2人目~【職場の新入社員、ゆづき】のこくはく~片想いでおわったー
ゆづきにとって、凪くんは同じフロアで働く、少し遠くてキラキラの先輩。
部署は違うけど、すれ違うたびに彼がふわりと微笑んでくれるだけで、その日は一日中幸せでいられた。
通り過ぎたあとに残る、凪くんのにおい。
「さわやか〜」
にんまりしちゃう。
偶然を装って給湯室に行き、彼を見かけるだけで胸がどきどき。
そんな「片想い中」の幸せな毎日。
ある会議の後、ふとしたきっかけで凪くんと二人きりになるタイミングがあった。
勇気を出して
「凪先輩、これ……分からないことがあって」
と仕事の相談をすると、
「あ、これはね」
って、親身に教えてくれた。
帰り際、震える手でスマホをぎゅっと握り
「あの、また相談してもいいですか?」
と聞くと、凪くんは優しい笑顔で自分の連絡先を教えてくれた。
「もちろんいいよ。いつでも連絡して」
その日から、ゆづきの日常は
「彼からの返信を待つ」
という満たされた日々になった。
まだ恋人ではない。
でも、いつか仕事が終わったあと、どこかへ誘われるかもしれない。
そんな淡い期待だけで、毎日がキラキラしていた。
週末、ゆづきはスマホを握りしめ、
「来週のランチ、一緒に行きませんか?」
というメッセージを送るかどうかで何時間も悩んでいた。
彼の通知が鳴るたびに、心臓がどきんと跳ねる。
凪くんからのLINEは、いつも丁寧で、優しい。
でも、どこか決定的な距離感がある。
それをゆづきは薄々感じていた。
それでもいい、いつかその距離は縮まると信じていた。
月曜日の朝、ゆづきは勇気を出して
「おはようございます!」
とLINEを送ろうとした。
けれど、画面に表示されたのは
「メンバーがいません」
という残酷な文字。
慌ててトーク画面を開いても、アイコンは『不明』に変わっている。
その直後、フロアの向こう側で、凪くんが誰かと電話をしているのが見えた。
普段の彼からは想像できないくらい、穏やかで、深く、愛おしそうな声で。
「うん、いま仕事終わったよ。すぐ帰るね」
ゆづきは立ち尽くした。
あぁ、私には一度も見せたことのない顔だ。
その後、凪くんから
「ごめんね、彼女ができたから連絡先整理してるんだ」
と、告げられた。
結局、一度も二人でランチに行くこともなかった。
名前を呼び合うこともなかった。
呼んでくれないから、わたしは自分で「ゆづき」って言ってあげてた。
けれど、彼を想って選んだ服や、彼のために頑張った仕事の時間は、すべて私の中にある。
「……結局、私、凪先輩の名字さえちゃんと呼べないまま終わっちゃったんだ」
胸を締め付ける痛みと、少しの悔しさと、それ以上に「彼を好きでいられた時間」への愛しさ。
凪くんのいないデスクを見つめながら、ゆづきはスマホのトーク履歴を削除する。
彼が本命の彼女に注いだ「本気の愛情」には勝てない。
そのあまりの純度の高さに、ゆづきはただ、綺麗で切ない初恋の終わりを悟るしかなかった。




