【008】ベンジーの答え
30分後。
「森森〜!!!」
ワァァァァ!!!
店内は大盛り上がりだった。
外まで響く楽しそうな声に釣られて、お客さんが増える増える。
席が足りなくて、立ち飲みが出るほどだ。
「なんだか分からねぇけど、楽しいな!
あはは!」
「なんだか分からないから楽しいんだよ!」
もうお客さん同士ですっかり楽しんでる。
俺はカウンターの中へ戻った。
お〜疲れた。
でも、こんなに盛り上がるなんて。
ブロッコリー殿下、ありがとう!
前の人生でも、俺の退屈な人生に光を差してくれた殿下。
しかしまさか、第二の人生でも救われるとは…。
もっと推し活して、お金落としておけば良かった。
もう殿下には、感謝してもしきれない。
ドス ドス ドス。
ベンジーがこっちへ来る。
「おい、すごいことになってるな。
客は増えるわ、盛り上がるわ。
飲み物のオーダーが止まらないぜ!
フハッ!」
ドリスさんも、レジからこっちへ向かってウィンクを飛ばす。
きっと売り上げが良い感じなのだろう。
…
楽しい時間はあっという間に過ぎ、閉店時間がやってきた。
最後のお客さんの会計をする。
「楽しかったよぉ。
ありがとな〜。
ウィッ!」
赤ら顔のおじさんが、お札を出しながらドリスさんに言う。
「それは良かったわ〜!
こちらこそありがとう。
また、お待ちしてるわね!」
俺達3人は店の外まで出る。
そして。
「ありがとう、ございましたぁー!」
ペコリッ。
お客さんのお見送りをした。
だぁぁー!!!
終わった!
なんか久しぶりに楽しい夜だった。
(前の人生では)彼女もいなかったし、毎日疲れが取れなくて、飲み会なんかもずっと断ってたし。
同期とみんなでワイワイご飯食べたのも、最後はいつだっけ?
という感じ。
こういう雰囲気は本当に久々だ。
店内に戻ると、ドリスさんがレジのお金を抜いた。
俺達はそれを持って客席に座る。
今日の売り上げの確認だ。
この世界のお金はまだよく分からないから、俺はとりあえずお札の枚数を数えよう。
「30、31…。
こっちは31枚です。」
「えぇ?!」
コインを数えていたドリスさんが、驚いてテーブルに腕をぶつける。
ドン!
「いたぁっ!
びっくりして、怪我してるとこぶつけちゃったわよ。
一晩でこの金額は、過去最高じゃない…?
す、す、すごいわー!
マックスが店を盛り上げてくれたおかげね!」
するとベンジーが、俺からお札をもぎ取った。
「ちょい貸せぃ!」
クワッ!
そして自分でも数えて確認する。
「…30、31。
ほんとだ。
マジで31枚あるぜ。」
これがどのくらいの金額なのかは分からないけど、2人の言葉の感じから、相当な売り上げだったに違いない。
俺は嬉しくなり、弾んだ声でこう言った。
「ほらぁ!
ちゃんとやる気、見せたでしょ?!
それに何よりも、お客さんがみんな楽しそうだった。
こうやって真面目に、店作りのための努力を惜しまなければ、きっと今後もやっていける!
俺、この3人で店を続けていきたい!
…
お願いします!」
ペコッ!
テーブルに頭がくっつきそうなくらい頭を下げる。
「…。
どうするの?
ベンジーちゃん。
私はパートだから、あまり意見する立場にないから。」
「…。
あぁ…。」
…
ベンジーは3分ほど考え込むと、口を開いた。
「まず。
今日のマックスはよくやったと思う。
自らお客さんを楽しませて、売り上げもしっかり取って。
食事の方もちゃんとできてた。」
うんうんうんうん!
俺は大きく頷く。
「ただ。」
えっ。
ただ…?
「やっぱり人は一日で変われるのかってところだ。
マックスはこれまでずーっと、手伝いすらしてこなかった。
逆を言えば、今日こんなにやれるなら、オヤジさんが生きている間にやって欲しかった。
俺はオヤジさんに雇ってもらった恩があるから、尚更そう思ってしまう。
気まぐれで、明日からまた店やります。
でも数日したら、やっぱり飽きて辞めます。
そんなことされるのが一番困るんだよな。
だったらもう決まってたんだから、スパッと今日で店を終わらせて、各々別の道を歩んだほうが良いと思う。」
そ、そんなぁ…!
それを聞いたドリスさんも。
「まぁ…。
確かに言われるとそうかもねぇ…。
一応私も、今日で終わりなんだっていう心構えはあったから。
終わりにしちゃったほうが、良いのかもねぇ…。」
ガタッ!
ベンジーはテーブルに手をついて立ち上がった。
「決まったな。」
えぇぇぇぇ!泣
そんな!
中身はこれまでのマックスとは別人なのに!泣
俺、ケンジだよ!
だから途中で投げ捨てるなんて、そんなこと絶対しないのに!
でもそんなこと言ったって、信じてもらえないよな…。
「ひぃふぅみぃ…。」
ドリスさんはお金を数えて、三等分した。
「じゃ、これがマックス。
こっちがベンジーちゃん。
みんな、最後のお給料ね。
しかも一晩でこんなにたくさん。
でも…。
これも、最初で最後になっちゃったわね。」
ガタッ。
ドリスさんも立ち上がる。
「そしたら30分くらいで、さっさとここを片付けちゃいましょう。
そして、解散。」
ベンジーとドリスさんはテキパキと動き始めた。
えぇー…。
このお店も、2人のことも、好きになっちゃったのに。
本当に終わりにしないといけないの…?
それに、異世界に来て素敵な仲間と楽しいことをしたい。
その願いを叶えてくれるのが、この場所だって思ったんだけど…。
そしたら、別のどこか、別の何かを探してみるしかないのかな…。
「それじゃあマックス。
今までありがとね。
これからしっかり生きていくのよ。
そして町ですれ違ったら、声かけてね。」
片付けも終わり、いよいよ解散の時。
ドリスさんにハグをされる。
ギュッ。
「あ、えっと…。
こちらこそ、ありがとうございました。」
そしてベンジーも。
「今日の調子でやりゃあ、オメエも人生やり直せると思うぜ。
天国のオヤジさんを悲しませないよう頑張んな。
ちなみに明日の朝から店は引き渡しって言ってたけど、2階の部屋はどうなってんだ?
建物ごと引き渡しなら、自分の引越し先も早く見つけないと、困るのは自分だぜ。」
ん…?
確かに。
元のマックスって、ほんとにメチャクチャなヤツだな。怒
でも引っ越しっていっても、まだこの町のことよく分からないし…。
だーもう!
転生して楽しい生活どころか、早速試練じゃん。泣
明日は朝一番で、不動産屋さんに行かなきゃ。
「お世話になりました。
お元気でー…。」
夜の砂浜に消えていくドリスさんとベンジーの背中を見送る。
「はぁ。
明日以降も、この3人でやりたかった…。」
砂にめり込んでいるベンジーの足跡を眺めながら、なんだか寂しく思った。
…
ギィ。
俺は店の中へ戻ると、うなだれながら階段を上った。
トン トン トン トン。
そして、自分の部屋…じゃなくて、反対側のオヤジさんの部屋に入ってみる。
「マリオさんて、どんな人だったんだろう。
ベンジーもドリスさんも、あんなに慕ってさ。」
…
「おぉ…。」
彼の部屋はマックスの所と違って、綺麗に整頓されていた。
シンプルな茶色のベットに、小さな仕事用?のデスク。
ゴミ箱には、グジャグジャに丸めて捨てた紙屑がいっぱい。
「…ん?」
俺はあることに気がついた。
溜まっている紙屑の一番上に、赤いペンで
「重要!!!」
という言葉が見える。
看板の文字はあんなにヨロヨロしていたのに、これは力強く、はっきりと。
なんなんだろう。
ちょっと…
見ても良いよね?
何か大切なことがメモしてあるかもしれない。
カサカサ。
拾い上げた紙をデスクに広げて、シワを伸ばす。
どれどれ…。
【重要!!!
バーをレストランに改装計画。
年内実行。
お金→あと150モン。
目的→地元へ恩返し。
ベンジーちゃん、ドリスさんともっと楽しく働く。
いつか自分が死んだ時、息子のマックスへ店を遺せるようにする。
レシピのアイディアは日記帳に綴る。】
「…。」
マリオさん、こんな構想を練ってたんだ。
しかもこれがゴミ箱の一番上にあるということは、書いた直後に亡くなっちゃったんだな。
地元への恩返し、しかもバカ息子に遺してやりたい。
だってさ…。
ポタッ。
…
ジュワァ…。
涙がこぼれ落ちて、紙に染みた。
力強く「重要」と書かれた文字が、滲んで消える。
なんだか天国のマリオさんが泣いているようにも見える。
…この人の気持ちを考えたら、胸が苦しい。
元のマックスって、マジで大バカヤローだ。
こんなに良いお父さんがいるのに、ひどいことばっかりして。
親の心、子知らずすぎる!
ピッ!
俺は右手で涙を跳ね飛ばした。
「日記…。」
日記があると書いてあったな。
それも探してみよう。
うーん。
日記がありそうなところ…。
ここか?
ガラッ。
俺はデスクの引き出しを開けた。




