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書きかけの僕ら  作者: 黎明の星
1年目冬

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101/125

第101話『同じ会場で』

第101話『同じ会場で』


二月に入ってしばらく経った頃、陽華たちは市のコンクールの展示会場を訪れた。

入口の案内には、午後二時から表彰式が行われると書かれている。

まだ時間があるので、三人は先に作品を見て回ることにした。

会場の中にはいくつもの展示板が並び、その前を人がゆっくり行き来していた。

写真のように細かく描かれた建物もあれば、大きな色のかたまりで街を表した絵もある。

どれも同じ来玲藍市を題材にしているというのに、見慣れた風景がいくつも別の場所に見えた。


「こんなに雰囲気が違うんですね」

「うん。私、もう入口から気になる絵があるよ」

「陽華さん、まず自分たちのを探しません?」

「そうだね。ちょっと緊張するけど」


遥斗の言葉に頷き、陽華は展示板に沿って歩き出した。

ほどなくして、自分が描いた街を見つける。

近づいていく人と、そこで待っている人。

描いている間は何度も見つめた絵なのに、周りの作品と並んでいると、どこか初めて見るような気がした。


「陽華さんの、ありましたね」

「……うん。本当に並んでる」

「もうずっとここにあったみたいですね」


ミオがそう言った時、知らない女性が陽華の絵の前で足を止めた。

女性は二人の人物を眺め、それから街並みへと目を移している。

陽華は思わず一歩離れ、邪魔にならない場所からその様子を見ていた。

相手が何を感じているかは分からない。

それでも、自分の知らない誰かが、描いた絵を見てくれている。


(……見てもらえてるんだ)


気恥ずかしくなって視線を落とすと、隣にいた遥斗が小さく笑った。


「こうして見ると、陽華さんの絵、やっぱり人の方に目が行きますね」

「私は街も結構描いたつもりなんだけどな」

「そこも見てますよ。でも、二人が何してるのかなって気になるんです」

「……それなら、嬉しいかも」


少し先には遥斗の道の絵もあった。

奥へ続く道と、その両側に並ぶ建物。

教室で見た時よりも、視線がずっと先へ抜けていくように感じられる。


「ここ、最後にどうしたの?」

「残す線を決めて、あとは触らないことにしました」

「そっか。今見ると、奥の建物もちゃんとあるね」

「あるんですよ。消しすぎなくてよかったです」


遥斗は自分の絵を少し離れたところから見て、それ以上は何も言わなかった。

ミオの絵は、別の展示板に掛けられていた。

暗くなりきる前の青と、窓からこぼれる暖かい光。

小さな反射まで見つけた陽華が顔を向けると、ミオは落ち着かない様子で肩をすくめた。


「ここで見ると、なんだか変な感じです」

「私は、やっぱりこの青が好きだな」

「ありがとうございます。自分の絵なのに、知らない人の作品みたいで」

「分かる。私もさっきそう思ったよ」


ミオはもう一度絵を見上げた。

緊張しているようだったけれど、その場を離れようとはしなかった。


◇


三人は自分たちの絵を見終え、ほかの展示へ移った。

雨に濡れた道を描いた絵では、街灯の光が路面に長く伸びている。

別の絵には、遠くに見える建物より、手前を歩く人々が大きく描かれていた。


「これ、雨の色がすごくきれい」

「俺はこっちの構図が気になりますね。道が途中で曲がってて」

「私は、この人の傘が好きです」

「ミオちゃん、そこ見るんだ」

「だって、傘の端だけ少し明るいんですよ」


言われて見直すと、確かにそこだけ光が当たっていた。

陽華は思わず頷いた。

誰かと絵を見ると、自分なら通り過ぎたかもしれないところに目が向く。

その楽しさは、学校で一緒に絵を描いている時とも少し違っていた。

次の展示板へ向かおうとした時、少し離れたところに見覚えのある横顔が見えた。

絵の前で立ち止まり、首を傾けながら何かを眺めている。


「あれ……玲奈ちゃん?」


声に気づいた玲奈が振り返る。


「あ、陽華さん!」

「来てたんだね」

「うん。せっかくだから、ほかの人の絵も見たくて」


玲奈は笑いながら近づいてきた。

後ろにいた遥斗とミオに気づくと、一度だけ足を緩める。


「遥斗さん、ミオちゃんも。久しぶり」

「玲奈さん、こんにちは」

「こんにちは。玲奈さんも見に来たんですね」

「うん。私も応募してたから」

「えっ、玲奈さんも?」


遥斗が目を丸くした。

ミオも驚いた顔で玲奈を見る。


「そうだったんですか。全然知りませんでした」

「うん、話す機会がなくて。でも、ちゃんと出せたよ」

「どんな絵を描いたんですか?」

「人を描いたの。まだ展示されてるところまで見に行ってないんだけど」


玲奈は少し照れたように笑った。

遥斗もそれ以上は問い詰めず、素直に頷いた。

陽華は三人の顔を見てから、自然に口を開いた。


「玲奈ちゃんも、一緒に回らない?」

「えっ、いいの?」

「うん。私たちもまだ見てないところがあるし」

「俺も、まだ気になる絵が何枚かあります」

「私もです」


玲奈は一瞬だけ三人を見渡した。

それから、小さく笑って頷く。


「じゃあ、お邪魔しようかな」

「お邪魔じゃないよ。一緒に見よう」


陽華が歩き出すと、玲奈も隣に並んだ。

その少し後ろで遥斗とミオが別の作品について話し始める。

玲奈が隣の展示へ目を向けると、陽華もその絵を覗き込んだ。

目の前には、まだ見ていない絵がいくつもあった。


◇


しばらく歩いたところで、玲奈が「あった」と声を上げた。

展示されていたのは、店先ですれ違う二人を描いた絵だった。

一人は紙袋を持ち直し、もう一人はその脇を通り過ぎようとしている。

ほんの短い瞬間のはずなのに、足の向きや体の傾きから、その前後の動きまで想像できた。


「これが玲奈ちゃんの?」

「うん。やっと一枚にできたんだ」

「すごい……今にも動きそう」


陽華が目を近づけると、遥斗も隣で立ち止まった。


「この二人、すれ違うところなんですね」

「そう。ちょっとした動きなんだけど、そこが描きたくて」

「紙袋の人、ほんの少し避けてるように見えます」

「それ、気づいてくれた?」

「はい。足の位置がいいですね」


玲奈が嬉しそうに笑う。

ミオは少し離れて見てから、もう一度絵に近づいた。


「私は、二人の間のところが好きです。通れるくらいの隙間があるのが分かるので」

「そこも結構悩んだんだよね」

「玲奈さん、人を描くの好きですもんね」

「うん。やっぱり好きみたい」


玲奈は自分の絵を見上げた。

陽華には、その横顔が少し誇らしそうに見えた。

遥斗と玲奈はそのまま絵を眺めていて、陽華も二人の横に並んだ。

絵について話しているうちに、自然と次の作品へ足が向いていく。

やがて四人とも同じ絵の前で立ち止まり、気になったところを好き勝手に話し始めた。


◇


館内に案内の声が流れたのは、次の展示へ進もうとした時だった。

午後二時からの表彰式が、間もなく始まるらしい。

陽華が時計を見ると、もう二時が近かった。


「もうそんな時間なんだ」

「まだ全部は見られてないですね」

「表彰式が終わってからも見られるみたいですよ」

「じゃあ、先にそっちへ行こうか」


四人は展示の続きがある方を一度振り返り、会場内の表彰式が行われる場所へ向かった。

そこにはすでに人が集まり、並べられた椅子にも少しずつ人が座り始めている。

陽華たちも空いている席を見つけ、四人で腰を下ろした。

さっきまで見ていた絵の話を小声で交わしているうちに、前方へ司会者が姿を見せる。

会場のざわめきが静かになった。


「それでは、ただいまより表彰式を始めます」


陽華は隣に座る玲奈と顔を見合わせ、それから正面へ視線を戻した。

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