4人目~【担当美容師、柚葉】私のカットが一番似合ってたのに
ある日、新規でやってきた凪くんを担当した。
鏡越しに目が合った瞬間、彼の「天使系」のビジュアルと、カラコン越しでも伝わる綺麗な瞳に、思わず手が止まってしまうほどの衝撃を受ける。
凪くんはわたしのカットを気に入り、毎月指名してくれるようになっていた。
施術中、シャンプーで髪に触れるとき、カット中に鏡越しにじっと見つめられるとき、心臓は毎回破裂しそうになっている。
ある時、凪くんの髪型をセットしながら
「凪くんって本当にイケメンだから、彼女さん幸せだろうな」
と冗談っぽく言うと、凪くんは鏡越しに笑顔で
「彼女いないよ、俺、柚葉さんとの時間、幸せだし」
その瞬間、自分でも気づいてしまった。
ああ、私もう、とっくに好きだったんだ。
最後の一押しで、完全に恋落ちした。
「新しく入ったトリートメント、凪くんの髪質に合うから試してほしい。もしよかったらモデルとして、営業後に無料でやるよ」
そこから個人的なLINEを交換した。
営業後の静かなサロン、2人きりの空間。
ドライヤーの音だけが響く中、凪くんがふと
「いつも綺麗にしてくれてありがとう」
と言ってくれた。
付き合っているわけではないけれど、月1回のカットと、時々営業後に2人きりで過ごす秘密の時間。
わたしにとって、それは日々の厳しい仕事を頑張るための
「極上の幸せ」
だった。
ある日、凪くんがどこかいつもと違う表情で来店。
シャンプーして、いつも通りセットをしていると、鏡越しに、凪くんが言う。
「柚葉さん、今日でここに来るの最後なんだ。引っ越すとかじゃなくて、本気の彼女ができて。その子が『男の美容師さんに変えて』って言うから」
「え…」
「今までたくさんカッコよくしてくれてありがとう。LINE、消さなきゃいけないんだ。最後にお礼、言いたくてさ」
凪くんが去った後、彼が座っていた誰もいない椅子を見つめる。
LINEを開くと、すでに彼のアカウントは消えている。
だけど、泣かない。
「あの天使をそこまで束縛したくなるなんて、一体どんな可愛い女の子なんだろう」
と少しの敗北感を感じつつ、
「私のカットが一番似合ってたのに。バカ。……幸せになりなよ」
と、美容師としてのプライドと、恋の終わりをハサミの音に紛れ込ませる。
彼のその造形の美しさは、まれに見る「作品」としても貴重だと思った。




