きますね」

「はい。また」

「午後も頑張ってくださいね」

「榊原さんも」


咲真はもう一度頭を下げ、連れの学生と歩いていった。

陽華は二人が席に着くのを何となく目で追った。


「吉永さん、相変わらずだね」

「そうですね。でも、制作の時間が増えるのは楽しみみたいですよ」

「うん。そんな感じだったね」


遥斗が笑い、また弁当に箸を伸ばした。


しばらくして、陽華の近くを通った女子学生が声をかけてきた。


「松澤さん、お疲れさま」

「あ、お疲れさま」

「さっきの授業、結構悩んじゃったよ」

「私も。まだ全然決まってなくて」

「だよね。じゃ、また午後に」

「うん、またね」


相手は友人らしい学生と一緒に、別のテーブルへ向かっていった。

陽華も食事に戻る。


「陽華さん、知り合いですか?」


玲奈が尋ねた。


「うん。去年同じクラスだった子。授業で何度か話したことがあって」

「そっか。私もまだA組の子、全員とは話してないなあ」

「これから少しずつ話すんじゃない?」

「そうだね。名前は知ってるけど、ちゃんと話したことない子もいるし」


玲奈はそう言いながら、最後のサンドイッチを口に運んだ。

周りでは席を移動する学生も増え、知り合いを見つけて手を振る姿があちこちにあった。


昼食を終えて少しすると、玲奈のスマートフォンに連絡が入った。

画面を確認してから顔を上げる。


「あ、さっきの子たち、こっちにいるみたい」

「行ってくる?」

「うん。ちょっとだけ話してくるね」

「いってらっしゃい」


玲奈は鞄を置いたまま、少し離れたテーブルへ向かった。

向こうでもすぐに気づいたらしく、笑いながら手を振っている。

その様子を見ていると、今度は遥斗が別の学生から声をかけられた。


「榊原、午後の教室って分かる?」

「ああ、時間割の下に書いてありましたよ」

「ほんと? 見落としてた」

「一緒に確認します?」

「助かる」


遥斗はスマートフォンの時間割を開き、相手と少し話してから戻ってきた。


「午後の教室、確認できた?」

「はい。場所は大丈夫そうです」

「よかった。私もあとで見ておこう」


ミオは配られた資料を取り出して、静かにページをめくっていた。


「ミオちゃん、何か気になることあった?」

「午後の授業、どんな道具を使うのかなと思って」

「まだ分からないね」

「はい。でも、持ってきたもので足りるといいんですけど」


ミオは資料を閉じ、机の上を片づけ始めた。


玲奈が戻ってきたのは、それから少ししてからだった。


「ただいま。ごめん、結構話しちゃった」

「大丈夫だよ。まだ時間あるし」

「よかった。二人とも授業が違うから、なかなか会えないって言ってた」

「そうなんだ」

「でも、お昼なら会えるからね。また一緒に食べようって話してきた」


玲奈は嬉しそうに笑った。

陽華も頷き、パンの袋を畳んで鞄へしまった。


同じ教室になったからといって、いつも全員が同じ場所にいるわけではない。

遥斗には遥斗の、玲奈には玲奈の知り合いがいる。

自分だって、廊下ですれ違えば挨拶する人が増えた。

さっき声をかけてくれた学生とも、また授業で話すことがあるだろう。

陽華は周りを見渡した。

見慣れた学生ホールの中で、去年とは少し違う顔ぶれが笑っている。


「そろそろ行こうか」


遥斗の声で、陽華は時計を見た。

午後の授業まではまだ少し余裕がある。


「そうだね。教室、移動しなきゃ」

「デザイン応用かあ。楽しみだけど、何やるんだろ」

「玲奈ちゃん、さっきも言ってたよ」

「だって気になるんだもん」

「行けば分かりますよ」


ミオの返事に、玲奈がまた笑った。


四人はそれぞれ鞄を持って学生ホールを出た。

廊下では、別の教室へ向かう学生たちが行き交っている。

少し先を歩く玲奈が知り合いに手を振り、遥斗もすれ違った学生へ挨拶を返していた。

陽華も見覚えのある顔に軽く会釈する。

相手が笑って返してくれたので、陽華も自然に笑った。


「陽華さん、こっちですよ」


遥斗に声をかけられて振り向く。

少し先ではミオと玲奈が待っていた。


「あ、うん。今行く」


陽華は歩く速さを少し上げ、三人に追いついた。

午後の教室へ向かう廊下には、まだ昼休みの賑やかな声が残っていた。

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