3人目~【コンビニ店員、咲良】推し客、凪くんの冷えたポテトがむなしかった
毎日決まった時間に現れる「推し客」がいる。
わたしは夕方のコンビニで働く普通のアルバイト。
ある時期から、毎日同じくらいの時間にやってくる20代半ばの男の子、凪くんに密かに恋をしている。
彼の目当てはいつも同じ。
レジ横のスナックケースにある「フライドポテト」と、棚にある「ソイジョイ」。
「いつもこれだなぁ」と思いながらレジを打つ。
お会計の時に凪くんがカラコン越しの綺麗な瞳でじっと見つめて
「ありがとうございます」
と微笑んでくれるだけで、それまでのバイトの疲れがすべて吹き飛ぶほどの幸せをもらっていた。
毎日通ううちに、凪くんがレジに来て目が合うだけで、
「ポテトですね!」
と揚げる準備をするような関係になっていた。
「あ、覚えててくれたんだ。嬉しいな」
無邪気に喜ぶ凪くんの天使のような笑顔。
ある日、雨の日にやってきた凪くんに、メッセージ付きの温かい缶コーヒーをサービスしたことをきっかけに、凪くんが
「これ、お礼!」
と自分のLINEのIDを書いたレシートの裏紙を渡してくる。
そこから、店員と客という枠を超えた、秘密のLINEが始まったの。
付き合ってるわけじゃないんだけど、凪くんはこまめにLINEをくれる。
「今からポテト買いに行っていい?」
「今日のソイジョイは、ブルーベリー味にしてみたよ」
そんな他愛のないやり取りや、深夜のコンビニの駐車場で、2人でこっそり肉まんやポテトを分け合って食べた時間。
凪くんにとっては、自分の生活圏にいる店員さんへの
「何気ない優しさ」
「幸せのおすそ分け」
だったんだろうと思う。
でもわたしにとっては、コンビニの世界に舞い降りた天使との、夢のような宝物の時間だった。
ある日、いつも通り凪くんが来店したんだけど、なぜかいつも買うはずの「フライドポテト」も「ソイジョイ」も持っていない。
不思議に思ってると、凪くんはレジ越しに、今まで見たこともないくらい穏やかで、幸せそうな笑顔で告げる。
「咲良ちゃん、あのね、俺、本気で好きな子ができたんだ」
「え……?」
「その子がね、『ジャンクフードばっかり食べてたら身体に悪いよ』って、毎日手料理を作ってくれるんだ。だから……ここに来るのも、今日で最後なんだ」
驚きと失恋のショックで固まった。
凪くんはスマホを見せながら、申し訳なさそうに微笑む。
「その子を不安にさせたくないから、LINE、消さなきゃいけないんだ。今まですごく楽しかったよ。ありがとう」
と凪くんはいつもの挨拶を残して、コンビニの自動ドアの向こうの夜の街へと消えていく。
目の前には凪くんが買わなかったフライドポテトが寂しそうに、ポツン。
胸が締め付けられるほど苦しかった。
だけど、すぐに別のお客様がきて
「いらっしゃいませ」
と声をかける。
あの日々が幻だったかのように、また普通の日常が始まる。
「手料理なんて、私は作ってあげられなかったな……」
と寂しく微笑みながら、
「ポテト冷めちゃうよ。……お幸せにね、私の天使、凪くん」
と、心の中で彼に最後の言葉を贈った。
その日の夜、トーク履歴を見返そうとしたら消えていた…
本当の終わりを確信した。




