7 外界へ……
「……嘘」
振り返ると、ララがへなへなと座り込むところだった。
「大丈夫か」
「ええ……少し力を使っただけよ」
ララは力なく笑った。
そうか、竜の核を見切るために女神としてのスキルか何かを使ったんだろう。
そして、それは彼女の体に大きな消耗をもたらすようだった。
「次から無理はするな。俺一人でどうにかできる」
俺は彼女を真っ直ぐに見た。
「いいえ。あなたのためなら、私は何度でもこれを使うわ」
ララの意思は固そうだった。
優しくて控えめだけど、肝心なところでは頑として引かないんだよな、ララは。
「……分かった。だが次は、お前が目を開ける前に終わらせてやる」
「ありがとう、カイ。それにしても――」
ララは小さくため息をついた。
「神話級の巨竜すら一撃で……スキルもレベルも関係ない圧倒的な力……まるで破壊の神だわ……」
「神なんかじゃないさ」
俺は座り込んだララに手を差し伸べ、ほほ笑んだ。
「俺はただの、人間だ」
そう、人間だ。
「ただ、ほんの少しばかり長く素振りを続けだけの――な」
「ふふ……そうね。あなたは、強くて優しい人間よ」
ララは俺の手を取り、立ち上がった。
目の前には淡い光を放つ出口がある。
もう邪魔する者は誰もいない。
やっと、外に出られる。
やっと、すべてが始まるんだ。
俺は出口に向かい、力強く一歩を踏み出した。
「うっ……」
視界に飛び込んできたまぶしい光に、俺は思わず目を細めた。
それから周囲を見回す。
「帰ってきたんだ――」
十万年。
気が遠くなるような時間だった。
けれど目の前の景色は、俺が落とされる前とそれほど変わっていない。
広がる草原と遠くに見える山並み。
空は晴れ渡り、風はさわやかだ。
「……感慨にふけるのは後だ」
俺は黒い剣を握り直した。
俺にはやるべきことがある。
「行くぞ、ララ」
「ええ、カイ。どこまでも付いていくわ」
俺たちはうなずきあい、歩き出した。
ふと、遠くの連山に目を向ける。
見覚えのある山並みだった。
「あの空間は時の流れが一定じゃない。奈落での数万年は外界では一、二年と言っていたな」
「ええ、十万年を過ごしたから、ここでは……せいぜいが十年。もしかしたら二、三年しか過ぎていない可能性もあるわ」
と、ララ。
「もし、何かの間違いで地上でも十万年が過ぎている――なんてことはないよな?」
それは奈落にいたころから、ひそかに恐れていた可能性だ。
胸の奥がざわつく。
もし地上で何百年も経っていたら、俺を捨てた神官長や教団の連中はとっくに死んでいる。
「あいつら、生きてるんだろうな」
ぎりっと歯を噛みしめた。
寿命で勝手に死なれては困る。
俺の手で復讐できなければ、十万年の修練が無意味になってしまう。
「……きっと生きているわ。あなたの怒りが、彼らを逃がさないはずよ。あれを見て、カイ」
ララが前方を指さした。
そこには街道の標識があった。
「? 標識がどうかしたか?」
「文字が読める状態で残っているでしょう? もし何万年も経っているなら、石なんて風化して砂になっているよ」
確かに、そうだ。
「……だが、万年の単位じゃなくても、百年千年が経っていれば、奴らは全員死んでいる」
とはいえ、それを今、確かめる方法はない。
俺は焦りと苛立ちを抑え、息を大きく吐き出した。
まず、人のいる場所に行こう。
現在の時間を、確かめる必要がある。
俺たちはふたたび歩き出した。
周辺の景色や気温の感じから察するに、おそらくここは俺が落とされたダンジョンが存在する国――メルディア王国とは別の国だろう。
一体、どこにやって来たんだろうか――。
などとと考えながら、しばらく進むと、巨大な城壁が見えてきた。
都市だ。
その入り口には重武装の兵士たちが立っている。
「そこの二人、止まれ。登録証を見せろ」
門に近づくと、兵士の一人に呼び止められた。
「登録証?」
俺は聞き返した。
メルディア王国では、そんなものは必要なかったはずだ。
「なんだ、よそ者か。首筋を見せろ。管理番号を確認する」
兵士は傲慢な態度で言った。
見れば、兵士たちの首筋には、不気味な紋様が浮かんでいた。
目を凝らせば、数字のようだった。
もしかして、これが管理番号とやらか?
もちろん、俺やララにはそんなものは刻まれていない。
『管理番号8829・レベル42』
目の前の兵士の首筋には、そう記されていた。
この番号は一体――?




