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書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
1年目冬

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102/125

第102話『呼ばれた名前』

第102話『呼ばれた名前』


司会者が一礼すると、前方の席から拍手が起こった。

陽華も手を叩きながら、隣の玲奈ともう一度顔を見合わせる。

展示を見ている間は忘れかけていたけれど、今日はコンクールの表彰式もあるのだった。

市の担当者から挨拶があり、今回の応募作品について簡単な紹介が続いた。

題材は同じ来玲藍市の風景でも、描き方によって作品の印象は大きく違う。

さっき見て回った絵を思い出しながら聞いていると、司会者が次の案内へ移った。


「本日は特別ゲストとして、画家の飯村左近先生にもお越しいただいております」


前方の席にいた男性が立ち上がり、客席へ向かって軽く頭を下げた。

拍手の中、陽華はその名前を頭の中で繰り返す。

聞いたことのある画家の名前だった。

それに、ミオと同じ名字だ。

けれど、それを考えるより先に、すぐ近くから小さな声が漏れた。


「……え?」


ミオだった。

陽華が顔を向けると、ミオは前方を見つめたまま動かずにいる。


「ミオちゃん、どうしたの?」

「……いえ、ちょっと驚いて」


答えながらも、ミオの目は立ち上がった男性を追っていた。

やがて男性が席へ戻り、拍手が静まる。

ミオも前を向き直ったけれど、膝の上で重ねた手には少し力が入っているように見えた。

陽華はもう一度声をかけようとして、司会者の声に顔を上げた。


「それでは、各部門の入賞作品を発表いたします」


今回の絵画コンクールは、風景画、人物・情景画、色彩表現、抽象表現、自由創作の五つに分かれているという。

司会者は最初の部門から、入賞者の名前を読み上げ始めた。


「風景画部門、入賞。中島翔さん」


客席の少し後ろから一人の男性が立ち上がる。

前へ向かう姿に拍手が送られ、陽華も手を叩いた。

続いて、人物・情景画部門の名前が呼ばれる。


「人物・情景画部門、入賞。川本沙也さん」


今度は女性が立ち上がり、緊張したように何度か頭を下げてから前へ進んだ。

陽華は先ほど見た展示の中に、二人の作品もあったのだろうかと考える。

もう一度見てみたい絵が増えた気がした。


「続きまして、色彩表現部門の優秀賞です」


その言葉に、隣のミオが顔を上げた。

色彩表現と聞けば、どうしてもミオの絵が思い浮かぶ。

夕方の青と、窓からこぼれる暖かな光。

その色を一緒に眺めた時のことを思い出していると、司会者が名前を告げた。


「飯村ミオさん」


陽華は思わず隣を見た。

ミオは目を丸くして、前を向いたまま固まっている。

一拍遅れて遥斗もこちらへ顔を向け、玲奈が小さく身を乗り出した。


「ミオちゃん!」

「……私、ですか?」

「うん、ミオちゃんだよ!」

「ミオさん、呼ばれてますよ」


遥斗の声に、ミオはようやく立ち上がった。

少し慌てたように服の裾を整え、客席の間を通って前へ向かっていく。

陽華はその背中を見送りながら、手を叩いた。

隣でも玲奈が拍手を続けている。

ミオが前に出ると、賞状が読み上げられ、差し出された。

ミオは両手で受け取り、深く頭を下げた。


(……ミオちゃんの絵が、選ばれたんだ)


胸の奥がじんわりと温かくなる。

応募すると決めてからも、ミオは青の色合いや光の見え方を何度も確かめていた。

最後にどんな色を残すか、自分で考えて描き終えた一枚だった。

それがこうして、知らない誰かに選ばれた。

陽華には、そのことが嬉しかった。

ふと前方に目を向けると、特別ゲストとして紹介された飯村左近が、賞状を受け取ったミオの方を見ていた。

その視線が気になったものの、客席へ戻ってくるミオを見つけ、陽華はそちらへ目を移した。


「おめでとう、ミオちゃん!」

「ミオさん、すごいですね」

「ミオちゃん、おめでとう!」

「……ありがとうございます。まだ、ちょっと信じられなくて」


ミオは賞状を持ったまま、困ったように笑った。

その顔を見て、陽華もつられて笑う。

けれど、ミオがもう一度前方へ目をやったことにも気づいていた。


「続いて、抽象表現部門です」


司会者の声で四人は前を向いた。

佐々木奈緒という名前が呼ばれ、そのあとには自由創作部門の内村修一が紹介される。

入賞者が前へ出るたびに拍手が起こり、陽華たちも最後まで式を見守った。


◇


表彰式が終わると、会場には再び人の話し声が広がった。

席を立つ人もいれば、受賞者のところへ歩み寄っていく人もいる。

陽華が立ち上がると、遥斗も椅子から腰を上げた。


「ミオさん、賞状、もう一回見せてもらってもいいですか?」

「あ、はい」

「本当に優秀賞ですね」

「そこ、疑ってたんですか?」

「そういう意味じゃないですよ」


遥斗が笑うと、ミオも少しだけ笑った。

玲奈が横から賞状を覗き込み、陽華も二人の隣に立つ。


「さっきのミオちゃん、すごくびっくりしてたね」

「……はい。全然、考えてなかったので」

「私もびっくりしたよ。でも、嬉しかった」

「私も。ミオちゃんの青、好きだったから」

「ありがとうございます」


ミオは賞状をそっと持ち直した。

嬉しそうに見えるのに、どこか落ち着かない様子も残っている。

陽華が何か言おうとした時、ミオの視線がまた前方へ向いた。

特別ゲスト席の辺りでは、飯村左近が立ち上がり、近くの人と言葉を交わしている。

ミオはその姿をしばらく見つめていた。

陽華は隣に立ったまま、紹介された画家の名字をもう一度思い返した。

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