③待ち伏せされて見張られて飼い慣らされてゆく
動揺を隠せないまま、私はみーくんと一緒に部屋へ入った。
「あれ、ゆいちゃん。ピアス、かわいいね」
ピンクなんて珍しいな、と彼が私の耳元を撫でる。
そう、今日は恋愛運が上がると聞いたピンクのピアスをつけていたのだ。
「でもやっぱり、ゆいちゃんは白が似合うよ」
彼は相変わらず、私の些細な変化にすぐ気づく。
着替えやメイク落としの間も、彼は不機嫌だった。
いつもならシャワーに誘ってくる彼が、その夜は背中を向けて一人でバスルームへ消えた。
怒っているの? それに、今日は来ないはずじゃなかったの? なぜ突然現れたの?
シャワーを終えてベッドへ戻ると、みーくんは待ち構えていたかのように起き上がり、「おいで」と手招きした。
ワンコを呼ぶようなその指先。
私の体は、意思に反して条件反射のように彼のもとへ引き寄せられてしまう。
……このまま行為にもちこんで、すべてをうやむやにするつもり?
そう思いながらも、今の私には拒絶する気力さえ残っていなかった。
「あのさ」とみーくんが切り出した。
「あれ、誰? ゆいちゃんの新しい彼氏?」
やっぱり見ていたんだ。
手をつないでいたこと、彼はすべて把握していたのだ。
「ううん、違う。彼氏じゃない」
それは嘘偽りのない、本当のことだった。
「あいつと目が合った気がしたけど、俺のこと気づいてなかったかな」
みーくんはそう呟くと、ポツリと本音を漏らした。
「俺がほかの誰とも続いてないとき、ゆいちゃんは俺を待ってると思ってた。おとなしく待ってるって、言ったよな? それを信じてたのは、俺だけだったのか?」
返すべき言葉が見つからなかった。「ごめんなさい」という言葉は、何かが違う気がした。
私が黙り込んでいると、彼はさらに続けた。
「……まあいいや。つきあってないんだし、ゆいちゃんが誰と何をしようが勝手だよな」
「つきあってないし」という突き放すような響き。
頭ではわかっていたはずなのに、改めて突きつけられると、胸の奥が鋭く痛む。
「結局、俺たちがつきあっていないのが問題なんだろ?」
彼が私の寂しさを代弁するように言った。
「だったら、またつきあおうか?」
ずっと、ずっと欲しかった言葉。
かつての私なら迷わず首を縦に振っていただろう。けれど、今の私の胸に浮かんだのは、凪くんと過ごしたあの夜の、澄んだ空気だった。
「……つきあわない」
私は、自分でも驚くほどはっきりとそう言った。
「そうか……都合よすぎるよな」
彼はため息混じりに、苦笑いした。
「俺ね、待ち伏せしてたんだ」
みーくんは、凪くんを見て嫉妬したこと、私から捨てられるのが怖かったことを打ち明けた。
勝手に外で遊んで、自分勝手に戻ってくるくせに。
「束縛はできないけど……俺のやったボディミストをつけて、他の男に会うのはやめて」
結局、彼は自分本位なルールを私に押し付ける。それがみーくんなのだ。
彼に抱きしめられながら、私の心はどこまでも冷めていた。
「つきあわない」と言ったのは、凪くんとの未来を捨てたくなかったから。
今の私は、みーくんと凪くん、二人を天秤にかけている。
彼と同じように、誰かを傷つけ、自分も汚れていく。
悪いことをしている。罪悪感が胸を締め付ける。
……けれど、その痛みが変な熱に変わった。
私がみーくんの背中に腕を回すと、そのまま私たちはベッドへと崩れ落ちる。
彼に深く侵食されながら、私は体の奥から湧き上がってくる快楽を止められなかった。
「……気持ちいい、みーくん」
罪悪感さえも快楽に変換して、私は再び、飼い主の指先で飼い慣らされていく。




