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【SS】幸せの分散はもう終わり、置いて行かれる女の子たち〜本気の恋でLINEを消した日 ~僕らの傷跡~彼の甘い洗脳、歪んだ溺愛から救ってください  作者: 水波瀬 凪
【第三章】彼の甘い洗脳〜歪んだ溺愛から救ってください

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②わたしの聖域だった彼が邪魔に感じる瞬間

ふとスマホを見ると、凪くんからLINEが入っていた。


飲み会の詳細、そして続く何気ないやりとり。


誘われるままに公園デートを重ねるうちに、私たちは「お花見」という約束を交わしていた。


新しい恋の予感に、胸がどきどきと高鳴る。


凪くんと過ごす時間は、結菜を少しだけ「飼い犬」ではない、一人の女の子に戻してくれるような気がしたからだ。



それなのに、その約束の直前、金曜日の夜にみーくんが突然現れた。



いつもなら事前に連絡をくれるのに、その日は不意打ち。


結局、金曜の夜を過ごし、土曜の朝を迎える。


「今日も泊まる?」


わたしが尋ねると、彼はむしろ「いい?」と問い返してきた。


わたしが困ったように見つめると、彼はいつものように髪を優しく撫でる。


「そんな心配そうな目すんなよ。今日も泊まるよ」


終わった、と思った。


日曜のお花見をどうすればいいのか。キャンセルするべきか、それとも「外せない用事がある」と嘘をつくべきか。


頭の中が真っ白になる。


あれほど求めていたはずのみーくんが、今は凪くんとの未来を「邪魔する存在」に感じられてしまう。


凪くんのために作るはずだったサンドイッチのことも頭をよぎる。


もしわたしがキッチンに立っていたら、みーくんはきっと細かく問い詰めてくるだろう。その時、わたしは正直に話せるだろうか?


……できない。わたしにはまだ、彼を否定する勇気も、真実を語る強さもなかった。


わたしは震える指で、凪くんにメッセージを打った。


『ごめんね。どうしても外せない用事ができて、明日行けなくなっちゃった。また連絡するね』


送信ボタンを押して数秒後、返信が届く。


『そっか、用事があるなら仕方ないね。残念だけど、またどこか遊びに行こう』


凪くん、なんて人だろう。神様みたいに優しい。


でも、その優しさが胸に刺さる。


本当に行きたかった、と、逃したチャンスがたまらなく残念で、胸が締め付けられた。




日曜日の朝。


出かける準備を始めたみーくんを、結菜はぼんやりと見ていた。


「どこか行くの?」


彼は悪びれもせず「人に会いに行く」と答える。


みーくんは、いつもこうだ。


予定があるなら昨日から言えばいいのに。


あまりに勝手で、自己中心的なその振る舞い。


普段なら、わたしは大人しく「わかった」と従っていたはずだ。けれど、今は違う。


わたしの胸の中で、これまでにない熱い怒りが渦巻いている。


キャンセルしたのは、あなたと過ごせると信じていたからだよ? それなのに、なんだよ。


わたしの様子を察したのか、彼はわたしの頭を撫でながら「ごめんな。今日は帰れないけど、また来るから大人しく待ってて」と甘く告げる。


その見当違いな優しさが、今のわたしには酷く残酷に響く。


——いつまでもわたしが、おとなしく待っていると思うなよ。


心の中で毒づきながらも、表面的には「うん、またね」と彼を見送った。


午前十時前。まだ間に合うかもしれない。


わたしはすがるような思いで凪くんにLINEを送った。


「今日の用事がキャンセルになったの。お花見、行けるかも……」


返信を待つ時間は、永遠のように長く感じられた。


しばらくして届いた通知。


凪くんは「予定を入れちゃった、ごめん」と返してきた。


タイミングを外してしまった。


ガッカリして肩を落としたその直後、追いかけるようにメッセージが届く。


『夕方なら、5時すぎていいなら会えるけど、どう?』


「はい!」


反射的に即答していた。


午後五時過ぎ。


駅前で待ち合わせた凪くんは、スマホの画面を私に見せてくれた。


『夜桜、見に行かない?』


そこにはライトアップされた美しい桜と「さくらまつり」の文字。


わたしは「すごい! きれい、行きたい!」と即答し、わたしたちは公園へと向かった。


夜の公園、たくさんの屋台、人混み。普段のわたしなら絶対に縁のない、ハイテンションな夜。


凪くんはおとなしいけれど、彼といると空気が澄んでいる気がする。


人混みを離れ、静かな場所を探して歩いた。


「あ、ここからでも桜きれいに見えるね」


そう言って横を向くと、凪くんは真面目な顔で、じっとわたしを見つめていた。


……なに?


わたしの視線に気づいた凪くんは、「あ、うん、きれいに見えるね」とハッとしたように慌てて視線を逸らした。


帰り道。


夜風が冷たく、わたしが「手が冷えちゃった」と言うと、凪くんはその手をそっと繋いでくれた。


心臓がとくんと跳ねる。


うわぁ……なにこれ。手をつなぐなんて。


彼の手は温かくて、寒かったはずの体がじんわりと熱を帯びていく。


わたしたちは無言で歩いた。


言葉はいらない。ただ、繋いだ手のひらから伝わる体温だけで、わたしたちは今、恋人同士みたいだった。


わたしの家の前に着いてもまだ手をつないだまま、わたしたちは見つめ合う。


今にもキスが降ってきそうな空気。


けれど凪くんは、ふっと目をそらし、ゆっくりと手を離した。


「じゃあまた……週末に、カフェでも行こうか」


「うん、またLINEするね」


そう言い残して去っていく背中に、わたしは精一杯の笑顔でバイバイと手を振った。


胸の高鳴りを抱えたまま、鍵に手をかけた、その瞬間だった。


「おかえり」


暗闇の中から、聞き慣れた声がした。


見ればそこには、冷ややかな瞳でわたしを見下ろす、みーくんが立っていた。






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