5人目~【ショップ店員、倫】またいつでもお待ちしています
アパレルショップで働く私の店に、よく来る男の子がいる。
散々試着しまくって、結局何も買わずに帰る。
普通の客なら「迷惑だな」と思うところだけど、彼、凪くんだけは別だった。
サラサラの髪に、吸い込まれそうな瞳。
いつまでもその試着風景を見ていたくなるほど、彼はきれいだった。
いつだったか、彼が欲しそうにジャケットを見つめたまま
「持ち合わせが足りない」
と呟いた。
私は気づけば
「これ、プレゼントしてあげる」
と口にしていた。
「え、本当に? いいの?」
パッと咲いたような満面の笑顔は、まるで本物の天使のよう。
「いいよ」
「じゃあさ、お礼に今度、ご飯行こう?」
そう誘われた瞬間、一生分の幸せが一気に押し寄せてきたような気がした。
初めてのご飯の夜、凪くんは早速、私がプレゼントしたジャケットを着てきてくれた。
きっと着てくるだろうと予想して、私もそれに似合うコーディネートを選んでいた。
並んで歩く夜の街、私たちはまるで、誰もが振り返るようなお似合いのカップルに見えたはずだ。
少しお酒が入って、会話も弾んで、夢のような時間はあっという間に過ぎていく。
「じゃあ、また店に遊びに行くね!」
笑顔で帰ろうとする凪くんに、私は思わず、小さな声で呟いた。
「あ、あの……もう少し、一緒にいたいな」
「え……っと」
凪くんは少し困ったような顔で私のことをじっと見つめてきた。
その綺麗な瞳に見つめられると、心臓の音がうるさくて、呼吸の仕方も分からなくなる。
「倫ちゃん家どこ?」
送ってくよって凪くんが言ってくれた。
その優しい声に、私はすっかり血迷ってしまった。
送ってもらうだけで終わらせたくなくて、凪くんをそのまま自分の部屋へ連れ込んでしまったのだ。
凪くんごめんなさい、私、我慢できなかった。
それから、恋人同士のような関係がしばらく続いた。
お店にも小まめに顔を出してくれるし、LINEの返信も早かった。
ただ、凪くんはいつも忙しそうで、外でのデートはほとんどできなかったけれど、私はそれでも十分だった。
ときどき、私だけに笑いかけてくれる。
ときどき、キスしてくれる。
ときどき、熱く抱いてくれる。
でもそんな関係は、長く続かなくて。
相変わらず店には来てくれるし、わたしはそれで満足。
満足だったのに……
数日前に店にやってきた凪くんは、私に言った。
「本命の彼女ができたんだ」
胸の奥がチクリと痛んだけど、私は精一杯の笑顔を作った。
「そうなんだ。良かったね」
嘘じゃない。
凪くんには、私にはもったいないくらいの幸せな時間をもらった。
だから、凪くんにも幸せになってほしい。
「それでね、倫ちゃん。……LINE、消さなきゃいけないんだ」
寂しそうに「ごめんね」と微笑む凪くん。
あぁ、その女の子は、凪くんに過去のすべてを清算させるくらい、彼に愛されているんだ。
凪くんを独占できる特別な女の子がいるんだ。
「でもね、お店にはこれからも行くよ?」
「うん。いつでもお待ちしてます」
トーク画面が開かれることは、もう二度とない。
だけど、彼がくれたあの夜の温もりと、私の選んだ服を着て笑う天使の姿は、これからもずっと私の宝物だ。




