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【SS】幸せの分散はもう終わり、置いて行かれる女の子たち〜本気の恋でLINEを消した日 ~僕らの傷跡~彼の甘い洗脳、歪んだ溺愛から救ってください  作者: 水波瀬 凪
【第三章】彼の甘い洗脳〜歪んだ溺愛から救ってください

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①彼のペットになった日~新しい出会いと続く洗脳

その「可愛い」という言葉は、かつてのわたしにとって聖域だった。


中学二年生のホワイトデー。


放課後の薄暗い音楽室で、学校中の女子が憧れる拓海(たくみ)――みーくんから差し出された白い小箱。


彼はわたしの髪をそっと撫で、悪戯っぽく笑った。


「ゆいちゃん、マルチーズにそっくりで可愛いね」


その一言が、結菜(ゆいな)の世界のすべてになった。


孤独だった父子家庭のさみしさを、みーくんという存在が埋め尽くしていく。


彼の都合のいい時間に合わせて、わたしの部屋で、彼が望むまま従った。


「おいで」と手招きされれば駆け寄り、頭を撫でられるたび、幸福感に浸る。


彼の言葉は甘い独占欲。


当時のわたしへの、洗脳だった。




月日は流れ、彼の手元には新しい犬たちがやってきた。


ポメラニアン、チワワ。


そのたびにみーくんは言うの。


「でもさ、やっぱり最初のマルチーズが一番可愛かったな」





大人になってからもその関係は続いていた。


くつろぐ彼は、昔と変わらない笑みを浮かべていた。


「ゆいちゃん、相変わらず可愛いね」


彼の手が、わたしの頬に伸びてくる。


結菜の部屋の、わずかばかりの灯り。


それがわたしたちを包む唯一の世界だったんだ。


「いい子だね」


みーくんの声が聞こえた瞬間、背筋には電流が走る。


彼は結菜の髪を、まるで大切な宝物を愛でるように、何度も何度も優しく梳く。


彼に身を委ねている時、わたしは自分が人間であることを忘れていた。


わたしはただ、彼の指先に従うだけの小さなペットになる。


痛みが伴うこともある。


けれど、その痛みにさえ「彼に選ばれた証拠」。


そうやって、自分自身を納得させていた。


「ゆいちゃんは、俺がいなきゃ何もできないよな」


彼が囁くと、結菜は心の中で静かに頷く。


そう、わたしはあなたに飼われている。


この部屋は、外の冷たい現実から結菜を守るためにあった。


彼が首筋に唇を寄せると、結菜は目を閉じ、彼の匂いを深く吸い込む。


それはどこか甘く、そして逃げ場のない匂い。



彼は結菜の意思を問わない。


ただ、自分が撫でたいように撫で、抱きたいように抱くだけ。


その一方的で、歪んだ愛の形を、当時のわたしは


「これこそが私を特別にする愛のカタチだ」


と盲信していたんだよ……。


彼に名前を呼ばれ、彼に撫でられ、彼の瞳の中に映る「可愛い結菜」であり続けられれば、それだけで満たされると信じていたの。





でもね、その後にみーくんを上回るくらい衝撃的な人と出会った。


合コンで出会った、(なぎ)くんという人だ。


みんなで飲んでいる間、結菜はとんでもないことを考えていた。


……夜の相性のことだ。


わたしはみーくん以外の男性を知らない。だから、無性に興味が湧いた。


凪くんはどんなキスをするんだろう?


どんな抱き方をしてくれるんだろう?


自分のベッドシーンを想像するなんて、わたし、変態なのかな。


結局、その日は何事も起きず進展はゼロ。



期待が空振りに終わったその夜、わたしは吸い寄せられるようにみーくんの元へ帰ってしまう。


彼に抱きしめられたら、結局、断りきれないのだ。


「また、女の子とうまくいかなかった」


そんな言葉と共に、みーくんは決まって結菜のところへ戻ってくる。


彼はなぜか、わたし以外の女性とは長続きしない。


「ごめん、ゆいちゃん」


謝りながら、彼はわたしの服を脱がせる。


これは、都合のいい女、というやつなのだろうか。


依存? それとも執着?


もしかしたら、病気なのかもしれない。


そう自嘲しながらも、結局、身を任せてしまう。


そのときのみーくんは、せっかちだ。


前置きもなく、乱暴に、強引に入ってくる。


大切にされているという実感が湧くはずもない。


ただの欲求不満をぶつけられているだけだ。


痛いし、ひどく虚しい。


けれど、それは最初の「儀式」にすぎない。


みーくんは、性欲が人一倍強い。


いつも、一回では終わらないのだ。


最初の行為が終わると少しだけ冷静になり、一緒にシャワーを浴びる。


狭いバスルームの中で、彼はわたしの体を洗う。泡だらけの手で執拗に体をなぞられると彼も、そしてわたしも、再び火がつく。


それが、わたしたち二人のいつものパターン。


そこからの彼は、別人のように変わる。


痛いだけの行為は嫌いだ。でも、二度目の彼は、優しく結菜を包み込む。


その優しさに触れると、嘘のように心まで満たされてしまう。


アメとムチ。


そんな言葉で済ませてはいけないのかもしれないけれど、あの一時的な「優しさ」と「快楽」があるから、わたしはまた彼を受け入れてしまうのだ。


浮気性の彼なんて、早く忘れたほうがいい。忘れなきゃダメだ。


そう強く思えば思うほど、逆説的に、わたしはみーくんを求めてしまう。







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